「何か探してるのか?」
さっきからソワソワとしている雪乃に話しかける。
「えぇ、まあ」
しかし、雪乃から返ってきたのは歯切れの悪いものだった。
「何探してんだ。手伝うぞ」
「今日返却されたはずのノートがないの」
「あぁ、なるほどな。そういうときは大体決まってんだよ」
俺は教卓の中を見る。
するとそこには紫色や水色、緑色など、様々な種類のノートが入っていた。
とりあえずそれらを全部出してみる。
やっぱりな。
全てのノートに、綺麗な字で『雪ノ下雪乃』と書いてあった。
「ほら、あったぞ。ついでに今までの分もな」
「あ、ありがとう。あなたすごいのね」
雪乃が驚いた表情で言う。
うん、可愛いな。
「ほら、隠す奴らからしたらなんとしてでもバレたくないんだよ。俺たちにも、先生にも。だから教卓なんだよ。もしバレても先生が配り忘れたことにできるだろ?」
俺は長年のノート隠し事件の被害者のプロとして雪乃に解説してやる。
被害者のプロって何だよ。プロなのに不名誉だな。
「あなたすごいのね」
「別にすごいってほどでもねぇよ。慣れてくりゃ分かるようになんだよ」
実際俺が1,2年のときは放課後よく一人で探し回ったものだ。
「つーかアイツらもバカだよな。こんな大量のノートがあったら流石に先生にバレるだろ」
褒められた照れ隠しのつもりで言ったのだが、
「あ、理科もある。算数も。これ、4月に使ってたノートだ」
うん、聞いてないな。
まあ、喜んでくれるなら何よりだが。
「今まで隠されてたの、全部あったか?」
「ええと…どうかしら、分からないわ。
ノートを集める度に無くなっていたから」
「大変だな」
「あなたも同じようなものでしょう?」
「いや、俺は犯人すら分からないんだ。影でやられてる可能性もあるし、本当に忘れられている可能性もある。」
本当に忘れられている可能性は低そうだが。
でも、ゼロかと言われると頷けない。
「これ、全部入るかなぁ。ノートだけで10冊はあるし……」
おっ、これは絶好のチャンス!
なんのって?一緒に帰るんだよ。
こういうときは。
「あっじゃあ俺持つよ。だから…一緒に帰らない?」
「大丈夫よ」
「いやっでもさ、一人だと大変だろ?」
ここは粘るしか無さそうだな。
「でも入らないのだから人手が増えたところで根本的な問題は解決出来ないんじゃないかしら」
こいつ、なかなか難しいことを言う。
俺が並みの5年だったら頭がパンクしていたところだろう。
考えろ、八幡。どうやったら雪乃と一緒に帰れるんだ。
「あっじゃあ、俺のカバン貸してやるよ」
「いいの?」
「いいよ。それで一緒に持つから。これで解決だろ?」
「あなたがいいのなら、その、貸してくれるかしら?」
「ちょっと待ってな。今持ってくる」
よっしゃー、よくやったぞ八幡、ナイスだ。
今までこんな嬉しいことがあっただろうか。
あー、小町と遊んでるときは楽しかったが…
あれは嬉しいとは違うな。
よし、今までで一番嬉しいな。
くだらないことを考えながらカバンを持ってくる。
「ありがとう。えっと、ノートは全部ランドセルに入れるとして……。あっ、入らない。どうしよう」
今日は持ち物多かったからな。
「そういえば、雪乃はカバン持ってないの?」
「持っているけれど、上履きとリコーダーを入れないといけないから使えないのよ」
なるほど。それは困ったな。
しかし雪乃を見ていると昔の自分を見ているようで懐かしいな。
最近は諦めてスリッパ借りに行くことにしてたから
なぁ。
「俺のランドセルに入れるか?」
「えっ?でもそれは…」
結構かっこよく提案したつもりなんだが。
まさか比企谷菌が伝染るから嫌なのか⁉
くそっ、こんなところで後遺症が出るとは。
比企谷菌め。
「もしかして嫌だった?」
涙目になりながらすがるように聞く。
「いえ、そういう訳ではなくて。あなたのランドセルに入れさせてもらうとなると、どこかで帰り道はわかれるのだから、結局そこで意味が無くなってしまうのではないかしら?それに、あなたも重くなってしまうし…」
よく考えていらっしゃいますね。
ホント、すごい。
俺のカッコつけたいだけの提案はすぐに論破されて断られるのか。
このヒロイン、レベルが高い。
「入らない分は置いていくしかないわね…」
「いや、でも置いていくと何されるか分かんないしさ」
デメリットを示せば心がわりしてくれるはずだ。
その賢い頭を使え。そうすれば俺に頼るしか選択肢が無くなるはずだ!
「いえ、その心配はないわ。教卓の中に入れておけばいいのよ。そうしたらまだ私が見つけていないだけだと思うでしょう?それに、あなたは先生にバレたくないはずと言ったわよね。それなら下手に手出しできないもの」
ダメかー。
こいつ想像以上に頭良いな。
よくこんな短時間でそこまで考えられるな。
「そ、そうか」
「ええ、そうよ」
そう言って雪乃は片付け始める。
そして入らなかった分を教卓の中に入れた。
「俺は…これ持つよ」
「え、でもそれ一番重たいのじゃ…」
「大丈夫、大丈夫」
あ、大丈夫じゃないわ。これかなり重い。
長期休みに入る前に一気に全部の荷物持って帰るみたいだ。
「じゃ、じゃあ行くか」
「ええ」
少しこっちを気にかけながら雪乃はあるき出す。俺も後ろに続いた。
「道はこっちで大丈夫?」
「あっ、いや、どうせなら家まで送るよ。かなり重いし」
これでナチュラルに長く一緒にいられる。
ナイス俺、よくやった八幡。
「でもそれは悪いし…」
立ち止まって雪乃が悩み始める。
地面に荷物を置いて、少し休憩タイムに入った。
「雪乃ちゃん、おーい」
誰かの声がした。
声の主は走って雪乃の方へ近づく。
「雪乃ちゃんおそーい。もうテニスの時間だよ?」
雪乃によく似た人が話しかけている。
恐らく雪乃の姉だろう。
「あれ、雪乃ちゃんこの子は?」
「あっ、私の同級生」
「ふーん。友達じゃないの?」
「えっと、どうなのかしら」
「あー、比企谷八幡です。雪乃とクラスが同じで」
「下の名前で読んでるんだ。一緒に帰ってるし、仲良しさんかな?」
俺たちをからかうような口調で話しかけてくる。
「いや、仲良しっていうか、そもそも昨日初めて話して、今日初めて名前を知ったばっかだし……」
なんとか反論できた。
そういえばこの人の名前は何なんだろう。
「昨日の今日で仲良しさんか。雪乃ちゃんやるねぇ」
「姉さんは何を言っているの?というか、姉さんも自己紹介したほうがいいんじゃないの?」
キョトンと首を傾げる雪乃とニヤニヤしている雪乃の姉。
外見は似ているのに、まとっているオーラが全然違う。
「そうだね。私は陽乃。雪乃ちゃんのお姉ちゃんだよ〜」
「よ、よろしくお願いします」
「えーっと、雪乃ちゃんと仲良く一緒に帰ってくれるのは嬉しいんだけど、今日テニススクールがあってね。だから雪乃ちゃん、今日は車で帰るよ」
最初は俺に向けて言っていたのだろう。最後のは雪乃をたしなめるように言っていた。
「でも、荷物が…」
「全部車に乗せちゃえばいいから。
車呼んでくるから、その間し準備済ませてね」
「えっと、比企谷君ごめんね。せっかく一緒に帰ってくれたのに…」
ごめんねってそっちのことか。荷物のことだと思ったよ。
まあでも雪乃も一緒に帰りたいと思ってくれてたのか。
八幡感激!
「全然大丈夫だけど……。テニススクールってどこ?」
「あ、学校のすぐ近くなんだけど、分かるかな?」
「あ、分かった」
「雪乃ちゃん、早く乗って」
「えっと、それじゃあまた明日」
「あぁ、じゃあな」
よし、帰るか。
この時間なら小町は友達と遊びに行ってるだろう。
ダッシュで帰って自転車で行けば間に合うだろう。
「どうしたの、雪乃ちゃん」
「別に。ただスクールやだなぁって」
「お姉ちゃんに叩きのめされるから?」
姉さんが意地悪な笑い方をして突っついてくる。
「そういう訳じゃないけど。前見学に来た子、結局入って来なかったし……」
「あの子が入ってきても雪乃ちゃんの友達にはなれなかったんじゃない?どーせ隼人と友達になってたって。あの子男の子だったらしいし」
その通りだ。
いつも私が友達を作ろうとしても失敗する。
学校ではあんな感じだし。
テニススクールでは隼人くんに取られてしまう。
でも、比企谷君となら……
「お姉ちゃんも隼人もコミュ力高いのに、なんで雪乃ちゃんは低いんだろね〜」
本当にそうだ。
私も姉さんや隼人くんみたいだったら、こんなに大量の荷物を持って帰るとこなんて無かったはずだ。
でも、比企谷君と仲良くなれなかったのかもしれないと思うと、これで良かったのかもしない。
そんなことを考えていたら、すぐに家に着いた。
章分けできました。
また読んでくださり、ありがとうございます。