いたくないあの子   作:鼠日十二

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『孤独の欠片が 闇夜にちらかる 過ちを知らぬまま 儚く揺れるツバサ』


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「はぁ……」

 

 

 赤く染まる夕焼け空を見上げて、少女──暮葉(くれは)はそっとため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷における人里とは、妖怪から逃れることのできる唯一の地である。

 逆に言えば、人里の外での安全は保障されないということだ。安全地帯から離れたが最後、辿る末路はただ一つ──餌である。

 

 

 人里に住む人間はそれをよくわかっていた。だから軽々しく人里の外には出ようとしない。以前人に化けた妖怪に騙されて人里の外に連れていかれる事件が多発してから、人々は人里とその外との境界を明白に意識し、『人里から出ること』それ自体を一種のタブーとして扱うようになった。

 

 

 そんな狭い世界で、暮葉は外の世界でいうところの無痛症を患っていた。もちろん病気ではなく、先天性の障害のようなものだ。

 原因は不明、親がそういった持病を持っていたわけでもない。しかし先天性のそれは、人里の中で迫害されるには十分すぎるほど異質で未知だった。

 

 だから──親は暮葉のその特徴に気付いて、無理矢理家から追い出したのだ。

 

 

 人里は排他的である。異質なものは即刻排除すべきだというのが一般認識だ。

 だからこそ……暮葉は十数歳にして人里から締め出される羽目になり、冒頭に至る。

 

 

「あーあ。こんな体のまま生きるくらいなら、死んだほうがマシだよね……」

 

 

 最初はまじめにこれからのことを考えていた暮葉だったが、次第にどうでもよくなっていった。痛みのない暮葉に、恐怖心なんて情緒は育っちゃいない。

 どうせ死ぬんだったら、寝ながらがいいな。そう思って暮葉は道端の木の根元に座り込んで、目を閉じた。

 

 ──しかしながら、幻想郷はすべてを受け入れる。それがどういった形であれ、誰からも否定されて忘れられて死ぬことなど許されないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぉ。ありゃ?生きてる」

 

 

 暮葉は眠い目をごしごしこすって起き上がった。ごつごつした石畳の床にレンガのような固そうな壁。さらには恐ろしく血生臭い。幼い頃に聞いた地獄とやらがここならば、すぐに罪人で埋まってしまうであろう、小さな部屋。

 

 そんな薄暗い部屋の片隅で、きらきら七色に光るものがあった。右に七色、左に七色。きらきらと、闇の中で美しく光を放つ。

 

 

「あは。うふふふふふふ」

 

 

 声の主は少女のようだった。しかしこんな血の匂いがする部屋にいる奴が人間であろうか、いやない。人間であるはずがないと確信しながらも、暮葉はそこに声をかけた。

 

 

「ねえ、何してるの?」

 

 

 

 よく見ればそれは、美しい少女だった。七色に光る水晶を吊り下げた羽を揺らめかせ、その眼は濁った血のような紅をたたえている。

 振り向いた彼女は、右手に持っていた何かを放り投げた。べちゃり、と嫌な音がする。熱の抜けた飛沫が、暮葉の足元を濡らした。

 

 

「ごめんね、ごめんね」

 

 そう少女がつぶやきながら右手を握るのと、

 

「その……羽?奇麗だね」

 と暮葉が言うのは同時だった。

 

 

 しばらくの沈黙。

 

 

「……もしかして不味かった?ごめん、でも奇麗だと思ったのは本当なの──」

「な、なんで? なんで? それ!それ!」

 

 

 

 困惑する少女の指差す方向、つまり自分の左腕を暮葉は見た。そうして肘から先が無くなっていることに、暮葉はちょっとだけ驚いた。

 

 

「うわ」

「え、え? 驚かないの? いたくないの?」

「うーん。私、なぜか痛みを感じないんだよね」

 

 

 宥めるような口調の一方で、暮葉は全く別のことを考えていた。そうだ、この子に殺してもらえれば、一瞬で死ねるんじゃないかな?

 

 破片すら残らない綺麗な即死に思いを馳せていると、七色の羽の少女は突然、

 

 

「うわああああああああああ!!!!!」

 

 

 と言ってドアをぶち抜いて走り去っていった。

 暮葉は呆然とそれを見送ってから、

 

 

「あれー……っと、これがうわさに聞く失血ってやつ? 頼まなくても死ねたかな?」

 

 と、再び意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あえ?まだ生きてるの?」

 

 

 幸か不幸か、暮葉はまたもや目を覚ました。前回と違うところといえば、はちゃめちゃにやわらかい布団の上で寝ているということ。

 

 

 もぞもぞと布団をはい出る……が、左手がないのを忘れていたのと布団が台の上に載っていた(ベッドのことである)せいで、バランスを崩した。

 

 

「失礼します」

「うっわびっくりした」

 

 

 転落しかけた暮葉をキャッチしたのは銀髪の女性だった。

 

「お怪我はございませんか」

「ごめんなさい、怪我あるかわからないんだよね」

「そうですか。お嬢様がお呼びですので、ご案内いたします」

 

 

 どうやら自由意志とか無いらしい。良いけど。歩かされ、大きな扉を開いて、これまた大きな部屋に入る。

 

 

 奥にはまたまた偉そうなオーラを放つ少女が、華美な装飾を施された椅子に座っていた。歳は10ちょちくらいに見えるのに、大層な覇気である。

 

 

「名乗れ」

「私? 暮葉だよ。暮れるに葉っぱの葉」

 

 少女はうんうんと満足げに頷いた。

 

「なるほど……危機感も無しか。合格だ。暮葉、お前は今日から私の元で働け」

「それは住み込みで、ってこと?」

「そうだ。咲夜」

 

 

 気づけば私の首には、布の輪っかのような首輪らしい何かが取り付けられていた。

 

 

「それは我が親友謹製の……なんといったか。とにかく、お前の体に異変が起きるとそこにはめられた魔石が光を放つようにできている」

「私、自分の体について何か説明したっけ」

 

 すると少女は真っ赤な唇をにい、と歪めた。白い犬歯がちらりと覗いている。

 

「フラン……お前の腕を破壊した七色の羽の吸血鬼だ、分かるな。話はフランから聞いている。私はレミリア・スカーレット。フランの姉にして、ここ紅魔館の館主でもある」

 

 レミリアは一際大きな声で言った。

 

「お前に与えられた仕事は……フランのペットになることだ」

 

 

 

 

 

 

 

 困惑する暮葉を割り当てられた部屋へと案内し、明日詳しく説明するから今日は寝るようにと言いつけたのち、咲夜は主の傍に戻ってきていた。

 

「咲夜、いい加減その殺気を抑えろ」

「しかし、お嬢様にあの口調は直接雇った相手といえど」

 

 咲夜はまだ怒りを抑えきれていなかったが、レミリアの視線を受けて渋々それを納めた。

 

「あれでいい。むしろフランに敬語なんか使われてみろ、そちらのほうが面倒だ」

「……失礼しました」

 

 

 レミリアは笑った。咲夜の殺気はもちろん、私の威圧感にも反応しないとなれば、条件は満たしている。あの少女は、そういう恐怖を知らない……というよりかは知ることができないのだ。無痛症については親友が詳しかったが、患者の中には心の興奮とかを感じない例も多いらしい。幻想郷風に言うなら、そうだな、

 

 

──『気づかない程度の能力』だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





『R.I.P.』



フランちゃんは次のお話で出る予定だよ。
みんなも自己肯定感よわよわフランちゃんを書こう!(提案)
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