死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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マフィアのボスは中学生!?

並行世界(パラレルワールド)

 

 多次元世界(マルチバース)において、無数に存在する独立した世界。

 決して交わることはなく、それぞれが別々の物語を形成している。

 世界の意志達は数多の並行世界が互いに衝突し合わないよう、細心の注意を払って厳重な管理・監視を行っていた。

 ところが、世界の意志の中に現れた裏切り者・ギュスターブの策略によって、無数の並行世界(パラレルワールド)が一つに集まり、融合を始めた。

 融合を始めた世界は互に滅ぼし合い、そしてすべてが融合されたとき、世界は完全に消滅する。

 ギュスターブの策略を止めるため、重要大事(じゅうようだいじ)は並行世界【地球】に住まう高校生・黒崎一護(くろさきいちご)とその仲間を導き、新たな並行世界へと向かった。

 

 

 

 薄暗い風景が眼前に映ってくる。

 オレの目の前は、血みどろの戦場と化していた。

 オレは仲間達とともに、顔も知らない人達と一緒に、何かと戦っていた。

 だけど敵は強力だった。爆発が起こるたびに、次から次へとオレの仲間がやられていく。

「ぐあああああ!!」

「だぁあああ!」

 ―――なに・・・これ・・・・・・

 最初にやられたのは、学校でも仲の良い友だちと、白装束のメガネの男の人。

 死体の様に動かなくなった二人の体は、黄土色に変化していた。

「やめてくれー!」

「がっ・・・」

 その次にやられたのは、オレが好意を寄せている女の子のお兄さんで、傍らには浅黒い肌の男の人がいて、共に斬り伏せられた。

 見るも無残に斬り伏せられた二人の元に駆け寄るのは、オレが思いを寄せる女の子。悲鳴を上げるその子の様子を見つめながら、オレは呆然と立ち尽くしている。

 ―――どうして・・・どうしてこんな・・・・・・

 夢であるなら早く醒めて欲しかった。

 オレの目の前で、誰かが傷つく姿は見たくない。

 ―――お願いだ・・・頼む・・・もうこんなものを見せないでくれ。

 ―――やめろ・・・

 オレが必死に思ったところで、戦いは終わらない。寧ろ、どんどんひどくなっていって、オレの仲間と無関係な人達が斃されていく。

 ―――やめろ・・・

 死臭漂う理不尽な戦場(いくさば)。オレ達と一緒に戦っていた人の中には、20代前後の女性や、小学生くらいの子どもの姿もあった。

 息をしていない・・・死んでしまったのか・・・・・・だとしても、こんなのあまりに酷すぎる。

 やめろ―――!!! やめてくれ―――!!!

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

「うわあああああああああああああ!!!」

 この世のものとは思えない悪夢を見たその少年・沢田綱吉(さわだつなよし)(14)は、豪快に布団を捲り上げてベッドから起き上がる。

「は、は、は、は、は・・・・・・な、なんだ・・・夢かよ・・・・・・」

 一護達が住む世界とはまた別の「地球」に住まう沢田綱吉こと、通称ツナが見た夢は、驚くほどにリアリティーを持ったものだった。

 全身からは尋常じゃないほどの汗を流し、拳は無意識のうちに強く握りしめられ、強張っている指が掌から離れない。

 一度深呼吸をして、落ち着きを取り戻そうとする綱吉。

 そんな彼の事を気に掛けた様子で、一匹の小さなライオンが歩み寄ってきた。

「ガウ~」

「ああ。おはよう、ナッツ」

 ライオンの名はナッツ。綱吉が個人的に保有する生きた兵器であり、普段は内気な性格だが、戦いとなると彼の良き相棒として絶大な力を振るう。

 小さな(たてがみ)からは煌々と輝くオレンジ色の炎―――死ぬ気の炎が灯されている。

 ナッツは、普通の動物とは大きく構造が異なっていた。

 このような不思議な動物を所持している時点で、彼がただの中学生ではないことは明白だ。

 それもそのはず。彼はイタリア系日本人の血縁で、その血筋を辿ると、欲望渦巻くマフィアのボスにたどり着く。

 沢田綱吉は、イタリアンマフィアの最大手であるボンゴレファミリーの10代目有力候補者だった。

「ガウ・・・」

 ナッツはボンゴレファミリーが持つ独自の科学技術の粋を集めて作られた生物兵器で、普段は綱吉が指にはめている正当なボスの証であるボンゴレリングの指輪の中に封印されている。

 綱吉の心の内を見透かし、彼の前に姿を現したナッツは、子どもの様に甘え寄ってくる。

 綱吉はナッツを優しき受け止め、小さな体を両手で掲げながら柔らかい表情を浮かべる。

「・・・なんでもないよ。ただの夢だから」

「それにしちゃ、随分と(うなさ)されていたけどな」

 不意に第三者の声が聞こえてきた。

 綱吉がその声の主に顔を向けると、二頭身の赤ん坊で首から黄色のおしゃぶりをぶら下げた綱吉の家庭教師兼殺し屋(ヒットマン)・リボーンが姿を現す。

 リボーンは不気味な怪物の姿を模った着ぐるみを着こなし「ちゃおっス!」と言って挨拶。

「うわあああ! リボーン!! なんだよその格好!?」

「お前の悪夢を再現してみたんだぞ」

「いいよそんなことしなくて! つーか、オレが見たのはそんなのじゃないから!」

「じゃあ、どんなやつだ?」

 率直な疑問をリボーンが尋ねると、綱吉は眉間(みけん)に皺を寄せながら、悲しそうに夢で見た光景について話し始める。

「なんていうか・・・・・・荒れ果てた場所で、顔も知らない人達と一緒にさ、戦ってる夢で・・・・・・それで、オレの仲間が次々に倒されて・・・・・・それから」

 その先を言うことに躊躇いを感じていた綱吉に代わって、リボーンは彼が言おうとした夢の顛末を味気なく呟く。

「死んだのか?」

 これに、綱吉は焦燥(しょうそう)(にじ)みだす。

「縁起でもないこと言わないでよ! 朝から気分悪いな」

 ナッツをベッドから下した綱吉は、パジャマを放り投げ、学校の制服に着替え始める。

 今日は祝日の土曜だが―――綱吉は学校で補習授業を受けなければならない。というのも、彼は学業に関してはとりわけ酷い成績で、何をしてもダメなことをクラスメイトから揶揄(やゆ)され、ついたあだ名が「ダメツナ」だった。

 補習を受けるのも、日頃の学業成績が芳しくないことからくるペナルティーだった。

 暗鬱(あんうつ)とした様子で階段を下り、リビングへと向かった折、綱吉の目の前の広がってきた光景は、今朝がた見た夢とはまるで対照的な光景だった。

「ギャハハハ!!! ランボさんは、世界一つよいもんねー!」

「ランボ! 走るのダメ!」

 目を点にしながら綱吉が見つめるのは、いつの間にか居候する形で住み着いたリボーンの命を狙う殺し屋兼イタリアのボヴィーノファミリーの子ども・ランボ(5)と、中華系マフィアの殺し屋・イーピン(5)。

 牛柄の服に身を包み、頭からは角を生やしたランボがけたたましく声を上げながら家中を走り回ると、辮髪(べんぱつ)がチャームポイントのイーピンが止めようとする。

 沢田家にとって、この光景は日常茶飯事のものだった。

 綱吉は喧騒とする自分の日常に、一気に引きずり戻される。

「夢は夢で嫌だけど・・・起きたら起きたですげー騒々しい・・・」

「いつものことじゃねぇか。さっさと朝飯済ましちまえよ。今日は土曜日だが、補習があるんだからな」

「わかってるよ。はぁ~」

 リボーンに促され、綱吉は母親が買い物に出かける前に作って行った朝食を摂り始める。

 そこへ、騒がしいランボが駆け寄り声を掛けてきた。

「綱吉! おまえ学校か?」

「ああそうだよ。5歳児と違って暇じゃないもんでね」

 と、鬱陶(うっとう)しいのかやや冷ややかな反応で返事をする綱吉に、ランボは腹が立った。

「ムキャ~~~! ランボさんを子ども扱いするな! こうしてやる!」

 すると、天然のアフロヘアーの中におもむろに手を突っ込んだランボは、四次元ポケットの様になんでも収納されている頭の中から、ある物を取り出す。

 彼が取り出したのは、5歳児が所持しているはずがない危険物で、一般的にそれは手榴弾(しゅりゅうだん)と呼ばれるものだった。

「な! バカ止めろ!! そんなもん取り出すな!!」

 慌てて綱吉がランボの行動を止めに掛かろうとするも時すでに遅し―――ピンを抜いた瞬間、ランボは綱吉目掛けて手榴弾を投げつける。

()ねー、ツナ!」

「うわああああ!!?」

 

 ドカーン!!!

 

 家の中で爆発した手榴弾は、綱吉本人に多大なダメージを与えるとともに、彼の朝食を木っ端みじんに吹き飛ばす。

 黒焦げになった綱吉は、一筋の涙を零しながら率直な感想を漏らす。

「・・・・・・あ・・・朝飯ぐらい食べさせてよ・・・///」

「マフィアの世界は食うか食われるかだ。いい加減自覚しろよダメツナ」

 と、リボーンが真顔でそう呟くのに対し、頑なに綱吉はマフィアのボスになることを拒んだ。

「言っとくけどな! オレは何が何でもマフィアのボスになんかならないからな! いってきまーす!」

 綱吉は(かばん)を背負って、先ほどのことを忘れるつもりで家を飛び出した。

 家庭教師であり、綱吉をマフィアのボスに仕立て上げるためにイタリアからはるばる日本へとやってきたリボーンは、口元を釣り上げる。

「やれやれ。相変わらず往生際が悪い奴だ」

 だがその直後、リボーンの第六感があることを暗示させた。

 唐突に走った電気信号に、リボーンは立ち止まり、難しそうな表情で一瞬考える。

(・・・・・・妙な気配だな。不吉な何かが起ころうとしている感じだ)

 

 朝食を食べ損ねた綱吉は、深いため息を何度も付きながら、普段通い慣れた並盛中学を目指して歩を進める。

「はぁ~・・・今日も朝から最悪だよ。オレの人生って、ずーっとこうなのかな・・・」

 リボーンが来る以前から、綱吉の毎日は最悪なものだった。

 勉強・スポーツ、何をやってもさえない自分の毎日が延々と続かと思われたある日、突然家庭教師と名乗るスーツ姿の赤ん坊・リボーンが現れマフィアのボスとして育てられる新たな生活が始まった。

 リボーンとの出会いから僅か数か月で、綱吉は否応なくマフィアとの戦いに身を投じる形となり、辛うじて生き残ってきた。

(それにしても、あの夢なんだったんだろう・・・)

 過酷な現実を生き延びてきた綱吉が見た今朝の夢は、血なまぐさいマフィアの抗争とはまた違う凄惨な戦いの光景だった。

 元来が争いを好まない綱吉にとって、精神的にも非常に重荷が掛かるものだったことは言うまでもなく、その夢が決して現実の事として起こり得ることは無いと、このときは信じていた。

(まるで、世界が滅びてしまうような、そんな感じだったけど・・・・・・きっとなんでもないよね。オレの心配し過ぎだよね)

 だが、戦いを通して目覚めた彼の潜在的能力・・・すべてを見透かす力「超直感(ちょうちょっかん)」が待ったをかける。

 この超直感で見透かしたものは、すべて現実のものとなる。それを誰よりも解っていた綱吉は、途端に冷や汗を浮かべ硬直。

(うそだよな・・・・・・絶対にそんなことないよな・・・・・・)

 と、自分に言い聞かせた直後―――

「おはようございます、10代目!」

「おっす、ツナ!」

 前方から綱吉に向けて声がかかる。

 手を振って呼びかけるのは、綱吉にとっては無二の親友とも呼べる存在で、ボンゴレファミリーの立派な構成員でもある二人の少年。

 自称綱吉の右腕と語る銀髪のショートヘアが特徴の日系イタリア人のクォーター・獄寺隼人(ごくでらはやと)(14)と、長身痩躯(ちょうしんそうく)の野球少年・山本武(やまもとたけし)(14)はともにボスである綱吉を守護する嵐と雨のリングを所持する者達である。

「おはよう。獄寺君。山本」

 二人の元に歩み寄る綱吉の表情は、物憂(ものう)き気味だった。

「朝から浮かない顔してんな。悪い夢でも見たのか?」

「うん。ちょっとね・・・」

 三人横一列に歩きはじめた直後、山本が「あ、そうだ」と言ってからおもむろに呟く。

「夢っていや、オレ今朝な! 変な夢見たんだ。見知られぬ連中と混じって、戦ってる夢!」

「なに!? てめーも同じものを見てたのか、野球バカ!」

()って・・・獄寺君もそうなの!?」

 綱吉は獄寺と山本が、二人揃って自分が見た夢と同じものを見ていたことに吃驚する。

「いや~、実に奇妙な夢でしたね。だが気に入られねぇのは、なぜ10代目の右腕であるこのオレが、真っ先に敵にやられなきゃならねぇのかってことです!!」

 綱吉が見た夢の中で、獄寺は真っ先に敵の攻撃を受けて爆死した。たとえ夢の事でも、獄寺は非常に悔しい思いでいっぱいだった。

 そんな獄寺を呆然と見つめる綱吉の傍ら、山本は「あははは! そいつは気の毒だなー」と言って笑い飛ばす。

「んだと!! てめーバカにしてんだろ!?」

「してねーって。だってそれ夢なんだろ?」

「夢のことでもな! てめーにだけはバカにされたくねぇんだよ、野球バカ!」

 一触即発の獄寺と山本―――厳密には、山本に敵意は無い。

 綱吉はおどおどとしながら、二人の仲裁に入る。

「ま、まぁまぁ! 獄寺君も落ち着こうよ!」

「10代目がそこまでいうのなら・・・」

 喧嘩を(なだ)めた綱吉は、再び歩き出す。そして、夢の事が割り切れない様子で、辛そうな顔を浮かべながら呟いた。

「どっちにしても、オレは見ていて悲しかったよ。たとえ夢でもさ・・・獄寺君や山本、それに他のみんなが傷つく姿は見たくないよ・・・」

「10代目・・・」

 綱吉は何よりも優しい性格だった。ゆえに、現職の穏健派ボスであるボンゴレファミリー9代目からでさえ、「マフィアのボスとしてはあまりに不向き」と評価されている。しかしそれこそが新たなボンゴレボスに相応しい資質であるとリボーンらは前向きに評価しており、彼に随行するファミリーの構成員も綱吉の人柄に素直に惹かれたのだ。

 綱吉が悲しそうに顔を歪めると、獄寺と山本も胸が締め付けられる。

 山本は唸りながら、自分なり彼を元気づける方法を考え、そして思い切って言ってきた。

「なぁ! このまま遊び行かね?」

「えっ」

「ナイス野球バカ! そうしましょう、10代目!」

「えー?」

「あんまし、夢の事で深く考えすぎない方がいいっすよ」

「獄寺君・・・」

 すると、獄寺は飛び切りの笑みを浮かべながら、親指を突き立て綱吉に言う。

「夢の中ではやられちまいましたが! 現実のオレはそう簡単にはくたばりませんので!!」

「そういうこと。な、遊ぼうぜ!」

「でも、学校・・・」

「どうせ今日、補習だけだろ?」

「そっすよ。世の中休日ですし、たまには息抜きも必要っす!」

「よっしゃー! じゃあこの際だからみんな呼ぶか!」

「アホは呼ぶんじゃねェぞ、アホは!」

 二人の何気ないやりとりを見ながら、綱吉は悟った。

(もしかして、二人ともオレに気を遣って・・・あ、ありがとう)

 パッとしない日常を送る中で、彼が唯一生きていてよかったと思う瞬間は、仲間と過ごすかけ替えのない時間だった。苦しい時も楽しい時も、常に一緒に過ごしてきた仲間達がこうして目の前にいるだけで、綱吉は心の底から幸せであると実感できた。

 獄寺と山本の意見を受け入れると、綱吉は補習をサボタージュして、彼らとともに街へと出向いた。

 だがそれが、彼らが過ごす最後の日常だとは夢にも思わず・・・・・・・・・

 

 

並盛町 並盛ショッピングモール

 

 山本の提案で他の仲間も誘った結果、当初予定していた人数を大幅に超す人数が集まる形となった。

「ぐはははは!!! ランボさんファミリーのおとおりだい!」

 沢田家で留守番をしていたランボとイーピン、リボーンは勿論、ランボ達と一緒に居候をしている少年・フゥ()に、綱吉と同い年で偏差値の高い中学に通う少女・三浦(みうら)ハル(14)、隣町の黒曜中学から転校してきた霧のリングの守護者代行を務める眼帯の少女・クローム髑髏(どくろ)(14)らが一堂に会する。

 大変賑やかな大所帯ができ上がる中、獄寺は溜息をつきながらボソッと本音を呟く。

「ったく・・・アホどもは呼ぶなって言ったのに」

「ハヒ!? アホって誰の事ですか?」

 アホという言葉に過剰に反応したハルは、獄寺と口論を勃発させる。

「すごい大所帯・・・でも」

 困惑しながらも綱吉は内心非常に嬉しかった。

 というのも、この大所帯の中に含まれる一人の少女の存在が大きかった。

 それは綱吉の想い人であり、クラスのメイトでもある笹川京子(ささがわきょうこ)(14)。容姿端麗で綱吉曰く「太陽の様な笑顔」が魅力の所謂美少女。学校ではマドンナ的な存在だった。

(やったー! 京子ちゃんも来てくれたー!!)

 獄寺達と打ち解けあう前、綱吉にとっての生き甲斐はほとんど彼女だった。

 勿論今でもその気持ちは変わらず、リボーンを切っ掛けに彼女と親しくなってからは、より強い思いを抱くようになった。そして、一般人で綱吉がマフィアのボス候補であることを知っているのは、この中では京子とハルだけだった。

 綱吉は京子の笑顔を一目見ただけで、心の中のモヤモヤとしたものがすべて吹き飛び、彼女の天然無垢な優しさに包まれている感じだった。

 できることならずっとこのぬくもりの中でいたいと、綱吉は思った。

 だが直ぐに、現実の声が綱吉を呼び戻す。

「おい、ツナ。ツナ」

「え?」

 呼びかけて来たのは、山本の肩に座ったリボーンだった。

「な・・・なんだよ?!」

「サボった分の勉強は、帰ったらねっちょりやるからな」

 この言葉を聞いた途端、一気に綱吉は絶望に淵に追いやられた。

「ねっちょりヤダー!!! ああああああああああああ!!!」

 リボーンは世界的にも有名なヒットマンであるとともに、虹の呪いによって赤ん坊の姿に変えられたアルコバレーノという特異な存在で、マフィア界ではその名を知らぬ者はいない。

 そして、彼の教育方針はスパルタだった。しかも、度を超えたサディスティックな教育方針は綱吉を何度も絶望に淵へと追いやってきた。

 綱吉としては、リボーンのスパルタ授業を受けるぐらいなら死んだ方がマシだという考えが強かった。

 一人喚く綱吉を微笑ましく傍観しつつ、フゥ太が行きたい場所を口にする。

「ねぇ、ツナ(にい)。ぼくゲームセンターいきたい!」

「おっ。勝負すっか尉」

「まけねーぞ!!」

「ハルは、もぐらたたき得意です!」

 と、盛り上がりを見せていたそのとき―――京子とクロームはあることに気づき、きょろきょろと周りを見始める。

 綱吉は二人の様子を怪訝そうに見つめながら尋ねる。

「どうしたの京子ちゃん? クロームも?」

「ボス・・・その・・・」

「ツナ君。ランボ君がいないよ」

「えっー!」

 京子に言われ慌てて辺りを見渡すと、先ほどまで一緒にいたはずのランボが忽然(こつぜん)と姿を消していた。

「あ・・・ホントだ・・・!」

「アホ牛の奴どこ行きやがった?!」

 全員で捜索を始めようとした直後―――近眼のイーピンが度数の高いメガネを掛けながら、行方不明の人物を指さす。

「イーピン、はっけーん!」

 イーピンの指差す方角にはペットショップがあった。

「あれは・・・!」

 目を凝らして見ると、店頭の窓ガラスの向こう側にランボの姿を捕えた。

 ただし、ランボは犬や猫を入れておくケースの中に収まっており、そこですやすやと指をくわえたまま眠りこけている。

「い、違和感ないけどさ!?」

 綱吉は慌ててランボを引き取りに向った。

 そして、案の定定員からは厳しい指摘を貰い、平謝りをすることになる。

「すいません! すいません! 本当ごめんなさい!」

 責任感の強い綱吉が必死で頭を下げる傍ら、ランボはイラつく獄寺の横で鼻の穴をほじくっている。

(あ~・・・京子ちゃんの前でカッコわるー!)

 好きな女の子の前で惨めな姿をさらしてしまった事を、男として極めて遺憾に思う綱吉は、気恥ずかしそうに頬を紅潮(こうちょう)させながらランボに声を掛ける。

「もう! こんなことすんなよ、ラン・・・ぼ?!」

 しかし、ランボはまたしても姿を消していた。

「ランボ? ランボ!?」

 そして、ランボの足音が聞こえたかと思えば、斜向えのランジェリーチョップからランボは売り物のブラジャーを持ちだし、それを眼頭に当てていた。

「目んたま魚雷、はっしゃー!!」

 善悪の区別がつかないランボの破天荒な行動に振り回される綱吉は、周りから向けられる冷ややかな視線に怯えつつ、天に向かって声を張り上げる。

「もう~~~///ランボ様ゆるしてください~~~! おねが~い!」

 

 ひと騒動があったものの、気を取り直して綱吉達は楽しい一時を過ごす。

 ゲームセンターではシューティングゲームやもぐらたたきなどで盛り上がり、CDショップでお気に入りの音楽を聞いたり、友だちと楽しくプリクラを撮ったりと、束の間の平和を満喫していた。

「ツナ! ランボさんのどかわいた~!」

「わかった、わかった」

 勿論、楽しみの中にも苦労はあった。

 5歳児であるランボとイーピンの世話をしながらの休日は、決して楽なものではない。

 だが綱吉は基本面倒見がよく、心優しい性分であるゆえにランボ達からも好かれていた。

 自腹を切ってランボ達にジュースを奢ることもまた、彼は嫌な顔一つせずに行うことができるのだ。

「はぁ~」

 少々疲れが体に出始めた綱吉は、ぐったりと丸テーブルに突っ伏した。

 すると、誰かが綱吉の為にジュースの差し入れを持ってきてくれた。

 綱吉が顔を上げると、屈託のない笑みを浮かべる京子が綱吉に労いの言葉を掛けて来た。

「おつかれさま、ツナ君」

「え! い、いやこのくらい・・・///いつものことだから!」

「うふふ」

 こうして京子と二人きりになれる時間は綱吉にとって大変貴重なものだった。

 ついつい彼女の前だと上がりやすい純な一面を持つ綱吉だが、不意に京子が呟いた。

「あのね、ツナ君。私ね・・・」

「え」

 京子は気分が悪いのか、どこか暗い表情を浮かべている。綱吉が心配そうに見つめると、おもむろに言葉を紡ぎ始める。

「今日、悪い夢を見たの。よくわからないんだけど・・・ツナ君が知らない人達と一緒に何かと戦っていて・・・それでね・・・」

「え!」

 京子の言葉に、綱吉は自分の耳を疑った。獄寺と山本が見たという夢を、京子までもが見ていたとは、流石に予想外の展開だった。

(ま、まさか・・・もしかして京子ちゃんも、同じ夢を・・・!?)

 これが偶然によるものなのかと、綱吉は心底疑念を抱く。

 京子は罰の悪そうな顔で、夢の顛末を語ろうとするのだが、なかなか先を言えない。

「それで・・・ツナ君がね・・・」

 小刻みに震える京子の握りしめられた手。

 すると、京子は(いささ)か潤んでいるかのような瞳で綱吉の顔をじっと見る。

「え・・・」

 思わず面を喰らう中、綱吉のことを凝視しながら、京子は安堵した様子で強張った顔を緩め、和らいだ顔となる。

「私、こうしてツナ君が無事な姿にホッとしてるんだ。でも、ツナ君は私の知らないところできっと、危ない戦いをしているんじゃないかって思うと・・・・・・すごく怖いの」

「京子ちゃん・・・・・・」

 綱吉は不本意にも、京子をマフィアの戦いに巻き込んでしまったことがある。その事について彼は彼なりに重い責任を感じていた。

 だが京子はそんな綱吉の優しさも身勝手な責任感もすべてひっくるめて、友達以上の大切な存在として認識し、彼を受け入れた。

「無茶だけはしないで」

 無意識のうちに綱吉の手を握りながら、京子は率直な自分の気持ちをぶつける。

「無茶なんてしなくていいから・・・・・・ただ・・・・・・元気な姿でいてほしいから」

「//////」

 たちまち紅潮する綱吉の顔が、熟れたリンゴの様に変わる。

 しばらくして、京子は自分がしている事に気が付き、慌てて綱吉の手から自分の手を離した。

「あ///ご、ごめんなさい!」

「いやいや!!!」

 無意識化の行動とは言え、綱吉の手を握りしめていた事に京子の気恥ずかしさを覚え、綱吉に至っては思考回路がオーバーヒートを起こしている。

(どうしよう・・・間近で京子ちゃんに見つめられちゃった・・・しかも手まで握ってくれた・・・///)

 何となく二人の間に流れる気まずい空気。

 誰でもいいからこの空気に風穴を開けて欲しいと、切に二人が祈ったところ、思わぬ形で風穴が開けられた。

「おおぉぉ!!! 京子ぉぉ!!! 沢田ぁぁ!!!」

 山鳴りの様な大声とともに、二人の前に現れたのは―――ボクシングに命を捧げる京子の実の兄にして、ボンゴレ10代目ファミリーの晴の守護者・笹川了平(ささがわりょうへい)(15)だった。

「うわああ!? お、お兄さん・・・!?」

「お、お兄ちゃん! どうしてここに?」

「勿論ロードワークだ! この辺りを走っていたら、ちょうどお前達の姿を見かけたのでな!」

「そ、そうなんですか・・・」

 心臓に悪い声だったと内心呟く綱吉。

 了平の声を聞いたのは、綱吉と京子だけではなかった。獄寺や山本もその声を聞いていた。

「げっ! 芝生頭(しばふあたま)!?」

「あれ? 先輩もいたんっすね」

「おお! タコ(ヘッド)! 山本! それにランボ、イーピン、クローム、ハルもいっしょかー!」

「何しに来たんだよてめー。アホはもう定員オーバーだっつーの!」

「なんだと!? 誰がアホだと!!」

 売り言葉に買い言葉というのは、正に獄寺と了平の為にあるようなものだった。

 二人は出会った当初から折り合いが悪く、互いに独特の呼び名で罵り合いながら常に一触即発の状態を醸し出していた。

 綱吉は危険な臭いを漂わせる二人の様子を見ながら、慌てて仲裁に入る。

「ちょ、ちょっと! 二人とも喧嘩しないで! 獄寺君もお兄さんも落ち着いて!」

「なに群れてるの、君達?」

 そのとき、綱吉の背中に冷たい殺気が走った。

「こ、この感じは・・・///」

 油の切れたロボットのように、首をゆっくりと動かして後ろを見ると、「風紀委員」という腕章を付けた学ランを羽織る黒髪の男が現れた。

 その男こそ、並盛では知らぬ者はいないとされる不良の頂点に君臨する孤独を愛する存在。同時にボンゴレ10代目ファミリーの雲の守護者・雲雀恭弥(ひばりきょうや)

「やっぱり雲雀さんだ―――!!!」

「僕の前で群れると・・・咬み殺すよ」

 雲雀は群れる者が兎に角嫌いだった。子どもも大人も関係なく、群れる対象は真っ向から排除するという極めて武闘派な性格で、ただならぬ殺気に満ち溢れた表情を浮かべながら、隠し持っていた仕込みトンファーを構える。

「ひ、雲雀さん!! こ、これには事情がありまして・・・・・・ぼ、ぼくたちけっして雲雀さんを怒らせるつもりはちっとも・・・!」

 綱吉は雲雀の強さ、恐ろしさを良く知っていた。下手に彼を刺激すると、自分がどれだけ惨めな思いをするかわかったものじゃない。

 平謝りでもなんでもいい。とにかく、彼を刺激させずにこの場から立ち去るのが、急務であると思われた。

「あれ?」

「ハヒ?」

 綱吉が命懸けで雲雀を説得しようとした直後。彼らは信じられない光景を目の当たりにする。

「なんだ?」

 唐突に目の前に(そび)え立っていた建物の上に灰色のオーロラが現れたかと思えば、オーロラは忽ち建物を飲み込み、物質を粒子(りゅうし)と言う極めて小さなものへ分解していった。

「え!?」

 それだけじゃない。周りを見渡せば同じようなオーロラが至る所に現れ、綱吉達の目に映る光景・・・ビルから車、街に至るまですべてを飲み込み分解していった。

 そして、分解された建物から現れたのは無数の怪物。翼を生やした化物だった。

「な、なに!?」

「ハヒ!! よくわかりませんが、デンジャラスなことが起こりました!!」

 綱吉達は何の前触れもなく突然現れた怪物に目を奪われ、その場に立ち尽くしていると、飛んできた怪物は灰色のオーロラによって綱吉と京子を分断する。

「っ! 京子ちゃん!」

「京子!!」

「ツナ君!! お兄ちゃん!!」

「こいつは一体・・・?!」

 綱吉と了平らは、京子の方へと駆け寄った。

 京子は綱吉達に語りかけながら、オーロラを通り抜けることができない様子だった。

「京子ちゃん! 京子ちゃん!!」

 綱吉はオーロラを強く叩いて、目の前の京子に強く呼びかける。

 だが、オーロラはいくら叩いたところで壊れる様子は微塵も無く、綱吉達は途方に暮れてしまう。

「どいていろ、沢田! 待ってろ京子!! オレが助けるぞー!!」

 了平は命よりも大切な妹を救出しようと、バンテージをした拳をオーロラ目掛けて突き立て、渾身の一撃を放つ。

極限太陽(マキシマムキャノン)!!!」

 細胞1つ1つのエネルギーを100パーセント、右手の拳に集中させることで圧倒的な破壊力を生み出すパンチが炸裂すると、目映い光が漏れ出る。

 だが、そのパンチを以てしてもオーロラは破壊されず、依然として京子と綱吉達は分断されてしまっている。

「く・・・オレのパンチが通用しないとは!!」

「そんな・・・京子ちゃん!!」

 と、その時だった。

 オーロラで遮られた綱吉側の世界の景色が昼から夜へと変わり始めた。

「え・・・・・・!」

 先程まで月も出ていない昼の時分が、瞬く間に暗黒が支配する夜へと変わる。

『ツナ君! ツナ君! ・・・・・・』

 オーロラの向こうで綱吉に呼びかけをする京子の声が徐々に聞こえなくなっていった。

 そして、オーロラの色が濃くなると共に京子の姿が完全に見えなくなった。

「そんな! 京子ちゃん! 京子ちゃん!」

「京子ぉぉぉ―――!!!」

「くそ! 何が一体どうなってるんだ・・・・・・!?」

 その時―――綱吉の脳裏に浮かんだのは、今朝方見た夢の光景。

(まさかこれって・・・・・・オレが見た夢の・・・・・・? そ、そんな馬鹿なことが・・・だってあれは単なる夢なんだ! 現実に世界が終るなんてことがあっていいはずがない!)

 そう強く思いたくなる綱吉だが、実際に目の前で変なオーロラが現れたり怪物が出てくれば、否が応でも現実であり得ないことが起きているのを認めざるを得なくなる。

 ―――本当に今日、世界が終ってしまうの・・・・・・?

「うわあああああ!」

 次の瞬間。オーロラをつき破って、何かが勢いよく飛び出してきた。

 綱吉

は衝撃によってその場に体を叩きつけられる。

 そして、ゆっくりと体を起こして目の前を見ると、そこには見知らぬ男が噴水の上に立っていた。

 ショートシャギーの藍色の髪に細目で鼻が少し高い青年だった。よく見ると、青年はTシャツの上から紅いジャケットを羽織っていて、白いライオンの形をしたネックレスを首からかけていた。

「一体何なんだ?」

「どこのファミリーの回しもんだ?!」

 行動の読めない分には反射的に恐怖心が湧きたってくる。

 青年が綱吉達の方へとゆっくりと近づき、口を開く。

「どうやら、この世界の崩壊が始まったようだね」

「てめぇ、何もんだ!?」

 獄寺が喧嘩腰に当たり前の質問をすると、青年は徐に人差し指を上に向けて来た。

「え」

 怪訝(けげん)そうに綱吉も空を見上げる。

 すると、頭上で浮かんでいた満月が突然惑星の形へと姿を変えたと思えば、手品かイリュージョンなのか、無数に分裂を始め―――綱吉達と青年の周りに散らばった。

「なに・・・これ・・・」

 奇妙な現象を前に、戸惑いばかりを募らせる綱吉。

 すると、無数の惑星のうちの一つが別の惑星と衝突を始める。

「うわあ!」

 次の瞬間。綱吉達の脳裏に世界のビジョンが浮かび上がり、いつの間に傾いたビルが目の前に横たわっていた。

 青年は傾いたビルを上下さかさまに歩きながら一歩、また一歩と綱吉達に向かって近づいてくる。

「いきなりなにすんだ!」

「あぶねーだろ!」

「ランボさん、本気で怒ったもんねー!!」

「“世界の意志”による侵略が始まったんだ」

「なんだって? 世界の・・・・・・そんな知り合いはオレたちにはいねーぞ!」

 支離滅裂と訳の分からない事を言い始めた青年に声を荒げる獄寺。青年は更に続けて言ってくる。

「世界を救うためには、君達は崩壊を免れている世界から仲間を集めなければいけない」

 言い残すと、青年の姿がだんだんとオーラによって見えなくなっていく。

 オーロラは綱吉達にさまざまな場所の景色を見せては、彼らに何かを伝えようとしていた様だった。

 気がつくと、綱吉達は京子と別れた場所で呆然と立ち尽くしていた。

 街は不気味なほどに静まり返っていた。さっきまで怪人が空を飛んでいたのに、今はそんな物の影すら目に映らない。

「っ・・・・・・一体何が・・・・・・って! 京子ちゃん!?」

 綱吉は一瞬呆けてしまったが、京子が居ない事実に気付くと、慌てて捜索へと向かった。

「10代目!」

「待て沢田! オレもいくぞー! 京子ぉぉぉ―――!!!」

「オレたちも探すぞ!」

 綱吉を追う形で、獄寺達も京子を探しに行く。

 あの青年と会っている間に、京子はどこへ消えてしまったのか・・・

 京子の身の上を心配しつつ、綱吉は全力疾走で街を駆け抜ける。

(京子ちゃん・・・・・・無事でいてくれ!!)

 

 

 街は大変なことになっていた。

 人々が何かに怯えた様子で逃げ惑っている。

 その理由は、オーロラの出現に伴い何処からともなく現れた、見たことも無いような異形の怪人が無差別に襲いかかって来たからだ。

 右も左もわからず、ひたすら逃げ続ける人々。

 だが、そんな彼らの行く手を阻むかのように現れる灰色のオーロラと、そのオーロラによって崩壊が加速度的に進む街が崩れ去っていく様子が、人々の恐怖心を駆り立てる。

 綱吉は夢の光景とはまた異なる世界の崩壊に直面しながら、無我夢中で京子の捜索を続けていた。

 その直後。突如として重厚な鎧に身を包んだ怪人が現れたと思えば、人間に対して攻撃を開始した。

 人の言語では聞き取れないような独自の言葉で人々を恐怖させ、そして武器を振るい次々と人間を手に掛ける様は、何とも(おぞ)ましい。

 周りのことなど気にする余裕も無く、綱吉は自分の命を永らえるだけでも精一杯だった。

 怪人達から逃げ続けていた綱吉だが、不意にオーロラが目の前に現れその中を潜ると、急に辺りが暗くなり、頭上から雨が降り注ぐ。

「あれ・・・!? なんで急に雨が・・・・・・」

 その直後のことだった。

 人の断末魔が聞こえて来たかと思い振り返れば、先ほどとはまた異なる種類の怪人が人の生命エネルギーを奪い取って、殺している光景が見えてきた。

「うわああ!」

 綱吉は敵から我武者羅(がむしゃら)に逃げ続ける。

(京子ちゃんもきっとオレと同じような目に遭っている違いない。できれば無事であってほしいけど・・・難しいかもしれない。でも・・・無事でいて欲しい!!)

 一縷(いちる)の希望を信じ、綱吉は怪人達から逃げ続けた。その後、何度もあのオーロラを潜り抜けた。

 オーロラを潜り抜ければまた別の光景が広がり、そしてまた別の怪人や化け物の姿が綱吉の目の前に広がってくる。

 綱吉はよくあるSF映画か、アニメの光景と酷似した目の前の状況に最早理性が付いていけない様子であった。

「オレが一体何をしたって言うんだよ~~~!!!」

 思わず心の叫びを口に出した、まさにその時だった。

『ツナ君! ツナ君!』

 一瞬自分の耳を疑いながら、綱吉は名前を呼ばれた方へと振り返った。

 オーロラの向こう側。捜していた少女が立っていた。

 笹川京子だ。

「京子ちゃん!」

 綱吉は心から安堵すると、オーロラの向こう側の京子の元へと近づいて行く。

『無事だったんだ、ツナ君!』

「なんとか! でも、無事っていえる状況かな、これ?!」

 誰が見ても、この状況が無事であると自信を持っている真面な人間は一人としていないだろう。もしも居たとすれば、それは元々が狂っているのか、もしくは相当な阿呆なのだろう。

 いや、それよりも京子を助けるには一体どうすればいいのか、綱吉がそんな事を考えていた時だった。

 京子が綱吉の後ろを注視し、目を見開き始めた。綱吉は不審に思って振り返る。

 彼女が驚く理由が直ぐに分かった。振り返った先に立っていたのは、綱吉と瓜二つの顔を持つ人間だった。

「オレ・・・・・・?」

 顔だけじゃない。今着ている服も靴も、何もかもが全く一緒。ただひとつ違っているとすれば、そのものから発するこの上もない異様な気配。

 すると、もう一人の綱吉は不敵な笑みを浮かべると共に、異形の怪人の姿へと変わった。

「あ!」

『ツナ君! ツナ君!』

 綱吉の身に危機が応じようとした瞬間。京子がオーロラを強く叩きはじめた。

 京子は親しい人物が傷つくことを好まない心優しい性格だった。特に、今目の前にいる綱吉は京子にとって単なるクラスメイトでも、友人とも言えない掛け替えのない存在だ。何としてもオーロラをつき破って綱吉の元へと行こうとしている。

 だが、オーロラは了平の自慢の拳でも壊れなかったのだ。京子の力ではびくともしない。いくら強く叩いたところで、皹一つ入ることはおろか、全てを弾力のあるプラスチックの様に弾いてしまう。

 綱吉自身の問題だが、彼は恐怖心で体が硬直している。

(やばい・・・! こいつ確実にオレを殺そうとしている・・・どうしよう///)

 仮にもマフィアのボスとしての試練を何度も掻い潜って来た綱吉は、死ぬ気で戦えば普通の人間よりは戦闘力は遥かにあると思われる。

 しかし、それは飽く迄も人間を基準にした敵と戦う場合だ。目の前にいきなり現れた怪人と戦って勝てる自信は皆無に等しい。

「チクショー!! こんなものなのか!!! ・・・・・・世界が終わる日って言うのは・・・・・・」

 綱吉はゆっくりと歩み寄ってくる怪人を見ながら悔しさのあまり声を荒げる。

 拳を強く握りしめ、理不尽なこの現実の問題に直面し、嘆き悲しむしかないのか・・・そう諦めかけた時だった。

 

『希望を捨てるな、X世(デーチモ)

 

 終わりゆく世界と人生の終焉に諦観を抱いていた綱吉の耳に、澄んだ男の声が聞こえてきた。

 ピカーン。

 綱吉の右手に嵌められた大空のボンゴレリング、もといボンゴレギアが光り輝いたかと思えば、目の前に現れたのは―――自分と瓜二つの顔を持つ初代ボンゴレファミリーのボス・ボンゴレⅠ世(プリーモ)

「あ・・・あなたは・・・・・・」

『大切なものを護るのだろう? ならば、死ぬ気で戦え。それ以外に道は無い―――』

 特殊な霊魂的な存在として、数百年という時を経て子孫を激励する初代ボンゴレのボス。

 激励を受けた綱吉は、おもむろにズボンのポケットから、「27」と書かれたミトンと錠剤を取出す。

「―――オレは、逃げない。京子ちゃんを助ける・・・・・・なにがなんでも・・・・・・死ぬ気で・・・助ける!」

 強い決意と覚悟を胸に抱くと、綱吉は死ぬ気丸と呼ばれる錠剤を2錠服用。

 その直後、ミトンが目映い光を発すると同時に赤オレンジ色に輝く鋼鉄製のグローブへと姿を変え、弱々しい印象だった綱吉の瞳が済んだ橙色に変わる。

 そして何よりも特筆すべき点は、その額から煌々と輝く炎が灯されたこと。

 死ぬ気になることで生まれる生命エネルギー。それが【死ぬ気の炎】である。

「ツナ君・・・・・・」

 大切な者を護るために戦う事を決めた綱吉の背中は、京子にとってどこか近くにあるようで遠いもののように感じた。

 そんな京子に綱吉は振り返ると、祈るような表情で京子に柔らかい笑み浮かべる。

「安心しろ。オレが君を守ってみせる」

 京子は、思わずドキっとしてしまい頬を紅潮させる。

「いくぜ」

 グローブに澄み渡った死ぬ気の炎を全身から発した。

 その瞬間。京子と綱吉とを遮っていたオーロラは、ガラスが割れるかのように砕け散る。

「きゃ!」

 京子が衝撃によって後ろに飛ばされる。綱吉は目の前に怪人達に向って飛んで行く。

 怪人達からの攻撃を、マフィアとの戦いで鍛え上げられた反射神経で避ける綱吉。超高速で移動する怪人達を炎の逆噴射を利用して追いかける。

「逃がすか」

 普段とは打って変わって、非常に冷静な態度で状況を把握する綱吉は、目にも止まらぬ速さで動き回る怪人達の動きを止めるため、リングからナッツを呼び出す。

「ナッツ。頼む」

「ガオ!」

 通称“(ハイパー)死ぬ気モード”と呼ばれる状態となった綱吉とナッツのコンビネーションは、折り紙つきだった。

 綱吉と同じで普段は弱腰のナッツも、いざ戦いとなれば漲る力で敵を殲滅する。

 そして、高速で動き回る怪人の動きを封じる秘策をナッツは仕掛ける。

「ガオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 咆哮を上げると同時に、怪人達の動きが突如として鈍くなる。

 よく見ると、怪人達の足が石と化している。ナッツが放った咆哮には、敵を石化させる力が秘められており、綱吉は一気に形勢を逆転させた。

「覚悟しろ」

 高速で動き回っていた敵が、時間が止まったかのようになれば、赤子の手を捻る様なもの。倒すことに苦労はしなかった。

 綱吉は炎の推進力で敵に接近すると、怪人の肉体の周囲を超高速で移動しながら、敵の器官を片寄らせる。

X(イクス)ストリーム」

 大空属性の炎によって器官を片寄らせられた怪人達は、身動きが取れなくなるとともに、炎の熱に焼かれて消滅する。

「ツナ君!!」

 怪人を(たお)した綱吉の元に、京子が駆け寄ってきた。

「ツナ君!! あああ///」

 京子は綱吉の首元に手を回すと、彼が無事な姿に安堵し、声を震わせながら涙を流す。

「よかった・・・ほんとに・・・///」

「・・・・・・」

 普段の綱吉なら兎も角、(ハイパー)死ぬ気状態となった彼は寡黙に京子の背中に手を回し、彼女が泣き止むのを待った。

 そして、泣き止んだ京子に和らいだ表情を見せると「みんなの元に戻ろう」と言って、彼女を連れてその場を離れようとした。

「お前がボンゴレX世(デーチモ)・・・沢田綱吉か?」

 不意に、第三者からの声が聞こえてきた。

 綱吉と京子が声のした方に目を向けると―――黒いジャケットにレザーパンツ、首からジャラジャラとチェーンをぶら下げた二枚目の男が立っていた。

 男は不敵な笑みを浮かべながら、綱吉と京子のことを見ている。

「誰だ?」

「俺はギュスターブ。世界の意志だ」

「世界の意志・・・だと? そいつがオレに何の用だ?」

「この世界のすべてをいただきに参上した」

「なに?!」

「どういうことですか?」

 ギュスターブの言葉に耳を疑う綱吉と京子。

「世界には色々と面倒な力を持った連中がいるんだが、お前はその中の一つだ。よってここで今―――」

 左手を掲げると、ギュスターブは黄土色に輝くチェーンを出現させ、それに炎を灯す。

「その命、貰い受ける」

 

 

 

 

 

 

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