いたくないあの子   作:鼠日十二

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深夜テンションで書いたらすっげぇ気持ち悪い文になったので後で消すかもしれません。でも投稿しないと書ききった感が無いので投稿はします。そのあと消すかどうかは朝の私の気分次第。


9

 

 

 裸の付き合いとは、互いに心に壁を作らず話せる間柄のことを指すと言われている。しかしこの言葉を『風呂に一緒に入ることで心の距離が縮まる』という意味でとらえることもある。それはきっと、風呂が持つリラックス効果のおかげなのだろう。そうして今も一人、湯船で溶けかかっている少女がいた。

 

「……なにしてるの?」

「浮いてる」

 

 浴場ほどに広い紅魔館の地下浴槽は暮葉に開放感を与えたようだ。いつのまにか主従関係も忘れて、湯船の中で脱力しきった暮葉の姿がそこにあった。

 

「私、あったかいの、好きだな。お風呂も、紅茶も、布団も」

「そうね、私も……」

 

 語尾を濁して合わせておいたが、本当のことを言えばフランが好きなのは暮葉の体温ただ一つであった。特に、あの滲むような血の熱さ……。知らずフランは犬歯に舌を押し当てていた。これから本当に肉を切り裂けるのだぞと期待させるように。見れば、湯船に浮かぶ暮葉はどうやらうとうとしているようだ。日頃の疲れが溶けだしているのだろうか。

 

「寝たらダメよ、溺れてしまうから」

「うー、大丈夫。起きてるよ」

「そんな寝ぼけ眼で言われても信用できないわ。もう出ましょ」

 

 そうしてフランは暮葉を軽々と湯船から引き揚げ、ついでに体を拭き、服を着せてやった。これではどちらが従者か分かったものではない。姉の『ペット』という単語を思い出しフランは苦笑した。浴場を出るころには暮葉はすっかり眠りこけており、フランは内心ドキドキビクビクしながら彼女の体を横抱きにして自室へと戻った。咲夜の手によってベッドメイキングは既に済んでおり、滑らかで仄かに冷たいシーツが火照った体に心地よい。暮葉を優しくそこに下ろし、覆いかぶさるようにその穏やかな顔を覗き込んだ。

 

「……こんな。こんな顔も出来るのね、人間って」

 

 無痛ゆえの危機感の無さからか、はたまた疲れからくる深い眠りの所為か、それとも──フランの傍にいるからか。頭を振って最後の馬鹿な考えを打ち消す。そうしてすやすやと眠る、どこか幸せそうにも見える暮葉を眺めて、ふと思った。思ってしまった。

 

「私が壊した人間も、みんな、こんな顔ができたのかしら……」

 

 それは、フランが今まで目を背けてきた事実だった。積み上げられた積み木を崩すように腕を吹き飛ばし、羽虫の羽を捥ぐように足を千切った何人もの人間。苦悶の表情を浮かべて死んだそれらすべてに訪れるはずだった安寧と幸福を奪ったのは──いったいどこの誰?

 

「あ……ごめんなさい、ごめんなさいっ……」

 

 自分が無為に散らしてきた命に尊さがある──それを受け止めきれるほどフランの心の器は強くなかった。ぽたぽたと暮葉の頬に雫が伝うのを見下ろして、初めてフランは自分が泣いていたことに気付く。自分が壊した人間の残骸が部屋の隅からこちらを見ているような気がして、悍ましい寒気がした。口の中がからからに乾く。もはや何に謝っているのかもわからないまま、熱と湿りを求めてフランは暮葉の首筋に噛みついた。ただ、今は、自分を満たしてくれるような熱が欲しかった。

 

「くれは、くれは、起きて(起きないで)一緒にいて(一人にして)よぉ……」

 

 覆いかぶさって、それでも手と手を握ることは怖くて出来ぬまま。惨めな吸血鬼は孤独と自罰の間で揺れ動き、眠る少女は首筋に牙を突き立てられてもなお安らかなままだった。

 

 

 

 

 

 

 

「次の満月まで2週間を切った」

 

 いつもなら急にやってくるレミリアに対して小言の一つでも返すパチュリーだったが、今日にいたってはその様子はない。それだけ彼女らにとって満月というのは重要なイベントだからだ。目線で着席を促すとレミリアは一つ頷き、椅子に腰かけて懐から分厚いノートを取り出した。

 

「前回は『質より量だ!』とか言って口減らしなんかを山ほど集めてきたのよね。直接的な効果は無かったけど」

「ああ……拾い物はしたが、それとてまだうまく働くかは定かじゃあない。いっそ満月に合わせてもう一度異変でも起こすか? 今度は霧じゃなく分厚い雲にして」

「今度こそ博麗の巫女に退治されるわよ。うまくいっても術の途中で巫女にやられて満月隠せなくなりました、じゃお話にならないわ」

 

 

 妖怪というものは基本的に月と相性がいい。満月はもっといい。ものすごく雑な例え方をするならば、人間にとって快晴が気分の良いものであるように、妖怪にとって満月は『狂気的にいい天気』なのだ。そしてあり方を肉体ではなく精神に依存している妖怪だからこそ、そういった影響を大きく受ける。

 

 そして、それはフランドール・スカーレットとて例外ではない。彼女の破壊衝動は満月の日にピークを迎える。

 

「そもそも月の光の届かない地下室ですら影響を受けるのだし、いまさら雲で覆っても……て感じね」

「そうなんだよなぁ……ああ、月まで行けたらグングニルでぶち壊して帰るんだが」

「月の研究が出来なくなるからやめて」

 

 冗談だよ、とレミリアは笑った。しかしそこにいつもの力強さはない。

 

「だが……いい加減手づまりなのは否めないだろう。月の影響を避けようと住処を転々とし、やがて幻想郷にたどり着き、神秘をかき集めたがそれでもまだ足りない」

「……こっちでも森の魔女と交流してなにか役立つものがないか探してはいるのだけど。人形遣いは分野が違うし、星の魔法使いはアレで結構感覚派だから当てにならないし……。今年中にはどうにかしたいのだけれどね」

「まったくだ」

 

 レミリアはたった一人の家族のことを想う。本当ならフランは一人で過ごさせる方がいいのだ。生まれ持った破壊衝動は抑圧したとて治るか分からないのだし、縛り付けるくらいなら自由にさせるべきだった。自分が普通から外れていると自覚しない方が幸せだったろう。それでも手放せなかったのは──

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……か。本当に大事なところでは何一つ役に立たないな、この能力(ちから)は……」

 

 

 

 

 

 

 




一応書いておくと、普通の吸血鬼は餌用の人間が死んだところで特にどうも思わないです。しかしこういう価値観は同族との交流などで身につく常識のようなものなので、幼いころに親を亡くし姉と心の距離が離れてしまったまま孤独に暮らしてきたフランちゃんはそのあたりの情操教育がなってないんですね。

人間に例えるなら「食肉用に家畜を屠殺していたらいざペットとして飼い始めたとき罪悪感が凄い」みたいなののクソデカ感情バージョンみたいなもんですかね。自分でも何言ってるのかわかりませんが、ニュアンスはこんなもんです。フランちゃんは特に根が優しいので背負っちゃうというか、気にしちゃうんですね。
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