いたくないあの子   作:鼠日十二

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見返したら続きが読みたくなったので書いた。推敲とかしてないけど、ままえやろ。

吸血行為が挟まるんだけど、ちょっと艶めかしい文章になってしまった


4

 ある夜のことである。

 

「そういえばさ、フランってどんな妖怪なの? きゅーけつき、ってのは聞いたんだけど」

「ああ、詳しい話はしてなかったかしら。いい、吸血鬼というのはね……」

 

 地下室のベッドに腰かけてフランは饒舌に語り出した。その隣に座り込み暮葉は相槌を打つ。それは曰く、陽の光が苦手で、血を好み、夜をこそ我が世界とする種族。しかし話が進むにつれ、フランの話は姉自慢のようになっていった。

 

 

「どれだけ相手に快楽を与えながら吸血できるかというのは一種のステータスなのよ。その点お姉さまは凄いんだから。どろどろに溶かしつくして、それなしじゃ生きていけないような、餌が自ら食べてくれと願うような──そんな吸血」

「へえ……すごいんだねぇ」

 

 するとフランは何かに気付いたように目を見開き、暮葉の手を掴んだ。

 

「だ、駄目よ!」

「まだ何も言っていないのだけれど」

「『一回くらい試してみたいな』って顔に書いてあるわ」

「……まあ思ったといえば思った。でもさ」

 

 暮葉はフランの手をむにむにと握り返した。フランの顔が緩んだり引き締まったりする。

 

「私の主人はフランなんだから、勝手にそんなことしないって。それに私、その……じつはレミリア苦手なんだよね」

「え、そうなの?」

「ん。どうにも……里のみんなを思い出して。あの目で見ないのはフランが初めてなんだよ」

 

 

 紅魔館の面々がフランのことを意識無意識にかかわらず『狂気持ち』というフィルターを通して見てしまうのと同じように、暮葉もまた『人間以下』『出来損ない』といった目で見られてきた。故に、暮葉はこう思うのだ。

 

「だからさ、血を吸われるならフランの方がいいな」

「……え?」

 

 

 フランは固まった。そんなはずはない、お姉さまの方が凄くて偉くて、だからやるならお姉さまの吸血の方が──違う、それは駄目、暮葉は私の従者なんだから、お姉さまでも手を出しちゃ駄目──

 

 

「フラン?」

 

 

 ──それに慣れてない私がやったところでただ痛くて苦しいだけ。

 

 あ、でも。

 

 暮葉は痛いのわからないんだものね。なら、いいのかな。

 

 

 

 その思考がフランの卑屈な自制心を壊した。あとには『私のことを選んでくれた』という嬉しさと、求められたことに報いたいという気持ち、つまり暮葉の血を吸いたいという吸血欲求だけが残った。

 

 

「ねえ、ねえ、私、暮葉の血が欲しいわ」

「今? いいよ……あ、でも首は駄目だ、首輪が邪魔だもの。ちょっと待ってね……」

 

 

 暮葉はメイド服のスカートをごそごそやって、一本の装飾の少ないナイフを取り出した。フランの驚く顔を尻目に暮葉はナイフを口で咥え、刃先に自らの右腕の手首を押し当てた。血がナイフを伝い、暮葉の口元を赤く濡らす。

 

 

「ん。ほうほ(どうぞ)

 

 

 そしてナイフを咥えたまま、手首をフランに差し出した。一連の流れがあまりに滑らかだったものだからフランは呆気にとられて、それから「主導権……主としての威厳が……」と小さく呟いた。

 

 暮葉はナイフを咥えたまま口を傾げた。唾液と血が混ざった液体が刀身を伝う。

 

ふあはいほ(すわないの)?」

「そ、そんなことないわ。いい、行くわよ……」

 

 

 フランはそうっと手首の傷に舌を這わせてから、唇で吸い付いた。そうしてその血の温かさに何より衝撃を受けた。吸血鬼は食人鬼などと違い、その主食は生き血である。つまり、心臓の熱を帯びた温かな血をこそ好むのだ。

 

 しかしフランに於いてはその限りではない。ここに連れてこられた人間の大半が怯えたり錯乱状態で、それらをフランが怖がったためだ。孤独をさらに際立たせる相手からの拒絶は、長く生きたと言えどまだ発達途中のフランの精神を大きく軋ませた。

 

 故に紅魔館において、フランの食事はグラスに注がれた血液が主となる。保存の為地下室で冷蔵され、熱の失われたそれはフランにとって栄養補給以上の意味を持たなかった。

 

「ちゅっ……」

「うひっ擽ったい」

 

 それがどうだろう。人肌のはずのそれは、感じたことのない熱をフランに伝えてくる。喉を通れば身体に混ざってわからなくなるが、代わりに心が熱を受け取って温度を上げた。ちうちうと吸い、舌でつんつんと催促すれば、血液はいくらでも滲み流れてフランを喜ばせる。

 

 

 その様子を暮葉は見つめて、自分の左手が無いことに感謝した。もしもう片方の手があれば、フランの頭を撫でてしまっていただろうから。それはきっと従者の枠を超えた行為だし、今のこの程よい気安さを許しつつ、身分の違いがはっきりした関係が崩れるのが暮葉は嫌だった。入れ込めば入れ込むほど、裏切られた際の傷が深くなるのを暮葉はよく知っていたから。

 

 それでも、ちうちうと手首に吸い付くフランを見て愛おしさのようなものを覚えたのも確か。暮葉は自分がこの幼い主に惹かれ始めているのを自覚した。

 

 

 かぷ。

 

「んっ……フラン? その、噛まれると……」

 

 

 まぁ、いいか。別に痛くはないし、フランが喜ぶなら、それで。そう思って暮葉は手首に這う舌のくすぐったさに耐え続けた。

 

 

 その後血を吸われすぎた所為で貧血気味になり、フランが謝り倒したのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 業務を終え、ふらつく足で部屋を出て、自室に向かう途中でメイド長とばったり会った。

 

 

「……体調不良ですか?自己管理も仕事のうちだと伝えたはずですが」

「すみません、ちょっと貧血みたいで」

 

 

 そういうとメイド長は目を見開き、次にそうなりそうな日は予め伝えておくように、と言い残して姿を消した。

 

 ……何だったのだろう?

 

 

 

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