【完結】がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート+α   作:兼六園

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乙の回 後

 前回のビーストウォーズリターンズはァ!! 

 

 変態走者の集うSNS「Hasitter(はしったー)」で知人とRTAのデータを交換した走者兄貴。

 しかしそのデータのガバは凄まじく、ケツワープが光の速さを突破してしまう。

 そしてたまたま居合わせた妹と共に激しい光に呑み込まれ、別世界へと転移してしまった。

 

 相対性理論「ファッ!?」

 

『ホラゲーみたいな学校で暮らしてる大学生(わたし)はどうすりゃいいですか?』はーじまーるよー。

 

 

 

 

 ──うそだよ(偽MUR)

「ケツワープが光の速さを突破してしまう」ってなんだよ。相対性理論くんは仕事して。

 

 そんなわけで(どんなわけで?)後編です。

 やつらの挙動に気を付けながら、りーさんと共に学校の外に出た辺りから再開です。でもぶっちゃけりーさんはお荷物ですね(辛辣)

 なにせNPCを連れていると屋根の上を走れないんですもの。やつらと出くわす危険性がある道路を歩かなきゃいけないのはキツいですよ。

 

 まあ、るーちゃんの為なら仕方ありません。三階の安全地帯化(絶対安全とは言ってない)も済ませてあるので、あとは実質自由時間です。

 2日目の残り時間はヒロインたちとの交流による好感度上昇に費やそうと思っていたので問題ありません。

 るーちゃん救出でりーさんの好感度はかなり上昇するでしょうし、本来りーさんに使うはずだった交流の時間を減らせるのはうまテイスト。

 

 スタミナを回避1回分だけ残してダッシュし、やつらが居ないのを確認して歩きに戻り回復を待つ。これを繰り返して道を駆け抜け、鞣河小学校へと急ぎましょう。

 

 バリケード設置時の戦闘後に刀を手入れできていませんが、ラッシュでもないなら何十体も相手にすることは稀なのでへーきへーき。

 刀の手入れ──耐久値の回復は、リアルのように目釘を抜いて刀身を柄から外して打ち粉をポンポンしたり油を塗ったり……といった面倒くさい手順は踏みません。コマンドから選択すればゲーム内時間を数分消費して回復されます。

 

『リアリティ』というのは凝りすぎて『面倒くさい』になっちゃ駄目なんですよ。『面倒くさい=難易度が高い』にはなりませんから。

 

 では見所もないので鞣河小学校まで5倍速します。ミニマップの端の方でNPCのランダム救出イベントが起きていますが、小学校とは真逆の方向なので無視しましょう。

 これはいわゆるコラテラルダメージに過ぎない。RTA完走の為の致し方ない犠牲だ。

 

 ──そんなこんなで鞣河小学校に到着。

 巡ヶ丘高等学校とは違いシェルター化はしておらず、時間にしてお昼時の校庭には、生前に体育の授業をしていたのか何人かの『やつら(小学生)』が居ました。やつらの中では最も体力が低く、今の古木くんなら片手R1一撃で倒せます。

 

 しかし体格差があるためバクスタでケツを掘ることが出来ません。無敵時間を利用した回避が使えないので気を付けましょう。んだらば迅速に行動、るーちゃんをさっさと見付けます。

 るーちゃんは一階にある職員室のデスク下か女子トイレに隠れており、小柄故に隠れる際の潜伏能力が我々より高いので、職員室にやつら(教師)が居ようが余裕で隠れていられます。

 

 ですが職員室に居る場合はやつらを一掃しないと、りーさんが居ても出て来ません。

 場所的に一階廊下は手前に職員室、奥にトイレなので奥から探索しましょう。屈み移動で音を極力出さないようにしながら職員室を横切り──。

 

 ──パキ!(ガラスくん迫真の演出)

 

 ンー、アッ、マ゜ッ!! 

 鳴子よろしく撒かれていたガラスを踏んづけて音が出ました。静寂だったが故に廊下に響いた音は、職員室のやつらが反応するのに十分です。こうなったらこそこそ移動する意味もないので、ダッシュで女子トイレに入りましょう。

 ……トイレの一番奥、唯一閉まっている扉にりーさんが声を掛けると、遅れて開かれた中からるーちゃんが現れました。生存を確認したのであとは高校に帰るだけですね。

 

 

 私はやりました、やりましたぞ! 投稿者:変態糞処刑隊。8月16日水曜日7時14分22秒。

 いつもの狩人の兄ちゃん(地底人)と先日招待状を渡した汚れ好きの処刑隊の兄ちゃんとアンナリーゼ様の3人で、県北にあるカインハーストの城の中で盛りあったぜ。

 

 ……ヨシ!(よくない)

 

 申し訳ないが車輪を調子に乗って回してたら服が巻き込まれて死んだ説が有力な自分を処刑隊の一員と思い込んでる精神異常者はNG。

 

 るーちゃんの保護さえ出来ればこんなところに留まる理由はありませんし、さっさと小学校から脱出します。あとは高校に戻るだけなので尺の為にも10倍速で──

 

 

 ……なんで倍速にならないんですか。

 

 

 ──エ゛ッ゛!(ガバ穴)

 女子トイレから出たその瞬間、おそらく職員室から出てきたのだろうやつらの一人に組み付かれ押し倒されました。しかも古木くんとやつら(教師)が邪魔になっててトイレの扉が開かねえ! 

 

 何すんだお前!?(がっこうぐらしRTA)流行らせコラ、流行らせコラ! 

 んーにゃーごお前! 男のチャート壊して喜んでんじゃねえよお前! 離せコラ、流行らせコラ…………なんだお前!?(2匹目)

 

 ──あかんこれじゃ古木くんが死ぬぅ! トイレの中に残ったりーさんの刺又に期待は出来ませんのでまずレバガチャで拘束から逃れ、接近してきた二匹目にぶつけるように蹴り飛ばします。

 抜刀さえ出来れば勝ちは確定────職員室から更に5体!? うせやろ……? 

 

 …………仕方がないのでトイレ内のりーさんとるーちゃんを『待機』のコマンドで留まらせ、合計7体に増えたやつらを相手にします。

 ラッシュ時は当然のように10体以上と戦うので、練習には丁度良いですね……(半ギレ)

 

 刀は片手R2が突き、両手R2が凪ぎ払いなので、上手いこと何人かを巻き込めば一気に数を減らせます。手前の2体を片付け、なんとか隙さえ作れれば奥の5体も倒せるでしょう。

 

 ナーフされまくり何度も変動した刀のリーチを把握している私にとって、切っ先を掠らせるように当てることなど雑作もありません。

【剣術Lv2】になった刀はR1一撃で倒せるだけの威力があり、こうして落ち着いて対処すれば私が負けることなどありえん(MUR閣下)

 

 あとはヒ(当て)ト&アウェ(逃げ)イで数を減らすだけ。ぺっ甘ちゃんが! 

 最初の組み付きで古木くんを噛めなかった時点でお前らの負けなんじゃい!(震え声)

 

 ──などと言っていると、不意に古木くんに向かって歩いてきていたやつらの背後でガラス製の何かが砕ける音が聞こえてきました。

 何体かが意識をそちらに向けたのでチャンスです。ダッシュで近付き、スタミナの続く限りR1連打で切り刻みましょう。

 

 ケツ穴は(枕詞)そりゃあ無双ゲーよろしくバッタバッタとなぎ倒せるのは気持ちええですよそりゃあねぇ(NKTIDKSG)

 

 俺の勝ち! なんで負けたのか明日までに考えといてください。そしたら何か見えてくるはずです。ほな、(経験値)戴きまーす。

 しかし突然何かが都合よく割れるなんてことはありえないので、誰かが助けてくれたのでしょうが……こんなイベントあったかなぁ。

 

 ……と、古木くんが立っている廊下近くの窓の外から、何者かが声を掛けてきました。上が白いシャツで下が黒いスカート、片手にはオシャレな傘とこの独特のシルエットはまさか……。

 

 

 このゴスロリ衣装は間違いなくコブラじゃ────スミコじゃねーか! 

 

 

 …………いや、えぇ……(困惑)

 お前、大学編で名前しか出てこないキャラじゃん。なんで高校編のエリアにさも当たり前かのように登場してるんですかね……。

 

 ──あれ、こいつ、そういえば高校に向かう時の救出イベント*1で助けてましたね。あの時はなにも言わずに去ってしまったから無名のモブNPCなんだと思って気にしませんでしたが、まさかスミコだったとは思いもしませんでした。

 

 ──はい。そろそろ説明しますと、このゴスロリは大学編のとあるグループに混じっていた女性で、交流ノートに残していた名前が『墨子』『澄子』『スミ故』『スミ狐』『角子』『ス観コ』と一貫していなかったため、統一して『スミコ』と呼ばれているキャラクターです。

 

 原作では布地を探すと言って大学から姿を消したため死んだと思われていたけど、最終話の1コマにしれっと写り込んでいてなんだかんだで生存してたことが判明した人物ですね。

 性格は酔うと歌い出す酒豪。あとは……厨二ですね、ノートの中の一人称「小生」だし。

 

 ……スミコ。スミコかぁ……。高校編RTAとかアニメしか見てない人からすれば『誰だよ(ピネガキ)』案件だし、下手したら最終話まで履修済みなのに存在を忘れてた人とか居るでしょ。

 編集しながらwikiで検索したけど、高校編にスミコが登場する情報が全く無い辺り、どうやらかなりレアなイベントみたいですね。

 

 1日目でランダムエンカウントしたあとに2日目以降確率で遭遇……とかでしょうか。これ、スミコにRTAの運全部吸われましたね。

 おそらく出くわす方が珍しいのでしょう。仮にもふら~っと大学から出ていって最終話まで生き延びてた猛者ですし。

 

 そんなスミコですが、古木くんはあちらを知らないけど、あちらは古木くんを知ってるようです。昨日助けたとき碌に会話しないまま去ってしまったことを謝り、今度は避難できそうな場所がないかと聞いてきていますね。

 こんなレアイベントを逃すのは一人のプレイヤーとしても惜しいので、折角ですし高校に誘いましょう。女子トイレに避難させたままのりーさんとるーちゃんを呼んで、4人で帰ります。

 

 ……2日目にして生存者が二人追加。食料の問題もあるので、やはり3日目にモールに向かうのは正しかったか……。

 まあその3日目に更に二人増えるんですけども。ともあれ成人NPCが増えるのは戦力の増加に繋がるので、それで釣り合いを取ります。

 

 スミコは傘を武器の代わりに使っていたようでした。傘の攻撃は打撃/刺突ですか。

 見た目のわりにかなり頑丈みたいですね。キングスマンかな? 

 

 では外に出ましょう。

 廊下を歩く途中で床に転がっている割れた破片に気を付け──この僅かに見えるフィルムからして、割れてるのワンカップ大関の瓶ですね。こいつ呑み終わった酒瓶を投げ込んでたのか……こんなのに助けられたってマジ? 

 

 

 ──んだらば今度こそ10倍速。

 だかだかだかーっと走って高校に戻り、三階の生徒会室に向かいます。時間は昼から夕方になり、夕陽が我々を照らしていますね。

 数回ノックすると、中からエプロンを着ためぐねえが出てきました。

 

 はぇ~すっごい母性……。

 内なるシャアもこれにはにっこり。これはアクシズを落とさないシャアですわ。

 古木くん達が小学校に行っている間に留守番してた三人で購買や食堂に行ってきたようですね。自由行動のAIが初期バージョンから強化されているとはいえ、今回の学園生活部は有能揃いです。

 更には放送室に保健室の布団を運んでおいたらしく、帰ってきてからやろうとしていた事を先んじてやっておいてくれていました。

 

 すげぇ……まるでRTAみたいだ……。

 

 本来は自由行動に任せるのはわりと危険なんですが、今回は待機命令を出すのをド忘れしていたお陰でタイムも縮まりそうですね。

(記録更新の可能性)濃いすか? 

 そもそもチャートに書き忘れたからってド忘れするな(逆ギレ)モシャモシャセン……。

 

 それでは新メンバーのるーちゃんとスミコを安全地帯に迎え入れた辺りで今回はここまで。

 次回は3日目、モール、戦闘、出会い。アルコールの臭いしみついて、むせる。

 

 

 

 

 ──鞣河小学校、一階の女子トイレに訪れた古木と悠里。生きていると信じて声をかけた悠里に反応して、一番奥の個室が開かれる。中から現れたのは、悠里にどことなく雰囲気や顔付きの似通った少女──若狭瑠璃その人であった。

 

「るーちゃん!」

「……りーねー」

「ごめんね……! すぐに助けられなくてごめんね……っ!」

「んーん、へいき」

 

 屈んで瑠璃を抱き締め嗚咽を漏らす悠里。

 そんな悠里を抱き締め返して、瑠璃は肩に顔を埋めた。頬を緩めてその様子を見ていた古木は、廊下から発せられた異音に表情を固くする。

 

「──急いでここを出よう」

「っ、そうですね。るーちゃん、歩ける?」

「歩ける」

 

 こくり、と頷いて瑠璃は手を握る。きゅっと優しく握り返して、悠里が古木に目配せした。

 

「出るぞ、音を立てないように────」

 

 扉を開けて、廊下に出る。油断をしていたつもりはなかったにも関わらず──古木は横合いから飛び掛かってきた教師に押し倒される。

 

「っ、ぐッ!」

「古木さん!?」

「出てくるな!」

 

 古木は咄嗟に半開きの扉を蹴ることで閉め、片腕で死して尚動く教師の首を押さえ込んで噛み付かれることを辛うじて避けていた。

 奥から更にもう一人現れるのを目視して、跳ね上げるように押し退ける。

 

 即座に立ち上がり、自分を押し倒した教師の立ち上がろうとする最中の横っ腹を蹴り飛ばし、奥のもう一人にぶつけて転ばせる。

 腰の鞘から刀を抜く頃には、職員室から遅れて5人現れるのを一瞥した。

 

「……不味い」

 

 計7人。誰でも理解できる。下手を打てば、自分だけでなくトイレの中に居る二人すら死ぬ。古木は手汗が柄を濡らすのを感じる。

 もう既に数人を斬り伏せているのに、いざ面と向かって刃を向けると、どうしてか躊躇が生まれる。耳の近くに心臓があるかのように爆音を奏で────不意に知り合いの顔が脳裏を過った。

 

「──ッ、シィッ──!」

 

 半ば反射的に、鞘から滑り放たれた切っ先が死者の頭部にぞぶりとめり込み、右のこめかみから左へと斜めに上に抜ける。脳を抉られた一人が膝から崩れ落ち、もう1人の死者には返す刀で逆手に持った柄の頭を胸に打ち体勢を崩す。

 持ち直して振った刀の真ん中から切っ先の間が首に深く突き刺さり、包丁で豆腐を斬るよりもあっさりと頭と胴体の繋ぎ目を絶ち斬った。

 

 呼吸を整え、奥の5人を見やる。異様なまでに感覚が冴え渡り、まるで走馬灯を見ているかのように『やつら』の動きを遅く感じる。

 ──直後、ガラスが割れる、というよりは砕ける音が古木の眼前に居る死者達の背後から聞こえ、幸いと弾かれたように飛び出す。

 

 1人、首を断つ。2人、額に刃を差し込む。

 3人目を蹴り飛ばし、4人目のうなじに刀身の地の辺りを添え、研ぐように滑らせて頚椎を切り離す。そして倒れた3人目の喉仏を貫くように切っ先を突き入れ、ぐり、と捻り頚椎を破壊する。

 

 最後の1人が両手を伸ばして古木に迫るが、それを刃先で押さえる。ぐじゅぐじゅとトマトを潰すような感触が刃から柄、手に伝わる。死んでも尚動くという矛盾した生物は、痛みを感じていないのか刃が胸にめり込むのも構わない。

 

 最早()()は、人の姿をしているだけの怪物に他ならない。ちり、と脳裏に火花が散る。ちりちりと、炎が燻る。

 じっとりと冷や汗が頬を流れ、奥歯を噛み締めて眼前の死者から刀を抜くと、古木はふくらで引っ掻くように腕を斬り、回り込んで膝裏を蹴り姿勢を崩して──首に刀を一閃した。

 

 廊下に静寂が訪れ、それでも気を抜かずに辺りを見回す。死者達(やつら)の声、臭い、足音の全てが近くから感じられない事を確認して、トイレの悠里達を呼ぼうとする。

 

「──お見事」

「ッ……!」

 

 ──ふと、そんな称賛の言葉と拍手の音が控えめに聞こえる。咄嗟に振り返って窓の外を見ると、そこには一人の女性が立っていた。

 

「極限状態で研ぎ澄まされ、より洗練された剣術には惚れ惚れするよ」

「……確か……昨日追われていた」

「…………嗚呼、うん。そうだね、あの時は礼も言わずに立ち去って申し訳なかった。なにしろ小生もあのような事態は初めての体験だったんだ、混乱するのもやむなしとは思わないかい?」

 

 黒い傘をくるくると回しながら微笑を浮かべてそんな事を言っている女性に、古木は妙な既視感を覚えていた。昨日とはまた別の場所で見たことがあるような、そんな違和感。

 それはそれとして、トイレに目線をやってから女性に対して提案する。

 

「話はあとでいいか、トイレから出ないように言っておいた相手がいるんだ」

「──おや、ツレが居たのかい」

 

 どうぞ、と片手で傘を握り空いた手のひらを窓の外からトイレへと向ける。

 どこか不可思議な言葉遣いに眉をひそめながらも、悠里と瑠璃を呼びに行く。

 

「悠里ちゃん、もう出てきていいよ」

「……古木さん、大丈夫ですか?」

「少なくとも噛まれてないし引っ掛かれてもいないよ。……ちょっと変な人が居るけど、悪い人ではないだろうから気にしないでね」

 

 はい? と言って小首をかしげる。

 疑問符を浮かべながらも瑠璃の手を引いてトイレから出てきた悠里は、廊下を赤黒く染める死者を見ないように言いながら下駄箱の方に向かおうとして、件の女性と目線をかち合わせた。

 

「や。こんにちは」

「……あ、はい。こんにちは……?」

「こんにちは」

 

 ゴシック&ロリータという嫌でも目立つ服装を着こなす女性は二人にひらひらと手を振っていた。挨拶した悠里に習って会釈する瑠璃に表情を緩めて、女性が続ける。

 

「こんなところに危険を冒してまで訪れた理由は──嗚呼、成る程。そちらのお姫様を探していたわけだね」

「……そんなところだ」

 

 窓越しに廊下と外で話すのを止め、校門近くに集まって対面してから、悠里と古木が女性に今までの行動を全て語る。

 どこに隠していたのかビニール袋を片手に持ち、畳んだ傘を手首にぶら下げていた。

 

小さな妹君(リトル・シスター)を助けに死者ひしめく道を往く──か。ふふ……中々どうして、素晴らしい姉妹愛じゃないか」

「いえ、そんな……」

 

 謙遜しなくてもいい、と頭を振る女性。

 

「小生はこの1日2日で、人間の醜さというものをこれでもかと見てきたよ。

 それに比べたら君たち姉妹の行動は素晴らしいではないか。心の底から、助かって良かったと他人事ながらホッとしているものだ」

 

 ブーツの踵を鳴らして舞うようにステップを踏んで、女性は古木と悠里、瑠璃の周りを回る。ああ! と、わざとらしく演技的な動きで古木の前に立つと──ばさりと傘を広げて微笑んだ。

 

「小生のことは──スミコ、と呼ぶといい。真名(まな)を明かすことは禁忌(タブー)とされているものでね」

「はぁ。なるほど、よろしく」

 

 ただ定型文の返事をしただけで、当然だが古木はスミコの言葉遣いを理解していなかった。

 

 

 

 

 ──巡ヶ丘高等学校に戻ってきた四人は、死者達の目を掻い潜って三階に上がる。積まれただけだが十分な重量で壁となっているバリケードを見て、スミコが感心するように見上げた。

 

「学舎を城塞と見なすその発想には脱帽せざるを得ないね。

 我らが聖なる学舎もまた、このように防壁を築き上げていることを願うばかりだ」

「……そうだといいな」

 

 古木の脳裏に『彼女』の顔が浮かび上がる。そして、ちりちりと炎が燻った。

 

「他の生存者とはここで生活を?」

「ああ。生徒会室に待機してる……筈だ」

 

 まさか自分達が居ない間に襲われて全滅──なんてことにはなっていないだろう。

 数回のノックの後にガチャリとドアノブが捻られると、中からエプロンを身に付けた慈が現れた。古木と悠里の顔を見て、無事を確信したのかホッとした様子で声をかける。

 

「大上くん、若狭さん。おかえりなさい、瑠璃ちゃんは無事でしたか?」

「ええ、助けられました」

「ほらるーちゃん、ご挨拶して」

「……こんにちは」

「はい、こんにちは」

 

 悠里の脚に隠れる瑠璃が顔を覗かせ、慈は屈んで目線を合わせる。

 人懐っこい笑みが警戒心を薄れさせたのか、瑠璃はおずおずと前に出てきた。

 

「──あ! 古木さんとりーさん!」

「おっ、お帰り。無事だったんだな」

 

 バリケードを迂回して生徒会室に合流してきたくるみとゆきが、部屋の前で会話をしていた五人と遭遇する。その手には購買のレジ袋に入れられた調味料類が詰め込まれていた。

 

「その荷物はどうしたんだ?」

「食堂から持ってきたの。パスタとかが無事だったから、今日はスパゲティだよ!」

「古木さんが持ってきたのと購買にあったカップ麺は非常用にして、米とかパスタを先に消費しようと思ってな。

 あと、放送室に保健室の布団引っ張ってきたからそこで寝られるぞ」

 

 赤黒い液体が乾いて張り付いたシャベルを肩に担ぎ、口角を上げて笑う。

 そのまま目線を古木の背後で手持ち無沙汰のスミコに向けて聞いてきた。

 

「……んで、その人誰?」

「ふふ、このまま空気となって消えるところだったよ。しかして風とは自由なものだ、それもまた悪くない」

「は?」

 

 窓から射し込む夕陽をバックにそんな事を言うスミコに疑問符を浮かべるくるみ。

 ゆらゆらと片手のビニール袋を揺らして、その中の瓶がカチャカチャとぶつかる。杖のように傘を床に突いて、初対面の慈とゆき、くるみの三人に顔を向けると改めて自己紹介をした。

 

「──小生はスミコ。そちらの一匹狼(ロンリーウルフ)と同学年のしがない大学生さ」

「誰がなんだって?」

 

 まぶたを細めて睨むように顔を向ける古木に、すっとぼけたような顔で首をかしげるスミコはあっけらかんとした表情で続ける。

 

「高校当時から大学までの数年間で剣道の試合の勝率は九割五分。それでいて他者を寄せ付けない修羅がごとき雰囲気。『一匹狼』と呼ぶに相応しいじゃないか、なぁ。古木くん?」

「……高校の時の同級生だったのか」

「──なんだ、覚えていないのかい」

 

 酷いなぁ、と言って肩を竦める。

 それもそうだろう、古木からすればスミコという存在は派手なゴスロリ衣装の女性としてのインパクトが強いのだ。制服で統一されていた高校時代の赤の他人など覚えていられるわけがない。

 

「まあ、それは良い。重要なのは小生の今後だ、そうだろう? 

 嗚呼──先に云っておくと、小生は生ける屍、子供に配慮して『やつら』とぼかそう。やつらに襲われこそすれ、怪我をさせられた訳ではない。朝陽が差した頃には呻き声しか出さない怪物に成る……なんてことはあるまいよ」

 

 身体検査でもするかい? 

 そう言って両腕を広げたスミコに、やんわりと拒否した慈が対応する。

 

「いえ、()()()()のではと疑っているわけではありませんよ。ただ……この人数では近い内に物資が足りなくなってしまうんです」

 

「成る程。それもそうだね、疑わしきは罰せよ──魔女裁判なんてやろうものなら、小生は暗がりを照らす松明となってしまう。であれば、明日は此処に向かうというのはどうかな?」

 

 ビニール袋から取り出した丸められたチラシを見せる。表には『リバーシティ・トロン館内案内』と書かれており、簡易的なマップも描かれていて、地下1階が食料品フロアとなっている。

 

「──そうですね。でも、そうなると誰が向かうか、という話になってしまいます」

「それは勿論、言い出した小生、加えてあと二人ほど。移動手段も見つけなければね、はは。流石に空を飛ぶのは難しいだろう?」

「……あははー……」

 

 不可思議な言い回し、冗談か本気なのかわからない態度。それでも慈は、スミコが『これから』を生きようとしていることだけは理解できた。

 

「……あ、自己紹介がまだでしたね。

 私は佐倉 慈。巡ヶ丘高等学校で国語の教諭をしています」

「これは丁寧に、佐倉女史」

 

 差し出された右手をスミコは握り返す。──ふと、ぐぅ、という音が廊下に響いた。

 振り返ると、腹を押さえて頬を染めたゆきが立っている。

 

「えへへ……お腹空いちゃった」

「ああ、ごめんなさい丈槍さん。生徒会室に入りましょう、パスタも茹でちゃいますね」

 

 その言葉を皮切りにゆきが生徒会室に入り、後を追って悠里と瑠璃が入る。腹減った~と言ってシャベル片手に続いたくるみと共に、古木が刀を腰から外して付いて行く。

 残された慈が入ろうとして、背後から掛けられたスミコの声に振り返り対応する。

 

「──時に、佐倉女史」

「はい、どうしました?」

「国語教諭であれば、こんな言葉を知っているだろう。『首の皮一枚』」

「……ええ、知っていますよ」

 

 突然の質問に小首をかしげる慈。つい、と流れるように動いたスミコの目線が、シャベルを雑巾で拭うくるみと話をしている古木に向かう。

 

「『首の皮一枚で繋がった』などと、所謂(いわゆる)ギリギリの状態でなんとかなった──そんな意味でよく使われるが、佐倉女史なら、その語源がどういった話か知っている。違うかな?」

 

「……そうですね。元は斬首の際、前のめりになって切腹者が死ぬようにする配慮から来ている──本来の意味で言うなら、スミコさんの例えは正しい表現ではありませんが……」

 

 ──それがなにか? 

 慈は暗にそう返していた。スミコはただ、まぶたを細めて薄く微笑む。

 

「──いいや、国語教諭と言うからには、それなりの知識を蓄えていなければ勤まらないだろうと思ってね。手前勝手ながら試すような真似をして申し訳ない。さっ、明日のためにも、英気を養えるような料理を期待しているよ」

 

 そしてパチリとウィンクを一つ。

 奇妙な剣呑さが嘘のように消え、生徒会室に向かったスミコの背中を目で追う。

 

 故に、慈は先の言葉の真意に気付けなかった。スミコの問いが古木の事を指していた事を。

 静かに燻り、確かに精神(こころ)を蝕む炎が、彼の中で燃え盛っている事を。

 

 ──慈は気付けなかった。

 

 人を斬る感触を知ったその手が、寒さに凍え震える子供のように揺れていた事を。

*1
甲の回 壱のラスト~弐の冒頭を参照




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