【完結】がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート+α 作:兼六園
3日目後半です。
5階にて二本目のバールと現バージョン最強の投擲武器・ペグの回収も済ませ、みーくんとKも無事でした。そして灰色の大狼シフことヘイト管理の鬼・太郎丸もみーくんが抱っこしていました。ヨシ! あとは脱出するのみだな!
──となれば良かったのが今までの『がっこうぐらし!RTA』です。なんと現バージョンでは脱出時に強制的にやつらの襲撃に遭います。
1階から5階へと時間経過で集まろうとするやつらの対処をしなくてはならない為、さっさと2階まで降りましょう。2階から1階までは階段ではなくエスカレーターで繋がっているので、そこで対処出来れば脱出自体は楽勝です。
左右それぞれに上りと下りのエスカレーターが備わっている事もあり、防犯ブザーで片方を上るように誘導すれば良いだけです。なぁにが襲撃だよ、ぺっ甘ちゃんが!
7日目のコミケがごときラッシュの事を『襲撃』って言うんだよ!
ほらいくどー。さっさと階段降りてほら。
AIの自動行動はかなり優秀と以前にも話しているのでわかるでしょうが、結構命令にも幅があるため『どこ』で『なに』をさせるかは細かく設定できます。
そんなわけで今のうちに、四人にはモールを出て車の近くに向かうよう設定しましょう。みーくんとKには古木くんの荷物を持たせておきます。金属製のペグ15本と無洗米のせいでクソ重いだろうけど二人で折半すればへーきへーき。
2階まで向かえばあとは簡単、適当な店の中にでも防犯ブザーを数個投げ込んで──
………………?(TRICKのSE)
──なんか数多くない?
……うーん? このイベント時にスポーンするやつらの数はプレイヤー含めてキャラクター×6体だから、この場合古木くん*1と太郎丸*2とスミコ*3込みで六人居るので36体だと思うんですが……なんか50体くらい居ますね。
これは無双ゲーではないし、【科学知識】のスキルが無いので爆弾も作れません。やつらを一網打尽(ののじ)にするのは無理です。
どうあがいても戦闘は回避不可ですが、しかして前述した通りに片方のエスカレーターを上るように誘導させればどうにかなります。
四人に改めて車に向かうよう命令し、ルーチンに従って移動を始めたのを見計らって防犯ブザーを2つ、2階の店内に投げ込みましょう。
囮は勿論俺がやる(アナザー卑劣)
ピヨヨヨヨヨという間の抜けた爆音が響き、やつら×50はまるで現代人のように律儀にエスカレーターへと列を作って上がってきました。
反対のエスカレーターを屈み移動でスニークしながら降りて行く四人+一匹を尻目に最初の数体が上りきり店内に向かったので、恐らく数分もしないで防犯ブザーは踏まれるなりなんなりで破壊されるでしょう。
ですがやつらは一度音がした方に向かうと、音がしなくなっても生前の習慣からか確認しようと最後まで行動するので、放っておけば2階はやつら×50に埋め尽くされます。
15……いえ20体程が2階に上がって来て、残りがエスカレーターをノロノロと上っている辺りで、もう1つの防犯ブザーを投げ──た瞬間に武器を振って投擲キャンセル! そうすることで、本来なら投げるはずだった道具を手元に残せます。
この小技は防犯ブザーなら音が鳴っている状態で手元に残せて、手榴弾ならピンとレバーが外れた状態で手元に残ります。当然後者は自爆するだけなのでしないようにしようね!
……はい、やつらの半数が上がってきましたね。残りに上がり切られる前に、店内ではなく古木くんの手元の防犯ブザーに反応してきたやつらの対処をします。先ほどみーくんたちに持たせた荷物には『15本の』ペグがあります。
残りの5本は古木くんが装備しているので、
やつらの行動ルーチンは『音のした方に向かう』とか『攻撃を当てた人を追いかける』などが基本的に備わっているのですが、後者のルーチンは追った相手を見失うと見失った地点に向かってから少しして引き返すように設定されています。
──ですが、仮に、例えば……
やつらは落下ダメージには耐えられません。原作では普通に高所から落ちても生きていますが、ゲーム版では
──それでは戦闘開始。
【投擲】が無い場合、どこに飛んで行くかのガイドすら表示されませんが……私にそんなものはフヨウラ。ガイド無しでも当たるようになるまで練習すれば命中率100%ってそれ一番言われてるから。
1本、2本、34を当てて5本目。はい余裕。投擲武器が命中するとやつらの挙動は若干遅くなるので、それらを追い抜いて接近してきた他のやつらには刀の錆になっていただきましょう。
尤も血と油で錆びるまで手入れを放置したら元の持ち主(故人)にぶち殺されますが。
35体が店内に引き寄せられ、15体がこちらに来ています。ので、ペグを当てた5体を抜いて6体程を膾斬りにし、更に武器をバールに持ち変えます。まだ無傷の4体が1列に並ぶよう立ち位置を調整して──ここ。
両手R2最大溜め攻撃による突きで、串焼きが如く纏めて貫きます。これで脱出の準備は完璧に整いました。それでは突然ですが問題。
Q.なぜ私は【跳躍】を習得したのでしょう
右枠に問題を出し、そこら辺に転がっている子供大の案内板を持ち上げて、2階の入口側にはめ込まれた大きな板状の窓ガラスにぶん投げて粉砕します。問題のヒントは『跳躍の効果』ですね。
……では答え。
バール処女を奪われた哀れなやつら×4(全員男)を割れた窓に向け、刺さったままのバールを握って……突撃ィィィ!!(にほんへ)
画面を後ろに向けてペグの刺さってるやつら5体がちゃんと付いてきているのを確認して──やつらごと2階から外へと落下します。
【跳躍】の効果はダッシュジャンプの飛距離を伸ばす他に、落下ダメージを軽減できます。レベル1で25%減、レベル2で50%減、次のレベル3(MAX)ではなんと75%減になります。
レベル2の50%減ですら、2階から落ちるだけでほぼ即死の大ダメージをも重めの打撲且つ体力6割減程度に済ませられるんですね。
そして、この脱出方法こそが【跳躍】を習得した最大の理由です。
元々みーくんとKと太郎丸の救出が終わればさっさと1階まで駆け降りてそれで終わりだったのですが、今回のような想定外でプレイヤー操る主人公が囮にならざるを得ない場合があった場合を考慮して習得していました。
更に更にだめ押しでやつらをバールで貫いて一緒に飛び降りることで、クッションとなり落下ダメージを追加で軽減出来るんですよね。確か1体につき2%なので4体で8%。合計58%の落下ダメージ減少ならまず死にはしないでしょう。
──なぜ鳥は空を飛ぶのだと思う?
……鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの。まあ……人間は……飛べないんですけどね。
──オゴォオッ!?!?(
では、無事(無事……?)車の前までショートカットに成功したので、落下ダメージの大半を肩代わりして即死したやつら4兄弟から
遅れてグシャ! と音を奏でて、古木くんが先ほどまで居た場所に5つの肉塊が落下してきました。
『1ダメージでも与えておけば他の要因で死んでも経験値を貰える』という仕様の犠牲者となった5体に内心で黙祷を捧げつつ、ペグを引っこ抜いて回収し、車に乗り込み発進。運転手は……くるみ姉貴ですか。ままエアロ。
くるみ姉貴、スミコ、みーくん、K、太郎丸は無事なので、実質無傷ですね。いやそうはならんやろ……(マジレス)
んだらば学校に戻るまで倍速。決して少なくない落下ダメージは早めに回復しておかないと後に響きますので、生徒会室に戻る前に保健室から打撲用の湿布を頂戴した方が良さげですね。
──ただいま帰ったゼーット(水木一郎)
自動行動の優秀さにかまけてめぐねえとりーさんの戦闘力関連でしれっと運ゲーしていましたが、四人とも無事でしたね。3値の確認をしたところ二人のストレス値が増えていたので、やつらを数体片付けたのかもしれません。
ゆきちゃんとるーちゃんの癒し効果は太郎丸が加わることで乗算され、ヒロインたちのストレス値と恐怖値はそこそこ放置しても問題なくなるため、ここからはいかに7日目のラッシュこと『あめのひ』を乗り越えるかを考えましょう。
これにて、ゆきちゃん、めぐねえ、くるみ姉貴、りーさん、るーちゃん、みーくん、K、スミコ、太郎丸、そして古木くんの合わせて九人+一匹で最後まで走り抜けることになります。
学園生活部の四人とめぐねえ以外は死んでも問題ないのですが、ここまで来たなら全員で生き残るのが『筋』というものでしょう。
それでは晩御飯の用意をしているエプロン姿のめぐねえとりーさんを見ながら終わりにさせてもらいます。イベントなんかは等速で垂れ流すのではい、夜露死苦ゥ
……あ、今日の晩御飯もスパゲティですか。でも屋上のトマトを使ったなんか本格的っぽいやつですね。うん、美味しい! (ナイナイ岡村)
──ショッピングモールの1階広場で蠢く死人の群れ。パッと目視して50人程と即座に判断した古木が、エスカレーター横のガラス張りの柵の側に全員を屈ませる。
隙間からやつらを覗いて小さく声を上げた圭に振り返ることなく古木が呟く。
「ど、どうするんですか!?」
「防犯ブザーを鳴らして誘導……とはいえ50人程を纏めて移動させられるか……。
全員で移動は危険、であれば──」
2階と1階を繋ぐエスカレーターが上りと下りのワンセットで左右に二つ作られていることを、地図と実際の光景を見て確かめる。
よし、と思考を纏めて背後の四人と一匹に振り返ろうとした古木の頬に、後ろで屈んでいた一人の指が当たった。
「……なんだ」
「しっかりしたまえ、酷い形相だ」
ガラスに反射した顔は言われた通りに暗い表情をしている。古木はふぅとため息をつくと、自分の顔を覗き込んでいたスミコの後ろで不安そうにしているくるみと美紀、圭に向き直る。
「──手元に防犯ブザーがある。これを2階で鳴らせば、やつらは
「そのあとは……?」
「こちら側のエスカレーターに隠れながら入口に向かってくれ。外に車があるから、俺が行くまで隠れていろ」
美紀の問いにそう返すと、二つの防犯ブザーの紐に指を掛ける。古木の言葉に疑問を抱いたくるみが、ふと聞いた。
「『俺が行くまで』……? ちょっと待て、あんたまさか……」
「上で囮になる。それしかない。スミコ、三人……と一匹を頼むぞ」
「──仕方ないな、男の意地を無下は出来まい。だが約束だ。全員で帰ると」
頷く古木に肩を竦め、やれやれと呟く。
古木は引きちぎるように紐を抜くと、轟音を奏でるそれを視界の奥にある店の中に投げ入れる。少しして上がってきた死者達はノロノロと店内に入って行き、遅れて数十もの死者が文字通り列を成して2階に上がってきた。
「エスカレーターに隠れながら1階に行け。外にもやつらが居る筈だから気を付けるんだぞ」
「あの……古木、さん?」
「確か……美紀ちゃん。どうした?」
「ああ、いえ、その……」
口ごもる美紀の顔を見る古木と、青い瞳が交差する。意を決したように、美紀は言葉を紡いだ。
「──気を付けてください」
「……わかった」
さあ、行け。短くそう言われ、美紀達は行動を開始する。距離もあってか見付からずに1階まで降りる頃、四人と一匹が耳にしたのは、三つ目の防犯ブザーの甲高い音であった。
店内の音に大半が釣られ、残りが古木を見付けて迫り来る。手元に残しておいた5本のペグを握り、一瞬手首がぶれたような動きをして投擲し、胸に深々と突き刺さった。心臓ど真ん中に命中するも、死者は動きを止めない。
「っ、やはり首か頭──頚椎の破壊で神経の伝達を断つか、脳の破壊でそもそも受信と送信を出来なくするか……か。面倒な」
舌を打ち、苛立ちを露にする。
ちりちりと、胸の奥で何かが燻る。
2本、3本と続けざまにペグを投げ、5人に当てた。異物が刺さっているからか、ペグが当たった5人は若干動きが鈍くなっている。
しかしそれを追い抜いた10人が、呻きながらも腕を伸ばして我先にと殺到してきた。
勢い良く躍り出た1人の躓いた動きに合わせて、鞘から半ばを抜いた刀の刃を押し当てると抜きながら首を裂く。べろんとジッパーを開いたように首が傾き、力を失い床へと倒れ伏す。
動きは鈍く、それでいて膂力が強い。捕まればそれまでだが、捕まらなければいい。
2人目にわざと刀身を握らせ、滑らせるように引く。するとすんなり手のひらが切り裂かれ、指がボトボトと音を立てて落ちる。
そしてひゅんと振れば、首の皮一枚を残して頚椎が絶たれる。べったりと張り付いた赤黒い液体を払い、懐の布切れで拭った。
「……
下に逃げればやつらを引き連れる事になる。50人もの死者の相手を出来るほど自惚れてはいない。であれば、自ずと、逃げ道は限られる。
外の景色が見える2階のガラスを見やり、近くに落ちている金属のパーツで組み立てられた子供程の案内板を確認し、逃走経路を構築した。
チャンスは一回きり。故に、自身へと迫る4人という障害を排除すべく、古木は柄を握る手により一層力を込めた。
刀──祖父の形見【一心】を星眼に構え、3人目と4人目を同時に視界に捉え相手取る。
片方の飛び掛かりを避け、床に転ぶ様子に目もくれずもう1人の大振りの殴打をかわし、脇に刀を差し込んで筋を斬る。
力を入れられずだらりと下がった腕に違和感があるのか、死者であるにも関わらず首をかしげる動きをした相手の頚椎にふくらを刺した。
倒れた方も同じように切っ先でうなじを斬り、短く呼吸して5人目と6人目に刃を突き付ける。死臭が漂い、呼吸が浅くなる。
思考が最低限に留まり、耳がやつらの唸り声だけを捉え──
「ふ────っ」
一息吐くまでの間に柄頭で1人のこめかみを叩き、もう1人の首筋に刃をするりとなぞらせるように通し、筋肉と骨を物ともせず切り落とす。
こめかみを叩かれた方のぐらりとよろめいた体に、古木は二度突きを入れ、三発目を喉に捩じ込む。鳩尾と心臓、喉に穴が空いて倒れる死者を一瞥し、残り9人のうちペグが刺さっている5人以外を1列に捉えるように立ち位置を変える。
刀を鞘に納め、腰のそれと同程度の長さを保ったバールを代わりに抜き、先端をやつらの腹に合わせてタイミングを待つ。
──そして、バールを突き出し、やつらを一纏めに貫いた。
深々と突き刺さるそれを引き抜こうにももがくことしか出来ない死者を一旦置いて、急いで案内板を持ち上げ、ガラスに向かって放り投げる。
ガシャンと大きく音を立ててガラスが砕け、外に破片が降り注ぐ。車は出入口のすぐ側に止めたため、少なくともガラスと案内板は離れた場所に落ちるだろう。
「……やるぞ、俺はやるぞ──ッ!」
すぅ、と息を吸い、ふぅ、と吐いてやつらを貫くバールを握る。
成人男性4人を纏めて貫いているにも関わらず異様に軽い──ダンベルを持ち上げたときのような負担しかない事に背筋がぞっとする古木は、その怖気を振り払うように形振り構わず全力で走り、割れた窓ガラスの外目掛けて飛び出した。
──外に逃げ出すことに成功した四人は、出入口の陰でモールの中を確認していた。
2階に上がっていた無数の死者が少しずつだが1階に戻りだしているのを見て、スミコとくるみが内心で車のエンジンを起動するか逡巡する。
ぽつりと呟いた圭の言葉に、スミコが反応して声を返した。
「あの人、大丈夫かな……」
「彼は強いから問題ないよ、寧ろ小生たちがこの車を死守せねばならないくらいだ」
あっけらかんとした顔でそう言い、会って間もない美紀が疑問符を浮かべて聞き返す。
「強い……とはいっても、一人で残らせるのはやっぱり不味かったのでは?」
「……ふ、ふ。美紀くん、キミは古木くんの事を分かっていないようだね。彼は強いんだよ、なにせ土壇場で迷わないのだから。
少なくとも町がこうなって2日目の時点で古木くんはやつらを斬ることに躊躇していなかったんだ──彼の言う『剣術であって
「は、はぁ……」
「スミコさん、古木さんの事になると急に早口になるんだよな」
スミコの言動に慣れ始めたくるみがそんなことを言った──直後、車を前に古木を待つため立っていた四人と抱えられた子犬の真横に、金属製の案内板が落下してきた。
「っ──危ねえ!」
「えっ、ひゃっ!?」
「──こちらへ、
「ぅぇえっ!?」
子犬を抱えている美紀をくるみが腕で腹を引っ掻けるように持ち上げて下がり、スミコが圭の肩を抱き寄せると防刃素材の傘を開く。
車を盾に隠れたくるみ達と傘を盾にしたスミコ達の近くに遅れてガラスが落下し、破片がパラパラと傘を叩いた。
一瞬の混乱。次いで、肉の塊を床に叩きつけた音を何倍にも膨れ上がらせたような轟音が響き、その塊の一番上に居た何かが弾かれたようにモール入口前の石畳を転がり受け身を取る。
「──がっ、ぐ、ぉ……っ!」
衝撃を逃がすために大袈裟な程に転がると、車の陰に隠れていたくるみの近くで止める。2階から落下してきたのは、死者をクッションにするという荒唐無稽な策を講じた古木だった。
更に遅れて落ちてきた体の何処かにペグが刺さった5人の死者が石畳の染みになる裏で、骨が軋むのか呻きながら立ち上がる古木が車のボンネットに手を置いて一息つきながら言う。
「……待たせた。さ、帰るぞ」
「──なんであたしの周りの大人は変な行動を取るか変な言動をする人ばかりなんだ……助けてくれめぐねえ……」
そんなくるみの切実な言葉が通じたのか否か、何かを察して哀れむような表情を浮かべる美紀の腕の中で、子犬がワンと吠えていた。
──長く、濃い一日だったと、学校の敷地内にある駐車場に車を停めた古木を含む全員がそんな事を考えていた。
特に疲労が重くのし掛かる古木の為に保健室で打撲に使う湿布を回収し、改めて三階に向かう。粗末だがバリケードの積まれた廊下をしげしげと観察する美紀と圭を生徒会室に招き入れるべく、荷物を背にして扉をノックする。
中から現れた慈が、その場の全員を一瞥してからホッとした様子で口を開いた。
「──皆さん、お帰りなさい。怪我はしていませんか?」
「怪我人ならそこに一人」
「……俺か」
「あんた以外に誰が居るんだよ……」
思い出したようにぶり返してきた脇腹や背中の痛みに表情を歪め、それを見た慈は表情を一転して慌てて古木を部屋に押し込む。
「どっ、何処を怪我したんですか!?」
「モールの2階から落ちただけです」
「今なんて!?」
「……湿布貼ってもらえますか」
慌て、狼狽え、表情を二転三転させる混乱した慈を見て冷静さを保つ古木が、保健室から持ってきた湿布を渡してワイシャツを脱ぐ。瑠璃と遊ぶゆきとそれを見守っていた悠里の三人に会釈する美紀の傍らで、圭がくすくすと小さく笑う。
「圭、どうかした?」
「あっ、ううん。
……学校に避難してきたのに『お帰り』って、なんか変な感じだぁって思っちゃって」
まあ、確かに。そう言って圭と顔を見合わせ笑みを浮かべる。モールの5階に避難して、それからスタッフの宿直室に逃げ込んで、圭は笑わなくなっていた。
それが今はこうして笑顔を見せているのだから、美紀はここに来て良かったと心の底から思っている。その目線が古木と横に座るスミコに向いているのは、恩人だからか、はたまた。
「体の調子はどうだい」
「叔父上に木刀で殴られた時よりはましな程度だ。やつらをクッションにしたのは、正解だったらしい……っ、まだ痛むな……」
「キミのお祖父様は病人だったと聞いているのだけどね」
さしものスミコにすら呆れた顔をされる古木は湿布を貼り終えた脇腹を擦る。
生徒会室の机を挟んで向かいに立ち料理をしている慈と悠里、それを横で見ているゆきと瑠璃を一瞥し、視線を扉の近くで会話しているくるみと美紀、圭達に向けた。
「増えたな」
「そうだね──こうも学生が多いと、おいそれと晩酌出来ないのが残念だ」
「お前まさかまだ酒を隠してるのか」
「別に良いじゃないか……結局キミや佐倉女史も呑むだろう?」
「…………はぁ」
古木の眼前の女性、スミコは見た目の優雅さに反してかなりの酒豪である。スカートのまま床に座る古木の隣で体育座りしているスミコが、不意に顔を覗き込んできた。
「死者の相手にも随分手慣れてきているようだね。元から剣の腕が優れていたとはいえ、
「──それは」
そうするしかなかったのだから仕方がない。そう続けようとした古木の唇の端を指で押し、歪な笑みを作らせながらスミコは言った。
「
「────」
質問の意図を古木が察したのかそうでないのかは、眼前のスミコしか知らない。
少しずつ、しかして確実に──古木の中で決定的な何かが歪み、亀裂を作っている。それに本人が、周りが気付くのはもう少しだけ先の話。
次→8月12日00時00分