幼なじみの彼女は   作:有機物

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彼女は強いけど弱い

 

そんなこんなで日々が過ぎ、俺たちのテニスは基礎代謝を終えて、いよいよボールとラケットを使った練習に入った。

 

雪乃は木陰で本を読み、ときどき思い出したように戸塚の様子を見ては激を飛ばす。

由比ヶ浜は最初こそ戸塚と一緒に練習していたが、すぐに飽きて雪乃の肩で眠っていた。

由比ヶ浜さん、場所代わってください。俺も雪乃の肩で寝たい。

 

そんなことを考えていたら、いつの間にか起きていた由比ヶ浜が、雪乃の指示のもと、ボールカゴをえっちらおっちら運んでいる。

それを次から次へと、ポイポイ放り投げては戸塚が必死に食らいついていた。

 

「由比ヶ浜さん、もっとあの辺とかその辺とか厳しいコースに投げなさい。じゃないと練習にならないわ」

 

雪乃は本気で鍛えていた。

 

「うわ、さいちゃん大丈夫!?」

 

戸塚が転んでしまった。

あぁ、あの可愛い足に傷が……

 

「大丈夫だから、続けて」

 

それを聞いて雪乃は顔を顰めた。

 

「まだ、やるつもりなの?」

 

「うん、みんな付き合ってくれるから、もう少し頑張りたい」

 

「そ。じゃあ由比ヶ浜さん。後は頼むわね」

 

そう言ったきり、雪乃はくるっと踵を返すと、スタスタと校舎の方へと消えてしまった。

 

「もしかして、呆れられたかな…全然上手くならないし」

 

「それはないと思うよ。ゆきのん、頼ってくる人を見捨てたりしないから!」

 

「あ、テニスしてんじゃん、テニス!」

 

キャピキャピとはしゃぐような声がして、振り返ると葉山と三浦を中心にした一大勢力がこちらに向かって歩いて来た。

 

「ね、戸塚ー。あーしらもここで遊んでいい?」

 

「三浦さん、ぼくは別に、遊んでるわけじゃなくて…練習を…」

 

「え、何?聞こえてんだけど」

 

戸塚の小さすぎる抗弁が聞こえなかったのか、三浦の言葉で戸塚は押し黙ってしまう。

 

「あー、悪いんだけど、このコートは戸塚が許可取って使ってるから、部外者は無理なんだ」

 

「は?何言ってんの?キモいんだけど。てか、あんただって部外者じゃん」

 

「まぁまぁ、ケンカ腰になるなって。こうしないか。部外者同士、ここでいう俺と比企谷が勝負する。比企谷が勝ったらテニスコートは諦める。でも、俺が勝ったら比企谷には一つ諦めてもらう」

 

一つ諦める、ね。雪乃のことか。

そもそもそんな条件釣り合いが取れていない。

俺が負けたときのリスクが大きすぎるのに、勝ったときのリターンが少ない。

 

「ちょ、隼人?それじゃテニスコートが」

 

「すまない、優美子。だけど俺は決着を着けたいんだ。……5年前の勝負、覚えてるか?」

 

「覚えてるに決まってんだろ。でもあの時は何も賭けていなかった」

 

「俺はあの時からずっと君を負かすことばかり考えていたよ」

 

「知るかよ。そもそもそんな条件で受けると思ってんのか」

 

「じゃあどうすればいいんだ」

 

分かってるくせに、うぜぇ。

 

「お前は、雪乃を諦めろ」

 

「「!?」」

 

葉山と三浦が驚く。

 

「そんなの、釣り合いの取れていない……」

 

「じゃあなしだ」

 

「……」

 

「隼人!?なんで受けないの?雪ノ下さんくらい――」

 

「私がどうかしたのかしら?」

 

「ゆ、雪乃!?今の話、聞いてたか?」

 

「三浦さんの話から聞いていたわ」

 

ああ、びびったー。

聞かれてたら恥ずかしすぎて八幡死んじゃう。

 

「ユキノシタさん?あんたさぁ、あーしと勝負しない?隼人を賭けて、さ」

 

うわー、三浦攻めたな。

さっき葉山が俺の勝負を受けなかったからか。

 

「どうして私が隼人くんを賭けないといけないの?」

 

「なんで隼人のこと名前でっ」

 

「あなただって名前で呼んでいるじゃない」

 

「あーしはっ、同じ…クラスだし」

 

「同じクラスじゃないと名前で呼んではいけないの?」

 

「雪乃、落ち着け」

 

「私は落ち着いているわ。落ち着いていないのは、三浦さんと隼人くんでしょう?」

 

正論ごもっとも。

でもこうもしないとゆきのん攻撃やめないんだも〜ん!

 

「比企谷、それはできない」

 

「は?え、あ、ああ、別にいいけど」

 

さっきの勝負のことかよ。

断るの遅すぎだろ。

 

「優美子、もう行こう」

 

「でっ、でも……」

 

「私は勝負しても構わないわよ」

 

「もういいっ!」

 

そう言って葉山と三浦は帰っていった。

 

「え、ええと。あっ、そうだ!みんなで勝負しない?」

 

「あっ、それいいね。ぼくも雪ノ下さんがどれくらい上手いのか知りたい!」

 

「私は…構わないわ」

 

雪乃がやるなら俺もやるしかないな。

 

「よし、チーム戦でやろう。負けた方が勝った方のお願いをなんでも聞く。俺は戸塚とチームな」

 

「じゃああたしはゆきのんだね!」

 

「はぁ、私は別にいいけど、戸塚くんはいいかしら?」

 

「えっと、負けた方が勝った方のお願いをなんでも聞くって、なんでも、なの?」

 

「ああ、なんでもだ」

 

「うーん、まぁ、いいけど」

 

 

 

 

 

勝負は圧倒的だった。

正直雪乃をなめていた。

あの時は陽乃さんが強くて、雪乃が強いようには見えなかったのだが、まさかここまで強いなんて。

 

「ゆ、ゆきのんすごっ」

 

「由比ヶ浜さん、後は任せてもいいかしら」

 

「え?まあ、いいけど」

 

こうして俺と戸塚チームはあっけなく負けた、のだが…

 

「ゆきのん!?」「雪乃!?」「雪ノ下さん!?」

 

3人の声が重なった。

雪乃が急に倒れたのだ。

 

「ゆきのん、どうしたのっ!?」

 

「……少し、自慢話をしてもいいかしら。私、何でもできたから、何かを継続してやったことがないの」

 

「えっと、どういうこと?」

 

「……体力だけは自信がないの」

 

おい。

そういえばあの時もすぐにヘロヘロになってたな。

 

「つまり…疲れたってこと?」

 

「た、端的に言えばね」

 

「もう、びっくりした。急に倒れるんだもん!」

 

俺もマジでびびった。

 

「少し休めば平気よ。先に戻ってもらって構わないわ」

 

「戻れるわけないじゃん!あたしゆきのんが心配になってきたよ」

 

「あはは。でも、雪ノ下さんって、意外と弱点があるんだね。なんか、強いイメージだったから」

 

「まぁ、そこがいいんだけどな」

 

ときどき見せるあどけない感じとか、マジでたまらん。

 

「でさ、なんでもお願い聞くってやつは?」

 

もう、なんで気づいちゃうの?

せっかく話それてたのに。

 

「えっと、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは、何かお願いある?」

 

「あたしは……えっと、ゆきのんは?」

 

「私は正直この疲れをどうにかしてほしいわね」

 

いや、無理だろ。

てかなんでも聞くって言ってんのに、本当にそんなお願いだったら泣くよ?

 

「それは…ちょっと難しいかな」

 

ほら、戸塚も苦笑いしてんじゃん。

でもついついそんなお願いをしちゃうゆきのん、超可愛い。

 

「ヒッキー、顔が変だよ?」

 

「いや普通にひどいな。で、由比ヶ浜はなんかあんの?」

 

「え、えっと…あっ、この4人で勉強会とか?ほら、もうすぐ試験だし!」

 

「わぁ、楽しそうだねっ!」

 

戸塚が目をきらきらと輝かせている。

うっ、眩しくて直視できない!

 

「それって、私も参加しなければいけないの?」

 

「ゆきのん来ないの?」

 

「だって私は勝った側だもの。お願いを聞く理由はないわ」

 

「えっ……」

 

由比ヶ浜が捨てらてた子犬のような顔になる。

しょうがない、助け舟を出してやるか。

べ、別に雪乃と戸塚に囲まれて勉強したいだなんて思ってないからねっ!

 

「参加したらいいじゃん。由比ヶ浜に勉強教えてやれよ」

 

「ぼ、ぼくも教えてほしいな。ほら、国語とか」

 

なにっ、国語だと?

文系科目は任せろ!

 

「戸塚、国語なら学年3位がここにいるぜっ!」

 

「学年1位は私よ」

 

「へっ?」

 

ああ、これ以上上にいけない気がしてきた。

 

「そうね、私も勉強会参加しようかしら」

 

「やったぁ!ゆきのんとサイゼだ!」

 

「それで、雪ノ下さんのお願いは?」

 

「私は……」

 

みんなが雪乃を見る。

しかし雪乃は恥ずかしそうにうつむいている。

 

「あ、メール交換しない?」

 

いきなり由比ヶ浜が入ってきた。

 

「あ、それいいな」

 

これは雪乃とメールを交換するチャンス!

 

「じゃあ教室戻ろっか。あ、あたし携帯持ってくるから、先戻ってて」

 

「分かったわ」

 

「ぼくも携帯もってくるねから。じゃあ、後でね」

 

 

 

 

部室に着いた。

コンコンコンコン

 

一応ノックをしておく。

着替え中だったらあれだしね!

 

「はい」

 

返事が聞こえたので、戸を開ける。

 

「「あ」」

 

思いっ切り着替え中だった。

 

「まて、俺は悪くないよな。ちゃんとノックしたし、返事だってもらった」

 

「……由比ヶ浜さんだと思ったのよ」

 

「そうか……」

 

そう言って、雪乃をまじまじと観察する。

ブラウスの前ははだけ、薄いライムグリーンの下着がチラついている。下は未だスコートのままだが、そのアンバランスさが均整の取れたほっそりとした身体を引き立てている。

俺に見られるのが恥ずかしいのか、時折身体をよじる。

その姿を見て、つい呟いてしまった。

 

「やっぱ胸ないな」

 

「比企谷君、今すぐ出ていってもらえないかしら。通報するわよ」

 

声がマジだったので、慌てて外へ出る。

 

「禁句だったか」

 

「あ、ヒッキー。ゆきのんいる?」

 

「ああ、いるけどちょっと――」

 

慌ててとめようと、由比ヶ浜の腕を掴んだが、時すでに遅し。

ドアが開いてしまった。

 

「「「あ」」」

 

「ヒッキーさいてぇっ!」

 

「ぐはぁ!」

 

由比ヶ浜に思いっ切り腹を殴られた。

なんでお前が殴るんだよ。

そして由比ヶ浜はすぐに部屋に入ってしまう。

女子同士はいいのか……

 

するとすぐにドアが開いた。

 

「比企谷君、大丈夫?」

 

こんなときでも俺の心配してくれるなんてゆきのんマジ天使。

あれ、ここ天国?

 

「えっと、ごめんね?」

 

「そうだよ、なんで由比ヶ浜に殴られてんだよ。雪乃に殴られたかった」

 

「ごめん…ってそこ!?ヒッキーもしかして、ゆきのんのときだけドM」

 

ちょっと、マジのトーンやめてよね。

さっきの雪乃並に怖いから。

むしろ一周回って可愛いまである。

そういえばさっきの失言は許してくれたのだろうか。

 

「ドMじゃねーよ。雪乃は信じてくれるよな?」

 

「えぇ、信じているわ。だから早くどいてくれないかしら、M谷くん?」

 

「信じてもらえてねぇー!」

 

 

 

 

 




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