あるキャンパー   作:Flak40 L61

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 プロローグに続きこれで、起承転結の起が終わります。
 改めて思いますが、理数系の脳味噌全振りした人間が文章書くというのは恐ろしく難しいものですなぁ。


邂逅

 キャンプ場に入ってきた道を抜け、更に奥の方に向かう。

 

 「こんにちは‼」

 「……こんにちは」

 

 道中やたら活きの良い桃色髪の娘が挨拶してきた事に、驚きながらも冷静に挨拶を返して改めて外を目指す。

思えば、赤の他人から挨拶されるのは久し振りだった気がする。

が、どうでもいい事として冷淡にも流す。

そんな決定を安々と下す己を冷笑したくなる。

その昔友人に「そんなんだからお前は友達ができんのだ」と小言を貰った事がある。

その実態は新たな対人関係を築くのが恐ろしくて、その上それが億劫だからと逃げ回ってる様な、酷く利己的な"敗北主義者的"な思考回路をしている所にあるだろう。

勿論頭じゃ理解できているが、取っ掛かりがなければそうそうできないのが己の実態だ。

 

 キャンプ場を抜けた所のT字路を左に曲がり、暫く道沿いに歩くと南側が開けた所に出る。

それは大きな扇状に整地され中心に向かって斜面となっている構造をしている。

それは正に露天の劇場(アリーナ)である。

ここが何かと言えばジャンボリーにて開会式と中日の大集会と閉会式を行った会場だった。

あの時は約三万ものスカウトが集いギッシリ埋まっていた光景を思い出す。

中日と閉会式には催し物があり、特にフラッグダンスが強く記憶に焼け付いている。

人の背丈程の高さの色とりどりの旗を手にした数十名のスカウトが一糸乱れぬ動作で演技する光景は壮観なもので、正確無比なその所作には無駄がなく圧倒的であった。

人間の動きの完成度に釘付けにされるという経験は初めてだった。

 

 それからアリーナをぐるりと回って更に東の奥へと進み、管理棟の様な建物の横を抜け小道を南に進路を取る。

東の林の方に記憶のある、牧草地に抜ける小道を見つける。

この小道と言えば大会当時、殆ど霧の中で地盤が緩いものだから万単位で人が歩けば容易に泥濘みその苦肉の策として敷かれた藁が、自身の持つ納豆菌によって発酵し、とんでもない悪臭を放っていた。

その臭いがフラッシュバックしイマジナリーな臭いに若干吐き気を覚える。

 

 道を登ると高原の牧草地の手前まで道が通じており。

そこから先はチェーンで遮られている。

その向こうは何もない平原が広がっていた。

ここから続く当時の泥濘んだ道は跡形も無い。

当時夕暮れ時になると連日スコットランドのキルトを履いたスカウトが、バグパイプを演奏しながら歩いていた光景を思い出す。

あの曲の名前は知らないが、あの曲が流れるとノスタルジーな夕暮れを連想してしまう。

所謂条件反射というやつだろう。

自分ら日本人には非日常な光景だ。

故に、その経験は忘れることはないのだ。

 夏場のここは気温こそ低くて涼しい所だが、常に湿度が十割を示し霧の中に紛れて富士山すら満足に拝めた記憶に乏しい。

が、ある日の朝方数分だけ晴れて富士山を拝める事があった。

低山しか無い海辺の地域で育った人間のせいか高山……そして、最高峰の富士を拝めるという経験は非常に幻想的で貴重だったと思う。

 時計をふと見ると既に五時を指そうとしている。

そろそろ火を熾して飯の時間だ、と踵を返した。

 

 

 

 己のサイトに帰り着くと自分が出る頃には無かった黄色いテントが近くに立っていた。

どうやら他人が近くに来た様だ。

まぁ、極力関わらないという己の方針に変わりはない。

それに、どういう者か監視しておかねば酷い目に遭うからというものもある。

左眼を失った時の事、居眠りしていた己の落ち度というものがあるが、目を覚ますと病院のベットの上だったという事があった。

目撃者によれば俺の隣にやってきていた親子の糞餓鬼が、俺のガス缶を火に放り込んだという。

それが数秒後破裂して飛散した破片が左眼を貫通し失明したのだ。

親共々飛んだ下衆野郎だったが、既に刑事民事共に決着が付き社会的にも抹殺する事に成功しているのでこれ以上言うことはない。

己の身を護るには己で護る他ない。

 

 それはさて置き、自陣のイスに腰掛け火を熾すことにする。

火種としてもみ崩した麻紐を二組用意し、片方を焚き火台の中央に乗せる。

その周りに割り箸台に細かく割いた杉の薪を並べてから、メタルマッチ(百八十度程度の熱で自然発火し三千度で燃焼するマグネシウムの特性を利用したもの)を剣鉈の峰に当て、素早くメタルマッチを引いて高温の火花を散らす。

すると火種の麻綿に着火する。

そしたら隙かさずもう片方の麻綿を被せ保温し、火吹き棒で弱めに空気を送る。

割り箸の様な細さの杉の薪に着火させ、より太いものを乗せてゆく。

ある程度火が大きくなれば呼吸作用の大きい網式なので空気を送る必要がなくなる。

故にそれなりの火になればさっさと樫の薪を並べ着火させる。

樫は燃えにくいが、火が付けば備長炭迄とはいかないものの長く強く燃え、杉と比較して煙と火の粉が舞うのを抑えられる。

 

 今まで目の前に集中して気が付かなかった視線を感じる。

隣のテントの方を見ると、ブランケットを纏いガスランタンで必死に暖を取ろうとしている娘と目が合った。

さっきアリーナの方に向かうときに殊勝にも、自分に元気よく挨拶してきた娘だ。

カタカタと震えて今にも泣き出しそうな表情をしている。

が、あくまで赤の他人だと無視しようと思った矢先。

そんな態度してええんか?

スカウトの誓いと掟に反せんか?

という疑問が同時に噴出する。

助け舟を出すのが、大人でありスカウトの身である己の責任ではないか?

と。

一方、他人とは関われば後で地獄を見るかも知れない。

という恐怖もある。

その場合は眼を見て相手の本質を探る。

それによれば純粋無垢な娘である気がする。

というのも、その青い目には我も意地の汚さも無く純粋無垢なものしか写らない。

それでも少々不安だが、印象最悪レベルの自分に臆せず挨拶してきた娘が悪童だとは到底思えない。

故に声を掛けるべきだろうと思える。

なんだかんだ人嫌いだと言っておきながら、お人好しなところがあるのは否定できない。

あと、先に思った様にスカウトの掟に反する真似は俺にはできないというのもあった。

三つの誓いの一つに「いつも他の人々を助けます」と言うのがあり。

掟の一つにも「スカウトは親切である」とある。

それに俺らスカウトのスローガンは「日々の善行」とある様に善行を働く事が潔しとされるのだ。

スカウトとしての名誉を守る為にも。

 

 「寒かろうに、こっちきぃさんせ‼」

思った通り、数旬「さんせ」という言葉に引っかかってた様子だが、次の瞬間にはぱっと明るい表情になり、喜々としてガスランタンとイスをもって来る。

標準語より方言が強い己の言葉が通じる様で若干安心する。

にしても、ランタンは意地でも手から離すつもりないらしい。

おもしろい娘だと、素直に思う。

少女はありがたそうに且つ恥ずかしそうに。

俺の領域である。タープの前に立ち止まると「いいんですか?」と控えめに尋ねる。

俺は「ええぞ。 取り敢えずそこ座りんさんせ」と促す。

娘はなんの疑いもなく「ありがとうございます」と従う。

その様子からして、他人を疑い警戒するという事を知らないのだろうという仮説が立つが、別段どうこうしよう気がないので問題はない。

が、若干この娘の行末を心配に思うのは気のせいだろうか?

 

 「ええか?」と話を切り出す。

呼んだからには自分から話し掛けねば筋が通らん。

 娘も「何でしょうか?」と元気よく答える。

明るい娘だと言う印象だ。

 

 「単刀直入に訊くが、焚き火台忘れたんか?」

 「友達から借りてたんですが、家に忘れてしまいまして……えへへ」

 「1500円で貸し出しあったろうに……」

 「え?! ホントですかっ!!」

 「ホンマやぞ……てか知らんかったんか?」

 「知りませんでしたっ!!」

 「今からじゃもう遅い……ようそこらへん確認しぃーさんせ」

 「はい!!反省しておりまふ!!」

 

 改めておもしろい娘だと感じる。

この娘を警戒するのも好い加減馬鹿らしく思えてきた。

と同時に、この娘は鉄と鋼を貼り合わせるホウ砂の様な素質の娘だろうという仮説が生まれ、珍しく他人に興味を覚える。

 

 「そういや、あんた名前は?」

 「わたしですかっ?!」

 

 いや、君しか居らんやろ。

気付けば俺も笑みを浮かべている。

つくづくおもしろい娘だ。

 

 「私は各務原なでしこです!! よろしくおねがいします!!」

 「儂は國守恭介。 よろしゅうのう」




人物データ
 名前:國守恭介
 年齢:23歳
 職業:無職(宝くじ当てたので人間関係おさらばと喜々と辞める)
 特技:野外炊飯,ロープワーク,刃物研ぎ,電子工作
 苦手:人間
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