「ゆきのん!今日一緒にサイゼ行かない?」
「えぇ、いいわよ」
最近雪乃と由比ヶ浜がとても仲良しなのだ。もう俺が入る隙がないくらい。
おーい、俺も誘ってよ〜。行きたい行きたい!
「あー、ヒッキーも、来る?」
「え、いいのか?」
よっしゃあ!誘われたぜ。
「さいちゃんも誘う予定だったし」
戸塚と雪乃がいるだと?ここは天国か。
「さいちゃんに連絡しとくから、二人先行ってて」
「ほいほい」
そう言って、俺と雪乃は帰る準備をする。
「じゃあ、行くか」
「比企谷君は自転車でしょう?私は電車で来ているから、歩いて行くわ。先に行っててちょうだい」
「え、いやそれは……。あっ、後ろ乗らないか?」
「でも……」
「いいからいいから」
摑まえていないとすぐに逃げてしまいそうだったので、雪乃の手首を柔く握る。
すると雪乃は嫌がっている様には見えないが、居心地悪そうに身をよじった。
それを見て、してはいけないことをしてしまったような気がした。
「あっ……。嫌なら、いいんだが」
「………」
気まずい雰囲気になる。
雪乃は何も言わずに、ただ地面を見つめていた。
どうすればいいのか分からなくなって、握っていた雪乃の手首を離した。
そうすると、やっと雪乃は口を開いてくれた。
「嫌、とかではなくて……」
「えっと……じゃあ、どうする?」
「私は……」
なかなか最後まで言ってくれない。
俺の中で、どこか引っかかっているような気がした。
今、俺は悪いことをしてしまったのだろうか。
ただ自転車の後ろに乗らないかと誘い、手首を柔く握っただけだ。
サイゼなんてすぐそこだし、二人乗りが怖いという訳でもなさそうだ。
手首だって、大して力なんて入れてなかったから、離そうとすれば、離せたはずだ。
思い当たる節がない。
ここは本人に聞くしかなさそうだ。
「えっと、俺なんかしたか?もしそうなら謝るけど…」
「……あんまり……られ…の……じゃ、ないから…」
消え入るような声だったから、上手く聞き取れず、顔を近づけてしまう。
「ひゃっ!」
俺が近づくと、雪乃はびっくりして、倒れ込みそうになる。それを俺が支えると、雪乃は泣きそうな目で見てきた。
「あっ、いや、ごめん」
すぐに雪乃を離す。そうすると、雪乃は明らかに俺と距離をとった。
「上手く、聞き取れなくて……えっと、悪い」
今の雪乃の反応は、どう見てもおかしい。
『距離が近くて恥ずかしい』みたいなラブコメ展開でもなければ、『近づくな変態』というような、ラブリーマイエンジェルなんとかたんみたいな展開でもない。
ただ泣きそうな目で俺を見てくるだけだった。
「なんか、気に障るようなこと、あったか?教えて、くれないか?」
そう聞いても、なかなか口を開いてくれない。
手をぎゅっと握り締めて、顔はうつむいて、何かを堪えているようだった。
なんとかしたいが、何も話してくれないとなると、打つ手がない。
俺には雪乃をじっと見ることしかできなかった。
今まで雪乃と接してきて、こんなことは一度もなかった。
やはり俺はなにかしてしまったようだ。
――手首を握ったのがだめだったのだろうか。
他にしてしまったことなんてないし、消去法的に、これが原因だ。
「その……手首握って悪かった。嫌、だったよな」
「……もう、大丈夫……」
俺が謝ると、雪乃は口を開いてくれた。
どうやら正解だったようだ。
しかし、どうしてだめなのかがイマイチ分からない。
力は入れてなかったから、もしかしたら、触られることが嫌だったのだろうか。
「触られるの、嫌だったか?」
「……ぁ……ゃ」
なにか言おうとして、でも息しか出てこないという感じだった。泣きそうになっている。
これじゃあ俺がイジメているみたいだ。
「無理に答えなくて大丈夫だ。俺先行っとくから、また後でな」
雪乃からの返事はなかった。
「ヒッキー何注文する?」
「えっ?あぁ…とりあえずドリンクバーだな」
「りょーかい!てかゆきのん遅いね。ヒッキーと一緒に来るかと思ったんだけど」
雪乃と別れてから30分程経っているのだが、まだ来ない。
連絡無しにバックレるタイプではないし、由比ヶ浜も戸塚も心配している。もちろん俺も。
「どうしたんだろうね。急用かな?」
「でも連絡来てないよ?ゆきのん大丈夫かな……」
「あっ!あれ、雪ノ下さんじゃない?」
戸塚が店の入口を見ている。
そっちの方を見ると、私服の雪乃がいた。
「おーい、ゆきのん!こっちだよ!」
由比ヶ浜が雪乃を見つけると、嬉しそうに手を振る。
それを見つけた雪乃は、こっちに向かって歩いて来た。
「……ごめんなさい、遅くなってしまって」
雪乃が申し訳なさそうに頭を下げる。
「大丈夫だよ!てかゆきのん家帰ってたの?」
「えぇ、制服のまま食事をするのは好きではないから」
「もしかして雪ノ下さん潔癖症?」
「そうではないと思うけれど……。多分、小さい頃から母に言われてきたからかしら」
「へー、ゆきのんのお母さん厳しいの?」
「厳しいかは分からないけれど、マナーとかはよく言われていたわ」
「そうなんだ。あっ、ゆきのん!あたしの隣来て!ずっと待ってたの!」
由比ヶ浜が隣をトントン叩くと、雪乃は少し距離を空けて座った。
「もっと近くおいでよ」
そう言って、由比ヶ浜が雪乃との距離を詰める。が、雪乃はとっさに、恐らく反射的に由比ヶ浜と距離をとっていた。
「えっ…ゆきのん?」
由比ヶ浜に不安げな目で見られて、雪乃ははっとした表情になる。
「あっ、えと…」
そう言って雪乃はうつむいてしまう。
さっきと同じ展開だ。
「あっ、おにーちゃん!」
気まずい雰囲気のところで、無駄に明るい声が聞こえた。
読んでくださりありがとうございました。
少しずつ謎を増やし、少しずつ謎を解いていきたいと思っています。
これからもお読みいただけると嬉しいです。