あるキャンパー   作:Flak40 L61

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 大変ご無沙汰しております、Flak40 L61です。
7月末頃からの久し振りの更新となった事をお詫びすると同時に、圧倒的技量不足からなのか、地続きで書くと何を書いても圧倒的に面白くならないので幾万もの文字を費やし、それをようやっと理解したので後日に飛ばし、次のキャンプに向かう為の準備を書く事に致しました事をお詫び申し上げますm(_ _)m


軍馬で行こう
野営準備[上]


 ある平野の住宅街にある、古風な民家の広い庭の一角にて、耐火煉瓦で拵えられた青白い炎を吹き上げる炉の前で汗を流す男が居る。

 左手で電動ブロワのスロットルをコントロールしながら目の前で燃え盛る骸炭が吹き飛ばない様に調整し、右手に握る大型のプライヤで、骸炭に埋めた刃の茎を握っていた。

 時々刃を抜き出し色を見る。それを何度かした後、所定の温度を満たしていると見るや、男は刃を燃え盛る炎の中から引き抜き、隙かさず、油の満たされた箱の中に漬け込む。

 ジョワァーッ!!と油が沸騰し、その蒸気が空へと登っていく。そして十分冷えた時に取り出したそれは、漆黒の炭素を纏った刃として生を受けるのだ。

 

 △▲△▲△▲△▲

 

  野営準備[上]

 

 ▲△▲△▲△▲△

 

 富士、朝霧高原でのキャンプから帰ってから、今日で丁度二週間となる。

 二日目の朝に富士から登る朝日が拝めるかと思ってたが、生憎霧のせいで見えず。ボーイスカウトの仕事もあるから残る訳にもいかずと帰らざるを得なかった。

 しかし、あのキャンプで俺が見ている世界に色が付いた気がする。あの娘のお陰なのか不明ながら、どこに行っても付き纏っていた、他人からの拒絶感と言うのが和らいだ気がするのだ。その事は撫子の三周忌と言うことで法事に参加した折、墓前で心の中で報告した。当然、爺様にも同様に。

 今日は庭に拵えた鍛冶場にて、二振りの剣鉈の焼入れ作業を行っている。一本は九ミリ厚にして刃渡り二四〇ミリ、幅五十ミリの何でも叩き割れるのを目的に拵えた物。もう片方は常識的な六ミリ厚にして刃渡り一八〇ミリ、幅三五ミリの普遍的なのを拵えた。そして何れも、鋼材は最高硬度と靭性を併せ持つ鋼を主にして、普遍的に用いられる刃物用ステンレス鋼を張り合わせ、何層にも織り込んだ積層鋼だ。前者の鋼を本割込とした究極の一振りに仕上がっている。研いで磨き上げる事で浮かび出る、独特の刃紋はとても美しいものだ。

 その時携帯がバイブした。研ぎ汁でまっ茶色に染まった手を作業着のズボンで拭いて、スマホを取り出す。

 

 『恭介さん、今何してますか!!(≧▽≦)』

 

 等と絵文字付きの文面が送られて来ていた。誰だこれ?と疑問に思ったのも束の間、なでしこと連絡先交換したんだっけなと思い出した。

 

 「そうやそうじゃったな」

 

 そう呟いて、ふふと笑う。

 

 『剣鉈を新造したぞ』

 

 そう文言を入れて、刃紋が良く写るような角度で写真を撮って送る。

 

 『めちゃくちゃ綺麗ですが、作ったんですか?!Σ(゚Д゚)』

 『無いものは、作ってなんぼだからな』

 『恭介さん、やっぱりすごい人だなぁ』

 『どうだかな?』

 『すごいですよ!』

 『なら、そういう事にしちゃろう』

 『もし、どこかでまたお会いする事があったらそのナタ見せてください!(≧∇≦)b』

 『わかった。その時はまた宜しくな』

 『はい!喜んで!(>ω<)』

 

 スマホを仕舞い、元気そうで良かったなと思いながら、作業を再開した。

 

 △▼△▼△▼△

 

 明くる日の朝、俺は孟宗竹や真竹が自生する竹林の中に設けられた野営場に向かった。ここは一般には開かれてない我が団のみが使用する事を許された野営場。故に関係者以外は立ち寄らない。その為ここで法律的な範疇に於いて、何をしようとも片付けさえしておけば、誰にも文句は言われない。

 ここで何をするのかと言えば、一つは昨日拵えた剣鉈の試し切りである。

 早速二振り剣鉈の鞘を革製で分厚い安全帯に通して、竹林に入る。竹林は見通しが良く日差しも良く通り、整備されていると言うのがよくわかる。しかし、その竹林の端の方はそうでも無く、密集して生えた竹によって、荒れ果てている。そんなところに現れたのは、俺という侵略者だ。

 一本の孟宗竹を標的に据え、大振りの剣鉈を抜き上向きに構えて振り上げる様に一閃、振り上げられた分厚い刀身は孟宗竹の強固で分厚い繊維を物ともせずに撫で斬りにし、本体から切り離された竹がドスンと落下した刹那、振り上げた刃を翻してトドメの一撃を浴びせるのだ。

 

 「まーた、竹相手に喧嘩してる……」

 

 そう若い女の声がして振り向くと、長い黒髪と低い背丈と少し垂れた目をした娘が、仕方ない人だなぁと言いたげな目をして俺を見ていた。彼女は我が団唯一のベンチャー隊*1のスカウトだ。

 

 「なんじゃ、お前か……」

 「なんで残念がるんですかぁ?」

 「そりゃお前じゃけぇのう。んで、何用じゃ?」

 「もぅ、ひどいなぁ……」

 

 彼女は撫子の妹のさやかだ。容姿こそ良く似てるが、性格は冒険的で素っ頓狂で噂好きなのか、そう言った類の話には食い付いてくる上、嗅覚も鋭い。

 

 「是非とも、明るくなられた秘訣が知りたいなぁと思いまして〜」

 「……まだ言うか?」

 「一回気になると、夜も寝られないと言いますかー」

 「……はぁ……」

 

 これ以上その件で付き纏われるのも厄介だ。都合の良い言い訳は……

 

 「端的に言うが、わしゃ仕事辞めたぞ」

 「えっ?!うそぉ!?」

 「儂自体が人嫌いじゃからと言うのもあるが、あんな能無し共と仕事なんぞしちゃおれんわ!!」

 「じゃ、じゃあ……?」

 「晴れて独り身、無職やぞ」

 「まさか、その左眼の賠償金だけで?」

 「まぁ、そんなところじゃ」

 

 大嘘である。宝くじ一等の効果なしではそれで生きては行けない。

 

 「……ほんとぉ?」

 「ホントやぞ……て、妙に疑るんだな?」

 「そりゃあ、まぁ……」

 「……んで、他に用事は?」

 

 さやかは首を横に降って否定する。

 

 「じゃあ、用事済んだんなら、帰りぃーや」

 「えぇ〜」

 「不都合でもあるんか?」

 「そんなにじゃけにせんでも、ええじゃないですか?」

 「……わりぃこた言わんが、お前が居るとわしゃ鉈振り回せんのやが?」

 「邪魔でした?」

 「当然じゃ。てか、新造の剣鉈の錆になりたきゃ、オメェを被検体にしても良いんじゃがな。無論やらんがな

 「やった日には、お姉ちゃんに怒られるだけじゃすみませんしね!」

 「……」

 「なんで無視するんですかっ!」

 

 コイツもコイツで、頼れる姉が居なくて寂しいのだろう。だからと言って、俺に構う必要はないだろう?しかし、それを態々訊くつもりないし、大してそれに興味はない。

 

 *****

 

 剣鉈二本の耐久試験が済んで、野営場に戻ると、焚火を熾し、それにヤカンを掛けて湯を沸かしているさやかと目が合った。

 

 「お前、まだ居ったんか?」

 「居ちゃ悪いんですか?」

 「そねぃなこた言わんが……まぁいい……」

 「あっ、コーヒーありますよ」

 「……じゃあ、もろおう」

 

 そう言って、腰の安全帯を解いて、焚火の傍らの大きな石に腰を下ろし嘆息する。さやかの奴は、作業しながらも、未だ何か訊きたげな目線を向けてくる。これ以上付き纏われるのもいい加減面倒くさく思ってきた。

 

 「のぅ、さやかよ」

 「やっと話す気になりました?」

 「いいやのぅた。お前には儂がどう見えとる?」

 「あーそれですか」

 

 さやかは、こう言った。

 一つは俺の表情が柔らかくなって、態度も幾ばくか軟化したこと。二つ目は俺の変化に何者かの影響を感じている事だった。

 

 「二つ目が気になって仕方がなかったと?」

 「そうなりますね」

 「なる程……腐っても流石は撫子の妹だけあるなぁ……」

 「それ、褒めてるんですか?貶してるんですか?」

 「文字通りプラマイゼロじゃ」

 「えぇ〜」

 「んで、こっから先は他言無用で頼む――」

 

 先日の朝霧での話をした。主だってはなでしこという娘の話だ。

 

 「あなた様でも赤の他人と仲良くなれるとは……ましてや私と同い年の女の子と……」

 「儂としても不思議じゃったよ」

 「まさか、襲ったりしてないですよね?!って、あいたっ!」

 

 ふざけた事を言うなら、鉄拳制裁を課す。無論パワーセーブして。

 

 「バカタレ」

 「うぅ〜、ぶつ事ないじゃないですか!お姉ちゃんに言いつけてやるぅ〜」

 「別に構わんぞ、お前は事あるごとにしばいて良し、と撫子から言われとるしな」

 「嘘だァ!!」

 

 無情にも味方の居ないさやかは、狼狽する他なかった。

 

 *****

 

 「そういや、お前ここまでチャリで来たんか?」

 「お姉ちゃんのお下がりのカブで来ました」

 「……この親不孝者め。よう親御さんが許してくれたな?」

 「お父さんは許してくれたけど、お母さんが中々許さなくて……」

 「婆様は?」

 「お婆ちゃんは許してくれましたよ。その上で、お母さん説得してくれたんです」 

 「なる程な……んで、乗っ取るのは撫子の軍馬(カブ)か」

 「そうで〜す」

 「……その軍馬にはずい分と助けられたな」

 「お姉ちゃんと、二人して遅刻しそうになった時も二人乗りして行ったよね?」

 「そんな事もあったな……」

 

 思わずして、あの日あの時の光景が蘇って幾ばくか目頭が熱くなる。しかし、既に枯れ果てた涙は溢れない。

 

 「そう言えば、お姉ちゃんとツーリングするからって整備してた、お爺さんのバイクはどうしたんです?」

 「長い事放っとったが、今はおいさん*2の所で組み立ててもろーとる」 

 「早く組みたったら良いですね!それじゃあ!」

 「ああ、お前も気を付けろ。ソイツは優秀な軍馬じゃけど、チャリンコ乗るのと訳ちゃうど」

 「そりゃ、重々わこうとりますけぇ!では、隊長!いつものお願いします!!」

 

 さやかはビシリと踵を整え、直立不動の気を付けの姿勢を取る。こちらも気を付けの姿勢をとってから、右手で拳を作って胸の高さまで上げ、下に手を開きながら振り下ろす。そうすれば彼女は安めの姿勢をとる。そして、その逆の手の所作を行い気を付けの姿勢を取らせたところで号令を発す。

 

 「別れ!!」

 「別れます!!」

 

 互いに三指礼を交わし、俺が礼を解いた所で彼女は動き出す。

 

 「気ぃ付けて帰れよ」

 「はーい」

 

 そう言い残し、去りゆく彼女の背中を眺めながら俺は心の中で祈った。

 撫子よ、お前の妹はお前と同じバイク乗りになるじゃろう。そして、お前とおんなじ目に遭わん様に守っちゃってくれ。

 その刹那、温かな風が吹き抜ける。それは丸で、彼女が肯定してくれている様だった。

*1
ベンチャースカウトとは中三から高三の間の年齢の区分のスカウト

*2
叔父の事




 車両名称 : ダブルキャブトラック
 種別   : 商用貨物自動車
 
  諸元
   全長  : 4.690m
   全幅  : 1.695m
   全高  : 1.985m 
   質量
    空虚 : 1920kg
    最大 : 3250kg
   乗員数 : 6人
   積載量 : 1000kg  
   
   機関諸元
    発動機  : FTV-1KD
    形式   : 直列4気筒ディーゼル
    過給方式 : インタークーラー•ターボ
    冷却   : 液冷
     排気量 : 2982cc   
     出力  : 200ps(3400rpm) 
     トルク : 40.8kgf•m(1200〜3200rpm)  
    牽引力  : 2212〜430kgf•m
    登攀角度 : 56〜11deg(定格車重2250kg時)
    変速機  : 5速マニュアル
    駆動形式 : フルタイム四輪駆動

   特装品   : 熱線視覚化装置

解説
 國守恭介が高校卒業時、祖父國守忠光から与えられたダブルキャブトラックで、各所目立たない所に、メカニックである叔父の手が入っており。通常の物とは一線を画す走行性能を有している。
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