幼なじみの彼女は   作:有機物

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彼はようやく負けを認める

「あー、ダメだった〜!」

 

小町が携帯を握り締めてソファに転がる。

こいつ受験生だよな。なにやってんだよ。

 

「何がダメだったんだ?」

 

「雪乃さんを花火大会に誘おうと思ったんだけど…見て」

 

そう言って携帯の画面を俺に見せてくる。

 

題名:小町です。

本文:花火大会お兄ちゃんと一緒に行ってくれませんか?あの人、全然外に出ないんです。雪乃さんがいれば外に出ると思うんです!

 

新着メッセージがあります。

題名:なし

本文:ごめんなさい。比企谷君と行くことはできないの。また別の機会にお願いするわね。

 

「は、お、お前……。な、なにやってんだよ!ていうかこれ前も見たぞ。……っと、わんにゃんショーの時だったな」

 

あの時も予定があるからと断られたんだっけ。陽乃さんと来てたんだよな。じゃあ今回もか?

 

「ご、ごめんごめん。とりあえず行ってみたら?もしかしたらいるかもじゃん」

 

まぁいる可能性があるなら行くか。なんなら小町も…いや、もし陽乃さんと会ったらアレだから一人で行くか。

 

「そうだな……。行くか」

 

「あっ、じゃあ小町買ってきて欲しいものあるから、後でメールするね!そうと決まれば、さっさと出てって」

 

こ、こいつ俺を奴隷のごとく扱いやがって……。

可愛い妹と雪乃と戸塚には逆らえないって言うからな。いや、言わないな。

 

「へいへい、邪魔者は出て行きますよ」

 

 

 

 

 

「人混みすげぇな……」

 

駅からそうだったが、いざ来てみると本当に混んでいる。正直今すぐ帰りたい。

そういえば小町のメールまだ確認してなかったな……。

 

「は?」

 

題名:小町のお買い物リスト

本文:焼きそば 400円

   わたあめ 500円

   ラムネ 300円

   たこ焼き 500円

   独りで花火を見た思い出 く·ろ·れ·き·し♡

 

「あいつ……」

 

携帯を握り締める。そもそも誰のせいだと思ってるんだよ。もう本当に帰ろうかな。

いやいや、雪乃がいるかもしれないし……。

小町のは後回しでいっか。

そうと決まればあとは適当にフラついて雪乃を探すだけだ。

途中屋台を見るが、特に何も買わない。

 

「おわっと、びっくりしたー」

 

気がついたら花火が上がっていた。俺の黒歴史が更新されちゃったよぉ……。

もうじき花火大会が終わる。みんなが花火を見ているすきに小町のを買ってしまおうと、歩き出そうとしたが、俺は固まってしまった。

目の前、いや少し遠くに、俺が探していた少女がいた。浴衣を着ていて、とても可愛い。その子は俺に気づいていない。本当なら今すぐにでも近づきたい。でも、俺の足が動かない。隣には、葉山がいた。手を繫いで、二人で歩いている。

なぜ手を繫いでいるのか。雪乃が方向音痴だからか、迷子にならないようにか。たとえそうだとしても、傍から見れば、恋人同士にしか見えない。それに、俺自身見ていてお似合いだと思ってしまった。爽やかなイケメンと、正真正銘の美少女。これほどつりあっているカップルはいないだろう。

小町の誘いを断ったのは、葉山と行くからなのか。頭の中がいっぱいになる。

 

「くそっ、くそっ……」

 

気がついたら走り出していた。周りのことなんて気にしないで、無我夢中で走る。

 

 

 

 

 

俺は、今日の花火大会で行動を起こす。雪乃ちゃんを誘うことだって成功した。もしかしたら比企谷と行くかと思ったが、そんなことはなかったようだ。

待ち合わせ場所は雪乃ちゃんのマンションの前にしておく。駅だとあの子が迷ってしまうと思うから。

 

「お待たせしたかしら?」

 

「いや、全然。大丈夫だよ」

 

雪乃ちゃんが来たから出発する。姉の陽乃さんは家の名代として行かなければいけなかったはずだ。そのため、邪魔をされることはない。

今思えば雪乃ちゃんと二人で出掛けるとこはかなり少なかったと思う。いつも陽乃さんがいた。もしかしたら俺を監視していたのだろうか。……あの人なら本当にやってそうで怖い。

 

「その浴衣、可愛いね。よく似合っているよ」

 

「ありがとう。姉さんに言ったら、これを着ていきなさいって言われて」

 

陽乃さんは俺と二人で出掛けることを知っているのか。よく許可してくれたものだ。いや、雪乃ちゃんの行動を抑制するほどの権限は流石の陽乃さんでも持っていないだけか。

 

「……比企谷とは…約束してなかったのか?」

 

「えぇ、特に約束していなかったのだけれど……。まぁ、そうね」

 

雪乃ちゃんにしては少し歯切れが悪い。もしかして、俺よりあとに誘われたのだろうか。

 

「人が多いね」

 

駅の時点でとても混んでいる。会場はもっと混んでいるのだろう。はぐれたら会えなくなりそうだ。

後ろを振り返って話しかける。

 

「大丈夫?」

 

「花火大会の道くらい分かるわよ」

 

少し唇を尖らせて言う。分かっていてもちゃんとたどり着けるかは別問題なんだよなぁ。

つい苦笑してしまった。

 

「それに…私が迷子になっても、隼人くんが見つけてくれるでょ?」

 

そう言って笑った。この、少し幼い笑顔は昔から変わっていない。親しい人にしか見せない、あどけない表情。やはり、あいつにも見せているのだろうか。

でも、俺はその期待には応えられない。見つけたのは比企谷だ。運んだのも比企谷だ。俺は何一つしていない。

 

「そう…だね……」

 

それでも否定出来なくて、曖昧な答えになってしまった。

 

「……姉さんはどこにいるのかしら」

 

ここで真っ先に陽乃さんが出てくるとは、雪乃ちゃんも結構お姉ちゃん子のところがある。

それ以外にも、罪悪感などがあるのだろうが。

 

「貴賓席の辺りにいるんじゃないかな。行ってみる?」

 

すると意外なことに、雪乃ちゃんは首を振った。まぁ直接会っても、罪悪感がより強くなるだけだしな。

 

「じゃあ、どこから行こうか」

 

「隼人くんにお任せするわ」

 

雪乃ちゃんはパンダのパンさんが好きだからな……わたあめでも行ってみるか。

 

「はい、どうぞ」

 

わたあめを渡すと、雪乃ちゃんは嬉しそうにわたあめを頬張る。こんな姿を見ていると、まるで妹ができたみたいだ。もともと雪乃ちゃんは妹だし、妹気質がかなりある。俺は弟妹はいないが、小さい子のお世話くらいならできる。と言っても雪乃ちゃんは同い年だが。

 

「次はどこへ行くの?」

 

もうすぐ花火が上がる。普通なら場所をとって座るのが一番いいだろう。

 

「……こっちに、来てくれないか?」

 

雪乃ちゃんは頷いて、俺のあとについてくる。

心臓の音がうるさい。緊張で身体が強張りそうになるのを必死に抑えて歩く。

閑静な丘に着く。ここら辺は周りに木があって花火があまり見えないから、人はいない。

 

「あのさ……」

 

雪乃ちゃんは首をかしげる。無言で、「なに?」と聞いているようだった。

勢いに任せて一気に言う。

 

「ずっと前から好きです、付き合ってくださいっ!」

 

頭を下げているため、雪乃ちゃんがどんな顔をしているかは分からない。おそるおそる顔を上げてみる。

雪乃ちゃんは、気まずげに視線をそらしていた。

――やっぱり、ダメだ。

 

「……私…好きな人が、いるの……」

 

ここまではなんとなく予想していた。だから、俺は最後の賭けにでる。

 

「そうか……。言いにくいこと言わせて、ごめん。あのさ、雪乃ちゃん…手を、繫いでくれないか?もうここにいる人たちは帰るだろうし…迷子になったら、困るから」

 

どんな形でもいい。断ってくれればなんでもいい。

雪乃ちゃんが、少しでも気がある人と手を繋げるとは、思えないから。そういうのが、苦手な子だから。俺に、少しでも思うところがあってくれるなら、ここで断ってくれるはず。どんな理由でもいい。断って、くれ……。

 

「えぇ、分かったわ」

 

賭けに、負けた。最後の最後の賭けにまで負けた。

雪乃ちゃんは最初から決まっていたのだ。揺れ動くことすらなく、もうとっくに決めていたのだ。

完敗だ。気持ちがいいくらい完全に、完璧に負けた。

あいつと俺はライバルなんかじゃなかった。同じ土俵にすら立っていなかった。

でも俺はきっとそれを薄々感づいていたと思う。それでも、負けを認めていなかっただけだ。いや、負けというのもおこがましい。

ふと、5年前に陽乃さんに言われたことを思い出す。

 

『おっ、隼人今日は早いね」

 

『……雪乃ちゃんは?』

 

『まだ着替え中。覗いちゃダメだよ』

 

『そんなことするわけ――』

 

『あっ、そうだ!隼人さぁ、雪乃ちゃんのこと好きだよね?』

 

『え、あぁ……』

 

『雪乃ちゃんね、好きな男の子できたの!』

 

『へ?』

 

『今日一緒に帰ってたんだけどね?絶対雪乃ちゃんあの子のこと好きだよ!もし今好きじゃなくても、絶対いつか好きになるよ!それにあの子も雪乃ちゃんのこと好きだし、隼人ヤバいよ〜』

 

『あの子って……』

 

『ん?あぁ、多分今日ここに来るんじゃないかな、体験として』

 

その陽乃さんの予言通り、あいつが体験に来た。


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