幼なじみの彼女は   作:有機物

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彼の前に天使が現れる

 

月が替わると、体育の種目も変わる。

我が学校の体育は3クラス合同で、男子総勢60名を2つの種目に分けて行う。

今月からテニスとサッカーだ。

今年はテニス希望者が多かったらしく壮絶なじゃんけんの末、俺はテニス側に生き残った。

 

「うし、じゃあお前ら打ってみろや。二人一組で端と端に散れ」

 

そう先生が言うと、皆がペアを組んでコートの端と端へと移動した。

なんでそんなすぐに対応できるんだよ。周り見渡すこともなくペア組めるとかお前らノールックパスの達人なの?

俺のボッチレーダーが敏感に反応し、高まるボッチ機運を察した。

だが案ずるなかれ。こういう時のために生み出した秘策が俺にはある。

 

「あの、俺あんま調子よくないんで壁打ちしてていいっすか。迷惑かけることになっちゃうと思うんで」

 

調子がよくない+迷惑をかけるのダブル文句が相乗効果を発揮するうえ、体育自体のやる気はあることをさり気なく告げるのがポイントだ。

これぞ俺が長きに渡るボッチ体育生活の中でついに会得した究極の『好きな奴とペア組め』対策。

打球を追ってただ正確に打ち返すだけのまるで作業のような時間が続く。

周囲では派手な打ち合いでキャッキャッと騒ぐ男子の歓声が聞こえてきた。

 

「うらぁっ!おおっ!?今のよくね?ヤバくね?」

 

「今のやばいわー、絶対取れないわー、激アツだわー」

 

絶叫しながら実に楽しそうにラリー練習をしていた。

うっせーな死ねよと思いながら振り返ると、そこには葉山の姿のにもあった。

葉山はペア、というより4人組カルテットを形成している。クラスでもよくつるんでいる金髪の彼と後二人は誰だろう。オシャレオーラを振りまきながら、そこだけとても華やかな雰囲気だった。

 

「やっべー葉山くん今の球、マジやべーって。曲がった?曲がったくね?今の」

 

「いや打球が偶然スライスしただけだよ。悪い、ミスった」

 

「マッジかよ!スライスとか『魔球』じゃん。マジぱないわ。葉山くん超ぱないわ」

 

葉山のグループは騒いでいる印象が強いが、葉山自身が積極的に声を出しているのではなく、周りの連中がうるさい。

 

「スラーイスッ!!」

 

ほら、うるさい。

放たれた魔球は、全くスライスすることなく、葉山から大きく外れてコートの片隅、すなわち俺がいる場所に飛んできた。

 

「あ、ごっめーんマジ勘弁。えっと、えー……ひ、ヒキタニくん?ヒキタニくん、ボール取ってくんない?」

 

誰だよヒキタニくん。

訂正する気も起きず、俺はボールを拾い上げて投げ返してやった。

 

「ありがとな、比企谷」

 

葉山が朗らかに笑いながら俺に手を振ってきた。

おい、比企谷って分かってんだったら訂正しろよ。

 

 

 

 

 

昼休み。

いつもの俺の昼食スポットで飯を食う。特別棟の一階。保健室横、購買の斜め後ろが俺の定位置だ。

ちょうどテニスコートを眺める形になる。

べ、別に本当は部室で雪乃と一緒に食べたいけど、いきなり入って雪乃に「え?」って顔されるのが嫌なわけじゃないからね!

 

風向きが変わった。

その日の天候にもよるが、臨海部に位置するこの学校は、お昼を境に風の方向が変わる。朝方は海から吹き付ける潮風が、まるでもといた場所へ帰るように陸側から吹く。

この風を肌で感じながら一人で過ごす時間が俺は嫌いじゃない。

 

「あれ、ヒッキーじゃん」

 

その風に乗って聞き覚えのある声がした。見れば、由比ヶ浜が立っていた。

 

「なんでこんなとこいんの?」

 

「普段ここで飯食ってんだよ」

 

「ふーん」

 

心底不思議という顔をしている。

お前らが俺だけ誘ってくんないからじゃん。

分かったら早く誘ってね?なんなら今からでもいいよ。

 

「それよか、なんでお前ここいんの?」

 

「それそれっ!実はね、ゆきのんとゲームでジャン負けして、罰ゲームってやつ?」

 

「俺と話すことがですか」

 

何それひどすぎる。もう死んじゃおうかな。

 

「ち、違う違う!負けた人がジュース買ってくるってだけだよ!」

 

なんだー良かったーうっかり死んじゃうところだったわー。

 

「ゆきのん、最初は『自分の糧くらい自分で手に入れるわ。そんな行為でささやかな征服浴を満たして何が嬉しいの?』とか言って渋ってたんだけどね」

 

由比ヶ浜が雪乃のモノマネをしながら言う。死ぬ程似てねぇ。本当の雪乃のモノマネを見せてやるよ。

 

「まぁ、あいつらしいな」

 

「うん、けど『自信ないんだ』って言ったら乗ってきた」

 

「あら、由比ヶ浜さんも言うようになったわね。私に勝つ自信がないだとか、そんな言いがかりはやめてもらえるかしら。別に勝負しても構わないわよ?」

 

「そうそうそんな感じ!ってなんでヒッキーそんなモノマネ上手いの!?」

 

「企業秘密だ」

 

まさか鏡の前で練習してたなんて言えないよな。

 

「でさ、ゆきのん勝った瞬間、無言でガッツポーズしてて……もうなんかすっごい可愛かった……」

 

「由比ヶ浜、写真撮ってないか?」

 

「なんでそんなに必死なの……撮ってるわけないじゃん」

 

いやいや必死にもなるだろ。絶対可愛いじゃん。あー、見たかったな。

 

「あっ、さいちゃん。よっす」

 

テニス部員だと思われる子が来た。

 

「よっす。由比ヶ浜さんと比企谷君は何やってるの?」

 

「え?あ、いや別に?さいちゃんは練習?お昼とスクールと、体育もテニスだったよね。すごいね」

 

「ううん、好きでやってるから。そういえば比企谷君テニス上手いねー」

 

「いやぁー、照れるなー。で、誰?」

 

「はぁー!?同じクラスじゃん!」

 

「あ、えっと同じクラスの戸塚彩加です」

 

戸塚彩加か。なんか聞いたことがある気がする。

 

「いや、俺女子の知り合い雪乃くらいだから……」

 

男子は葉山くらいだし。

 

「あ、えっと、僕……男なんだけどな」

 

はっ!?

 

「性別間違えるって、ヒッキーさいてー」

 

「ああ、悪い」

 

でも、こんなに可愛いんだぜ?

女子かと思っちゃうじゃん。

 

「別に大丈夫だよ。それよりさ、比企谷君テニス経験者?」

 

「いや、初めて…ではないな。一度だけ体験に行ったことがある」

 

あの時雪乃が怪我したんだよな。結構ヤバい感じだったけど、どうだったんだろう。

 

「へぇー、ヒッキー習い事とかやってたんだ」

 

「いや一回だけな?そもそも俺が行ったのって、雪乃がいたから行っただけだし」

 

ん?戸塚、彩加?あれ、なんか…記憶が。

 

「ヒッキー?どうしたの?」

 

「あ、戸塚と俺って前に会ったことあったっけ?」

 

「えと、去年も同じクラスだったから……」

 

「ああ、もっと前」

 

「ない、と思うけど……」

 

「そう、だよな。変なこと聞いて悪い」

 

「あの、それでって訳じゃないけど、相談があって。比企谷君さえ良ければ、テニス部に入ってくれないかな?」

 

へ?

 

 

 

「だめよ」

 

雪乃さんはご立腹だ。

 

「まぁ、俺がテニス部のカンフル剤になって……」

 

「あなたは奉仕部よりもテニス部の方がいいの?」

 

「テニス部の方が良いって言ったらどうする?」

 

また可愛い雪乃が見れそうなので、ちょっとからかってみる。

 

「む〜。いやよ。だめなのっ!」

 

おお、感情だけで話す雪乃か。これはレアだぞ。

 

「けど、戸塚の悩みだし……」

 

「戸塚君と私、どっちを取るの?」

 

ぐはぁ!なんだこの子、可愛すぎて脳が震える。

落ち着け、落ち着くのだー!

 

「もちろん雪乃に決まってるだろ!」

 

つい即答してしまった。

まぁこれはしょうがない。うん、だって可愛すぎるんだもん。

 

「そっ、そう//ならテニス部に入るのはなしね」

 

「まぁ、雪乃がそこまで言うなら」

 

突然、戸がガラッとあいた。

 

「やっはろー!」

 

お気楽そうな、元気のいい挨拶が聞こえる。

しかし、その後ろには、元気がなさそうな、シュンとした、可愛い子がいた。

 

「戸塚じゃないか」

 

「比企谷君っ!」

 

俺を見た瞬間、ぱぁっと咲くような笑みを見せる。

か、可愛い……

 

「比企谷君……」

 

雪乃が俺の袖を引っ張って、頬を膨らませている。

ナニコレ、戸塚と雪乃で両手に花?いや、戸塚は男だった。危ない危ない。

 

「さっき私を取るって言ったじゃない」

 

「あ、ま、まあそうだけど…ていうか、なんでここに?」

 

「今日は依頼人を連れてきてあげたの!」

 

いや、お前に聞いてないから。

戸塚の可愛い唇から聞きたかったのに……

 

「やー、ほら、なんてーの?あたしも奉仕部の一員じゃん?だからなんか貢献しようかと思って!そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」

 

「由比ヶ浜さん」

 

「いやー、お礼とか全然いいから。部員として、当たり前のことをやっただけだから!」

 

「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど」

 

「違うんだ!?」

 

「えぇ、入部届けを貰っていないし、顧問の承認もないから――」

 

「書くよっ、入部届けくらい何枚でも書くよっ!」

 

「戸塚君は、どうしたの?」

 

「あっ、テニス部が弱い、から…その、強くしてくれるって……」

 

「はぁ…由比ヶ浜さんがどんな説明をしたのか知らないけれど、ここは生徒のお願いを叶える場所ではないわ」

 

その言葉を聞いて、戸塚がまたシュンとなってしまう。

 

「え?でもゆきのんならできるよね?」

 

あ、それ雪乃に言っちゃうと……

 

「あら、別にできないなんて言ってないわよ?いいでしょう。戸塚君、あなたの依頼受けるわ」

 

ほらね?変なスイッチ入るんだよなぁ。

 

 

 

 

テニスコートにはすでに、雪乃と由比ヶ浜がいた。

雪乃は制服で、由比ヶ浜はジャージだ。

 

「えっと、よろしくお願いします」

 

戸塚が律儀に挨拶をする。

やっぱ天使だ。

 

「えっと、俺からも一ついいか?」

 

「どしたの、ヒッキー」

 

「なんで雪乃制服なの?せっかくジャージ姿見れると思ったのに!J組と合同体育ないんだぞ?」

 

「う、うわぁ」

 

「大丈夫よ、由比ヶ浜さん。そこのはほっといて、始めましょうか」

 

そう言って雪乃は戸塚と由比ヶ浜に指示を出し始める。

 

「ちょっと雪乃さん?スルーですか?」

 

「J組と合同体育がないのは由比ヶ浜さんたちだって同じなのよ?つまり私のジャージ姿はレアなの。それなのに、みんながいる前で着ていてもいいの?」

 

「えっ、つまり、俺の前で、俺のためだけじゃないと着ないってこと?」

 

「べっ、別にそんなこと、言ってない、けれど…だって、さっきから戸塚君ばかりだし……」

 

く、クリティカルヒット!

ヒッキーはキュン死した!

って誰がヒッキーじゃ!

 

「まぁ、戸塚は可愛いからな」

 

戸塚と由比ヶ浜の方を見る。

 

「んっ……くっ、ふぅ、はぁ」

 

「うぅ、くっ……んあっ、はぁはぁ、んんっ!」

 

押し殺した吐息が漏れてくる。苦悶に顔を歪めながら、薄く汗を掻き、頬は上気している。

戸塚の細い腕ではかなりきついのか、時折すがるような視線を俺に向けてくる。下からゆっくりと見つめられると、何というかその……奇妙な気分になる。

由比ヶ浜が腕を曲げると、体操服の襟元から、眩しい肌色がチラっと覗く。いかん。直視できない。

さっきから俺の心拍数がやたら上がっていて、これはもう不整脈の可能性がある。

 

「……あなたも運動してその煩悩を振り払ったら?」

 

振り返ると、雪乃が心底蔑んだ目で俺を見ていた。

 

「えっと…怒ってる?」

 

「別に怒ってないわ。あなたが誰に興味を持とうと、好きになろうと私には関係ないもの」

 

そんなこと言わないでぇ〜。

がばばっと、ものすっごい勢いで腕立て伏せを始める。すると、雪乃はわざわざ俺の正面に回り込む。

 

「そうやってると、斬新な土下座に見えないこともないわね」

 

そう言って、クスッと笑う。

いいこと思いついた!

俺は腕立て伏せにあわせて雪乃に謝り倒す。

すると雪乃のツボにハマったようだ。

 

「ふふっ、ふっ、な、何を、ふふっ」

 

「ヒッキーとゆきのん喋ってばっか!」

 

アホの子に怒られてしまった。

 




材木座はとばしてしまいました。
もっと後で出番を作ります。

嫉妬しているゆきのんって可愛いよね、ということで、今回は嫉妬が多めでした。
ただ、嫉妬する相手が戸塚しかいなくて、男子に嫉妬するという珍しい嫉妬の仕方になってしまいました。

読んでくださりありがとうございました。
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