あるキャンパー   作:Flak40 L61

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日暮れ刻

 暗くなってきたので、ランタンを用意する。

このランタンは液体燃料を加圧し、それを自身のマントル(光る部分)の放射熱によってジェネレータを通る燃料がガスとなり、それを噴射、燃焼させる仕組みだ。

因みに燃料は灯油である。

 

「ふぉぉぉぉっ‼ ランタンだ‼」

 

彼女は大喜びだ。

こんなに反応が良いと俺も嬉しく思う。

 

「儂の道具が気になるかね?」

「気になりすぎてワクワクです‼」

「そりゃええ」

 

 このランタンはドイツの有名メーカー製で、その歴史は古く一次大戦中に開発された物だったりする。

当然このランタンはそんな骨董品ではなく、数年前に買った新品だ。

 それはさて置きこのランタンには不名誉な渾名がある。

通称"じゃじゃ馬ランタン"だ。

……というのも一回使うと燃料噴射口の部品が緩み、それを知らずに点火しようものなら、溢れ出た燃料が黒煙上げて燃え火柱と化す。

無論移動中の振動でも緩むので要注意で。

自分も最初の頃何回かやらかして学習している。

が、アレを目にするとマジでビビる。

 

「おぉ……使う前に分解して、整備するんですねぇ……」

「でないと火柱になるからのう」

「本当にそうなるんですか?」

「何回かやらかしてるからな」

「へぇー、気を付けないとだめなんですね」

「火事にしたくなけりゃ"備えよ常に"じゃ」

「そなえよつねに……」

 

 ケロシンランタンを点火するには、"プレヒート"という工程をしなければならない。

プレヒートとは予熱という意味で、それが必要な理由は燃料の性質に依存する。

 灯油はガソリンより遥かに高い温度で気化……ガス化するので引火点が高い。

ガソリンが氷点下四十度以下に対して、灯油は五十度という高い温度でやっと引火するレベルだ。

故に燃料の安さと安全性の面からすれば、ガソリンより遥かに優秀と言える。

 

「これが、プレヒートバーナーかぁ……」

「まだ加圧しとらんから、まだなんにもならんど」

「そう言えば灯油って引火点高いって言ってたじゃないですか?」

「ん? 火が点かんと思っとるんか?」

「はい! だって五十度以上だって・・・・・・」

「まぁ、そう思うじゃろう」

「ですよねっ?!」

「ただ、例外があって、霧状の灯油の引火性はガソリン並みになるど」

「そ、そうなんだ」

 

 ポンプアダプタと自転車用の小型ポンプを繋いて空気を送る。

その際に燃料キャップを兼ねる圧力計やアダプタにバルブが開いてないか入れる前に確認する。

バルブを締め忘れても火柱が立つので要注意だ。

自転車用のポンプを使えば所用圧までの昇圧も、ものの数往復の数秒で終わる。

が、元々付いてるポンプでポンピングするとひたすらにつらい。

 所用圧まで昇圧したのでいよいよプレヒートだ。

バーナーへの点火は噴射口を抑えているレバーを押し下げれば噴霧されるという至極単純な構造で、給気口にライター等の火を近づけたら吸引され、霧状の灯油に引火、燃焼が始まる仕組みだ。

 

「じゃあやるど」

「はーい」

 

オイルライターをポケットから出して、蓋を開く。

すると「キンッ」と小気味いい金属音と共に開き、スターターをイグニッションすれば「ジュボッ」と芯に火が灯る。

 

「あっ、オイルライター‼」

 

レバーを若干開いて、給気口に火を吸わせる。

刹那、引火し「ゴボボボボー!!」という勇ましい燃焼音を轟かせる。

オイルライターは蓋を指で跳ねて「パチン」と閉めポケットに再び放り込む。

 

「これがプレヒートォ‼ あ、写真撮っても良いですか?」

「別に構わんよ」

 

バーナーの空気の使用量は凄まじい。

三十秒程あれば入れた空気の半分以上は消費してしまう。

その都度、ポンプで空気を送ってやらねばならない。

 

 九十秒が経ち完全に予熱され。

隙かさず、バルブを開いてマントルに点火。

明りが灯ればバーナーはもう用無しだ。

 

「うひゃっ! 眩しぃ……」

「五〇〇ワット相当だからな」

 

 このランタンは五〇〇ワットクラスの光源だ。

故に相当な光量を発揮する。

普通はランタンスタンドに掛けるだろう。

しかし、俺はトライポッドに吊るす。

何故なら、ランタンスタンドよりトライポッドの方がバラした時に小型になるからだ。

当然ランタンを直視すると目が焼けるので、お互いの目に直接入らない所に移動させる。

 

「さて、飯の準備に掛かるが、各務原さんは何食べるつもりかね?」

「わたし、水炊き作ろうと思って……あ、一緒に食べませんか?」

「じゃあお呼ばれしようかのう」

「はい! よろこんで!」

 

 彼女はそう言うと、自分のテントの方へと走って行く。

俺はその間に折り畳みのテーブルと、袋の中から重ねたコッヘルと小型軽量で風に強いガスストーブを取出し、コッヘルの中に入れておいた、内容量一〇五グラムのOD缶と合体させ、バーナーには四本五徳を取り付ける。

コイツには何をさせるかと言えば炊飯だ。

炊飯は火力が要らないので、一〇五グラムもガスがあれば余裕で炊けるのだ。

 おかずは何かと言えば、カットキャベツとモヤシに鶏のセセリを各一パック使かった、己でもよくわからん汁物だ。

味付けは出汁の素と塩と胡椒と醤油とシンプルな物で、至る素材や調味料を雑に入れて作る。

雑を極めた味だけ保証のできる汁だ。

おかずはケロシンストーブでやるのが、俺のやり方だ。

 これはアメリカの有名メーカー製のガソリンも灯油も使えるデュアルフューエル仕様のストーブ。

しかし、ランタン共々灯油運用である。

このケロシンストーブにはプレヒート用バーナー等の気の利いた装備はない。

ならどうするかと言えば、メタノールをバーナーの受け皿に投入しそれに着火。

燃料の通るジェネレーターを直接炙ってプレヒートする方式だ。

ただプレヒートにメタノールを使う関係上、その時にひっくり返したり漏洩させると延焼する危険性があるのは否定できない。

 

 早速こっちもポンプアダプターにポンプを取り付けて加圧する。

しかし、構造的に圧力計かポンプアダプターかを選択するしかないので勘が頼りだ。

大体、固くて入れ難くなったなと思うまで入れ、ポンプを取り外す。

そしたら本体をテーブルに置いたトレーの上に乗せ、メタノールを受け皿の八分目まで入れる。

そして、メタルマッチの火花で着火する。

 

「材料持ってきましたって……ふぉぉぉぉっ、なんか新しいアイテムあるぅ‼」

「気になるかね?」

「気になりますっ‼」

 

やたらデカい手提げ袋を置くと興奮気味に目を輝かせて駆け寄ってくる。

本当に純粋無垢な娘なんだなと思う。

 

「これってコンロですか?」

「コンロって言ったらコンロだが、ストーブと言うのが正じゃな」

「ストーブ……」

 

その様子的に人間を温める方のストーブを想像してる様だ。

普通はストーブと言えばそっちだからな。

 

「まぁ、コイツは儂のランタンと同じで、灯油を燃料としている」

「へぇ……てことはプレヒートしないと使えないのかぁ……ん?でも火がついてる?」

「今、エタノールでプレヒートしてるって……そろそろだな」

 

入れたエタノールが殆ど燃焼し、受け皿が乾いてくる。

 

「頭退けさんせ。 顔焼けるぞ」

「あ、はい‼」

 

 彼女が顔を退けたのを確認し、コックを撚る。

その瞬間オレンジ色の火柱が一瞬立ち直ぐにガスコンロの様な青白く形の整った炎に取って代わられる。

 

「おわぁっ‼ び、びっくりした‼」

 

 鳩が豆鉄砲喰らったような顔をした彼女のその顔が妙にツボに入った。

 

「がっはっはっはっはっ‼ ゲホッゲホッ‼」

 

笑う事が久しぶりだったので咽る。

 

「もぉ、ヒドイですよぉ‼」

「すまん、すまん」

 

二人の笑い声が静かで二人しか居ないサイトに谺した。

 

 

 彼女は袋からローテーブルとカセットコンロと土鍋を展開するが……その土鍋が一般家庭にある様な物で、一人でやる分にはあまりに大きく、そして素材も大量に持ち込んでいる事に戦慄を覚える。

まさか一人でそれ程の量をこの娘は食うのか?

それとも、己の腹の容量を過大評価してるのか?

マトモなのは俺だけかと、ボートを用意されて洋上要塞から追い出されそうなセリフが脳裏に浮かぶ。

 

「……その量一人で食うつもりだったのか?」

「えへへ、これ位一人でぺろりですよ‼」

「…………」

「へ?」

 

……この娘、某ピンクボールの化身か?

という感想が浮かぶが、口にはすまい。

 

「じゃあ、作っていきますねっ‼」

「おう」

 

 斯くいう俺の方は、ガスストーブで中火に掛けてるのは米の入ったコッヘルで、そのフタはそのコッヘルよりも大きい別のメーカーのだ。

というのも、このコッヘルの元々のフタが閉まりが悪く、別メーカーのコッヘルのフタを載せた方が炊飯には最適という結論に至った結果を反映したものだからだ。

が、それだけだとオールチタン製でウルトラライトを謳ってる物だけに、余りに軽く吹き溢れで持ち上がってフタが落下してしまう。

なので上には使う予定のないスキレットを乗せて重りとしている。

 あるもの何でも創意工夫して使えの精神で、大概なんとでもしてしまうのが俺らスカウトだと俺は思ってる。

 よくわからん汁物の方もケロシンストーブの上に掛け

た一番大きい一リッターのコッヘルをケロシンストーブに乗せて、中火で茹でてゆく。

その際の茹で汁は水だったりペットボトルのお茶だったりと全く拘りがない。

何故ならば、食って美味けりゃ正だからだ。

 キャベツに火が通って体積が小さくなったら、セセリを投入し更に火を掛ける。

それに火が通れば、モヤシと醤油を突っ込んで完成とするつもりだ。

我ながらに、いい加減なものだとつくづく思う。

 

 一方彼女の方は「出来てからのお楽しみなのでひみつですっ‼」だと言い。

材料もこっちから見えない様に作ってるのが、なんとも可愛らしく思う。

たまには、こんな事あっても良いもんだなと。

 

 

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