「じゃあ行きましょうか」
いやー、いきなり付き合ってなんて言われるからびっくりしちゃったよー。買い物に付き合ってだったのかー。でも一応デートってことになってるし、俺としてはそれだけで満足なんだけどね。
「何買うんだ?重いものでも買うのか?」
なぜ俺を買い物に誘ったのだろうか。
一番可能性が高いのは、荷物持ちか。
「6月18日ってなんの日か知ってる?」
「明日か。祝日ではないな」
「由比ヶ浜さんの誕生日よ。……多分」
「多分なのな」
「……恐らく」
「いや意味変わってないから」
「とにかく誕生日のお祝いをしてあげたいの。たとえ今後由比ヶ浜さんが奉仕部に来ないのだとしても、……これまでの感謝はきちんと伝えたい、から」
雪乃は恥ずかしげにうつむく。
分かる、こういうこと人に言うのちょっと恥ずかしいよね。言ったことないけど。言う相手いないけど。
「で、お目当てのものはどこで買えるんだ?」
「ねぇ、比企谷君が貰って嬉しいものってなにかしら?」
雪乃から貰ったものならたとえダンボールでも大切にしちゃうぞ☆とは流石に言えない。
やっぱ雪乃はプレゼント選びのセンスないよな。
というか由比ヶ浜のプレゼント買うのに俺の意見を求めてくる時点で人選センスないな。あ、選ぶ程知り合いいないのか。いや、葉山とかに聞けばいい答えが返ってきそうだが。……何気に雪乃って男子の知り合い多いのか?いや、多くはないか。女子の知り合いが少ないだけだな。由比ヶ浜に、戸塚に……って戸塚男だわ!あっぶねぇ。ということはやっぱ男子の知り合いの方が多いのか。気をつけないといけないな。
「比企谷君?」
俺が長い間考え込んでいたせいか、雪乃が不安げに俺の顔を覗き込んでくる。
「あー、えっと……由比ヶ浜ならなんでも喜ぶんじゃないか?」
「私が聞いているのは、比企谷君が何を貰って嬉しいかよ」
「え、俺?なんで?誕生日とかきてないけど」
「いつなの?」
「8月8日だ。覚えやすくていいだろ」
「えぇ、覚えやすくていいわね。で、何を貰ったら嬉しいの?」
「あー、本とか、図書カードとかだな。変に気を遣われて友だち候補リストとか貰っても虚しいだけだし」
「本と図書カード、ね。……由比ヶ浜さんはどうなのかしら」
「少なくとも本を貰っても喜ばなそうだな。意外と難しいな」
「とりあえず色んなお店に入ってみましょうか」
お店に入ると、とても痛かった。
何がって他の女性客の視線だ。もう虫を見るかのようだ。さらに俺の動きを警戒するように店員さんがすっと移動を始める。雪乃は商品見てるし。っていうか、一緒に歩いていても俺がストーカーしてるようにしか見えないんだけどね。
「あの、お客様……。何かお探しですか?」
ペッタリと張り付いた笑顔の下に警戒心を隠しながら女性店員が話をかけてきた。
「あ、いや、その……す、すいません」
思わず謝ってしまった。その意味不明な謝罪がさらに警戒心を招いたのか、女性店員がさらに一人増える。まずい、仲間を呼ばれた!全滅フラグがビンビン立ってる!
「ねぇ比企谷君、こっち」
救世主に呼ばれて行ってみると、そこにいたのはエプロン姿の雪乃だった。
黒い生地は色合いとは裏腹に薄手で、雪乃が羽織ると涼しげですらあった。胸元に小さくあしらわれた猫の足跡。腰紐がピコっとリボン状に結ばれ、それが雪乃の引き締まったくびれを強調していた。首回りや腕回りの具合、そして動きやすさを確かめるように、雪乃はクルリとワルツでも踊るかのように一回転してみせる。そうすると、解けかけた紐がゆらっと動き、しっぽみたいだった。
「どうかしら」
「毎朝俺のみそし――。いや、すげぇよく似合ってる」
最初はキョトンとしていたが、次第に笑顔になる。
「そ、そう?ありがとう。……でも、今のは由比ヶ浜さんにどうかしら、という意味よ」
「由比ヶ浜にはもっと頭の悪そうな、ふわふわぽわぽわしたのの方が喜ぶんじゃないか?」
「ひどい言い草だけれど的確だから反論に困るわね。
……これにするわ」
そう言ってピンクの装飾少なめのエプロンを選んでいた。
しかし危なかったな。雪乃が可愛い過ぎてうっかりプロポーズしちゃうとこだった。ここでプロポーズして気持ち悪がられたら死んじゃう自信がある。
「あれ?そのエプロンも買うのか?」
さっき雪乃が試着していたエプロンも持ってレジに並んでいた。
「あっ、えっと……私も料理、するし……」
「自分用ってことか?」
「えぇ……まぁ」
「じゃ、じゃあさ、俺が買うよ」
「でも……それは……」
「代わりと言ってはなんだけど、今度またそのエプロン姿見せてくれないか?俺が見たいんだ。だから買う」
「見たい、の?」
「見たい」
「そ、そう。なら…お願いしても、いいかしら……」
そう言って雪乃はおずおずと俺に差し出してくる。
まぁ、なんつーか俺にとって人生初めてのデートだし、しかもその相手が好きな子だったら格好つけたくなるよな。
エプロンを買ってから、飲み物を買って休憩する。雪乃が疲れてたからだ。
でもこいつ、「疲れたか?」って聞くと、絶対強がるから俺が疲れたってことにしないと意地でも休まないんだよなぁ。まぁ、そういうところもめちゃくちゃ可愛いんだが。
「他どっか行くところあるか?」
「……比企谷君は?」
「俺はないけど、この後暇だし荷物持ちでもなんでもできるけぞ?」
「そ、そのっ……。えっと……」
雪乃がこっちを向いて口を開くが、すぐに視線をそらされてしまう。
言いにくいことを言うときの癖なのか、口をモゴモゴとさせている。
「じゃ、じゃあお昼ごはん食べない?あと、もう少しお店とか見て……」
「お、おう」
いやあまりにも可愛過ぎてびっくりしたわ。何この子超可愛いんですけど。やっば、顔が赤くなって、ちょっと上目遣いなのとかすごすぎるんですけど。この子の顔全人類に見せたら平和になるんじゃないの?いや、今度は雪乃の取り合いで戦争がおきるか。なら俺が雪乃を貰っとこう。……本人に拒否されるかもしれないけど。
適当に店に入る。雪乃はあまり派手なお店に来たことがないのか、物珍しそうに色々見ていた。
そして俺は、色んな人から変質者を見るような目で見られていたり
なんでこうなるんですかね。そこにも男性客いるじゃん!なんで俺だけ?男女ペアじゃないとだめなの?というか、俺も雪乃と来てるんですけど。
「なぁ雪乃。俺不審みたいらしいから外で待ってる」
「あっ、待って」
「いや、でも店入れないし……」
「こっち、来て……」
雪乃に頼まれてしまっては断れない。色んな人からの視線を我慢し、雪乃に近づく。
すると雪乃は途中まで手を伸ばしかけるが、中途半端なところで止まってしまう。
そして助けを求めるような顔で俺を見てきた。
「えっと、俺どうすればいい?」
「あ……えっと、その…デート、だから……」
え、手繋いでいいの?これどう考えてもそういう展開だよね?何か最近雪乃との距離遠いと思ってたけど、そんなことなかった?
「手を繋いだら、少しは不審じゃなくなると思うから」
またもや雪乃は恥ずかしそうにうつむく。
ここは俺が雪乃の意思を継がなければ!
「えっと、し、失礼します……」
そう言って雪乃の手をとる。
女の子独特の手の柔らかさが直に感じられる。細長い指に、温もりのある手のひら。俺女子と手繋ぐの小町抜いたら初めてなんだが。
……ヤバい、ドキドキしてきた。
手汗かいてないよね?手汚いとか思われてないよね?
チラっと雪乃を横目で見る。雪乃は雪乃で、緊張しているようだった。葉山と繋いだことはあるのだろうか。ないことを願いたい。
「じゃ、じゃあ行きましょうか」
暫く一緒に歩いてもなかなか慣れず、結局手を繋いでいるのに、お互いの距離は遠くなってしまった。
お昼ごはんを食べ、また休憩する。
休憩するためにごはんを食べに行ったはずなのに、手を繋いだせいか、かえって緊張して、疲れてしまった。
雪乃はぼーっと遠くを見ている。
するといきなり犬が走ってこっちに向かって来た。
「ひ、比企谷君、犬がっ」
雪乃は犬が苦手なのか、俺に隠れるようにしてくっついてくる。やめて!俺の心臓バクバクいってるから!あ、やっぱやめないで!
上手く犬をキャッチすることに成功する。
「うおっ、この犬なんだ?」
「ごめんなさーい、サブレがご迷惑を〜」
どこからか、聞き覚えのある声がした。
「由比ヶ浜さん」
「あっ、ゆきのん!……と、ヒッキー」
雪乃を見たときは嬉しそうに、俺を見たときは気まずそうな顔をされる。べ、別にそんなの慣れてるからなんとも思わないもんっ!
「あのっ、由比ヶ浜、さん。明日、部室に来てもらえないかしら。その、大事な話があって……」
「あ、うん…分かった」
なんとなく気まずい雰囲気の中由比ヶ浜は去って行った。
月曜日、また学校の始まりである。正直俺は学校が嫌いじゃない。だって雪乃に毎日会えるし。そもそも学校なかったら一生会えないし。学校バンザイ。
奉仕部へ行くと、すでに由比ヶ浜は椅子に座っていた。
いつもの席なはずなのに、心なしか俺と距離がある気がする。
部室へ入っても気まずい雰囲気は変わらず、誰も自分から口を開いこうとはしない。
雪乃が席を立った。窓際に立ち、夕陽が差し込んでいる。ついその姿に見惚れてしまった。
「ハチえもーん、助けて〜」
「えっ?誰?」
いきなりドアが開いて、面倒くさい奴が来た。
「むむっ、我、運命的な出会いをしてしまったぞ!ある梅雨の日、我は運命と出会った」
「は?お前何言って――」
「八幡!我と一緒に、最高のギャルゲーを作らぬか?」
「あ?いや意味分かんねーから」
「そこの黒髪ロング!お主を胸がキュンキュンするようなメインヒロインにしてやる!」
「は?おい材木座、やめろ、雪乃に――」
「八幡、我と一緒に最高のギャルゲーを作らぬか?」
「おい2回も言うな。お前それ誰エンドか分かって言ってんのか」
「分かっておるから言っているのだ」
「いや黒髪ロングだったら先輩だろ。雪乃は渡さねぇぞ」
「確かにそうだな。……だがあの先輩より胸も色気もないぞ。うむ、皆無だ。ならばいっそ金髪ツインテールの方が近いのではないか?」
「ははっ、ちげーねーや」
「あなた達、その胸も色気もない黒髪ロングとは誰のことを言っているのかしら」
「「いえっ、す、すびばぜん」」
「私は誰かを聞いているのよ。あなた達に謝ってほしいんじゃないの」
「誰のことでもありません。っていうか材木座お前なにしに来たんだよ」
「むむっ、そうであった。諸君らに相談があるのだ」
上手く切れなかったので、微妙なところで終わってしまいました。
読んでくださりありがとうございました。