死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

7 / 17
ついにツナが・・・・・・


大空が闇に染まる時

「ぐ・・・ッ・・・」

 背中に走る激痛。

 深く皮膚へと食い込む太刀筋の感触。

 シンは体勢を崩して前かがみになるが、辛うじて意識を保つ。

(今の一太刀はあの化け物ではない。刀で斬られた感じだった・・・!)

 虚(ホロウ)はシンに対して敵意は向けているが、この千載一遇(せんざいいちぐう)の機会を前に何故か攻撃を加えようとしない。

 シンは確信した。こいつは俺を弄(もてあそ)んでいるのだ、と―――

(ふざけた真似をしてくれる・・・・・・・・・! この化け物といい、その裏で糸を引いている黒幕といい!)

 斬られた背中の傷の痛みを必死にこらえ、シンは声高に周囲に向けて叫んだ。

「誰だ!!! どこに隠れている!! 出てこい!!」

 このとき、シンを斬った張本人である十二使徒(エルトゥーダ)シャーフは頭上からこの様子を見下ろし、終止不敵な笑みを浮かべている。

「おや。虚(ホロウ)にやられたということではないことに気がついてしまったようですね」

〈そのようですね〉

頭に中に入り込んでくるのは、シャーフが作り出した虚(ホロウ)の声。シャーフは、暗く覆われ次第に雨が降り始める周りの景色に溶け込むように姿を隠す。

「彼の無月(むげつ)の力は、少々面倒そうです。あの傷では奥義では使えないでしょう。データは充分に採取できました。ここは高みの見物と洒落込(しゃれこ)みましょうかね」

〈そうしていただけると助かります〉

 虚(ホロウ)との念話を完全に経ったシャーフは、口元を釣り上げその姿を闇に紛れさせる。

「さて、回収した例の死神三名のデータを元に創り上げた“暴力”を司る私の改造虚(ホロウ)“ゲヴァルト”相手にどこまで持ちこたえられますかな―――不動の龍騎士」

 

 雨が本格的に強く降り始めた。

 背中に思わぬ傷を負ったシンと改造虚(ホロウ)ゲヴァルトの戦いは更に激化していった。

 空中から容赦なく斬りつけるゲヴァルトに対して、完全に防戦一方の状態。辛うじて攻撃を受け止めるも、強い衝撃が伝わるたびに背中から出血を伴う。

着実にシンの生命力を削いでいく。

「ぐっ」

全身に漲っていたはずの力がここにきて加速度的に抜けていく。

シンは苦痛に顔を歪ませ、頭上から強く降り注ぐ大粒の雨を被る。

ゲヴァルトは凶悪そうな瞳でシンの足元目掛けて右腕の剣を投入しようとする。それに対して咄嗟にシンは刀身を強く踏みつけ動きを止める。

篠(しの)が突く雨の中、びしょ濡(ぬ)れの両者の一進一退の攻防は続いていた。

(傷が深い・・・集中力が定まらない・・・これでは奥義を使う訳にはいかないか・・・)

 シンが龍王牙と一緒に携える愛刀・無月(むげつ)は、あらゆる力を無に帰す妖刀。その奥義は、漆黒の斬撃による一撃のもと、すべての存在を等しく無に帰す力。

 闇に満ち満ちた底知れぬ黒い淵―――奥義(おうぎ)・深淵(しんえん)の威力は絶大だ。ゆえに、使用者自身にも一定程度の肉体不可が伴い、未熟な使い手が奥義を使えば逆に無月自身に魂を奪われるかもしれない。

「グオ・・・・・・アオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

人工的に創られた異形の怪物の悲鳴にも、怒号とも捕えられる咆哮が響き渡る。

ゲヴァルトから繰り出される凄まじい一刀は、地面と一緒にシンの体を容易に吹き飛ばす程の威力を誇る。

「ちッ」

空中で体勢を立て直し、木の枝に降り立つシン。すぐさま、ゲヴァルトが彼に向って猪突猛進を決め込む。

「不動の龍騎士を・・・」

眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せると、シンは背中の方へと手を回し、傷口から吹き出す自らの血を掌にべっとりとつける。

「舐めるなよ、化け物・・・」

 掌にべっとりついた血を無月の刀身に塗り込んだ。

 シンの血が塗り込まれた瞬間、無月の刀身が霊気を帯びはじめ、たちまち刀身から黒い煙の様な物が上がり始める。

 黒い煙を伴う無月を抱え、シンはゲヴァルト目掛けて真っ向からぶつかっていく。

「おおおオオ」

 

 ドォーン!

 

「なんだ!?」

グランマニエへと到着した一護達は、市街地の外から鳴り響く轟音(ごうおん)をはっきりと耳にする。はやて(L)はそれがシンのものであることを直に感じる。

「シン様・・・!」

「近いな」

「急ごう!」

一同はシンの身の危険が迫っていることを安易に悟り、虚(ホロウ)の霊圧と衝撃音を頼りに市内を移動する。

 

激しい撃ち合いの末―――ゲヴァルトの左腕がもがれ地面と突き刺さる。

反動で地面へとぶつかったシンは、雨と疲労に伴う体力の消耗を顕著(けんちょ)に感じ始める中、左腕がなくなっても闘争本能を向き出すにするゲヴァルトに畏怖の念を抱く。

「・・・ハッ。片腕をもがれても元気だな・・・大したモノだ」

 口にした直後、残った右腕を構えたゲヴァルトが猛烈な速度で空中から突進。弱ったシンへ斬りかかる。

「ぐ・・・・・・ッ」

 咄嗟(とっさ)に龍王牙の刀身で受け止めるが、ここにきて一気に体力を消耗していたシンには攻撃を与えるだけの余力が残っていなかった。

改造虚(ホロウ)ゲヴァルトに打ち勝つという算段(さんだん)が全く思いつかない。

と、その時―――ゲヴァルトは凶悪な瞳をシンに向けたかと思えば、仮面に生えた突起物の先端に高密度の霊圧を集める。

集束された霊圧は赤みを帯び、魔導師でいう砲撃と同じ系統の力が発現する。

大虚(メノスグランデ)以上の上級虚(ホロウ)だけが使える破壊の力―――『虚閃(セロ)』である。

「! くそッ・・・!」

 こんな至近距離から虚閃(セロ)の一撃を喰らえば、間違いなく塵となって消え去る―――そう確信したシンは、なんとか虚閃(セロ)から逃れようとする。

 しかし体力の消耗が激しいのと、時間的な束縛からこの状況を打破することは極めて困難を窮する。

 土壇場に追い込まれたシンが絶体絶命のピンチに陥った、そのとき―――

「クラウ・ソラス」

 高威力の直射砲撃魔法(ちょくしゃほうげきまほう)がゲヴァルト目掛けて飛んでくる。

「!」

 ゲヴァルトが本能的にその攻撃を避けると、シンは思いもよらぬ救援の到着に目を疑った。

「助けに来たぜ、シンさん!」

グランマニエにはいないはずの最愛の女性―――夜御倉(やみくら)はやてを筆頭に、一護達死神組と綱吉、山本、獄寺、了平のボンゴレファミリー。なのは、ヴィータ、スバル、ティアナの機動六課スターズ分隊がシンの前に現れた。

「はやて(L)・・・・・・・・・みんな・・・!?」

 幻覚でも見ているではないかと思ったが、シンが目の当たりにしているのは紛れも無く現実の光景。

「・・・死神・・・それにボンゴレに魔導師・・・・・・!」

 当然、シャーフもシンと全く同じものを見ていた。

しかも、彼にとって一護達は自分達の計画を阻む存在でもあったから、当初は計画外の事象として排除しようとも思った。

 だが、直感的に彼の心が待ったをかけた。

「いや・・・これは都合がいいかもしれませんね」

 躍動(やくどう)する自分の心臓。興奮していることがはっきりとわかる。

 シャーフは予定とは大きく異なるイレギュラーに次ぐイレギュラーが予想だにしなかった好機を生んだことを天佑(てんゆう)と認識し、この機会を生かそうと思った。

(ゲヴァルト。プラン変更です。死神達へ攻撃を開始してください)

 ゲヴァルトは標的変更命令が下されると、たちまちシンの元から離れ、一護達の方へと突撃する。

「待て・・・・・・・・・」

 と、シンがゲヴァルトの方へと振り返ろうとした瞬間、ブチッという切れる音が聞こえる。

「ぐ・・・・・・」

 熾烈(しれつ)な戦いの中でシンは足の腱を切ってしまった。その事に気づいたのは、皮肉にも自分の前から標的が離れ一種の安堵感が生まれた瞬間だった。

「ほおおおおお!!!」

ゲヴァルトが一護達への攻撃を開始する。

一護はゲヴァルトの斬撃を愛刀で受け止めると、高密度の霊圧を纏った一刀でゲヴァルトを吹き飛ばし、石田が間髪入れずに無数の霊矢を撃ち放つ。

高速で移動しながら石田の放つ矢を回避するゲヴァルトを、なのはは照準を合わせてから無数の魔力誘導弾を仕掛ける。

「アクセルシューター、ランダムシュート!」

〈Fire〉

レイジングハートの音声とともに、中空に浮かんでいた桜色の魔力誘導弾が高速で撃ち出され、逃げるゲヴァルトを執拗(しつよう)に追い回す。

土砂降りの雨の中、次第にゲヴァルトの動きが鈍り始める。

嵐属性の炎を纏ったリング状の防御用具を足元に乗せ浮遊する獄寺は、左腕に装備された固定型火炎放射器「赤炎の矢(フレイムアロー)」に雷の炎エネルギーが充填された特殊なダイナマイトを弾丸として装填。

嵐属性と雷属性の特性を合わせた破壊力に長けた一撃を、動きが鈍りつつあるゲヴァルト目掛けてお見舞いする。

「赤炎の雷(フレイムサンダー)!」

 赤色に輝く嵐の炎に混合した緑色に輝く雷の炎。

射線上に浮かんでいたゲヴァルトの装甲にヒットした炎は、瞬時に鎧の一部を破壊・分解する。

「クロスファイアー、シュート!」

 獄寺に便乗してティアナも複数の魔力誘導弾を打ち込み、ゲヴァルトの行動を妨げる。

「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 咆哮(ほうこう)を上げる三人の突一、茶渡・了平・スバルはゲヴァルトの懐へと入り込み―――白い仮面でじっと見つめるゲヴァルトに臆することなく拳を叩きこむ。

「巨人の一撃(エル・ディレクト)!!」

「極限太陽(マキシマムキャノン)!!」

「リボルバーキャノン!!」

 ドンッ―――!!

 鉄の弾の直撃を受けた心地だった。

 白い仮面にひびを入れられたゲヴァルトが重力に従って降下し始める。

〈Explosion〉

だが、簡単には終わらせない。

カートリッジをアームドデバイス「グラーフアイゼン」にロードしたヴィータは、愛機の形を変形させ、ロケットの如く推進力を帯びたハンマーを大きく振り回すと、その勢いを殺さずゲヴァルトへと突っ込む。

「ラケーテンハンマー!!」

 ひび割れた仮面に更に強い衝撃が加わることで、ゲヴァルトの仮面の一部が大きく破損。無慈悲に地面へ強く叩きつけられた。

「シン様!」

「大丈夫っすか!?」

 敵が動けない隙にはやて(L)達は負傷したシンの元へと歩み寄り、安否を気遣う。

 茶渡の手を借りて体を起こしたシンは、傷が深い所為か険しい顔ではやて(L)達を見ながら具(つぶさ)に問う。

「何故来たんだはやて(L)・・・・・・ここにいては危険だ・・・・・・!」

「危険は承知です。ですが私は・・・・・・あなたを失うのが怖いのです!!」

 はやて(L)は何よりもシンを失うのを恐れていた。

 シンを失いたくない。手放したくないという気持ちが彼女の心を突き動かし、同時に一護達の心へと波及した。

 自らの命を省みず、どこまでも他者を慈しむ彼女の心の在り方。シンは無意識のうちに胸が温かくなるのを感じ、だからこそ彼女を生涯に渡って護りたいと思ったという当初の気持ちをこの場で再認識する。

だが、束の間の喜びは長くは続かない。

あれだけの攻撃を受けながらも、ゲヴァルトはまだ生きていた。

恐るべき生命力を誇る怪物は、空気を振動させるほどの咆哮を上げ、音圧と純粋な気迫によって一護達に畏怖の念を抱かせる。

 次の瞬間―――ゲヴァルトが割れた仮面を見せつけるように前に飛び出す。

「ナッツ! 形態変化(カンビオ・フォルマ)!」

 綱吉が叫ぶと、Xグローブの甲に乗っていたナッツが「ガアアアアオオオ!!」と叫びながら、姿を変えていく。

 光り輝くナッツの体はグローブと一体化していき、その姿を手の甲にボンゴレの紋章が刻まれたガントレットへと変化させた。

 右腕の剣で斬りかかるゲヴァルトの攻撃を左手のグローブで受け止め、瞬時に死ぬ気の炎とは対を成す力「死ぬ気の零地点突破・初代(ファースト)エディション」によって凍結。そして、ガントレットを装備した右腕に高純度の大空の炎を圧縮し、正拳(せいけん)を繰り出す。

「ビックバンアクセル!」

 球状の炎が正拳と同時にゲヴァルトの懐(ふところ)へと叩きこまれる。

 綱吉の必殺技「X(イクス) BURNER(バーナー)」と同等の威力を持つ炎の拳は凄まじく、ゲヴァルトの体を海老反りにして吹き飛ばすほど―――

「咆えろ、蛇尾丸(ざびまる)!」

「破道の三十三『蒼火墜(そうかつい)』!」

 それに便乗した恋次とルキアの連携攻撃が加わり、ゲヴァルトは軽いリンチを受けているかのようだった。

 だが、それでも致命傷には至らず、ゲヴァルトは恨みと憎しみを増大させながら一護達の前に立ち塞がる。

「なんつーしぶとさだ!」

「埒があかねぇ。こいつで一気に決めてやるぜ!」

 一護は霊圧を高めると、斬月を前方に突き出し―――

「卍解(ばんかい)!!」

 漆黒の衣を変化させ、シンが持つ無月に酷似した愛刀を握りしめると、一護は急上昇。中空から狙いを定めゲヴァルト目掛けて渾身の一刀を振り下ろす。

「月牙(げつが)―――天衝(てんしょう)!!!」

 紅色を帯びた黒い月牙は地面を削りながらゲヴァルトを飲み込んだ。

「やった!」

「ナイスだ、オレンジ頭!」

 同じ屋根の下で避難生活を送る傍ら、一護の実力を認めた異世界の仲間達の誰もがこの勝利を疑わなかった。

 斬撃が叩きこまれたゲヴァルトは、陥没した地面の中で横渡り動く気配を見せない。

 恐る恐る近づいて行き、止めを差そうとなのはがレイジングハートの先端をゲヴァルトへと向ける。

「よし。後は私が―――」

 と、次の瞬間―――

「え!」

ゲヴァルトの体が前触れもなく起き上がり、飢えた獣の如く、本能に従い目の前のなのはへ噛み付こうとする。

「!!」

「なのは!!」

「バカ野郎! 早く逃げろぉぉぉ――――――!」

 全員が退避を呼びかけるが、肝心のなのははあまりに突然の出来事に体が反応できない。

(逃げられない・・・・・・く)

 ゲヴァルトによる攻撃は避けられないと判断し、覚悟を決めたようになのはは固く目を閉じた。

 だが、そのなのはを助けようと―――

「やめろ―――!!!」

 

 ガツ―――

 

「あ・・・!」

 なのはを始め、この場に居合わせた者全員が目を見開き絶句する。

 正に一瞬の出来事。我が身を省みらず、綱吉がなのはを庇って前に出た。

その結果、ゲヴァルトの攻撃は綱吉へと飛来し、左肩部分をゲヴァルトに噛み付かれる。

「ツナ!!!」

「10代目!!!」

 雨雲が晴れ、月明かりが差し込んだ直後に見えてくる痛々しい綱吉の姿に、獄寺と山本は声を張り上げる。

「が・・・・・・・・・」

 なのはを守ろうとして、ゲヴァルトに深手を負わされた綱吉は左肩から血を流し、力なくその場に倒れる。

「ツナ君―――!!!」

「てめえええええええ!!!」

 仲間を傷つけられた衝撃は全員の心を刺激する。怒りに燃える一護は恋次、山本とともにゲヴァルトに殺意を剥き出しに、三人で斬りかかる。

「ツナ君!! 大丈夫!?」

「しっかりしてー!」

 なのはと織姫が意識を失った綱吉へと呼びかけるが、額の炎はプシューという音とを立てて消失する。

「ツナ君! しっかりして!!」

 取り返しのつかないことをしてしまった―――と、なのはは自らの行いに恥を抱く。本来ならば、年上である自分が綱吉を守らなければならないはずが、逆に守られてしまった。そのことが、なのはの魔導師としての矜持を傷つける。

「どけぇぇぇ―――!!!」

 血相を変えた獄寺が綱吉の元へと駆け寄って来ると、その綱吉をある種傷つける原因となってしまったなのはは獄寺から厳しい顰蹙(ひんしゅく)を買う羽目になる。

「10代目に近付くんじゃねぇ、この女(アマ)!! 誰のせいで10代目がこんな仕打ちを受けたと思ってやがる!! てめぇを庇(かば)ったからなんだぞっ!!」

「・・・っ!」

弁明の余地がなかった。

獄寺の言っていることは至極正しい。なのはは自分を擁護する気にもなれ無ければ、それを仲間達に求めることもしなかった。

単純に悔しかった。前もって、夢の中でユーノから警告を受けていながら、綱吉の優しさに助けられ、彼自身の本質を見抜けなかった。

彼女の中に僅かにあった周りへの甘えが浮き彫りになった。14歳の少年の体に一生残るかもしれないほどの深い傷を負わせた。

当然、獄寺はなのはを強く憎んだ。

「獄寺! 彼女には悪気はなかったんだ!」

 だがその時、第三者であるシンが獄寺の言動を諌(いさ)める。

「悪気はねぇだと!? 10代目が怪我したのはこいつが・・・!」

「なら、ボスを守るのが右腕である君の使命ではないのか!?」

「!!」

 獄寺はシンの言葉で気づかされた。

 綱吉は確かになのはを庇った。だがそれはなのはに落ち度があったわけではなく、彼の反射的な行動がこのような結果をもたらした。

要するに、獄寺は責任をなのはに転嫁させていただけだった。なのは自身が綱吉に守られたことをどう思うかは別として、ボスが前線に出ている時点で、獄寺達は少なくともなのはを責め立てる権利はないのだ。特に獄寺はボスの右腕を自称している以上、ボスを守り通すという使命を全うできなかった以上、彼女を責めることはできない。それが使命でなくとも、彼はファミリーとして仕事を果たせていない。

「く・・・・・・くそ!!」

 獄寺は自分の身勝手さを痛感した。

 ボスを守れないという自分の未熟さを他人に転嫁させてしまったことを、羞恥(しゅうち)に思いながら―――激しく項垂れる。

 

「雷鳴(らいめい)の馬車(ばしゃ)・糸車(いとぐるま)の間隙(かんげき)・光(ひかり)もて此(これ)を六(むつ)に別(わか)つ。縛道(ばくどう)の六十一(ろくじゅういち)『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

 完全詠唱によるルキアの縛道が、ゲヴァルトの体を縛り付ける。

 六つの帯状の光が胴を囲うようにゲヴァルトの体に突き刺さり動きを奪うと、綱吉に代わって山本と恋次が鋭い目つきで斬りかかる。

「終りだ、化け物!」

「いい加減にくたばれ!」

雨属性の炎を刀身に纏(まと)った時雨金時(しぐれきんとき)を、山本はゲヴァルトの体に叩き込む。

「時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう)、攻式(こうしき)八(はち)の型(かた)『篠突(しのつ)く雨(あめ)』!!」

「つらあああああ!!」

 

 バシュン!

 

 怒涛(どとう)の如く。

 二人の剣士が奏でる協奏曲は、この長きにわたる戦いに終止符を打つ。

 一瞬、辺りの時間が停止する。

 固唾を飲んで見守る中、恋次と山本による同時攻撃を受けたゲヴァルトはゆっくりと背後に倒れるかと思えば―――背中から火球のようなものが膨れ上がる。

「「な・・・」」

「危ない!!」

 刹那(せつな)―――ゲヴァルトが爆発。

 凄まじい爆音と爆撃は辺り一帯に広がり、厚い雲に覆われていた空を巨大な火柱が突き破る。

「ほう・・・自爆しましたか・・・」

 シャーフは事の成り行きを見届けると、満足のいった様子でこの世界から立ち去ろうとする。

目の前に倒すべき敵がいるにもかかわらず、彼が敢えて手を加えないのには理由があった。その理由は、これからすぐに結果として現れる。

シャーフの存在に気づいていない一行は、織姫とはやて(L)が展開した防御膜で守られていた。

二人は全員をこの衝撃から保護したつもりだった。

だが、厳密には全員ではなかった。

 爆発が収まった直後―――織姫とはやて(L)の目に信じられない光景が映ってきた。

「「!」」

なんと、あの爆発の直前にシンと一護が動いていた。少しでも爆発の威力を和らげようと、二人は文字通り捨て身の行動で爆発の威力を抑え込んだ。

その代償として、二人は全身に大火傷を負って倒れる。

「黒崎君!」

「シン様!」

 綱吉に続いて一護とシンまでもが重傷を負うという不測の事態に、場の空気は混乱する。

「大丈夫!?」

「おい、しっかりしろ!」

 ティアナと石田が呼びかけたところ、直ぐに意識を取り戻した一護とシンが顔を上げ、火傷を負った状態で苦笑を浮かべる。

「ああ・・・い痛(い)て・・・すまないみんな。助かったよ・・・情け無い話だ・・・隊長ともあろうものがこんな無様な姿をさらすことになろうとは・・・」

「シンさんを助けようとしてつい体が反応しちまってさ・・・・・・ったく・・・・・・我ながら結構バカだったぜ・・・・・・」

「戯け! 一歩間違えれば死んでいたかもしれぬだぞ!? なぜそんな無茶を・・・・・・」

 険しい表情でルキアが率直な疑問をぶつけると、一護はいつも言い聞かせているような態度で回答する。

「決まってんだろ・・・・・・俺の目の前で、誰かが傷つくのは見てらんねぇんだよ!」

清々しいまでの一言。

その言葉に、黒崎一護の本質そのものがすべて詰まっていた。長いこと一緒に戦って来た死神組は内心呆れつつも、出会った当初から決して変わらない彼の本質に安堵する。

「はやて(L)・・・・・・無事でよかった・・・・・・こんなところまで俺を助けにきてくれありがとう・・・・・・」

「そんな・・・助けられたのは私です・・・私をかばわなかったらこんな大ケガ・・・」

 こんな結果になるとははやて(L)も予想していなかった。

 まさか虚(ホロウ)が爆発し、腱の切れて動けないはずのシンが爆発の直前に動くと夢にも思わなかった。

誰よりも信愛し、誰よりも大切な人が当たり前の如くとった行動に、はやて(L)は嬉しさ反面悔しい思いも抱く。

「ははっ! じゃあ貸し借り無しってことで。なっ!」

後悔を感じているはやて(L)に、シンは無謀な自分の行動を反省するように苦笑いを浮かべながら呟く。

対等の条件・関係でいることを強く望むシンの態度を見て、はやて(L)の中の蟠(わだかま)りが少しだけ消えたような気がした。

「・・・治します。じっとしていてください」

「黒崎君も、動かないでね」

 この戦いで名誉の傷を負った三人の戦士達を中心に、治療が開始された。

 傷の程度が酷いシンと一護ははやて(L)と織姫が力を合わせ、その傍ら綱吉はルキアと了平が手当てをする。

 治療の様子を見守るなのは達。

と、そのとき恋次がふと呟く。

「・・・それにしても・・・あいつは一体何者だったんだ・・・」

「確かに・・・ただの虚(ホロウ)とは思えなかった」

 リュミエールには虚(ホロウ)はおろか、悪霊という存在が確認できない。

 だが今回の事件の根幹を担っていたのはゲヴァルトであり、改造虚(ホロウ)の出現が意図するところは自ずと全員が察する。

 世界の意志ギュスターブが何らかの形で関与していることは明白。既に自分達の居場所を特定されているのではないか、という疑念に駆られた―――そのとき。

「みんなー!」

 夜空の向こう側から声が聞こえた。

 月明かりに照らされ、救援に駆け付けたライトニング隊のフェイトとキャロ、巨大化したフリードの背中に乗ったクローム髑髏(どくろ)とリボーン、夜御倉龍元の姿を確認する。

 現場に到着するや否や、フェイト達は戦いのすさまじさを物語る当たりの光景、そして負傷した綱吉達に目を見張る。

「なにがあったんでしょうか、一体・・・?!」

「ボス・・・! どうして・・・///」

「シンさんも! どうしたんですか、一体!?」

 誰もが困惑する中で、リボーンはひとり綱吉の様子を真顔で見つめる。傍らには、自責の念に駆られるなのはや獄寺達ファミリーの守護者達が付いている。

「ツナ! 返事しろよ!」

「10代目!! お気を確かに!」

「沢田!! しっかりせんか沢田!!」

「ツナ君! お願いだから起きて!」

 とにかく生きていて欲しい。単純にそれだけを願って呼びかけを続ける。

 意識が戻りさえすれば、あとはどうにでもなると心のどこかで信じていた四人は絶えず呼びかけを続けた。

 そして、四人の呼びかけはついに届き―――

「げっほ」

「おい!」

「げっほ、ごほッ」

 むせ返りながらも、綱吉の意識が確かに現実世界へと戻ってきた。

「意識が戻ったぞ!」

「10代目・・・!」

「ツナ君・・・///」

 思わず涙ぐむなのはだが、何故か心の中で奇妙な違和感を覚える。その違和感の正体が何なのか―――彼女には分らない。

だが、違和感の正体は直ぐに目の前で露呈することになる。

「ツナ。大丈夫か?」

 治療を終えたばかりの一護が綱吉へと近づき、その安否を気遣う。

「井上! 直ぐに沢田を治療してもらえないか―――「・・・ゲロ・・・」

 様子がおかしい。

綱吉は明らかに様子がおかしかった。普段の彼からは想像もつかないような氷の様に冷たく鋭い気配を醸し出している。

 苦しそうにしながら、綱吉は自分の目の前にいる仲間全てを拒絶するように、ただ離れれるようにと呂律(ろれつ)の回らない声で訴えようとしている。

「はや・・・早・・・・・・にげ・・・」

「え」

 全身に寒気が走った。

 何も起こらないはずがないと、全員が悟った瞬間―――

綱吉の口元から白い体液の様な物が吹き出したかと思えば、瞬く間に彼の精神と肉体を支配し、顔左半分を覆い隠す。

「おあアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

【挿絵表示】

 

 人間離れした咆哮(ほうこう)。

先ほど倒した虚(ホロウ)と酷似した怒りと悲しみを内包した声に、誰もが衝撃を隠しきれない。

「・・・ツナ・・・・・・!?」

「10代目・・・・・・・・・・・・!」

 悪い夢を見ているなら、早く目が覚めて欲しい。

 だが生憎と夢ではなく現実の光景だった。異形の徒へと化した綱吉の瞳は殺気立った黒へと染まり、額には禍々と黒い死ぬ気の炎が灯っている。

「沢田なのか・・・あれは!?」

「くそッ! なにがどうなってんだよっ!!」

 状況を正しく理解できる者がほとんどいない中、死神組は綱吉の身に起こっている現象について幾ばくかの知識を有していた。

「おい・・・あれって!」

「虚(ホロウ)化!!」

「なんだって!?」

「おい、どういうことだよ!? 10代目に何があった・・・!」

 虚(ホロウ)化という単語に機敏に反応した獄寺は、一護へと詰め寄り胸元を掴みながら現状について説明を求める。

 一護は険しい顔を浮かべながら、大空と謳われる素質を排し、虚(ホロウ)という悪徒(あくと)へと変貌を遂げつつある綱吉を凝視し、露骨に顔を歪める。

「くそ・・・・・・こんな事ってありかよ・・・なんだって・・・なんだってツナが虚(ホロウ)化なんかしなきゃなんねえんだよ・・・!!」

「だからその虚(ホロウ)化っつーのがなんなんだって聞いてるんだ!!」

 怒り立つ興奮状態の獄寺だったが―――リボーンが状況を鑑み止めに入る。

「落ち着け獄寺」

「リボーンさん!」

「オレにも状況はわからねえが、あれがツナの体裁(ていさい)を保った化け物であることには違いねえ。そしてもうひとつは、このままだとオレ達があいつに・・・食い殺されるってことだ」

 この場にいる者すべての表情が凍りつき、溜飲する。

 と、次の瞬間―――

「・・・ウ・・・おオオオオオオオ!!!」

 咆哮を上げる綱吉の周りの空気が激しく振動する。音圧に交じった虚(ホロウ)の霊圧が突風となり一護達の肌にひしひしと伝わる。

全員は身震いし、焦燥(しょうそう)に満ち溢れた顔となる。

 リボーンが言うように綱吉が本当に思慮分別もつかない単なる怪物となってしまったのなら、状況は極めて最悪。

 Xグローブを装着していた綱吉の両拳に、額に灯っているものと同じ黒い死ぬ気の炎が点火。目の前に立ち尽くす標的を確認するや否や、ゲヴァルトがそうしたように自らも襲撃を行う。

「来るぞ!」

 身に迫る危険を前に、一同は一旦回避。

 高く飛び上がった茶渡だが、綱吉は大虚(メノス)以上の上級虚だけが身に着けている高速移動術―――【響転(ソニード)】を活用し、瞬時に茶渡の背後へと回り込む。

「何(なん)・・・」

「チャドっ!!」

 一護が中空の茶渡に「逃げろ」と言わんばかりに声を出した瞬間、黒い死ぬ気の炎を拳に纏った綱吉の強烈な一撃が茶渡の体にお見舞いする。

 

 ドンッ―――!!

「「茶渡君!!」」

「「茶渡殿(さん)!!」」

 瞬時に爆炎に覆われる。石田と織姫、了平とスバルが彼の身を案じる。

「うおおおおおお!!!」

 その時、爆炎の中から茶渡のものと思われる雄叫びが聞こえると、防御の力を宿した右腕の真の姿【巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)】を発動させた茶渡が綱吉の攻撃に辛うじて耐えた様子で、地面へと着地する。

「はっ、はっ、はっ」

 服がボロボロになり、全身から焼け焦げた匂いが漂うも、茶渡は確かに息をしている。

「生きてる!」

「なんつー頑丈な・・・!」

「だけどツナの方もやべーぞ・・・!」

 茶渡に対して圧倒的な力を見せつけた綱吉の力は、本来の彼が持つそれとは比較にすることさえバカバカしいと思えるもので、情け容赦ないその姿勢は既に虚(ホロウ)になっていることの証だ。

「あの力・・・人間技じゃねぇ・・・」

「なのはを助けたとき、あの虚(ホロウ)の攻撃を受けたことで、ツナの魂魄に異変が生じたのか!?」

「く・・・」

 このとき、なのはは激しく後悔した。

 本来ならば自分が虚(ホロウ)化すると思われた負の力を、綱吉が肩代わりしてしまった。

 レイジングハートを握る手に無意識に力が籠る中、なのはは自らの過ちからくる後悔を胸の中に収め、この現状をどう解決するかを模索する。

 だが、どう考えてもなのはは綱吉を攻撃することができない。

「みんなダメだよ!! わかってるの!? 相手はツナ君なんだよ!! これじゃ・・・」

 そのとき、なのははただただ悔しく―――止めどない涙を流す。

(く・・・・・・///私は・・・・・・とんでもないことを・・・・・・///)

 とにかく自分が悔しくて仕方ない。

 いっそのことゲヴァルトに殺された方が楽だったかもしれない。

 だが、たとえ殺されたところで綱吉が元に戻るという保証も無ければ、自分が犯した罪が消えるとも思えない。

 少なくとも自分はこうなることを、夢の中でユーノから聞かされていたのだ。

 綱吉を守ろうとする自覚が足りなかった―――無意識のうちに、なのはは彼の持つ力とその優しさに甘えてしまった。

 一護は涙を流すなのはを一瞥(いちべつ)すると、暴走する綱吉へと向き直り、斬月を構え直す。

「どっちにしても、俺達で止めないと何も解決しねぇ。あいつがツナなら、尚更のことだ」

 それを聞くと、煮え切らない気持ちでいっぱいの山本も時雨金時を構え直して一護の隣に立つ。

「一護さんの言う通りっす。ツナが大事だから、オレらで止めなきゃいけねぇ・・・」

「心配すんなよ、なのは。殺さないで止める方法なんか山程あるんだかんな」

 グラーフアイゼンを肩に乗せながらヴィータが言うと、フェイトとクロームがバルディッシュと三又槍(さんさそう)を手にヴィータの両隣に立つ。

「手足の腱(けん)を斬るぞ。あたしとフェイト、クロームで注意をひきつけるから、その間に一護達は両足の半分ずつを」

「ああ。言われなくてもそのつもりだ」

 作戦はこうだ―――ヴィータとフェイト、クロームが綱吉の注意を引き付ける間に一護と山本が懐に入り込み、綱吉の手足の腱を切断することで強制的に動きを封じる。

 算段がついたところで行動を開始。

クロームが幻術で綱吉の視界を惑わせると、フェイトとヴィータが懐に入り込む。

「つらあああああああ!!」

「はああああああああ!!」

 虚(ホロウ)化している綱吉に有効打を決めるのは意外と難しい。

というのも、綱吉が潜在的に有しているすべてを見透かす力「超直感(ちょうちょっかん)」に加え、より本能に近い形で行動する虚(ホロウ)の特性が混じりあったことで、感覚が鋭敏化。

 ヴィータとフェイトが繰り出す攻撃を容易に回避する。

「この―――!!」

「やめろツナぁぁぁ—――!!」

 一護と山本が隙を見て綱吉へ斬りかかろうとするが、綱吉は瞬時に体を捻って一護と山本の斬撃をグローブで受け止め、力任せに動いて二人をフェイトとヴィータの元へと投げ飛ばす。

「「「「うわああああ!!!」」」」

 状況が極めて悪い。

 攻撃を仕掛けるも綱吉の感覚は通常時よりも研ぎ澄まされ、事前に立てた作戦を遂行することも困難に思えてきた。

「くそが!」

 だが、一護達は諦めずに攻撃を続ける。

 山本は中空に浮遊する綱吉を見上げると、刀身の無い小刀三本を左手の指の間に挟む。

刀身の無い刀の鍔から雨属性の炎が勢いよく噴射―――山本はその推進力を利用して空中へと飛び上がった。

「時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう)、攻式(こうしき)五(ご)の型(かた)『五月雨(さみだれ)』!」

 通常の剣術で言うところの中斬りを放ちながら刀を素早く持ち替え、相手の守りのタイミングを狂わせる変幻自在の斬撃を放つ―――時雨蒼燕流「五月雨」。

 できるだけ綱吉を傷つけず、暴走を止めようと試行錯誤を繰り返す山本。

「っ!」

 その時、獄寺は山本の背後に浮かぶ物陰に気が付き―――

「後ろだ!! 山本――――――!!!!」

 山本が獄寺の声を聞いて後ろに振り返った瞬間―――凄まじい力が山本の頭部にのしかかり、踏みつけられた山本は勢いよく墜落。

「山本!!!」

「山本君!!」

 墜落した山本は虫の息になったが如く、陥没した地面に横たわっている。咄嗟にフェイトがフローターを発動したおかげで、即死を免れたが、最早戦える力は残っていない。

 山本を襲撃した物陰の正体を確かめると、一同は目を見開く。

 綱吉と同じ黒い炎を全身に身に纏った凶悪そうな大人のライオンが中空に浮かんでいる。

「まさか・・・」

「ナッツか!?」

「マジかよ・・・!」

 キュートな子どものライオンの姿をしていたナッツまでもが、虚(ホロウ)化した綱吉の影響を受けて豹変(ひょうへん)。

 獰猛な眼差しで足元の一護達を見つめると、グルルルっと低い声を出しながら地面の一護達目掛けて突進する。

「ちッ」

 標的にされたのは恋次だった。

 斬魄刀でナッツの攻撃を受け止めるが、今のナッツの力には虚(ホロウ)化した綱吉の力が流れ込んでおり、一筋縄ではいかない。

「この・・・ッ」

 前足を交互に使って攻撃してくるナッツの一撃一撃を刀で受け流しては、隙を見てナッツに斬りかかろうとする恋次。ナッツは俊敏な動きで恋次の攻撃を躱す。

「ルキア!」

 埒(らち)が明かないと判断した恋次がルキアに呼びかけると、彼女は両掌を合わせ詠唱(えいしょう)する。

「“鉄砂(てっさ)の壁(かべ) 僧形(そうぎょう)の塔(とう) 灼鉄熒熒(しゃくてつけいけい) 湛然(たんぜん)として終(つい)に音無(おとな)し”」

 詠唱の終了と同時に地面に腕を叩きつけると、地面が五箇所に割れ砕け、凶暴化したナッツの上に光り輝く紋章が浮かび上がる。

「縛道(ばくどう)の七十五(ななじゅうご) 『五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)』!!」

そこから地面に向けて五本の光柱(こうちゅう)が延び、ナッツの身体を突き刺すような形で全身の動きを封じ込めた。

「助かった!」

「朽木さん、あっちもお願い!」

「ああ」

 ナッツを抑え込んだ後、ルキアは綱吉を封じ込めるため術の詠唱を開始。

 暴走していながらもナッツを封じ込められことに激怒した綱吉は、空気を振動させるほどの声を上げながら地面に向かって勢いよく飛んでくる。

「させるか!」

 詠唱中のルキアの妨害を企てる綱吉の行動を、一護と了平、フェイトが引き止める。

 険しい顔で綱吉の力を辛うじて封じ込める一護達を見ながら、ティアナは焦りを抱く。

「ルキアさん! 早くしないと!」

 と、その時―――ルキアの術の詠唱が終わり、頃合いを窺うや否やルキアは右手を差し出す。

「縛道(ばくどう)の六十三(ろくじゅうさん)『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』!」

 不意に現れる太い鎖が蛇のように巻きつき、綱吉の体の自由を奪う。

 激しく抵抗する綱吉だが、ここでさらに追い打ちとばかりになのはとフェイトがバインドを施す。

「ライトニングバインド!」

「クリスタルケージ、ロック!」

 雷の魔力変換資質から作り出した電気を帯びた金色の捕縛術が鎖条鎖縛(さじょうさばく)の上から施され、その上から更に透明な正四面体が綱吉の身動きを完全に封じ込める。

「よし! 封じ込めた!」

 ぬか喜びをした一護達だが―――

「え」

 クリスタルゲージ内の綱吉はルキアの完全詠唱で発動した鎖条鎖縛(さじょうさばく)とフェイトのライトニングバインドをあっさり破ってしまい、額の炎を大きくしながらなのはのクリスタルゲージを内部から破壊しようと暴れ回る。

 ピキピキ・・・と音とを立てながら、クリスタルゲージに亀裂が生じると、封じ込めてから僅か十数秒で、綱吉は三重の拘束から逃れる。

 夢にも思っていなかった目の前の光景に、なのは達は挙って絶句する。

「そんな・・・六十番台の縛道に上位の拘束魔法が施されたあの状態を・・・腕力だけで破るなど・・・」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」

 月明かりに照らされる中、グランマニエの山岳で異形の怪物と化した大空の少年の咆哮が鳴り響く。

 

 

「実に興味深いデータが得られた物です」

 リュミエールで自らの実験を成し得たシャーフは、移動要塞デゼスプワールへと帰還。

 自室兼研究室へと戻ると、リアルタイムのリュミエールで起こっている様子を監視する。

「自爆したと言う事は、標的虚化(ひょうてきホロウか)だけじゃない・・・最終段階の“転移”まで行ったという事・・・それをあの少年が・・・・・・・・・」

 モニターの音量を上げるシャーフ。

 雑音染みた綱吉の咆哮を耳に入れながら、それを心地よいものと認識―――口元を歪める。

「本来は死神の虚(ホロウ)化の為に創られたこの技術を用いて、異なる世界に生きる存在に異なる法則を転化させ、内部から世界を崩壊させる私の企みは、成功のようですね・・・」

 スピーカーを通じて、一護達の悲鳴が聞こえてくる。

「今回の“予想外の出来事”はつまり、“私が予想できなかった”出来事だと言う事―――面白い。死した死神から容(かたち)作られた虚(ホロウ)が、敢えて自らと相反する存在である人間を選んだ。その先を是非とも見てみたいものですね」

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人『BLEACH 36・37・60巻』 (集英社・2008、2013)




登場虚
ゲヴァルト
リュミエールで起こった肉体消失事件の犯人にして、十二使徒のシャーフが作り出した試作虚の一体。大虚の最上級・ヴァストローデのごとく人間程度の大きさで、刀状の両腕、肉塊状の物質で塞がった孔、仮面部分以外が重厚な鎧で覆われているのが特徴。仮面には二本の突起物があり、虚閃を放出際に用いられる。一護達の世界から得た数多くの死神の魂魄を重ねて作られており、2番隊隊長であるシンや一護達とも互角以上に渡りあうほどの高い実力を持つ。グランマニエの山岳地帯で出現し、シンが率いる龍騎士部隊四人を葬った後シンと交戦。加勢に入った一護達とも戦い、止めを差そうとしたなのはへと襲い噛みつこうとして、綱吉へと噛み付く。直後、一護と山本による同時攻撃を受けて倒される。しかしその咬み傷から自らを綱吉の体内に転移させており、これにより綱吉は虚化に苦しむことになる。
名前の由来は、「暴力」を意味するドイツ語の単語「Gewalt」。






登場用語
大虚(メノスグランデ)
幾百の虚が互いを喰らい続け生まれた、強大な力を持つ虚で、通称メノス。大型のギリアン級、中型のアジューカス級、小型のヴァストローデ級という3階級が存在し、小型になればなるほど強い。現世に現れる頻度は通常の虚に比べると低いようだがそれは後述のとおり、大虚(特にアジューカス級以降)が人間の捕食より同族との生存競争を重視する生態を持つゆえと考えられる。
最上級大虚(ヴァストローデ)
最上級の大虚であり、大きさは虚としては小型で人間程度。ゲヴァルトのように、身体的特徴が人間に近くなっている。極めて数が少なく、その戦闘能力は隊長格の死神をも凌ぐと言われている。
虚閃(セロ)
大虚の放つ、霊圧の集中された破壊の閃光。基本的に赤い色をしている。
響転(ソニード)
虚化したツナが使用した高速移動能力。死神の使う「瞬歩」や滅却師の「飛廉脚」にあたる。作中の様子から、霊圧感知に触れることなく移動することができる模様。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。