【完結】がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート+α   作:兼六園

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※小説パートのみ


六時限目

 大学構内の個室、取調室のように隔離されたそこに座らされた女性──リセは、中に入ってきた男性・タカヒトに意識を向ける。

 

「カツ丼が欲しいところだね」

「……面倒な奴だ」

「ところでスミコは大丈夫かな」

「矢は当たっていない。突然傘を投げて窓を割ったんだ、当たらなくて幸運だったな」

 

 吐き捨てるようにそう言うタカヒトに、小さくため息をついてからリセは続ける。

 

「一応言っておくと、私はずっと図書館に居たよ。アリバイはないけど、私たちが君らを襲う理由もないよね?」

「だとすればお前たちは愚か者だ」

「──?」

「食料は無限ではない。何時かは尽きる。仲間が増えた分、俺達を間引こうとしたのではないのか?」

「……なるほど、そう考えるんだね」

 

 タカヒトの鋭い目付きに、リセは考える素振りを見せ、諭すように冷静に返した。

 

「でも、人手が増えた分、食料の増産とか出来る可能性があるよね?」

「現実から目を逸らした楽観論だな」

「どうして?」

「確度の低い投資を行えば全滅の確率が上がる」

「全滅しないことが目的ならいつかは負けるよ。だって私たちはいつかは死ぬし、人類だっていつかは滅びるんだからね」

 

 淡々と進む会話の中で、リセがタカヒトを見て更に続けた。

 

「問題は何をするか、じゃないかな」

「──図書館に引きこもってる奴がよく言う」

「それを言われると辛いね。生き残る為に色々な方法を試す、私はそれでいいと思うんだけど」

「リソースが潤沢なら、それもまた一つの解だ。だが今はそうではない。貴様らを遊ばせておく時間は終わった」

 

 最後に立ち上がりながらそう言ったタカヒトは、部屋から出て鍵をかける。

 近くに待機していたアヤカが、おもむろにタカヒトへと問いかけた。

 

「どうだった?」

「あいつは何も知らん。出る前に縛っておけ」

「わかったわ」

「それと、出発の準備だ。タカシゲが戻ってきたら行くぞ」

「……了解」

 

 アヤカはタカヒトの背中を見ながら、目尻を細めてポツリと呟く。

 

「……難しい顔。なんで笑わないのかしら」

 

 ──こんなに素晴らしい世界なのに。

 自分は選ばれた。そう驕る女性は、一人、静かに、万能感に酔いしれる。

 

 

 

 

 

 ──穏健派の拘束に動くタカヒトたちをよそに、一人個室で椅子に縛られたリセは、扉の前で声を発して人を呼ぼうとしていた。

 

「おーい、ちょっと、誰か居るかい? 人間には生理的欲求というものがあってだね。頼むよ、誰か居ないのかい? ……ふむ」

 

 これだけ声を荒らげても、誰も反応しない。扉の外に気配がしないことを確認すると、パイプ椅子をガシャガシャと鳴らしながら室内を歩く。

 

桐子(トーコ)比嘉子(ヒカ)(アキ)に、青襲さんとスミコと御形くん。新しい子達を含めて十三人……私とスミコを除けば十二人、それだけを取り押さえるには人手が居るから、見張りを残す余裕は無いはず」

 

 室内をぐるぐると歩き回りながら、言葉にして思考を纏めるリセ。

 

「ないといいんだけどね……うーん」

 

 それから窓を見て、器用に助走する体勢を取りながら、あっけらかんと言う。

 

「行けるかな?」

 

 ──直後、二度目の窓ガラスの割れる音が外に響いていた。

 

 

 

 

 

 ──シノウにアイスピックを添えられた晶は、アヤカとタカヒトに捕まりテープで口を塞がれた桐子を見て、抵抗する事が出来ないでいる。

 

「っ……トーコを離して!」

「騒ぐな」

「! ……それ、ヒカのオルゴール」

 

 アヤカが片手に持っている箱に意識を向けると、タカヒトは晶に告げた。

 

「騒ぎを起こせば喜来を殺す」

 

 深夜の廊下での一幕に、晶も桐子も抵抗が出来ない。そんなとき、誘き寄せる餌のように鳴らされるオルゴールに引き寄せられた人影が、廊下の角からひょこりと現れる。

 

「……先輩?」

「なんの音です、か」

 

 ──それは、トイレのために起きたゆきと、偶然廊下で鉢合わせた慈の二人だった。

 

「っ、声を出すな!」

「これで四と五人目」

 

 そして互いに不意打ちのように出会した状態で、反射的に大きく息を吸うゆき。

 

 

『──────!!!』

 

 

 言われた通りに黙ることは難しく、ゆきは廊下に悲鳴を響かせる。後退りする慈に引かれて数歩下がりながら、彼女に耳打ちされた。

 

「ゆきちゃん、古木くんを探してきて」

「えっ!? で、でも……」

「私は大丈夫だから、いい?」

 

 慈はゆきを後ろに下がらせながら、背中を押して強く言った。

 

「──行きなさい!」

「っ! は、はいっ!」

「おい、待て──」

 

 体を跳ねさせ、慌てて踵を返して走り去るゆきを追おうとするタカヒトに、慈は立ち塞がるように両手を広げて廊下の真ん中に立つ。

 

「…………っ」

 

「──ちっ」

 

 最悪殺されるかもしれない。そんな想定が脳裏を過って体を強張らせる慈に、タカヒトは心底面倒くさそうに舌を打った。

 

 

 

 

 

 ──ゆきの悲鳴を聞き、悠里と瑠璃の部屋に慌てて駆け込んできたのは、美紀と圭だった。

 

「りーさん! 起きてください!」

「様子が変です!」

「起きてるわ。さっきの悲鳴は……」

「はい。ゆき先輩の声でした、それとくるみ先輩も部屋に居ないんです」

「あとめぐねえと古木さんも居なくて……」

 

 しどろもどろで話す二人に、悠里は瑠璃を抱き寄せながら静かに考える。

 

「わかったわ。先輩たちも探したいけど、無闇に動くのも危ないから一旦隠れましょう」

「はい、でも……どこに──」

 

「──地下の倉庫ね」

 

 四人のもとに、第三者が語りかけてくる。扉に振り返ると、そこに居たのは、白衣を身に纏い、苛立たしげに煙草を咥えた椎子だった。

 

「青襲さん、古木さんはどこに!?」

「知らん。大方ここに居ない奴と外に居るんでしょう。こっちも仕込みをしてたから初動が遅れてしまったわ」

「仕込み……?」

「ちょっとしたトラップよ。放送室付近には絶対に近づかないこと」

 

 ふぅ、と煙を吐くと、瑠璃をちらりと一瞥してため息混じりに携帯灰皿に煙草をねじ込む。

 それから首を廊下の方にくい、と曲げて、口にせずとも『さっさと動け』と語っていた。

 

 

 

「マニュアルで見たけれど、ここが巡ヶ丘と同じ構造なら地下に籠城できる。あとは御形が連中をみなごろ……制圧するのを待てばいい」

「今すごい物騒なこと言いましたよね」

 

 四人を先導して前を歩く椎子に、圭が頬をひくつかせて問いかける。そういえばと、気になったことをそのまま質問した。

 

「さっき言ってたトラップっていったい」

「あいつらなら、最悪の場合警報かなにかでやつらを呼び出す危険性があるから、まあ……ちょっとした爆弾を仕込んだのよ」

「えぇ……」

「こっちに持ってきてた薬品を使いきってしまったから、私としては理学棟に向かって補充したいのだけれど」

 

 ストレスからか反射的に、白衣のポケットに入れた煙草を取り出そうとする手を押さえ、椎子は灰がかった色の髪をガシガシと掻く。

 

「……武闘派の人たち、なんですよね」

「感染者に音を立てる知能は無いわ」

「何かの間違いだと……いいんですけど」

 

 美紀の言葉に淡々と返す椎子。

 呟いた美紀に続けて何かを言おうとして視線を後ろに向けた椎子は──上から階段へと降ってきたシノウに捕まる様子を視認する。

 

「美紀くん──」

「ぐっ……」

 

 首に腕を回され動けなくなった美紀は、椎子と悠里、そして圭と瑠璃に咄嗟に叫ぶ。

 

「──走って!」

「ちっ……走れ!」

「ひゃっ」

 

 まず美紀を拘束しなければならないシノウは、椎子たちを一旦見逃すしかない。

 

「美紀さん……」

「美紀、ごめん!」

 

 瑠璃を小脇に抱えて駆け出した椎子とそれを追う二人は、ちらりと美紀を見て、床にうつ伏せにされた彼女が頷く姿を見ていた。

 

 

 

 ──大教室に駆け込んだ四人は、机の陰に座って息を整える。

 

「……さて、これで地下室に向かう事が出来なくなった……と。御形がこっちに戻ってくるのが何時かはわからない……この場の私たちしか動けないと仮定して……」

 

 ぶつぶつと小声で状況を纏めようとしていると、抱えられた流れでそのまま横に座っていた瑠璃が、時間帯と疲れが重なり船を漕ぐ。

 

「……んう」

「──なんで私に懐くのよ……」

「ふふ、青襲さんがいい人だってわかっているからだと思いますよ」

「は──、冗談でしょう」

 

 呆れた声色で悠里に返す椎子は、白衣にしがみつく瑠璃を見下ろしてため息をつく。

 

「古木さんも懐かれていたので、たぶん、そういうことですよ」

「……そんないい人は、これから、残酷な選択を取らないといけないわけだけど」

 

 悠里と圭の顔を見て、それから、椎子は眉をひそめて二人に言った。

 

「どちらかには武闘派に捕まってもらう」

「えっ!? ……あの、その心は?」

「あいつらは私たちを捕まえようとしている。つまり殺す意図はない。けれど、私たち四人がここから逃げ切れたら、残った子達が何をされるかわかったもんじゃない」

 

 一拍置いて椎子は続ける。

 

「──向こうに戦果を渡しつつ、私はこの子を連れて理学棟まで逃げる。恐らく外に居る御形と合流できる可能性もある以上、これより良い策は思い浮かばないわね」

 

「じゃあ……私が残りますよ? 美紀も捕まってるし、瑠璃ちゃんには姉のりーさんが残った方がいいんじゃないかなー? って」

 

「──いいえ」

 

 控えめに挙手して立候補する圭の手を、悠里が優しく下ろさせながら言う。

 

「私が捕まります。圭さんは青襲さんとるーちゃんに着いていって?」

「なんで!?」

「……そうね、強いて言うなら……私が瑠璃(このこ)に、甘えていたから……かな」

 

 自分以外に懐く瑠璃を見て、悠里は、無意識に妹に依存していたのだろうと察する。

 加えて、妹が心配だからと圭を犠牲にするのも違うだろう。この場での最適解は、自分が捕まること。それはきっと、椎子もわかっている。

 

 悠里にじっと顔を見られた椎子は、ガリガリと頭を掻いて、何度目かも忘れるほどに深いため息をついて誰に言うでもなく独りごちた。

 

「こういうのは御形(あなた)の役目でしょう」

 

 

 

 ──大教室の窓を開け、圭を先に出してから瑠璃を抱えさせて、最後に椎子が出る。

 閉められた窓の奥、教室から出ていった悠里が捕まる光景を横目に、椎子は圭から受け取った瑠璃を抱き抱えて理学棟に走った。

 

「あの、青襲さん」

「……なに?」

「本当に武闘派は殺すつもりは無いんでしょうか。食料も限られてる状況で切羽詰まってるのに、そんなことする余裕って無いんじゃ」

「賢いわね」

「えっ、はい」

 

 唐突に褒められた圭は状況ゆえに喜びを抑える。しかし、椎子が続けて言った言葉に、彼女は心の底から困惑した。

 

「殺せないわよ。誰だって──御形と殺し合いなんかしたくないでしょ?」

「…………いやあ流石に古木さんも生身を斬ったりは……あの、しませんよね?」




次→2月10日00時00分(予定)
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