「話を要約すると、お前の夢を笑ってきた奴がいて、そいつをネットで煽ったら同じ学校ということが分かって勝負を挑まれたってことか?」
「ふむ、それで合っておる」
「で、俺たちどうすりゃいいんだ?」
「我の夢はゲームのシナリオライターなのだ。つまり、そこの黒髪ロングを連れていけばいいと言うわけだ」
「つまりの使い方知ってる?てかなんで雪乃がメインヒロインで決定なんだよ。残念だがな、雪乃はヒロインとしては冴えていない訳ではない。……いや、冴えてないかも」
「私は冴えているわよ」
横から不機嫌そうな声が聞こえる。
さっきさんざん材木座にボロクソ言われたのに、一応話を聞く意思はあるみたいだ。
「いや、だってお前ペンギン見たときなんて言った?」
「……満員電車に乗るサラリーマン」
「ふむ、ならばやはり我が立派なメインヒロインにしてやらねばならないな」
「あ?お前何言ってんだ?そこが良いんじゃねえかよ。勝手にお前の理想で雪乃を変えるなよ」
「は、八幡、顔が怖いぞ」
「なに怯えてんだよ。気持ちわりぃ」
「ケプコンケプコン。とりあえずついてきてくれ」
そう言って材木座が歩き出す。
雪乃と由比ヶ浜は少し二人で相談して、ついていくことに決めたようだ。
ていうかこの二人材木座のこと知らないよな。
「ユーギ部?ゆきのん、知ってる?」
「遊戯部じゃないかしら、ゲームとかをする部活だと思うわ」
「ふーん」
「モハハ、失礼するぞ!」
材木座がノックもしないで思いっ切りドアを開ける。もし中に雪乃がいたら激怒していただろう。
中は本やパッケージなどが衝立のように聳えたち、迷宮のようだった。
「はぁ?ここユーギ部じゃないの?ゲームっぽくない」
そう由比ヶ浜が思うのも無理はない。普通はゲームといえば、テレビゲーム、ビデオゲームを指すものだ。
「そうかしら?私はこちらの方がしっくりくるけれど。由比ヶ浜さんが想像しているのはピコピコの方よね」
「ピコピコっておばあちゃんかよ」
「だってピコピコいうじゃない」
雪乃が不満げにそう言うが、最近のゲームはピコピコいわない。
「てか部員の人は?」
「むむ、こっちだ」
材木座について行き、本や箱の奥に回り込む。
すると男子が二人そこにいた。
「あ、剣豪さん」
「むっ、貴様ら一年坊主か!」
こいつ、相手が年下だと分かった瞬間態度がでかくなった。
「早く話をつけてくれないかしら」
雪乃が冷たい視線で材木座を睨む。
すると材木座が遊戯部の二人にビシッと指を立てた。
「聞いて驚くなよ、我は最高のギャルゲーを作ることにしたのだ!八幡、黒髪ロングにもっとこっちに来るように言ってくれ」
「自分で言えよ……。あー、雪乃、あっちだ」
雪乃が遊戯部二人の前に立つ。すると、その姿を見た一年二人がコソコソと何事か囁き合う。
「あ、あれって二年の雪ノ下先輩じゃ……」
「え、なんで剣豪さんと繋がりあるんだ?」
おい、マジか。雪乃って結構有名人なのか。ライバルが増える一方だな。
「さっきから言っている、ぎゃるげぇとはなにかしら?」
「雪乃は知らなくていいぞ」
「ふむ、ギャルゲーとはな――」
「材木座、余計なこと言うな」
「ギャルゲーを知らない人に頼むのはどうかと思いますよ。あのハーレム野郎だって一応本人に許可とってた訳ですし」
「正論だな。ってことで材木座、諦めてくれ」
「ムハッ、ならば勝負だ!黒髪ロングと我が勝負して、勝ったらお主がメインヒロインのギャルゲーを作るぞ!」
「勝負……。いいわよ」
受けちゃうのかよ。
「あ、ならここにいる全員で勝負しません?……トランプの大貧民とかならできますよね。どうせならダブルで」
「大貧民?」
雪乃だけがはてなと首を捻った。
「あ、一応ルール説明しますね。ローカルルールは『革命』『8切り』『10捨て』『スペ3』『イレブンバック』でいいですよね」
そう言ってトランプを配りながら説明をしていく。
「で、ダブルなのでペアでやります。相談は無しです」
なるほど、敵だけではなく、ペアの考えまで読まなければいけないのか。
「ゆきのん!ペア組も!」
「え、あ、そうね」
まぁそうだよな。誰からも選ばれない人間が誰かを選ぼうだなんて間違ってるよな。
「それで、私が勝ったら何をしてくれるの?」
「むぅ、我が最高のヒロインに――」
「却下だ。雪乃はこのままでいい」
「ならば我のゲーセンに招待――」
「却下だ。なにナチュラルにデートっぽくしてんだよ。ぶっ倒すぞ。てかお前のゲーセンじゃねぇだろ」
「なにならいいのだ」
「例えば、今後雪乃の顔を二度と見ないとか、絶対半径5メートル以内に近づかないとかだな」
「む、それは流石にひどいぞ」
「ゆきのんが決めたらいいじゃん」
「え?そ、そうね。……ゲーセンというところに少し興味があるわね」
「ほう、ならば我が――」
「あっ、じゃあさ帰り一緒に寄ってかない?あたし、ゆきのんとお出かけしたい!」
「そ、そう?なら一緒に……」
「あれぇ、我の出番なくない?」
「よし、雪乃の顔を二度と見ないで決定だな」
最初は俺たちのチームが1抜け、雪乃たちのチームが2抜けして終わった。
遊戯部も、戦略は普通だ。
「いやー秦野くん、負けちゃったねー。しまったー」
「そうだなー。相模くん。油断してしまったー」
そう言っている割には二人には危機感らしきものが見受けられない。むしろ楽しそうだ。何考えてんだこいつら。
「困ったね」
「困ったな」
「「だって負けたら服を脱がなきゃいけないんだから」」
言うや否や二人はまるで変身でもするかのようにシュバっとベストを脱ぎ捨てた。仕草は格好いいが、それ変態の所業だぞ。
「なっ!?なによそのルールっ!」
由比ヶ浜が机を叩いて抗議する。
「え?ゲームで負けたら脱ぐのが普通じゃないですか?」
「ゆきのん、もう帰ろうよ」
「そう?私は構わないけれど。勝てばいいのだし。それに勝負する以上、リスクは当然だわ」
この場で由比ヶ浜が頼れるのは雪乃だけだ。その雪乃が乗り気である以上、どうすることも出来ない。
俺が止めるべきなんだろうか。でも、俺が言って勝負を諦めるようなやつじゃないしな。
遊戯部の二人は、見違えるほど鮮やかな戦略をとってきた。
ヤバい、負ける。せめて俺たちが負けて女子二人はノーダメージで切り抜けてもらうか。
「覚悟してください。そろそろ本気を出してあげます」
本気、という遊戯部の言葉に嘘はなかった。
第三戦、第四戦と敗北し、俺は既にパンツのみとなっていた。しかし材木座はいらんものばかり着ているから、ズボンもワイシャツも健在だった。
なにこの不公平感。なんで俺だけパンイチなんだよ。
あ、そうそう。ぼくが脱ぎ始めたら、雪乃さんはぼくのことをいないものとして扱い始めました。一切こっちを見ず、完全に無視。ゆきのぉ……。
ヤバい、また負ける。え、俺パンツまで脱がなきゃいけないの?
仕方ない、脱ぐしかないのか、と思ったときだった。
「参ったわね。何をどう計算しても勝てる要素がないわ」
それまでずっと黙っていた雪乃が額を押さえて呻いた。
「え、ゆきのんなんで分かるの?」
「分かるでしょう、場に出ているカードをすべて数えていれば。後は私たちの手札を引けば相手の手札が読めるじゃない。
「コンピューターおばあちゃんかよ」
チラっと俺の方を向いてため息をつく。
「……比企谷君はもう無理ね」
そう言うと、雪乃は手札を置いて席を立った。
「由比ヶ浜さん、あなたは脱がなくて構わないから。私が二枚脱ぐわ」
由比ヶ浜はブラウス一枚。雪乃はサマーベストを着ているから二枚。どっちにしろどっちかが下着姿になってしまう。
「え、ゆきのん、それは……」
「あなたはやめたいと言ったのだから、責任は私が取るわ。それで構わないかしら?」
遊戯部の方を向いて確認を取る。
「あ、はい。いいです……」
雪乃は羞恥に頬を染めてそっとサマーベストの裾に手をかける。震える指がなかなか裾をつかめず、見ているこっちがやきもきしてしまう。
ふっーと短い息を吐き、奥歯を噛み締めて雪乃は細く長い指にキュッと力を込めて裾をつまんだ。
ゆっくりと持ち上げられ、隠されていたブラウスがその姿を露わにする。
そして次はブラウスのボタンを一つずつ丁寧に外していく。
その姿を見て、秦野が一枚ジョーカーを取り落としていた。
3個目のボタンを外したとき、肩がチラリと見えた。
「あっ、ゆきのん、だめ!」
いきなり由比ヶ浜が雪乃に向かってダイブする。
「えっ?由比ヶ浜さっ、ひゃっ!」
思いっ切り倒れ込む。
由比ヶ浜が雪乃の上に乗っていて、雪乃が苦しそうにしている。
男子全員の視線が雪乃の露わになった肩に向く。
「男子全員一回外出て!」
「ほら、これでスペ3であたしたちの勝ちでしょ」
さっき秦野が落としたやつの上に由比ヶ浜が置く。
「げぇ!うそ、だろ……」
秦野が苦虫をかみ潰したような顔になる。
「全く、脱衣ゲーなんてくだだらねぇな」
「その割にはゆきのんのことガン見してなかった?」
由比ヶ浜がゴミをみる目つきで俺を見てくる。
「えっ!?」
雪乃が自分の身体を守るポーズになる。
「おいバカっ!雪乃は警戒心強いんだそ。そんなこと言ったらなんて思われるか……」
由比ヶ浜だけに聞こえる声で言うが、雪乃がこちらを嫌そうに見る。
俺との距離を遠ざけられた。
「いや、別に変な意味で見てたわけじゃないからな?」
雪乃との距離を縮めながら誤解を解く。
「ねぇ比企谷君、あまり近づかないでもらえるかしら。早く服を着て欲しいのだけれど」