まぁ、何故に間が開いてしまったのかと言いますと単純に忙しかったというのもありますが、12月の半ばに転倒事故を起こしてしまい、左肩を強打、大怪我して入院手術する羽目になっておりました。
怪我の種類としては、靭帯断裂が2箇所と脱臼が1つでありまして、転んだ時に骨が折れてくれてれさえすれば、固定位で済んだものを……と思う次第です。骨が矢鱈頑丈過ぎるのも考えものだなぁと。
その手術では千切れた靭帯を人工靭帯に骨に穴を穿って縫い付け換装するというもので。術後2日は未動き取れない程痛みました。
さてさて現状ですが、肩に押え金がまだ収まってるので腕が90°以上上げることが出来ません。その上で、まだ重い物を一切持てないので、アウトドア的な事も出来ないです。ただ、車(マニュアル車)の運転が1時間連続程度なら出来るので、その点まだ救いはございます。(抜釘まだかなぁ……)
なでしこの手からすっ飛んで行ったペグを草むらから探し出して、それを彼女に渡しながら小言をほんの数言述べた所で、この子に会ったら渡す物あったんだなと思い出した。故にそれに関連する提言を彼女に投げ掛ける。
「お前さん、設営終わったら薪拾いに行かんか?」
なでしこはそれをひまわりの様な満面の笑みで快諾する。その彼女の笑みは本当に可愛らしい。
「良いものだな……」となでしこに聞かれない様にして呟きながら、自分のサイトに戻り、その先で軍馬の荷台の中から鉈やら袋がぶら下がった、安全帯の様な様相のベルトを腰に巻くが、それは安全帯と呼ばれる物に似ている物だ。このベルトには多種多様なアイテムが収まってるので様々な事に対応できる。無論今からする事にも。
準備できた所でなでしこに声を掛ける。
「おーい、準備ええかー?」
「はーい」
なでしこが追いつくのを待ってから、薪を拾える場所に歩を勧めた。
*****
薪拾い出来る場所に着いて思った事がある。落ちている杉の間伐材や打った枝の様なのとか樗の系統の薪が"バラ撒かれている"のだ。そんな事はあるのか?何処かの阿呆が散らかしたあとではないか?と疑った。
「えらいちらぼうとるが。これがそか?」
なでしこに訪ねると彼女は、あー……と苦笑いしながらこう告げた。
「ここはいつもこんな感じなんですよ。多分ですけど、管理人さんがここに撒いてらっしゃるのかなぁって……」
刹那、数十メートルは離れた雑木ががざりと動くのが見えた。よくよく見れば、青いメガネのレンズコーティングの反射も微かに伺える。それで察した。なる程なと。
「ほう……随分と気前が良いのぅ……気に入った」
「ふふ、わたしもここはお気に入りの場所なんですよ!」
「……君は確かここでキャンプに興味を持ったと言ってたな」
「そうです!憶えてくれてたんですね!」
キラキラしてとても嬉しそうな瞳を向けられる。
「まぁ、わしゃ他人との関わりがないけぇ、よう憶えとったんかも知れんのぅ」
本当はこの娘の事を気に入ってるから憶えてただけだが、そんな事はそう安々とは言えない。男とはそういう物だと爺様から習ったからだ。真の男とは寡黙にして、聞かれた事か必要な事しか言わんのが美徳であると。
「そう言えば、恭介さんってお友達とキャンプされたりはしないんですか?」
「……儂に生きとる友が居ればな」
「えっ、それは……?」
これは迂闊だった。
「何でもねぇ……忘れてくれ。それより薪拾わにゃならんのじゃろ?」
「あ、はい!」
深く深く嘆息して作業を始めた。油断は大敵だ。
*****
拾った樗の薪をロープで縛って一纏めにしたのを二つ運ぶ俺の後ろを、杉の薪と松ぼっくりを抱えたなでしこが続く。
「ふぉぉぉ……」
「どねぃかしたね?」
「いいえ、やっぱ男の人だけあって、凄い力だなぁって」
「あー……」
さっきの話だが、彼女がどうしても片方は抱えたいと言うのでさせてみたところ、めちゃくちゃ持ち上げるのに四苦八苦していた。故に抱えんでええと、止めさせた。良く考えてみれば、片方だけで少なくともニ〇キロ以上はあるし、無理もなかろうと思うのだ(
「わしゃぁ、物心ついた頃から爺様に付いて風呂炊くのを手伝ったりとかしてきたし……慣れとるけぇね」
「お風呂、薪だったんですか?!」
なでしこは目を白黒させて驚く。
「まぁ、儂が高校上がるまでの間じゃがな」
テントサイトに着き、ドスンと両手に持った束をおろす。
「ナタ、ナタって、あ」
なでしこは荷物を漁って、この前持ってた腰鉈を探している様だが、忘れたらしい。
「リンちゃんに返したの忘れてたよ」
えへへ、と笑ってごまかす。まぁ、それなら俺にとっては好都合な訳で。
「そうかい、んじゃコイツをお前さんにやろう」
ダンプポーチから無造作にそれを掴んで手渡す。山程余った時間の有効活用と趣味と実益を兼ねた自慢の一品だ。とくと味わうと良い。
「これって、もしかして?!」
パァーと花開く、言うなら打ち上げ花火の様ななでしこの表情に期待通りの反応だと内心ほくそ笑む。革の鞘から刃を抜けば、優美な水面の波紋の様な紋様が浮き上がった刃が白日の元に現れる。思わず彼女は「きれい……」とただ一言漏らす。その彼女の澄んだ双眸はとても美しい。
「気に入って貰えた様で良かったよ」
その一言にはたと現実に引き戻されたなでしこはとても心配そうな顔になる。故にこう思ったのであろう。本当にこれを貰っても良いのか、と。
「ほ、ほほ、ほんとうにわたしが貰ってもいいんですかっ!」
やっぱりそうだ。
「儂がやる言うた以上、そねぃなことは心配せんでええ。それに男に二言は無いけぇのぅ」
俺はそう嘯く。まぁ、俺としては目には目を歯には歯を、と言った。言い換えれば、善には善を、悪意には悪意をと言った思想の一貫の一つでもある。実際彼女を物理的に助けたのは俺であるが、その結果。心を助けられたのは俺なのだ。故に当然の行いであると信じて疑わない。
「ありがとうございますっ!この鉈は一生大事にします!!」
「君の一生とまでは保たんしゃろうけど、駄目になるまでコキつこうてくれたら、わしゃ嬉しい」
「はい!!」
こうして、俺は顧客一号を手に入れたのであった。
それはさておき、俺は期待しているのだ。彼女ならちゃんと使ってくれると。ソイツで自らの道を切り拓いて行ってくれると。
*****
「おーい、なでしこー」
そんな声が聞こえたのは、粗方薪割りが終わった頃合いであった。
「リンちゃ〜ん!!おつかれさま〜」
なでしこは剣鉈を鞘に納めてそれを置いて声の主に駆け寄る。その姿に、友が居ると言うのは本当に良いものだな。と強く思うのだ。
俺は止めた手を再開し、薪を一纏めに集めておく。一仕事一片付は作業効率向上の基本だからだ。そんな事をしていた所で声を掛けられる。
「恭介さん!ちょっと宜しいですかっ!」
「ああ、構わんぞ」
なでしこに声を掛けられ立ち上がる。
「リンちゃん!紹介するね!この人がこの前、凍えかけてたわたしを助けてくれた國守恭介さんだよっ!」
なでしこより一回り小さくて、長くて綺麗な藍色の髪の娘と対峙した。その双眸は綺麗な紫色をしていた。
「改めまして、儂は國守恭介と言う者です。宜しくお願いします」
そう頭を下げるが、よいよ思えば、随分と硬い自己紹介だったなと微妙な気分になる。
「えぇと私は……志摩 リンと言います。宜しくお願いします」
志摩さんという娘は、少々おっかなびっくりに自己紹介をした。まぁ、仕方ないだろうと苦笑い。
「すまんね。悪人面で」
「あ、いいえ!こちらこそすみません!」
「大丈夫だよリンちゃん、恭介さんはお顔が少し怖いけど優しい人だから!」
なでしこはフンスと何故か胸を張る。なぜお前が胸を張るんだ?とツッコみたくなる。
が、それよかせっかく彼女が作ってくれた突破口だと、呵々大笑して。
「そう思うてもろえとるだけ、ありがたいのぅ」
感謝を述べた。すると志摩さんも少し笑っていた。
その暫くの後の事。二人がテントを立ててるのを尻目に見ながら、俺は彼女らの為にケロシンストーブで湯を沸かしていた。
「お!いたいた!おーい!リーンー、なでしこー!」
声がしたので振り向けば、新たに三人増えていた。囲まれたら面倒だと思いながら、眼の前に向き直る。
「あきちゃーん!あおいちゃーん!えなちゃーん!おつかれさまー!」
なでしこは大腕振って駆けて行く。元気なやつだなぁと思いつつ俺はその様子を眺めていた。
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私、大垣は犬子と斉藤を引き連れ、各務原隊員と志摩隊員の待つキャンプ場へと向かっていた。そこで私は、あの人物と出会すとは夢にも見てなかった。
あの人物とは、各務原隊員から報告のあった人物で、その容姿は、端正な顔付きでありながら鷹とも狼とも形容できるその片眸と左眼を覆う眼帯が特徴を持つ若い男性。そして眼帯をしているという事が私の"厨ニ心"を揺さぶった。そして途轍もなく機知に富んで優しい人物だと聞き及んでいるだけに、会いたいとも思っていた。
だが、その彼が私の眼前に居るのだ。故に私は感激した。今是非ともお声掛けしたいと、歩を進め。
「こんにちは!」
私としてはめちゃくちゃスムーズに声掛けできたと思う。
が、彼が返答してくる迄の数旬の時が、凄く長く感じ喉が渇く。
「こんにちは」
おお!!挨拶返してもらえた!!てか、声低っく!!これだけで感無量と内心絶叫しながら、次は何の話をしようと……しようと?……アレ?ワスレタ……ワタシハイッタイ……
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「あき〜、あき〜、何しよるん?」
緩い関西訛りとも取れる口調の娘が、フリーズしてしまったメガネの娘に寄る。
「こりゃあかんわ〜。かともうとる。すいませんねぇ」
「あ、あぁ……」
何なんだ……この状況は……と困惑しながら己の置かれた状況を把握しようとする。
「あ、この人、なでしこちゃんが言ってた人じゃん、こんにちはー」
「こんにちは」
関西弁の娘に訊ねられた。
「お兄さん今何してはるんですか?」
そりゃあ……見てのとおりなのだが……
「見て分からん者は……いや、あの子らん為に湯沸かししとる……」
周りを一瞥する、フリーズした娘は兎に角、既に半包囲されているではないか……一対一なら兎も角、人数が多過ぎる。誰か助けてくれ……なでしこ助けてくれと目線を送りつつ、瞬きで
*****
「――という訳で〜」
なでしこの介入によって助けられた俺は、ホッと一息嘆息した。マジで助かった……
「すまんな……わしゃ人付き合いは苦手でのぅ……」
「私達こそスミマセンでした」
メガネの娘が頭を下げた。曰く"野クル"なるサークルの部長との事だ。
「いいや、ええよ。道中捉まった時に誘いを断りきれんかった儂の咎じゃし」
いい加減謝罪フェーズも辞めねばなるまい。
「まぁ、この件についてはここまで。日が傾いて来たし、焚き火でも熾そうや」
「「「「「はーい」」」」」
石で組んだ火床に、杉の系統で細割にした薪を並べて、いつもの様に麻綿で火をつけようと思った。が、今回はなでしこが松ぼっくり拾ってきてくれたなぁ……と思い出す。そして、その松ぼっくりに火を付けるべく、オイルライターを懐から取り出した所で、ある疑問が浮かんだ。外様の存在である儂がしていい事なのか?と。親指で蓋を弾いて開けて、蝶番側に親指の爪で弾いて蓋を閉じる一連の動作をした上で、手の中で一八〇度回して、なでしこに使えと差し出す。
「各務原、ここじゃわしゃ外様じゃ。こりゃぁお前さんらのキャンプ。外様である儂が一番美味い所を持って行っては不味かろう?」
え、て言う表情のなでしこは「良いんですか?」と、問うてくる。
「無論」
首肯してなでしこにオイルライターを手渡す。すると彼女は真剣な面持ちで「では」と言って、右手に持ったライターの蓋を左手で丁寧に開けて、スターターを回し火を灯す。彼女は「簡単に火が点くんですねぃ」とたんぽぽの様な微笑みを向けてくる。かわいい。
火の灯された松ぼっくりを火床の中心に置き、それを包む様に杉の薪を組む。暫く経てば、杉に火が移ってパキパキと爆ぜる音を谺させながら燃え始める。
なでしこが丁度風下に居るものだから、彼女は煙に巻かれながら「煙が目に沁みるよ〜」とむせながらに且つ、何故か嬉しそうにしている。志摩さんは「じゃあ風下に立つなよ」とご尤も極まりないツッコミを刺す。「あんまり煙吸いよると喉焼けるど」と忠告した所で立ち上がる。自己紹介タイムと言う訳だ。そして、このフェーズを終えねば前に進めんのでやるしかない。ここに居る以上、物言わぬ地蔵になる訳にはいかんのだ。
「さて諸君。儂は國守恭介と言う者であります。以後宜しくお願い申し上げます」
一礼すると「待ってました!」や「おお!」等の好意的な反応が返ってきた。俺としてもその受け取られようは想像してなかった。正直、今までの常識的には否定も非難もさもありなんと思っていただけに。
ふと、なでしこの方を見ると、こうなると分かってました。と言わんばかりにウインクしていた。君は結構やり手やも知れんな。と思いながらに前に向き直る。
「儂が、各務原を助けた言うことで、儂は君らの中では既知の人物となっちょるじゃろう。じゃけど、儂は君らの事は知らん。じゃけぇ右端の子から教えてもろうてええか?」
すると一番右に座った、垂れ目の娘が立ち上がる。
「はーい。ウチは犬山あおいって言います。宜しくお願いしますー」
次はフリーズから開放されたメガネの娘。
「改めまして、私は野クルの部長をしております。大垣千明です。宜しくお願いします」
最後はショートヘアの娘から。
「私は斉藤恵那でーす。宜しくお願いしまーす」
「改めて宜しくお願いします」
すると改めて拍手と笑顔で迎えられ、何故にこの娘たちを警戒してたのかわからなくなった。
昔の俺は、どこに行っても第一印象からして歓迎されることは無かった。あの子が居てくれたから、いや、あの子を救ったからこそ、あの子の信頼の上で歓迎されてるのだろうな、と、こんなに温いとはなぁ……
嗚呼畜生、わしゃ嬉しい……なぁ、撫子聞いてくれるか?儂は
恭介は一対一或いは信用している集団の中でしか、その相手の事を絶対名前呼びにはしない。故に、その場合は常に名字で呼び続ける。その理由は、単純に恥ずかしいから。