いたくないあの子   作:鼠日十二

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『I walk the city of desire』


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 暮葉はフランの部屋に泊まることを伝えたり、その準備をしなければならないからと言って、部屋を出て行った。彼女がいなくなった途端部屋が急に寒くなったような気がして、フランはもう一口紅茶を飲む。

 

「……ふぅ」

 

 

 初めの息には、紅茶の香りがした。人を招く事になった所為か、急に物を整理したい衝動に駆られる。初めての感覚だった。フランは立ち上がって部屋を見回し、隅に高く積み上げられた本を、できるだけ本棚に詰め込むことにした。分厚い装丁の、それも百科事典のようなものが特に邪魔だ。そのうちの一つを手に取り、表紙を眺めながらフランは呟いた。

 

 

「この部屋に置く本を選んだのはお姉さまかしら、それともパチュリー?」

 

 

 奇妙、というか無秩序なラインナップだった。以前読んだ帝王学の本から始まり、『七曜と星辰を使用した大規模魔法』や『人形魔法に使用される魔法糸と神経の関連性』に代表される魔導書から『人間社会と文化について』『妖怪のキャラクター化の功罪』『信仰か、畏怖か』など、フランにとってはよくわからずに読まなかった本も多く含まれている。

 

 

 とはいえ、そもそもこの部屋に本棚が置いてあるのは何も本を置くためだけではないのだ。この大きな本棚の裏には、隠されるようにして金属製の扉が鎮座している。銀の混ぜ物をすることで、吸血鬼にとって害となる特性を秘めたその扉の向こうには──

 

 

「──ぁ」

 

 

 フランの口から息が漏れた。駄目、駄目と頭を振る。暮葉がいないとき、フランは好ましくない思考の渦に囚われることが多くなった。こんな孤独感に苛まれるのは、暮葉が来る前はありえないことだった。

 

 

 孤独を知らない()()()()はある種、幸せなのだ。自分が一人だったと自覚するからこそ、孤独は不幸たりえる重みを持つ。フランがようやく気付いた、或いは知ってしまった495年の孤独は、時間をかけて沈殿した澱のように、心を重くした。

 

 

 ああ、寒い。

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ暮葉は自室まで戻ってきていた。暮葉に割り振られている部屋は、妖精メイドなどとは違い一人部屋ではあるのだが、そもそも持ち物がほとんどない暮葉には部屋に置くものがない。故に、暮葉の部屋はフランのそれより殺風景である。

 

 

 備え付けのクローゼットを開き、中からこれまた支給品のメイド服と寝間着を取り出す。洋服にももうすっかり慣れたものだ。ナイフの扱いも、ベッドメイキングも、それからある程度は料理の腕も……徐々にこの館に染まってきていると自覚できるほどに上達した。

 

 

 ふと、自分がいた人里のことを思い出す。誰が言っていたか思い出せないが、人里内では妖怪は人を襲うことが出来ないという決まりごとがあるらしい。破ればあの博麗の巫女が粛清しに来るのだとも聞いた。

 

 

 では果たして──人が人を害した場合、裁くのは誰で、顛末はどうなるのだ? 自分を見て、化け物を見つけたような顔をした両親と、痛みが分からない私は、どちらが悪かったのだ? 暮葉は自分の両親の顔を思い浮かべようとして、すでにぼんやりとした像しか出てこないことに気が付いた。

 

「……っは、なんだ」

 

 

 人は集団で生活するものだ。つながりを大事にする、とも言う。反面、妖怪は基本的に()()()()。統率が出来ないゆえに、人里の外は危険なのだと寺子屋の先生が言っていたのを思い出す。

 

 まともな人間であれば、親の顔など忘れないであろう。

 

 

「結局、おかしいのは私か」

 

 

 体がそうでなくとも、心が──例えば、痛みを感じないような──妖怪の心を持つものは、きっとそれを隠し通さなきゃいけなかったのだ。そうしなければ、人の間では生きていけない。()()とはよく言ったものだ。

 

「結局、人間ではないのは──私だったか。そうか、そうかあ」

 

 

 そう口に出して、暮葉はなんだか、大声をあげて笑いたいような悲しみを覚えた。

 

 

 

 

 

 荷物をまとめ、部屋を出てすぐ、暮葉は咲夜と鉢合わせた。咲夜は暮葉の顔を一瞥し、

 

「浴場の準備ができているわ」

 

 と告げた。

 

 

「浴場ってお風呂? なんで?」

「だから敬……いえ、もう面倒ね、これを指摘するのも。妹様の寝間着の類は用意してあるから、『二人で入るように』、と──これはお嬢様のの命令でもあるわ」

「……了解」

「ああ、それと。目元は冷やしてから行きなさい」

 

 咲夜から濡れたタオルを受け取って、暮葉はおずおずと尋ねた。

 

 

「……ねえ。そんなひどい?」

「そうね。これは持論だけれど──」

 

 視線が交わる。

 

 

「──この館で、過去に囚われる事と未来を憂うことは時間の無駄よ。どちらも現在(いま)程の価値を持たないわ。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 少しぽかんとした表情を浮かべていた暮葉だったが、やがて少し笑いながら言った。

 

「あは、すこし楽観的じゃない?」

「人間なんてもともと刹那的なものよ、妖怪の前ではね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ私が選んだ本じゃないな。というか、そもそも私も読んでない本があるぞ」

「森の魔女と交流するようになってから、研究結果を差し支えない範囲で共有する機会があったのね。その時の資料を本としてまとめたものが、あれら」

「ふぅむ……」

「これも貴女の選んだ運命なのかしら?」

 

 

 水晶玉の向こうに目を凝らすレミリアを尻目に見ながらパチュリーは尋ねた。

 

 

「操る、とは確かに言うが……どちらかと言えば()()()に近いんだなこれが。自分の思う運命を、数多の選択肢、未来の可能性の中から手繰(たぐ)り寄せる。より好ましい選択を、より幸福な未来を──。この能力は、決して、未来予知なんかじゃない。何を選択したか分からないときもあるくらいだ」

 

 

 その台詞にはどこかに自嘲的な響きが含まれていたように、少なくともパチュリーにはそう聞こえた。

 

 

「ずっとだ。フランが生まれてから495年以上ずっと私は運命を手繰り寄せてきた」

 

 

 それほどまでに、フランが幸せになる未来はありえざる未来だった、ということだ。

 

「だが、ようやくだ。ようやく運命は我が手中に収まった」

 

 

 レミリアが右手を握りしめる。その仕草はどこか、フランが能力を使うときのそれに似ていた。

 

 

 

「──最後の1ピースだ。この機を逃す手はない」

 

 

 

 

 




──『VAMPIRE'S WALK』



 深夜テンションで思考と推敲をしてないので文がおかしいかもしれませんが、まあ、次回の私が上手くやるでしょう。

 お泊り会(序章)みたいなものなので嘘は言ってません。うん。



 うん。
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