幼なじみの彼女は   作:有機物

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彼女の温もり

 

身体を揺さぶられているような感覚がする。

優しい声が聞こえる。

 

「…きて……が…くん」

 

名前を呼ばれた気がした。

 

「もう朝だから、早く起きて」

 

ん、朝?ゆっくりと目を開ける。そこには、困ったように笑う雪乃がいた。

 

「やっと起きた」

 

まずは状況把握からだ。俺は今まで寝ていた。そこへ雪乃が起こしに来てくれた、のか?

そうなると結論は一つ。

 

「なんだ、夢か」

 

夢ならそういうこともあるだろう。じゃあもう一度寝るか。夢の中なはずなのに、今とても眠いのだ。

 

「ちょ、ちょっと。夢じゃないわよ。早く起きて!」

 

夢じゃないなら何なのだ。何?新婚さんごっこ?そりゃあいいや。このまま続けてくれ。なんならごっこじゃなくてもいいぞ。いやむしろそっちの方が、いいな……。

だんだん意識が遠くなる。あぁ、眠たい。一時間後起こしてくれ……。

 

「もう朝よ。早く起きて『あなた』?」

 

その瞬間、俺の全細胞が目覚めた。いや、覚醒めた。目をクワッと開く。

 

「ふふっ、起きた?」

 

そこにはいたずらに成功したように嬉しそうに笑う雪乃がいた。

 

「え、何?本当に夢なの?」

 

もはや夢か現実かも分からなくなってきた。

 

「比企谷君がさっき、新婚さんごっこって言うから……」

 

うわぁ、恥ずかし。俺そんなこと言っちゃったの?思ってたけど無意識のうちに声に出していたようだ。

恥ずかし過ぎて死にたい、けど幸せ。

 

「ゆ、雪乃はいいお嫁さんになる、な」

 

「えっ!?そ、そう……」

 

「料理も得意だろ?家事とかもなんでもできそうだし…しかもすっげぇ可愛いし……。雪乃と結婚した奴は幸せ者だな」

 

なんなら俺がもらいたいレベル。というかこの子最強すぎる。並みの男子なら一発で落ちる。並の男子じゃなかったら二発で落ちる。葉山とか。

そういえば戸部は海老名さんが好きなんだっけ。すげぇな。近くに雪乃がいても違う女子を選ぶとは。あいつなかなかやるぞ。戸塚?戸塚はまず男子なのかとういうところから議論していきたいと思います。

 

「……私は比企谷君と結婚した人も幸せだと思うけれど……」

 

あら、この子いい子ね〜。そんなお世辞いらないのにぃ。そんなこの子が人気過ぎて困ってます。一番のライバルは葉山だな。あとは…材木座はいっか。あいつは雪乃に近づいちゃダメだ。俺が絶対に許さない。なんなら俺が年中無休で雪乃の護衛をしちゃうまである。それストーカーなんだよなぁ。

ていうか平塚先生の前でこんな話ししたら殺されそうだな。もう誰かもらってやれよ。え、俺がもらってやれって?ごめんなさい、好きな人がいるので。おっと、今背筋が凍ったぞ。寒気もする。

病気かな?病気じゃないよ、病気だよ。

これは恋の病ですねぇ。と、俺の心の中の医者が診断している。

なんだと!?不治の病じゃないかっ!

これはこんな病気にさせた雪乃に責任をとってもらわなければいけませんね。ということなのでぼくと結婚してください。

……俺は何を考えているんだ?

 

「……大丈夫?体調悪いの?」

 

雪乃が心配そうな目で俺を見てくる。

悪いのは体調じゃなくて頭だな。いや、おかしいと言った方が正しいか。

俺が何も答えずにいると、雪乃が申し訳なさそうな顔になる。

 

「ごめんなさい……。昨日の…私のせいであまり眠れていない、のよね……」

 

やっと思い出した。俺は今、合宿に来てるんだ。

というか、昨日は戸塚が起こしに来てくれて、今日は雪乃とか、俺一生の運使い果たしたんじゃね?

それよりも、昨日のことは雪乃は何一つ悪くない。俺が勝手にやったことだ。そこはちゃんと分かってもらわなくては。

 

「いや、別に雪乃は悪くないだろ。俺がやりたくてやったことだし」

 

「そう、かしら……。あり、がとう」

 

そう言って、少し照れた様に笑った。か、かわえぇ。

 

 

 

 

 

「よく見つけたな」

 

「そりゃあ探し回ったからな」

 

そもそも見つけるまで俺は戻って来る気はなかった。それに、今思えばよくこんな暗い森を走り回れたもんだ。きっと今森に入れと言われたら、どんな手段を使ってでも拒否する。例えば葉山を囮にするとか。まぁ、どんな手段って言っても、雪乃を囮にすることだけは絶対にしないと思うが。

 

「彼女は寝ているのか?」

 

「ああ。たぶん疲れ切ってたんだろ。俺が駆け寄った瞬間倒れた」

 

「そうか…それは、危なかったな……」

 

もともと体力がないのに、昼間水遊びをして余計に体力を使ったのだ。そりゃあ疲れるだろう。

 

「どこにいたんだ?」

 

「奥。とにかく奥。正規ルートなんて掠ってすらなかった」

 

「方向音痴だからな。小さいとき出掛けるとはぐれてよく迷子になっていたよ。その度に俺と陽乃さんで必死になって探すんだ。それで見つけると必ず一人で泣いているんだ。手を繋いでいても迷子になることがあるんだよ。すごいだろ?」

 

葉山は遠い昔を懐かしむように言う。そんなことよりもぼくは葉山くんが雪乃ちゃんと手を繋いだことがあるのかがとても気になります。

 

「完璧に見えて結構ぬけてるからな」

 

「なぁ比企谷、もし俺とお前が違う小学校だったら、どうなっていたかな」

 

「あ?大して変わらんだろ」

 

というより、俺がいない間に雪乃が葉山のことを好きになっていたらとても困る。

 

「俺は色々と違っていたと思うな。それでも、俺は選ばれないんだろうな……」

 

「……何からだよ」

 

「大切な人からだよ」

 

そう言って葉山は力なく笑った。

 

「よく眠っているな」

 

「そうだな」

 

改めて雪乃の寝顔を見る。サラサラの髪の毛、長いまつ毛、ほんのりとピンクがかっている頬、柔らかそうで艶めいた唇。時折聞こえる規則正しい寝息。ずっと見ていると魅了されてしまいそうになる。

 

「……平塚先生はどこにいるんだ?」

 

「見つけたら連れてきてくれって。たぶん他の人たちをまとめてる。あと小学生だな」

 

「忙しいんだな。よくそんな仕事できるな」

 

俺だったらそんな面倒くさそうなことやりたくない。

 

「君が一番面倒くさそうな仕事をしたけどな」

 

「いいんだよ」

 

いくら面倒くさくてもこの寝顔を見れば疲れなんて一瞬で吹き飛ぶ。

 

「明日起きれるのか?」

 

「なんでだよ」

 

「もう日付け変わるぞ」

 

そういえば時間を確認していなかった。

 

「まぁなんとかなるだろ」

 

戸塚がきっと起こしに来てくれるはず。うん、それがいいな。

『はちま〜ん、起きてよ〜』

 

「ふへ」

 

「……何考えているんだ」

 

葉山に白い目で見られる。

 

「なんでもねぇよ。……戸塚と風呂入りたかったなぁ」

 

最後の部分は葉山には聞かれない程度の声でつぶやく。

 

 

 

 

 

「あー、今何時だ?」

 

「もう7時よ」

 

確か起床時間は6時半だったはず。今日は帰る日だから少し早かったはずだ。

 

「え、7時?もう帰る時間じゃん」

 

「だから早く起きてって言ったのに……」

 

朝ご飯食べる時間なくなったな。

確か解散は学校だったはずだ。何時間くらいかかるのだろうか。

 

「ご飯、どうするの?」

 

この言葉を聞いて雪乃が朝ご飯を作ってくれることしか思い浮かばないぼくはもうダメだと思います。

 

「まぁ、帰ってからだな……」

 

「大丈夫なの?」

 

「車で寝てりゃなんとかなると思う」

 

「そ、そう……。じゃあ外で待っているわ」

 

そう言って雪乃は部屋を出て行く。とっとと着替えて帰る準備するか。

適当に荷物を詰め込んでカバンを持って外へ出る。

すると、ドアの前で雪乃が待ってくれていた。

 

「悪い、待たせたな」

 

「あっ、あの…これ」

 

雪乃の手には、綺麗にラッピングされた箱がある。

 

「比企谷君、誕生日…って……」

 

お、覚えててくれたのかぁ!八幡感激!

 

「あ、ありがとな」

 

 

 

 

 

「さて、比企谷と雪ノ下も来たことだし、帰るか」

 

荷物を持って駐車場まで歩いて行く。やっとこの合宿も終わりか。短いようで長かった。ちなみに葉山たちはもう帰ったそうだ。

 

「ねぇ比企谷君……。その…席、隣に……」

 

「車の?」

 

俺が聞くと、雪乃はうんうんと頷く。

 

「ってことは……」

 

戸塚と小町と由比ヶ浜が後ろで三人か、誰かが平塚先生の隣か。

 

「あっ、じゃあ戸塚さんと結衣さんと小町で後ろの席に座りましょう!」

 

流石小町。俺と違って空気が読める。

 

「おっ、いいね!」

 

由比ヶ浜もそれに乗っかる。戸塚も特に異論はないようだ。

 

「私は独りか……」

 

そんなに俺に隣に座ってほしかったのかよ……。

駐車場に着いて荷物を入れて座る。

ちゃんと左隣に雪乃がいる。

 

 

 

 

 

みんな眠ってしまった。今日は朝が早かったから。それに、車の中であんなに騒いでいたら疲れるのも当然だ。

隣にいる比企谷君もぐっすりと眠っている。

 

「雪ノ下は寝ないのか?」

 

唯一私以外で起きている平塚先生が話しかけてくる。

 

「昨日たくさん寝ましたから」

 

「よく眠っていたもんな」

 

平塚先生が笑いながら言う。正直少し恥ずかしい。家族以外に寝ているところを見られることなんてないと思っていたから。

 

「昨日は…疲れていて」

 

平塚先生には言い訳にしか聞こえないだろうが、せめてもの抵抗として言う。

隣で眠っている比企谷君を見る。穏やかな寝息をたてている。そんな寝顔を見ていると、自然と笑みがこぼれる。

 

「比企谷が気になるか?」

 

「昨日は迷惑をかけたので……。平塚先生も、すみませんでした」

 

平塚先生がどこまで関わっていたのかは分からないが、少なからず迷惑はかけているだろう。生徒がいなくなったのだ。もし見つからなかったらどうなっていたのだろうか。

 

「私は大したことはしてないよ。比企谷と…葉山がほとんどしてくれたからな」

 

平塚先生は少し誇らし気に言う。

 

「隼人くんもいたんですか?」

 

その情報は初耳なので、確認しておく。もしそうならお礼をちゃんと言わなくてはいけない。それと、姉さんに言うのもできればやめてほしい。絶対にからかわれるから。

小さいときから私が迷子になったとき、隼人くんは慰めてくれるのに、姉さんはからかってくる。

 

「ああ。でも探しに行ったのは比企谷だけだ。葉山は待っていたそうだ」

 

「そうなんですか」

 

「比企谷は随分必死だったようだよ。汗だくで泥だらけだったんだ。それで、「これは俺が勝手にやったことだから雪乃には言わないでくれ」って言うんだ。……言ってはいけなかったな」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

比企谷君がそんなことを言っていたと、考えるだけでも嬉しくなってしまう。

もう一度隣で眠っている比企谷君を見る。すると、少し口が動いた。

 

「ゆき、の……」

 

寝言だろうが、今確かに名前を呼ばれた。

 

「ははっ、比企谷は雪ノ下の夢を見ているのかもな」

 

もしそうなら、私のどんな夢を見ているのだろうか。

比企谷君が、悲しそうな顔になってくる。

夢の中でなにがあったのだろうか。

 

「ゆきのぉ……」

 

私はここにいるのに、比企谷君はまるで私がどこかへ行ってしまったように私を呼ぶ。

 

「なんの夢を見てるんだかな」

 

平塚先生が苦笑しながら言う。

比企谷君はまだ悲しそうにしている。

少し不安になってきた。

私が比企谷君を悲しませているなんて、考えたくない。何かできることはないのだろうか。

トンネルに入った。この暗さが、あの森の暗さに少し似ていて怖くなってくる。でもあの時は比企谷君が私を見つけてくれた。比企谷君は相変わらず悲しそうな顔をしている。そんな比企谷君の手をそっと握る。こんなことに、どれだけ効果があるかは分からないけど。

すると比企谷君が私の手を握り返してくれた。

比企谷君を見るが、まだ眠ったまま。

比企谷君がバランスをくずした。そのまま私の肩にもたれかかってくる。髪の毛がチクチクしていて少し痛いけど、追い払うようなことはしない。

 

「雪ノ下も寝たらどうだ?」

 

「大丈夫です」

 

「眠たくないかもしれないが、寝たほうがいいと思うぞ?」

 

平塚先生がニヤリと笑いながら言う。

 

「どうしてですか?」

 

「顔が真っ赤だ。心臓だって、バクバクいってるだろ?平静を装っているようだが、バレバレだぞ。それじゃあ学校から帰るときには疲れ切ってると思うぞ?」

 

全くその通りだった。でもこんな状況で眠れる気がしない。目を瞑ってみる。すると、意外と疲れがたまっていたようで、だんだん目が開けられなくなってくる。

 

「君たちは――」

 

最後に平塚先生が何かを言いかけたのが聞こえたが、最後まで聞く前に、私は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

何もないところにいる。出入口があるわけでもなく、何かに囲まれているということもない。

ただ大きい広場みたいに辺りが見渡せる。真っ黒な世界に、独りで立っている。

突然、目の前に雪乃が現れた。

 

「……の!…きの!」

 

上手く声が出ないが、なんとか叫ぶ。聞こえていないのだろうか。全く反応してくれない。それどころか、走って俺のいない方向へ行ってしまう。慌てて追いかける。

 

「ゆきの!聞こえてないのか!ゆきの!」

 

やっと声が出るようになった。

走っても走っても追いつけない。それどころか、どんどん遠ざかって行く。

 

「待ってくれ!ゆきの!」

 

いくら叫んでも反応してくれない。この距離で、こんなに大声を出しているのに。このまま追いつけないのではないかという恐怖を感じる。

 

「待って、くれよ……。行かないで、くれ……」

 

泣きそうになるのを必死に堪えながら走る。

その瞬間、世界の色が変わった。

 

何もない、真っ白な世界にいる。いや、何もなくない。

目の前に、さっきまで追いかけていた子がいる。

真っ白な服を着て、まるで天使のようだ。

細かい表情までは分からないが、微笑んでいることは分かった。

 

「……ゆきの」

 

まっすぐ手を伸ばす。しかし、その手が彼女に触れることはなかった。

彼女の方から俺のところに来てくれた。そっと包み込んでくれる。とても温かくて、優しい。

しかし、そんな幸せな時間は気がついたら終わっていた。もう雪乃はどこにもいない。

顔を上げると、また世界の色が変わっていた。

ポカポカとした、暖かそうなオレンジ色。次は可愛らしいピンク色。グラデーションのように色が変わっていく。それをただ呆然と見ていることしかできない。

不意に、左手に温かいものがあたった。左側を見るが、何もない。それでも、どこか安心できた。

 

「俺は――」

 

そっと目を開けると、平塚先生が鼻歌を歌いながら運転していた。

鏡越しに目が合う。

 

「おっ、起きたか」

 

「はい……」

 

さっきの夢のことを思い出す。……そういえば雪乃は。

とっさに隣を見る。そこには、眠っている雪乃がいた。

 

「雪ノ下はさっき眠ったよ」

 

「そうなんですか」

 

とりあえずすることがないので、ボケーっと雪乃の寝顔を眺める。

 

「雪ノ下の夢を見ていたようだな」

 

「え、なんで知ってんですか」

 

あまりにもピンポイント過ぎたので、素で聞いてしまった。

 

「寝言で言っていたんだ。嫌な夢だったようだな。心配した雪ノ下が手を繋いでくれているぞ」

 

左手を見ると、俺の指と雪乃の指が上手く絡まりあっていて、なんだかむず痒くなってくる。

これはいわゆる恋人繋ぎというやつだ。

俺の手が下で、雪乃の手が上に乗っている。それでもしっかりと恋人繋ぎが完成しているということは、俺も繋ぎ返したということだろう。

 

「どんな夢だったんだ?」

 

「いや、まぁ、別に……」

 

説明が難しいので、曖昧な言葉で濁してしまう。

 

「もしかして、雪ノ下が誰かに取られる夢か?」

 

「もともと俺のじゃないですけどね」

 

「なんだ、ちゃんと分かってるのか」

 

流石にそこまではっきり言われると少し傷つく。分かってはいるのだが。

 

「そろそろ着くから、起こしてくれ」

 

そう言われ、雪乃を起こそうとするが、こうも気持ち良さそうに眠られると起こすのが悪くなってしまう。

よし、雪乃は最後にしよう。

後ろで三人仲良く寝ている小町たちを起こす。

 

「む〜、せっかく気持ち良く寝てたのにぃ」

 

そっと雪乃を起こす。

 

「もう…着いたの?」

 

眠たそうに目をこすりながら聞いてくる。雪乃を見ると、またさっきの夢がフラッシュバックされて、離したくなくなってくる。

 

「ふぅー、着いたぞー」

 

荷物を下ろし、完全にお開きとなった。

それぞれが帰路に就こうと別れの挨拶をしようとしたときだった。黒塗りのハイヤーが俺たちの前に横付けされた。

 

「はーい、雪乃ちゃん」

 

中から出て来たのは、真夏なのに小春日和みたいな心地よさを感じさせている、雪ノ下陽乃だった。

 

「姉さん……」

 

雪乃は驚きで、目を丸くしている。

 

「え、ゆきのんの、……お、お姉さん?」

 

「あれ、あなたは?」

 

「あ、由比ヶ浜結衣です」

 

「由比ヶ浜……。あっ、雪乃ちゃんの一番の友だちか!」

 

陽乃さんが眩しいくらいの笑顔で言う。

すると雪乃は慌てて陽乃さんの口を塞ごうとする。

 

「ちょっと、姉さん!」

 

「あのね、雪乃ちゃん私と話すときあなたのことばかり話すのよ〜。今日は一緒に遊んだとか、メールをしたとか。前は小一時間くらいずっと由比ヶ浜さん…ガハマちゃんでいっか。ガハマちゃんのこと話してたの!」

 

ほう、そんなことが……。雪乃は由比ヶ浜のこと大好きだからなぁ。

 

「ゆ、ゆきのん!」

 

由比ヶ浜は感慨深そうに雪乃を見つめる。

雪乃は恥ずかしそうにうつむいているが。

 

「これからも雪乃ちゃんと仲良くしてあげてね?」

 

「はいっ!」

 

「小町ちゃんも久しぶりだね〜」

 

「はい、お久しぶりですね」

 

ちょっと、人の妹にまで手を出すのはやめてくれませんかね。

というかこの二人裏でなんかやってそうで怖いんだけど。

 

「最近どう?」

 

「いやぁ〜、結構いい感じだと思いますよ」

 

ほら、なんかやってんじゃん。怖いわぁ。

 

「あ、雪乃ちゃん行くよ」

 

「私は…電車で――」

 

「お母さんが待ってるから」

 

雪乃の言葉を遮るようにして陽乃さんは言った。その言葉を聞いた瞬間、雪乃の顔がくもった。

 

「大丈夫だよ、私もいるから」

 

陽乃さんが元気づけるようにいうが、それでも雪乃の表情は晴れない。

 

「……さようなら」

 

陽乃さんに背中を押されるようにして、雪乃は車内へと消えた。

 

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