「お兄ちゃん携帯鳴ってるよ」
「とってくんない?」
俺は只今ゲーム中なのだ。あと寝っ転がってて気持ちいいから動きたくない。
「雪乃さんからだよ」
「うお!マジか!」
ソファから飛び降りて小町のところへ行く。
「……これどう見ても平塚先生からだよね?」
携帯の画面にあったのは『平塚静』の三文字。しかも一秒につきメールか電話が一つ来るんだが。
「早く見なよ〜」
こいつまんまと俺を引っ掛けやがって。覚えてろよ。
『夏休みのボランティア活動の話聞いていませんか?今日からなので早く来てほしいのですが」
「は?ボランティア活動?聞いてないけど」
「あっ、やばっ。小町言うの忘れてた〜。テヘペロ」
おい。何やってんだよ。これメール来なかったらどうなってたか。というかなんで小町には伝えてんのに俺には伝えてくれないんですかね。ヒドい。
「小町もう準備できてるから、お兄ちゃん早く準備してきて」
小町は前から準備してたんですね……。
「遅い。遅刻だ」
「いや伝わってなかったんですからしょうがないですって」
必死に言い訳をする。いや、俺が悪くないのはあってるよね?聞いてなかったし。急いで準備して来たんだぞ。むしろ褒められるべきなのでは?
「ヒッキー遅い!」
由比ヶ浜と雪乃が来た。口ぶりからして、とっくに着いていたようだ。
「結衣さん、やっはろー!」
「小町ちゃん、やっはろー!」
その挨拶流行ってんのか?バカっぽいからやめろ。
「雪乃さんも〜やっはろー!」
「やっ……こんにちは」
雪乃もつられて言いそうになっていたが、ぎりぎりのところで我に返ったらしい。どんどん顔が赤くなっていく。
「小町も呼んでもらって嬉しいです!」
「俺呼ばれてなかったんだけど……」
「え?ゆきのんが……」「え?由比ヶ浜さんが……」
そういうことですか。よく分かりましたよ。お互いが連絡してくれたと思ってたんですね。これ普通両方から連絡くるパターンじゃないの?
「ご、ごめん……」「ご、ごめんなさい……」
「いやもう良いって。……これで全員?」
「おーい、比企谷くーん」
後ろから天使の声が!とっさに振り向く。するとそこには天使が!
「戸塚!」
「戸塚さんも、やっはろー!」
「うん、やっはろー」
ナニそれ可愛い。もっと流行らせようぜ。
「よし、全員揃ったな。では行くか」
平塚先生が車のドアを開ける。中は運転席、助手席、真ん中が二人席、後ろが三人席だった。
ここは後ろの席で雪乃と戸塚に挟まれよう。うん、それがいい。由比ヶ浜も小町と仲良いし、大丈夫だろ。
「ゆきのん、隣座ろっ!」
「えぇ、いいわよ」
なんだとっ!?雪乃を取られた。ここは雪乃と由比ヶ浜の三人席か、それとも戸塚と二人席か、どっちを取ればいいんだ。これこそ究極の二択。
「じゃあ戸塚さん、一緒に座りましょう」
「うん、いいよ」
は?まさか戸塚も取られた?どっちが三人席に座るんだ?それによって俺の隣が決まるんだが……。
「じゃあ比企谷は助手席な」
「えっ……」
まさかどっちでもないのかよ。二兎を追うものは一兎をも得ずというからなぁ……。八幡、一生の不覚。
「ゆきのん、お菓子食べよっ!」
「それは着いてから食べるのでしょう?」
楽しそうですね。俺もお菓子食〜べ〜た〜い〜。雪乃と一緒に食べたい!あー、席失敗したー。
「さぁ比企谷、好きなアニメ作品ベスト10を紹介し合うぞ〜」
なんでそんなに楽しみそうなんだよ……。
まぁ、プリキュアは外せないよなぁ。
「うーん、空気が美味しーっ!」
着いてからみんな降りて、山の空気を味わっている。
都会に住んでる俺たちからしちゃあ、山とか自然とか憧れだよなぁ。こういうとこ住んで家から一歩も出ずに、買い物は通販で済ませるような暮らしがしてみたい。
「じゃあ荷物運ぶか」
荷物の整理をしていると、隣にもう一台車が止まった。
「やぁ雪乃ちゃんに比企谷たち」
なんで雪乃と俺だけ名前で呼んでそれ以外はたちなの?なんなら俺もたちの中に入れてほしかった。
「あんれぇ〜、ヒキタニくんたちじゃ〜ん」
だからなんで俺は名前で呼ばれないといけないの?いやそれ名前じゃないけど。
「あの、なぜ隼人くんたちまでいるのでしょうか?」
「ん?ああ。私に聞いてるのか」
「まぁ、敬語なんでそうじゃないですかね」
「あら、そうとも限らないでしょう。目上の人相手でなくても距離感を出すために敬語を使うことはあるかと存じますがいかがでしょうか、比企谷さん」
ゆ、ゆきのぉ。やめてぇ。
「ゆきのぉ……」
「ふふっ、冗談よ」
良かったぁ。ならばこっちも!
「……雪乃はそんな風に思ってたんだな」
わざと沈んだ声で言う。
「えっ!?比企谷君?」
「そうか……。分かったよ。今までありがとうな……」
そう言って雪乃から少し離れる。
「ちょ、ちょっと!冗談だって言っているじゃない!」
かかった!ふふふ、甘いな、雪乃。俺の作戦の方が何枚か上だったようだな。……もう少し粘ってみるか。
「いや、いいよ。俺に気を遣わないでくれ。もう分かってるから」
「本当に冗談なの!ねぇ聞いてる?冗談なの!」
「距離感出すんだろ?そんな近づいていいのか?」
「冗談だって言ってるじゃない!比企谷君!」
「どうされましたか、雪ノ下さん」
「私が悪かったから!ごめんなさい!だから敬語やめて!」
ここまで必死な雪乃は初めて見た。可愛いなぁ。でもそろそろ可哀想になってきたからネタバラシするか。
「……私は何を見せられているんだ?」
「比企谷君が私の冗談を真に受けたんです。冗談だって言っているのに……」
「いや分かってるから」
ここでネタバラシだ。そうしないと平塚先生にグチグチ言われそうなんだもん。
「分かってたの?」
雪乃が不服そうに頬を膨らませる。
「何回も言われたからな」
「……比企谷君のいじわる」
そう言ってそっぽ向いてしまう。……あれ、これ雪乃の機嫌損ねちゃった?
「雪乃だって冗談先に言ってきたじゃないか」
「私はすぐに冗談って言ったもの」
「痴話喧嘩ならよそでやってくれ」
「えっ?べ、別に今してたのは痴話ではないですよっ!喧嘩もしてませんっ!」
雪乃が慌てて訂正する。顔が赤くなってるのがまた可愛いんだよなぁ。
「じゃあなんだ?バトル・ロワイアルか?」
「古っ。あ、でもスレイヤーズの刊行開始よりは新しいですね」
「流石比企谷だな!例えが素晴らしい」
「……もう痴話喧嘩でいいです」
「痴話ならば君たちは愛し合う者どうしになるんだが」
「〜〜っ!……殺し合いよりはましですから」
雪乃も知ってたのか、バトル・ロワイアル。
「俺たちは高校生ですけどね」
「私はもう……。はぁ、痴話喧嘩が出来る君たちが羨ましいよ……」
うわぁ、空気が、重い。苦しいよ、息ができないよ。
「ねぇゆきのん、ちわげんかってなに?ゆきのんとヒッキーが今してたんでしょ?」
こいつなかなかレベルの高いことを聞きやがる。言葉の説明自体は簡単なんだが……。「ゆきのんとヒッキーが今してた」が入ると気持ち的に説明しにくくなる。
「……家に帰ってから調べて頂戴」
「え?なんで?今教えてよ。あ、もしかしてゆきのんも分かんないの?」
「分からないわけないでしょう?私は知っているわよ」
「じゃあ教えて?」
「……今私たちがしてたのはバトル・ロワイアルよ」
あ、逃げた。てか殺し合っちゃうのかよ。
「ふーん。で、ちわげんかってなに?」
「痴話から起こるたわいない喧嘩よ」
「ちわってなに?」
「……平塚先生に聞いて頂戴」
「やっぱゆきのん分かんないの?」
「もう嫌……」
負けず嫌いが災いしてあっさり負けたぞ。現実逃避しないか心配になる。
「なんで?教えてくれるだけでいいんだよ?」
こいつはこいつで分かってないからキツイ。
「ぼく知ってるよ。痴話ってね、愛し合う者どうしがする話だよ」
心優しい戸塚が由比ヶ浜に教えてしまった。でも雪乃と俺の心には優しくないです。
「あ〜、なるほど……」
何納得しちゃってんの?こっち見ないで恥ずかしい。雪乃なんかうつむいてても分かるくらい顔真っ赤だよ。
「雪乃ちゃん、それ持つよ」
ブー、ブー、警告です。葉山が雪乃に接近して来ました。直ちに葉山隼人を捕獲してください。処分はこちらで考えておきます。
俺の脳内サイレンが鳴っている!
「……ありがとう。私は先に行っているわ」
「あ、ゆきのん!照れなくていいのに!」
由比ヶ浜、追い討ちをかけるな。