いたくないあの子   作:鼠日十二

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例の如く推敲無し


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 浴場は湯気が満ちて素肌に暖かく、少し落ち着いたフランだったが……ふと背中の辺りにむず痒くなる様な視線を感じた。振り返ると暮葉と目が合う。

 

「……どうしたの?」

「いや、別に」

 

 フランの追及する様な視線をどうにか躱しつつ、暮葉は浴場の鏡の前に立った。そこに映る貧相な体躯にはやはりいくつも傷跡が残っていて──。暮葉は先程のフランの言葉と、彼女のシミ一つなく美しい肌色を思い浮かべる。

 

 やはり、私の体は醜いのだろうか。だから嫌な思いさせちゃったのかな。

 

「暮葉? 体が冷えちゃうから、早く入りましょ」

「……そうだね」

 

 ふとメイド長の言葉を思い出す。此処では現在以外に意味を持たない……。この傷跡も、意味を持たないのか? 悪い方向に思考が向いているのを自覚した暮葉は頭を振って、風呂に入って忘れてしまおうと思った。

 

「まず体を流さなくちゃ」

「良いわよ別に、最後に体を洗えば」

 

 暮葉は知らなかったが、欧米での風呂は基本的に湯船を使って体を洗うことが目的だ。日本のように『安らぎの場所』という意味は薄い。だのに何故ここまで浴場が広いのかと言えば、メイド長の趣味である。紅魔館の風呂はメイド長と魔女謹製、しかしてどこぞの読書家は一向に使う気配がない。

 

 フランに優しく手を引かれ、暮葉は湯船に足を踏み入れた。血管が膨らむ様な感覚とともに体に熱が染み込んでゆくのがわかり、思わず溜息が出る。それはフランも同じだった様で、常に垂れ下がっている眉も今はリラックスしている証の様に見えた。

 

 フランはフランで、湯船に浸かっても未だ暮葉の手を握っていた。

 

「ねぇ、暮葉。その、できればで良いんだけれど……強く、手を、握ってくれないかしら」

「いいよ」

 

 暮葉が力を入れる。これが人間の少女の全力なのかとフランは思った。吸血鬼にはとても及ばない、ひ弱な力だ。でも──ほんの少し羨ましい。

 

 力加減ができるなら、ここまで惨めには生きていない。暮葉の手を引くのさえ実際おっかなびっくりだったのだ。フランが強く握ったら、暮葉の手はきっと壊れてしまう。

 

 だから、もうフランが壊すことの無いように、その一つしかない手のひらで、強く握って欲しかった。握りしめることの出来ない私の代わりに、と。

 

 ふと目頭が熱くなって、フランは顔を湯船に浸けた。滲む涙が誤魔化せるくらいになったと思って顔を上げたら、作法でもあるのかと勘違いした暮葉がフランの真似をしていて、慌てて止めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアは幻想郷に来てから生活リズムを変えているが、基本的に吸血鬼は朝眠って夜目覚めるものである。吸血鬼としては常識に近い。だから日の光の届かない地下に住むフランにとっても、『寝る時間』というのは朝のことである。

 

 

 暮葉とフランの二人が入浴している間、十六夜咲夜は人里へ買い出しに来ていた。必要な物資のやりくりが人里内でほぼ完結しているため、品ぞろえが豊富なのである。自身の能力を使えば物量を鮮度を保ったまま仕入れることも出来、その利便性から咲夜もよく利用していた。里の人間も初めは警戒していたものの、上客だとわかると次第に態度を和らげていき、今や世間話さえする仲である。

 

 さて、贔屓にしている八百屋の主人が話すことには、何やら博麗の巫女が動いているようで。

 

「お。噂をすればだな。あれだよアレ」

 

 振り返ると、通りの奥の方で紅白がちらちら見え隠れしている。興味を惹かれた咲夜は、主人へ代金を払うとその姿を追いかけた。

 

 

「ねぇ」

「……あら。何か用?」

 

 

 紅白の巫女、博麗霊夢はとある民家から出てきたところだった。

 

「気になっただけ。何か異変でも起きたのかしら、って」

「んー……まああんたになら話してもいいか」

 

 霊夢は十数日前に人里から少女がいなくなったことを話し、こう付け加えた。

 

「その少女、どうも痛みを感じない体質だったみたいで。それが不気味に映ったんでしょうね」

「つまり、追い出されたと?」

「あくまで予想、勘程度よ。ただ──」

 

 霊夢は民家を振り返った。表札には『目倉』と刻まれている。

 

「人々がどこか落ち着かないし、ほぼ確定でしょうね。普通の人間は弱くて、妖怪になんか勝てない。だからこそ危機感や恐怖心が強いし、異常なものは排除したがるの」

 

 仕方ないことだわ、そう霊夢は締め括った。その淡白さが咲夜は少し意外だった。

 

「てっきりその少女を探しに行くのかと思ったわ」

「まさか。私は人間の味方だもの」

「……ああ、そういうこと」

 

 霊夢は言外に『私は正義の味方じゃない』と言っているのだ。裁くのは巫女の仕事じゃない、と。

 

「貴女とはお嬢様が異変を起こした時くらいしか話したことなかったけれど、その考え方は好きよ」

「あんたに好かれても嬉しくないわ」

「そう? 私は嬉しいわ。お嬢様に良い報告が出来そうで」

「それってどういう──」

 

 霊夢が何かいう前に昨夜は姿を消した。恐らくは能力によるものだろう。追いかけることもできたが、面倒だ。

 

 霊夢は溜息を吐き、歩き出しながら呟いた。

 

「目倉暮葉、ねぇ。人里の近くで死んでないといいけど」

 

死肉に集まる妖怪の処理も面倒だ。博麗の巫女はカウンターであればいいのだ──そう思う彼女は正しく『強者』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




展開がスローリィ。前書きに曲名書き続けてるけどそろそろネタ切れ。新学期は普通に忙しいし農作業は腰にくるから椅子に長く座れなくなる。こんな作者でもよろしければお付き合いください。

 目倉ってのは……まぁ家系だったってことですね。
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