【完結】がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート+α   作:兼六園

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戊の回

 古木くんのストレスがマッハなんだが? なRTAはーじまーるよー。

 

 これについては、コメントにも書きましたが、このゲームってキャラ設定の際に性格や境遇、人間関係によって3値の『上がりやすい・づらい』、『下がりやすい・づらい』が変化するんですよね。例えば怖がりは恐怖が上がりやすく、田舎少年は性欲が上がりやすいなどですね。

 

 両親と祖父を亡くして友人一人以外に仲の良い相手はおらず年がら年中剣を振っている古木くんは、ストレスが上がりやすく下がりづらいみたいです。その代わりにステータスの【直感*1】がダウンするだけで済んでいるようでした。

 

『拒食*2』や『不眠*3』、『幻覚*4』なんかを戦闘能力トップクラスの古木くんが引いたら再走は確実なので……なんとか致命傷で留まってます。

 

 尤も、直感の数値が低いと【弾き】という適切なタイミングでガードすると相手の攻撃を弾けるスキルが習得できないので、大学編、ランダル編の武器持ちの敵と戦う際に苦労しますが。

 ──Lv3でランダル兵士の銃弾を弾けるようになるのは流石におかしい……おかしくない? 

 

 

 

 ……ままええわ(寛容)

 

 そんなわけで今日から5日目。いつも通りの朝の行動で、今回は酔いどれ二人の為に保健室に市販の胃腸薬を取りに行きます。いくら保健室だからってキャベジンはありませんからね。

 飲ませてからゲーム内時間で3時間もすれば【状態異常:二日酔い】が治るので、それまでじっとさせておきましょう。

 

 朝食を取り、胃腸薬を飲ませたら回復するまで暇なので時間を潰すついでに刀の手入れコマンドを選び数分消費しておきます。

 めぐねえの好感度が……今までの行動を見ていればわかるように高いです。ので、おそらくこの後最重要イベントが発生するでしょう。

 

 では昼まで倍速。超スピード!?(レ)

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ──あ、手紙イベントに必要な風船を持ってないですね。4日目の内に取りに行くべきでしたが、今現在やることないので取りに行きましょう。太郎丸の餌を取りに行くのを名目にすれば誰も止めたりはしません。

 

 馬鹿正直に風船を取りに行くと言ったら間違いなく頭があっぱらぱーになったと疑われるでしょうしね。されたことはないです(二敗)

 

 そいだば昼飯までに行きましょう。だかだかだかーっと走って、餌の袋と風船の袋を確保し、びゃーっと帰ってきます。荷物を纏めてある所に風船を起き、太郎丸にはちょいとお高めのドッグフードをプレゼントしました。

 

 戻ってくる頃には時間も程よく消費されているので、お昼を済ませてから少し待機して──はい、めぐねえから誘われましたね。

 別に蜜月の関係ではないので空き教室でカミーユ(動詞)するわけではありません。

 

 原作履修済みのクソホモならお分かりでしょう、緊急避難マニュアルを取りに行くイベントです。めぐねえが『緊急時にのみ閲覧するように』と言われて渡されていたやつで、世界が()()()()()時の対処法が書かれています。

 

 

 ──そう、実はこのゾンビパンデミックは想定されていたモノなんだよ!(KBYS)

 

 

 ……などと言っている間に、他のメンバーには万が一に備えて室内に留まるよう命令しておき、それから職員室に到着しました。

 るーちゃんとくるみ姉貴がお花摘に行っていますがまあ……大丈夫やろ。多分。

 

 職員室内は車の鍵を探すときに殲滅済みなので警戒は最低限に、マニュアルを入れてある棚を漁りましょ──なんだこの淫ピ!? どけこらさ!(田舎っ子)にゃーめーろお前! 

 棚と古木くんの間で立ち止まるんじゃねえよお前! どけこら、流行らせこら! 

 

 ……やっと退きました。素直に行動指示で扉の前にでも移動させておくべきでしたね。AIが変なところで立ち止まって動かなくなるとかレトロゲームじゃねえんだぞ。

 

 避難マニュアルは読むとこの世界の真実に気付き正気度チェック0/1d3……ではなく、ストレスと恐怖の値が上昇します。

 ただし一定以上ストレスが上昇している場合は恐怖の上昇のみに収まります。これを幸と呼ぶか不幸と呼ぶかは人それぞれでしょう。

 

 それでは早速ですが、古木くんには犠牲になっていただきます。予め斜め読みしておくことで、又聞きするヒロインたちのストレス・恐怖の上昇を抑えることが出来るからですね。

 

 好奇心が勝りつつあるめぐねえの興味津々の目を余所に、古木くんは真実を知りました。細菌兵器、地下シェルター、ドラゴヴィッチ、クラフチェンコ、シュタイナー……(CoDBO)

 

 あ^~古木くんが恐怖する音ぉ^~! 

 

 古木くんは熟達の忍ではないので『怖じ気づくと人は死ぬ(無慈悲)』とはなりませんが、あんまり数値が高くなると状態異常付与ガチャが始まるのであー困りますお客様。

 

 ぱらぱらと雑に読み進めたので、残りは生徒会室に戻ってから皆と読みましょう。全員にストレスと恐怖の上昇を分散させればメンがヘラることもありませんしね。

 

 では倍速で部屋に戻り夕食後まで進めてしまいましょ──なんで等速にならないんですか。

 

 ──ヌッ! イヤンホホ感覚に反応あり、部屋の外にやつらが居ますね。直感が低下していてミニマップに表示される範囲と数が減っていますが、音からして2体……あれ、NPCの反応も二つ。

 

 ……表示が重なってるってことは戦闘中……? 大急ぎで確認しましょう。

 いやちょっとまて部屋に居た連中には待機命令出しておいたのに誰が行動──あ。

 

 

 

 ────部屋の外に居たのは、くるみ姉貴に左腕で小脇に抱えられたるーちゃんと、やつらに右腕を噛まれているくるみ姉貴でした。

 

 

 

 ……??? なんで? なんで? なんで? 

 

『るーちゃんとくるみ姉貴がお花摘に行っていますがまあ……大丈夫やろ。多分』

 

 あっ、これかぁ! フラグ回収早すぎるだろガバにも限度あり、しかしるーちゃんを庇う姿勢誉れ高い。なんて言ってる場合じゃねえ! 

 うわぁぁぁやっちまったぁぁぁぁぁ!! こんなことなら戻ってきて全員揃うの待てば良かったじゃん! バカバカちんこ! 

 

 再走……リセット……うごごごごご……光が……逆流する……っ!? 

 

 

『なんでお前さんは人のチャートをパクるんだ。しかもあれほどRTA初心者の我々に優しくしてくれたお方から……』

『WR兄貴は見て見ぬふりをしてくださっているが私が許せぬ。今からspeedrun.comへ行く』

『私が悪いのではない! この有線コントローラーが悪いのだ!』

『このコントローラーが勝手に!』

 

 ──なんじゃ、これは……? 

 

『別のRTAでも貴様はチャートをパクった癖にガバガバだったようだな。同情の余地なし』

『滅相もない、私には無理でございます。このようにRTAの技術も……』

『貴様は独自チャートを持っているだろう』

『コントローラーが悪いと申すか! ならばその有線を切り落とす!』

『以前壁抜けをしようとした走者は、ヒロインが話し始めるまで壁の方を向いていたぞ』

『貴様がどう繕おうとガバガバRTAな事実は変わらぬ。再走したところで無駄だ』

 

 ──RTAを始めた頃の私か、これは……? 

 ──んがあああああああ!?(黒歴史)

 

 

 ……兎に角やつらを倒します。ペグを投げて頭部に命中。後ろ──更衣室の向こうの階段から来たのだろう2体目は即座に抜刀して一撃。

 

 ここからは時間の勝負となります。

 怪我人のくるみ姉貴を抱えて大急ぎで放送室に戻り全員を集めます。原作では空き教室を使っていましたが、距離的にも寝室代わりのここの方が近いし速いでしょう。

 

 ──本来であれば夕食後の夜に知らせるはずだったマニュアルのことをこの段階でバラし、地下シェルターの存在を明かして治療薬があることを知らせ、イベントフラグを進行させます。

 

 マニュアルを入手し閲覧することが地下シェルター解放の条件になるため、このまま続けて治療薬──実際は単なる栄養剤と抗生物質しか入っていない注射を取りに行きます。

 

 くるみ姉貴の看病をしなければならないため、地下シェルターに向かうメンバーは古木くん含めてスミコとみーくんで良いでしょう。

 残り全員には『くるみ姉貴の』『看病を優先』と命令し、あまり動かないようにしておきます。しかしるーちゃんとくるみ姉貴は何故廊下に居たんですかね……? 

 

 もしやトイレから戻ってきたるーちゃんが職員室にいる古木くん達を見に行こうとしたら、更衣室側の階段から来たやつらに襲われて、咄嗟にくるみ姉貴が庇った……とかでしょうか。

 

 どちらにせよ今はそんなことを言ってる場合ではないですね。主人公orヒロインの感染イベントは噛まれた瞬間からリアルタイム30分、ゲームでは1分=10分なので、300分。

 

 ゲーム内で5時間経過するまでに薬を取りに行かなければなりません。意外と耐えるな……とお思いでしょうが、原作メインキャラ達はゾンビパンデミック初期の空気感染に対する免疫力があったので不思議ではありません。

 

 移動しながらの説明になりますが、この騒動の原因となっている細菌は()()()()()()()()()ものなんですよ。この学校の浄水器は朽那川と地下水を利用しているのですが、この川の源流にある那酒沼という沼の中にあったのが──何を隠そう、件の細菌だったのです。

 

 かつて那酒沼の魚を釣った男がその魚を食った夜に死んだ(超要約)という昔話があります。これはつまり、沼の中で沈静化していた細菌──ランダル曰くΩ(オメガ)と呼ばれているそれが魚に付着したまま外に出て、活性状態になったそれを魚と共に食べてしまい……ということなのでしょう。

 

 ──つまり、この一件はもう既に何度も起きた事件なのです。街が滅んでいないということは解決策がある、ということにもなります。人知れず何度も発生してるとかSCP2000かよ。

 

 そして、那酒沼から朽那川を通り、学校で簡易的に浄水された際に本来失われる筈だったΩを抑える成分の残った水を飲んでいたから、感染に対する抵抗力があったんですね。

 

 

 Ω(メスガキ)「クソザコ人類♡ よわよわ抵抗力♡ 免疫負けちゃえ♡」

 市民「うぅ……(感染)」

 浄水器「は? 負けねぇ……っ!(アンチΩを水道に残して反旗を翻す)」

 

 

 というわけです。わかりやすいね。

 逆に言うと抗生物質と栄養剤ぶちこめば回復できるくるみ姉貴やべぇな。

 

 ──などと説明している内に、一階奥にある地下へのシャッターを発見しました。

 説明しながらの道中に居た一階廊下のやつら全員にペグを命中させる神プレイは誰も見ていないと思います。泣けるぜ。

 イベントフラグが立ってないと壁抜けする以外じゃ入る方法が無いので、通常プレイの時はめぐねえの好感度を上げて私のようにイベントを発生させましょう。

 

 マニュアル通りに学校の電話番号を逆にした番号を入力してシャッターを解放します。

 内側には当然ですがスポーンする座標がずれていない限りやつらは居ないので、さっさと薬を確保しましょう。地下2階の医療品を備え付けのリュックに一通り詰め込んで、終わり! 

 

 んだらば行きと同じルートで悠々と3階に戻り、リアルタイム6分以内にくるみ姉貴に注射を済ませてイベントも無事完了。

 ただ、感染イベントは感染者に注射したらその時点で1日が強制終了します。ピクミンですらもう少し猶予があるんだよなぁ……。

 

 そんなわけで速いけど5日目はここまで。

 なお、ヒロイン達の好感度が低いと感染したキャラが誰だろうと映画『ミスト』の軍人のように追い出されたり、最も恐怖値が高いヒロインに隠し持ってた包丁でコノメニウーされたりします。されたりっていうか3回くらいされました。

 

 

 

 

 

「──古木くん、ちょっといい?」

「慈さん。まだ酔いが残ってるんですか?」

「いえそうじゃなくて……」

 

 生徒会室にて痛いところを突かれて顔をしかめる慈は、否定しつつ刀身を布で拭っていた古木を手招きする。不思議そうな顔をしながらも、刀を鞘に納めてから古木は慈の下に向かった。

 

「それで、どうかしましたか」

「実はですね……以前、学校の方から『何かあったら読むように』と言われて封をされた冊子を渡されていたのを思い出したんです」

「ああ、それを取りに行きたいんですね」

 

 わかりました。そう言って腰に鞘を吊るし、部屋から出ようとする古木の後を慌てて追う。念のためにと両手でしっかりとバールを握るが、その手に力が加わる。

 そして、ふと、慈は違和感を覚えた。

 

「……あれっ」

 

 古木くんって、こんなに淡白だったかしら、と。そんな疑問を問う間もないまま、慈と古木は職員室に到着する。事前に片付けられて誰もいないそこにある棚をキョロキョロと見渡して──。

 

 慈が見ている棚の一番上の段に、薄い冊子が挟まっているのを見つけた。

 

「慈さん」

「は…………いっ!?」

 

 振り返れば、眼前に古木が居た。退いてくれと一言言えば済んだ話だが、慈の身長の都合で退かすより手を伸ばした方が早いと判断した古木がそのまま上の段に手を伸ばそうとしていたのだ。

 

 その結果、古木と棚に挟まれた慈が豊満なそれを古木の鳩尾の辺りに押し付ける形となっていた。冊子を取り出そうとする古木がそれを気にする事もなく、ただただ慈が恥から顔を赤くする。

 

「……よし」

 

 冊子を取り出せた古木が、手に取りその場から離れる。それから表紙を見てから俯いている慈に視線を向けて声を掛けた。

 

「緊急避難マニュアル……ん、慈さん?」

「──いえ、なんでもありません……」

 

 一人で盛り上がって馬鹿みたいではないか、と内心で愚痴るように独りごつ。

 表面のフィルムを破いて捨てると、パラパラと斜め読みする古木。興味からか横から覗こうとつま先立ちをする慈だったが──

 

「っ……!」

「うーん……古木くん、何が書かれているんですか? 私にも貸してくださ──」

「駄目だ」

「ひっ」

 

 覗こうとしていた慈の肩を片手で押さえて静かに言う。ぐっ、ぐっと力が込められ、慈が顔を強張らせるのを見て、古木は冷静になる。

 

「──すみません。ただ、これは、皆と読んだ方がいい。あまりにも……おぞましすぎる」

「そ、そう……ですか」

 

 鬼気迫る表情を向けられ、思わず反射的に頷く慈。目的の物は見つかったため生徒会室に戻ろうかと提案しようとしたその時、不意に職員室の閉じられた扉の向こうから音が聞こえてきた。

 

「……やつらか。慈さん、下がって」

 

 器用に冊子を抱えたまま片手で刀を抜き放つと、静かに、それでいて素早く扉を開ける。しかし迷わず首を撥ねようと刀を構えて飛び出した古木が見たのは、瑠璃を庇うようにして、右腕を死人に噛みつかせているくるみの姿だった。

 

「っ、ぐ、ぁあぁ……っ!!」

「──くるみッ!」

「恵飛須沢さん!?」

「古木、さん、めぐねえっ……!」

 

 ブチブチと、嫌な音を耳にする。くるみの右腕の肉が今まさに噛みちぎられようとしているのだ。()()()()()()()()()()()──再起動。

 

 懐から取り出したペグを即座に投擲し、くるみに噛みついている方の頭部に突き刺す。

 職員室の隣、更衣室の奥から現れた2人目に肉薄して、抜刀と同時に首へと一閃。

 

 首を断ちながら皮一枚で胴体と繋ぐ腕に、慈が僅かに目を見開いて驚愕していた。

 

「……くるみ」

「へ、へへ……」

 

 腕に噛みついていた死者の顔を引き剥がして床に倒すくるみは、頬をひきつらせて笑うが、明らかに顔色を悪くして額に冷や汗を浮かべる。

 

「恵飛須沢さん、なにがあったんですか?」

「いやぁ、トイレから生徒会室に戻るときに……更衣室の方から音が聞こえてさ。

 念のため様子見だけしておこうと思ったら突然こいつが飛び出してきて、逃げようとしたら……るーちゃんが転んじゃってな……」

「……俺と慈さんが職員室に居ると知らなかった──いや、あのとき生徒会室には居なかったのか……。──なあ、くるみ」

 

 膝をついてうずくまり、だらだらと冷や汗を流して右腕の傷を押さえるくるみは、古木の手に握られた刀の刀身に反射する自分を見た。

 

「……やってくれるのか?」

「馬鹿を言うな。放送室に行くぞ」

 

 立てるか。そう聞いて、動けないと悟りくるみに肩を貸す。慈に全員を集めるように言うと、放送室のマットレスにくるみを寝かせる。

 

「──くるみちゃん!」

 

 扉を押し退けて入ってきたゆきを筆頭に、全員がその場に集う。くるみの腕にある歯形の裂傷を見て、何が起きたのかを嫌でも察した。

 

「くるみ先輩……噛まれたんですね」

「ああ……ちょっとドジってな」

「くるみ──るーちゃん? どうしたの?」

 

 足にしがみついて何も言わないでいる瑠璃の背中を擦る悠里は不思議そうに首を傾げた。

 ──その直後、腹の底から絞り出すような呻き声を上げて、横になっていたくるみが患部を握り締めるようにして悶え始める。

 

「がっ、っ……ぁあああっ……」

「恵飛須沢さん!」

「くるみくん……ん、古木くん。その冊子はどうしたんだい?」

 

 さしものスミコでも渋い顔をするなか、ふと古木に向けた目線が手元の冊子を捉える。

 

「これか。これは、この事件の真実だ」

 

 悶え苦しむくるみに顔を向け、冊子を開く。まぶたを閉じながらも、それでもくるみは読んでくれと言わんばかりに強く頷いた。

 

「……読むぞ」

 

 

 

 

 ──一分か二分か、少ないページ数の冊子を読み終わるのに時間はそう掛からなかった。

 それ以上に……この事態が()()()()()()()ことだという事実に、その場の全員が驚き、呆然とし、表情を歪めて苦い顔をする。

 

「そんな、ことって……」

「浄水器に発電装置……道理で学校の設備にしては都合が良すぎる訳ですね」

「──それよりも、その冊子の通りなら地下にお薬があるんですよね? 

 くるみ先輩、助かる……よね?」

「……っ、めぐねえ! 古木さん!」

「丈槍さん?」

「くるみちゃん、呼吸が浅いの……ど、どうしよう……!」

 

 はっはっはっと浅く短い呼吸を繰り返し、水の染みたスポンジを握るかのように汗を流す。意識が朦朧としているのか、その目は虚ろになっている。あわてふためく少女らの注目を、手を叩いてスミコが自分のもとに集めた。

 

「落ち着きたまえ。悠里くんとゆきくんでお湯を沸かしてくれ。

 圭くんと佐倉女史は保健室から持ってきてある消毒液とガーゼ、包帯を出すように。

 水で傷口を洗うのを忘れるんじゃないぞ」

 

 凛とした声で指示を出し、再度手を叩いて行動を急かす。慌てて動き出すのを見て、古木と美紀に顔を向けてパチリとウィンクを飛ばした。

 

「さ、古木くん。先導は頼めるかい?」

「──ああ。道中に気を遣うな、ただ走れ。俺がやつらをどうにかする」

「くるみ先輩、もう少し、耐えてください」

 

 古木が刀を腰に提げてベルトホルスターにペグを詰める裏で、スミコが護身用の傘を手に取り、美紀が2本あるバールの内の1本を握る。

 じくじくと、傷口を何かが蝕むように血管が浮き出ている痛ましい様子を見て、古木は胸の奥で炎が燃え盛るのを自覚していた。

 

「──行くぞ」

 

 ガチャリとドアノブを捻り廊下に出た直後、古木は即座に階段へと駆ける。

 

「えっ、ちょ、速っ──!」

 

 美紀の声が、後方から聞こえた。

 

 

 

 

 ──周囲を警戒しながら階段を降りて行く美紀は、古木の仕業だろう頭部にペグの刺さった死体を跨ぐ。時折首に一筋の線のような傷がある死体もあったが、恐らく、斬ったのだろう。

 

 清々しいまでに無駄のない動作ですれ違い様に殺したのだろう事が理解でき──()()()()()()()()()()()()スミコに声を掛けた。

 

「そんなに古木さんがかれらを斬ることが楽しいんですか? ……悪趣味ですよ」

「そうだろうね。しかして──仕方ないだろう。好きなんだ、古木くん()()()

「でしょうね────ん?」

「なにかな?」

「……好きって、古木さんの……()()?」

 

 地下室に直接向かえる奥の階段を降りながらの会話で、美紀は違和感からおうむ返しする。

 

「小生は剣術に並々ならぬ熱意のある古木くんの剣を、腕前を見るのが好きなだけなのだけどもね。なにか勘違いをしていないかな?」

「えぇ……いや、えぇ……?」

 

 ──そっち!? と叫ぶことだけは、なんとか抑え込む。呆れた顔であんぐりと口を開く美紀は、くるみがスミコを『オタク』と呼んでいた理由をようやく察した。

 

「……今はこんなこと言ってる場合じゃないか。そろそろ一階ですけど、古木さんは……」

「──こっちだ」

 

 声のした方向に顔を向けると、古木がシャッターの近くにあるパネルに番号を入力していた。冊子の通りに学校の電話番号を逆から入力し、ロックを解除して解放する。

 

「この先に薬が……!」

「誰も開けていない以上、この先にやつらは居ない。手分けして探すぞ」

「……ふぅん。それなら美紀くんと古木くんは地下2階を、小生は1階を探しておこう。やつらが入り込んできたら知らせられるからね」

「ああ。頼む」

「…………」

 

 わかりやすく口角を歪めるが、なんてことはない。死者を相手に剣を振る機会が無さそうだから近くにいる意味が無いだけなのだ。真意を悟っているが故の微妙なもどかしさを胸に、美紀は古木と共に地下2階へと降りて行く。

 

 

 

 

 ──水で傷口を洗い、消毒液を染み込ませたガーゼで赤黒い血を拭う。別のガーゼを当ててから包帯で巻くと、ようやくその場で慈や圭、ゆき、悠里が一息ついた。

 

「わ、りい、な……皆……」

 

 ぜえぜえと荒く呼吸するくるみが、そんな言葉を絞り出す。しかし、先程よりは多少ましになったが改善はされていない。

 

「いいのよくるみ、今まで貴女や古木さんに頼りっきりだったんだから…………?」

 

 手拭いで額の汗を拭き取る悠里は、くるみの体の異様な冷たさに違和感を覚える。

 それは、まるで、死人のような。

 

 ばっ、と手を引いた悠里に代わって、今度は瑠璃が太郎丸を抱えてくるみの傍らに座った。

 左手をそっと握り、ポロポロと涙を流して瑠璃はくるみに声をかける。

 

「……くるみちゃん。ごめんなさい……」

「……はっ、お前、()()()()()()()?」

 

 熱のこもったため息をつくと、左手をなんとか瑠璃の頭に持って行き数回撫でて続けた。

 

「……あのなあ、るーちゃん。誰が、悪いとかじゃ、ないだろ? 

 いや、まあ、細菌兵器(こんなもん)作った奴が……悪いけどさ……。だから…………あー、えー……っと」

 

 虚ろな目をぐりぐりとあちらこちらに向け、言葉をひねり出そうとするくるみ。

 

「……だめだ、頭がまわんねえ……」

「恵飛須沢さん、今は少しでも休んでください。眠っても良いんですよ?」

 

 ゆらゆらと力無く首を振って否定すると、呂律の回らない舌でなんとか自分の中を蝕んで行く感覚を皆に説明しようとする。

 

「…………ちがう、ぎゃくなんだ……いま寝たらまずい……あたまん中がぐちゃぐちゃでさ……たぶん、つぎ寝たら、もう起きられない」

 

 なるほど理性を失うとはこういうことを指すのか、とくるみは理解する。()()()()()()とでも言えばいいのか。

 

 直前までの思考が纏まらない。

 記憶が薄れる。

 自分が何を言おうとしたか、何を言ったのかが思い出せない。

 段々と、自分が自分じゃなくなる。

 

「……たのむ、寝そうになったらたたき起こしてくれ。それか……ばくしょうネタとかで、もり上げてくれ……」

「病人特権で無茶振り出来るなら大丈夫ですよねくるみ先輩!?」

 

 圭のツッコミに力無く「うへへ」と笑う。少し迷ってから一発ギャグやります! と宣言した直後、放送室の扉が開かれた。

 

「……薬を、取ってきた」

「救世主……!!」

「──なんだって?」

 

 勢いよく挙手した体勢のまま振り返り、目尻に涙を浮かべる圭。

 首を傾げる古木の後ろから、汗を流して息も絶え絶えの美紀とスミコが現れる。

 

「……ぜぇっ、は、ぁ……」

「…………し、死ぬ……っ」

「スミコさん、みーくん、大丈夫?」

「……み……ず……っ……!」

「まさかこの歳で、全力で走ることになるとはね……。古木くんは、さ、流石は運動部……と言った、ところかな……」

 

 入ってくるなり床に倒れるようにして呼吸を整える二人に悠里たちが水を用意する傍らで、荷物に入れていたケースから注射器を取り出す古木が慈に目線を向けて言った。

 

「慈さん、くるみを押さえて」

「え──あっ、はい!」

「……おてやわらかにたのむぜぇ……」

 

 気だるげにそう言って大人しく慈に押さえられるくるみは、傷口の近くに注射針を刺されて異物感から顔を僅かにしかめる。同時に、あんま痛くねぇな──と、ぼんやりそんな思考を巡らせて、ゆっくりとまぶたを閉じた。

 

「……あとは経過を見守るしかない」

「恵飛須……いえ、くるみさん。大丈夫ですよ、絶対に良くなりますからね」

 

 ハンカチで額の汗を拭いながら、慈は優しい声色で言う。誰も、何も言わないが、それでもほんの少しでもこう考えるだろう。もし間に合っていなかったら──と。

 不意に、鞘で床を小突いて古木は視線を纏めると、神妙な面持ちで古木は言った。

 

「──くるみを助けられなかったとしたら、その時は俺が斬る。恨んでくれていい」

 

 言い終えるとくるみから少し離れた位置に座り、肩に刀を立て掛ける。

 ──仕方がなかった。誰が悪いとかではなく、ただただ、運が悪いだけなのだ。

 

 そうして、緊張が解けないまま、極限状態の5日目がくるみを見守りながら終わる。

*1
アイテム発見時のアイテム数の増減に関係。また、ミニマップに表示される敵の範囲・数にも影響する

*2
食事が出来ない。物を食べられないので更にストレスが溜まる

*3
眠れない。睡眠不足でストレスと恐怖が同時に微上昇する

*4
味方NPCを敵と誤認する。殺害もしくは体力を一割以下まで減らさないとやつらか味方かの判別が出来ない




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