幼なじみの彼女は   作:有機物

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彼はデートがしたい

「……比企谷君、由比ヶ浜さんは今日お休みなのかしら?」

 

「いや、えっと……」

 

職場見学に行ってから、由比ヶ浜とは一言も話していない。

 

「そう……」

 

雪乃が悲しそうに目を伏せるのを見て、とてつもない罪悪感が押し寄せてきた。

 

「いや、その……」

 

「今日はもう帰りましょうか」

 

そう言って雪乃は席を立つ。読んでいた本をカバンにしまい、ドアを開けた。

 

「鍵を締めるから出てもらえない?」

 

「あぁ、悪い……」

 

俺が出ると、雪乃は鍵を締め、そのまま職員室に返しに行ってしまった。

由比ヶ浜がいない時、雪乃はあまり俺と話さない。だからか、必然的に距離が遠くなってしまった気がする。

なんとなく嫌な予感がする。

由比ヶ浜を利用する訳ではないが、由比ヶ浜がいないと縮められる距離も縮まらない。逆にもっと遠くなり、最悪の結末を迎えてしまうかもしれない。

でもここで雪乃に一気に近づいても取り返しがつかないことになる。

 

「難しいな……」

 

やはり俺と雪乃が近づくには由比ヶ浜が必要だ。それに、雪乃もなんだかんだで由比ヶ浜のことが好きだからこのまま離れっぱなしというのも悪い。俺がまいた種だ。きちんと俺が処理するのが道理だろう。

しかし、一度離れて行った人ともう一度近づくにはどうしたらいいんだろう。

俺と雪乃は物理的にかなり距離が遠くなったから、近づいたときにもとに戻った。由比ヶ浜は物理的に距離は遠くない。ただ気持ち的に距離が遠くなってしまった。

 

「小町に相談してみるか」

 

 

 

 

 

「え!ごみぃちゃんが友人関係で悩むとか、明日猫が降るよ!」

 

「お〜、猫好きが喜びそうだな。全国の猫好きは俺に感謝だな」

 

「猫好きと同じくらいの数いる犬好きはお兄ちゃんのことボコボコにするね!」

 

ちょっと、いい笑顔でなんてこと言うの、小町ちゃん。

 

「ごめんごめん。だってあのお兄ちゃんが友人関係で悩むとか、ちょっと恐怖すら感じるよ」

 

「いや別に友人じゃなくて……。まぁ、好きな人の、好きな人みたいな感じで」

 

「えっ!?雪乃さんの好きな人?それお兄ちゃんのライバルじゃん!お兄ちゃんどうやったって敵わないよ」

 

「いや、女子なんだが……」

 

「は?どういうこと?」

 

「雪乃の、まぁ、一番の友だちって感じか?いや、友だちかは知らんけど、親しい人ってやつだ」

 

「あー、結衣さんか」

 

え、なんで分かるの?まだ一回しか会ってないよね?

 

「で、なんで結衣さんのことで悩んでんの?いつもなら、『一度離れて行ったらそれっきりだ!』とか言って、もう完全に他人になんじゃん」

 

流石小町。俺のことをよく分かっている。

でも今回はそれじゃあだめなんだよな。

 

「雪乃の一番親しい人って言っただろ?だから…なんか雪乃元気なくて。一応由比ヶ浜が離れて行ったのは、俺のせいだし、このまま雪乃まで離れて行かれると、困るから……」

 

「つまり、雪乃さんのために結衣さんを連れ戻したいの?」

 

「まぁ、そんな感じだ」

 

「それじゃあ雪乃さんと一緒に解決しなきゃ!お兄ちゃん、携帯借りるね!」

 

「えっ、ちょ!」

 

「あ、もしもし、比企谷小町です。はい!あの、急で申し訳ないんですが、明日って空いてますか?あっ、そうですか。いえいえ、全然大丈夫です。急にお電話してしまい、すみませんでした。失礼します」

 

こいつはどこの主婦だよ。

 

「ごめん、デートの取り付け失敗しちゃった」

 

テヘペロとかやめろよ可愛いから。許しちゃうだろうが。

……え?こいつ今なんて言った?

 

「え、お前今何してたの?」

 

「雪乃さんに、明日空いてますかって聞いて、明日は用事があるって言われた。お兄ちゃんとデートしてもらおうかと思ってたんだけどね」

 

「あ〜〜〜!なんでだよ!くそぉ用事ぃ。うぅ……」

 

床に転がり、ジタバタする。

 

「まぁまぁ、明日は小町が一緒にお出かけしてあげるから」

 

「……ほんとか?」

 

「うん!わんにゃんショー行こ!」

 

 

 

 

 

「わー、お兄ちゃん!ペンギン!ペンギンがたくさん歩いてるよ!可愛いー!」

 

「ああ、そういやペンギンの語源ってラテン語で肥満って意味らしいぞ。そう考えるとあれだな、メタボサラリーマンが営業で外回りしてるみたいだな」

 

「わ、わー。急に可愛く思えなくなってきた……」

 

小町が俺を恨みがましい視線で見てくる。

 

「お兄ちゃんの無駄知識のせいでこれからペンギン見るたびに肥満の二文字が頭に浮かぶようになったよ」

 

しょうがないだろ。俺だって、本当は雪乃とデートしたかったんだから。そもそも小町が雪乃に電話しなければこんなに悲しむことはなかったのに……

 

「お兄ちゃんさー、デートのときそういうこと言っちゃだめだよ?雪乃さんが『可愛いねー』って言ったら『そうだねー、でも俺は雪乃の方が可愛いと思うけどねー』って返さないと」

 

「大丈夫だ。そこら辺のバカップルが可愛い可愛い言い合ってるときも、俺は頭の中では『は?お前ら何言ってんの?雪乃の方が可愛いに決まってんじゃん!』って思ってるからな」

 

「うわぁ……。あっ、あっちに猫いる!」

 

そう言って小町が俺の腕を引っ張る。

 

「この子超可愛い。ほら、ほら」

 

「大丈夫だ小町、雪乃の方が可愛いからな」

 

「雪乃ちゃんがどうしたの?」

 

突然後ろから声がした。ヤバい。俺の脳内サイレンがガンガンに鳴りまくっている。

 

「は、陽乃さん……と、雪乃!?」

 

「ひゃっはろー。比企谷君と、妹ちゃん?」

 

「はい!比企谷小町といいます!」

 

小町が陽乃さんに挨拶している横で俺は、顔を赤くした雪乃を見ることしかできなかった。

 

「あっ、雪乃ちゃんね、照れちゃってんの〜。可愛いでしょ?」

 

「あ、あの……。つかぬことをお尋ねしますが、どこからお聞きになっていましたか?」

 

「『この子超可愛い。ほら、ほら』『大丈夫だ。雪乃の方が可愛いからな』ってとこだよ。もぉ、雪乃ちゃんが可愛いのは当たり前じゃん!それよりさ、雪乃ちゃんがいないところでも雪乃ちゃんの話してたの?」

 

「はい!そうなんですよ〜。兄ってば雪乃さんのこと大すっ――」

 

「小町ちゃん?余計なこと言っちゃだめよ?」

 

「余計じゃないよ〜。だって、私の可愛い妹の話されてたら気になるじゃん!ねぇ、雪乃ちゃん?」

 

「えっ?えっと……」

 

もう小町と陽乃さんの組み合わせだめだ。俺がもたない。息切れがやばいわ。あー、どーしよっかなー。

 

「わー、陽乃さんおもしろ〜い。一緒にまわりませんか?二人で」

 

「わー、小町ちゃんおもしろ〜い。一緒にまわろっか。二人で」

 

は?何言ってんの、この人たち。

 

「じゃあね、比企谷君、雪乃ちゃん。後は二人で頑張ってね」

 

そう言って陽乃さんと小町はどこかへ行ってしまった。

 

「あ、えっと、どっか行く?」

 

「え、えぇ……」

 

とりあえず猫ゾーンから出なければと思い、雪乃を見ると、じっと猫を見ていた。

 

「猫、見るか?」

 

「………」

 

とりあえず雪乃を待つ。

 

「………」

 

「えっと、おーい?」

 

「……にゃー」

 

あ、これだめた。俺のことなんて見ていないわ。

 

「あっ。何か言った?」

 

慌てて雪乃が振り返り、俺の方を向く。

 

「どっか、行くかって言ったけど」

 

「そう。えっと…どこに行くの?」

 

「まぁ、そこら辺だな」

 

雪乃は俺とは反対の方から来ていたから、ペンギンコーナーの辺りまで行く。

……これって、デートだよね?男女で出かけてるんだから、デートだよね?雪乃が可愛いって言ったら、俺は可愛い返ししたほうがいいやつなの?

 

「ペンギンって……」

 

雪乃がペンギンを見るなり口を開いた。え?可愛いとか言うの?

 

「ペンギンの語源ってラテン語で肥満という意味なのよね。そう考えるとあれよね、餌を取り合っている姿なんか、満員電車に押し潰される太ったサラリーマンみたいよね」

 

うわぁ……。ちょっと小町の気持ち分かったかも。

 

「……俺も小町に同じこと言って怒られた」

 

「え?怒られたの?」

 

雪乃も俺と同じだな。何がだめなのかよく分からない人だ。でも言われる側になると分かるんだよ……

 

「まぁ、確かにそう見えるから言っちゃうよな。その気持ちはよく分かる」

 

「そうよね、普通、よね」

 

「いや、普通ではないんだが……。まぁ、デートとかでは気をつけた方が良いらしいぞ」

 

「えっ、デート!?」

 

雪乃が少し俺から距離をとる。

やめて!違うの、小町が言ったことそのまま言っただけなの!

 

「あ、いや、別に今の言葉に他意はないぞ?」

 

これって他意って言ってる時点で他意があるってことなんだよなぁ。

 

「……あっても、いいのに」

 

雪乃がうつむきながらつぶやいた。

 

「え?なんて?」

 

「あっ、別に、なんとも……」

 

慌てて手をワチャワチャする。でも後ろにいくにつれて、自信なさげに髪をいじっていた。

そう、髪だ。今日の雪乃はいつものおろしている髪型ではなく、ツインテールなのだ!

今まで気づいてたけど、言うタイミングがなかった。

 

「髪型、なんかいつもと違って……なんか、いいな」

 

「えっ!?あ、えっと……姉さんと、出かけるから……」

 

陽乃さんと出かけるのがそんなに好きなのか。陽乃さんが前言っていたが、話を誇張しているのかと思っていた。

 

「陽乃さんのこと、好きなんだな」

 

「……好きじゃない人とは、出かけないもの……」

 

え、ちょっと待って。これって今雪乃と出かけてることになるの?なるよね?え、雪乃の中ではならないの?どっちだぁー!

 

「今、俺って雪乃と出かけてることになる、のか?」

 

「えっ?だって今、出かけてるじゃない……あっ、や、やっぱり今のなしっ!ち、違うの!出かけてるとかそういうのは関係ないの!えっと…そ、そう!出かけてるけど、その、あ、出かけてないからっ!あれ?えっと、す、好きじゃない人とも出かけてることだってあるし、あ、でも比企谷君が好きじゃないって言いたいんじゃなくてっ、えっと………」

 

必死過ぎて、何が言いたいのか全く伝わってこない。

……でも、そういうところもめちゃくちゃ可愛い。

 

「えー、結論は?」

 

「えっと、好きじゃない人とも出かけてることだってあるけど、比企谷君が好きじゃないって言いたいんじゃなくて、でも、好きって言いたいわけでもなくて……今日は一応出かけてるってことで良い?」

 

良いか悪いかで言われたら良くない。だってこれどう考えてもデートだろ!どうせならデートって言ってほしいなぁ。

というか焦り過ぎで口調が変わっている。

なるほど、これがギャップ萌えというやつか。いや、常に雪乃に萌えてるからギャップもなにもないか。

 

「出かけてるってことなのか?」

 

「あ、嫌だったら、偶然会って同じところを歩いてるだけでも良いけど……」

 

なにその距離感。斬新だな。てか、なんで出かけるから遠ざかってんの?違うよ、そっちじゃないよ。もっと近づいてデートって言って欲しんだよ。さては雪乃、会話の方向音痴だな。

 

「あ、なんかデートっぼくないかと思っんだが……」

 

「え?あ、えっと……そうなるの、かしら?」

 

「嫌だったら出かけてるでいいんだが……」

 

すると雪乃はフルフルと首を振った。

ナニそれ可愛い。

 

「……嫌じゃ、ないから、デートが良い……」

 

「お、おう……」

 

嘘だろ。予想以上に可愛くてびびったわ。破壊力抜群だな。

 

「あ、あとお願いがあって……」

 

雪乃のお願いならなんでも聞くぞ!

 

「どうした?」

 

「そ、その……付き合ってくれないかしら?」

 

「いいぞ。……えっ?」

 

「え?」

 




切るところが見つからず、長くなってしまいました。
読んでくださりありがとうございました。
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