「あ、比企谷君、おはよう」
教室に入ると、天使が声をかけてきてくれた。
「お、おう」
「あのさ、比企谷君は職場見学の場所決めてる?」
職場見学?
そんなもんあったっけか?
「あー、まだ考えてるとこだ」
「そっか。あ、今日みんなで勉強するって」
そういえば前言ってたな。
「了解だ。サイゼだったよな」
「うん。楽しみだなぁ。雪ノ下さんに教えてもらえるなんて、すごいよね!」
うん、すごいと思う。
戸塚の可愛さが。
……本当に男なんだよな。
「僕、国語教えてもらいたいなぁ比企谷君も国語得意なんだよね?」
「ああ、国語だけな。数学は捨ててる。私立文系舐めんなよ」
「え、えっと……」
「いや、気にしないでくれ。数学に対するアンチテーゼだからな」
「そっか。諦めるのも大切だよね」
「……」
「……」
「え、えっと…」
「あ、あのさ」
「………なにかしら?」
俺たちは今、勉強会をしている。
と言っても、ただ黙々と勉強をしているだけだが。
「どうした?」
「なんか、思ってたのと違う……」
思ってたのと違うと言われても、由比ヶ浜が何を想像していたのかは分からない。
「由比ヶ浜さんはどういうのを想像していたのかしら?」
「出題範囲確認したり、分からないとこ質問したり、まぁ休憩も挟んで、後は相談したり、情報交換したり。偶には雑談もするかなぁ?」
勉強会なのに、何一つ勉強していない。むしろ、そんな奴ら邪魔じゃないのか。
「そもそも勉強というのは一人でやるものよ」
「あっ、あの、雪ノ下さん。質問があるんだけど……」
「どこ?」
「ここの問題で……」
そういえば、戸塚は雪乃に勉強を教えてもらうのを楽しみにしていたな。
「ほら、そういうのだよ!」
「いや、ただ教えてもらってるだけだろ」
「それが良いんじゃん」
「そもそも全部分かれば教えてもらう必要ないだろ」
「ヒッキーはゆきのんに教えてもらいたくないの?」
「雪乃、終わったら俺も聞きたい問題あるんだが」
「うっわ……」
由比ヶ浜が蔑んだ目で見てくる。
「比企谷君は文系科目得意でしょう?私が教える必要はないんじゃないかしら?」
「いやぁー、数学が全然分かんなくってなぁー」
「あれ、比企谷君数学捨てたんじゃなかったっけ?」
なに!?
思わぬところから切り返しがっ。
とつかぁ、可愛いから許す!
純粋で可愛いなぁ、俺が言ったことちゃんと覚えてくれて……。あ、なんか泣けてきた。
「い、いや、頑張って損はないだろ。それに、俺予備校のスカラシップ狙ってるから」
「あら、意外ね。あなたは親の負担を軽く、なんて考える人だったの?」
「いや、違う。スカラシップ取って、さらに親から予備校の学費貰えばまるまる俺の金になるだろ?」
「詐欺じゃん」
「誰も損してないんだからいいだろ」
「でも、比企谷君がスカラシップ取ってくれたら、親御さんは喜ぶんじゃないかな?」
なん、だと……。
「と、戸塚ー!今度親がいるときに挨拶に来ないか?」
「え、どういう、こと?」
しまった!
戸塚が引いている。
一人で先走ってしまった。俺は雪乃一筋だ。
って戸塚男だから浮気になんなくね!?
「ヒッキー、何言ってんの?」
「はぁ、本当に変な人……」
「あ、僕ドリンクバー行ってくるね」
「お、じゃあ行くか」
「あたし紅茶にしよっ!」
由比ヶ浜がご機嫌にドリンクを取ってきていると、雪乃がしげしげとドリンクサーバーを眺めている。コップを右手に、左手に何故か小銭を持っていた。
「……ねぇ、比企谷君。お金はどこに入れるのかしら?」
「は?」
マジすか。雪乃さん、ドリンクバー知らんとですか。どんな上流階級で育ったんすか。
「や、お金かかんないから。見とけ」
俺がドリンクを注ぐ様子を真剣に眺めている。そ、そんなに見られると、ちょっと照れる。
なんて、気持ち悪いことは考えない。考えないのっ!
俺がボタンを押し、ゴーッと音を立ててコーラがコップに満ちる様子を、キラキラした目で見ていた。
危なっかしい手付きだったが、どうやらお目当ての飲み物を手に入れたようだ。
「ゆきのん、また来ようね」
「次来るときは勉強は無しでお願い」
そりゃあそうだよな。
みんな雪乃に質問したがって、雪乃は全然自分の勉強ははかどらなかったようだ。
「今度はお出かけとかしてみたいな」
「いいねっ!……そういえば、ゆきのん勝ったときのお願いまだ聞いてなくない?」
「……私の、お願いは……。もう、叶えてもらったわ」
「そうなの?」
なんで俺を見んだよ。なんもしてねぇーよ。
ま、友だちの多い由比ヶ浜には分からないことだろう。
あー、俺のお願い、叶えてほしいな。
投稿が遅れてすみません。
最近忙しくなってきたので、遅くなります。
読んでくださりありがとうございます。