幼なじみの彼女は   作:有機物

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どんなものでもすぐに壊れる

「ねぇねぇ委員長、この仕事よく分かんないんだけど」

 

相模が大量の仕事を抱えて雪乃に話しかける。

 

「そうね…その仕事は私がやっておくから、相模さんはできるものをやってちょうだい」

 

おいおい、結構な量あるぞ?大丈夫か?声をかけたいが、一応俺もそれなりの量の仕事があるので手を離せない。

 

「あの…これ……」

 

そう言いながら、また仕事を持って雪乃に近づく輩が現れる。相模が雪乃に仕事をだいぶ任せているので、雪乃に言えば、雪乃がやっておいてくれる、という雰囲気になっている。

 

「はぁ……。そこに置いてください」

 

雪乃も委員長だからか、断っていない。

雪乃のデスクには、どんどん仕事が溜まっていく。それでも滞りなく進んでしまっている。

誰もが、雪乃に任せておけばいいと思っていた。

 

「定例ミーティングを始めます」

 

定刻通りの午後四時、ミーティングが始まった。

 

「宣伝広報からお願いします」

 

「掲示予定の七割を消化し、ポスター制作についても、だいたい半分終わっています」

 

担当部長は自慢げに話すが、雪乃は凍えるような声で言う。

 

「少し遅いです。来客がスケジュール調整する時間を考慮すれば、この時点で既に完了していないといけないはずです。掲示箇所の交渉、HPへのアップもすぐに済ませてください」

 

「あ、はい。あの、ポスター制作についてなんですけど、後で質問があるので……」

 

「ミーティングが終わったら来てください」

 

宣伝担当が言い終わる前に端的に言い、次に進む。

 

「次、有志統制」

 

「……はい。有志参加団体は現在10団体」

 

遠慮がちに発言する有志担当。しかし、雪乃は容赦しない。

 

「それは校内のみですか?地域の方々への打診は?昨年までの実績を洗い出す必要があると説明しましたよね。例年、地域との繋がり、という姿勢を掲げている以上、参加団体減少は避けないと。それから――」

 

雪乃がまだ続けようとした時、雪乃の隣から、「あっ」という声がした。

 

「あのさ、委員長のお姉さんに、OGとして来てもらったら?すごい人なんでしょ?」

 

相模の提案はなかなか好評なようで、有志担当も、めぐり先輩も頷いている。

 

「そう、ですね……」

 

「じゃあ声かけは委員長に任せていいよね、お姉さんだし。よし、じゃあ有志はこっちの仕事やってもらおうかな」

 

そう言って相模はまだ割り振りが終わっていない仕事を漁り始める。雪乃は何か言いたそうな顔をしたが、すぐに諦めたようにため息をついた。

 

「有志統制の残り仕事は私がやっておきます。有志統制の方は、副委員長からの追加の仕事をもらってください」

 

最初に有志統制の仕事の説明を言ったとき、責任を持ってやるということだったはずなのに、結局雪乃に任せ切りになっている。

何か手を打たないといけないが、俺に打てる手などない。自分の仕事をやって、これ以上雪乃の仕事を増やさないようにすることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

家に帰って、すぐに持って帰ってきた仕事を取り出す。見ただけで嫌気がさすような量だ。姉さんも委員長のときはこのくらい働いていたのだろうか。

姉さん、という言葉で思い出す。有志のお願いをしなければいけない。あの人に頼むのなら今やっておいた方がいいだろう。後から文句を言われたくない。

 

「……もしもし姉さん」

 

『わぁー!雪乃ちゃんからかけてくれるなんて嬉しいなぁ!どうしたの?』

 

底抜けに明るい声が聞こえる。いつもは鬱陶しいが、元気がないときこの声を聞くと、少し嬉しくなってしまう。そういえば、今久しぶりに笑った気がする。最近は仕事ばかりやっていて、由比ヶ浜さんとも比企谷君とも話していない。

 

「文化祭の、有志に出てほしいの」

 

『あぁ、もう文化祭か。いいよ、出てあげる。どのくらい必要?』

 

確か今集まっているのは、10団体だったはずだ。それなら、昨年までの実績によってどのくらいか変わってくる。

実績を洗い出すように指示をしていたはずだ。カバンを漁って探し出す。

有志統制のまとめは……。

 

「え……」

 

『ん?どうしたの?』

 

まさか、実績を洗い出すどころか、スタッフ内訳、ステージの割り振りすらやっていなかった。一気に頭が痛くなる。

今から調べることは出来なくもないが、このままだと間に合わない。練習する時間だって必要なはずだ。

 

「……出来るだけ多くお願い」

 

『んー、了解。とりあえず私のときより多い方がいいよね?』

 

姉さんも委員長をやっていたからか、理解が早くて助かる。

 

「えぇ。それじゃあ、お願いね」

 

『えー、もう切るの?もっとお話ししようよ!』

 

「忙しいのよ。それじゃあ」

 

最後に何か聞こえた気がするが、無理矢理切って、机に向く。痛い頭を働かせていつ終わるのか分からない仕事に取りかかった。

 

 

 

 

 

「……相模さんは、どこにいるの?」

 

会議室で、雪乃が焦ったように聞く。

ちょうど有志の申し込みで来ていた葉山が声をかける。

 

「相模さんなら、多分クラスにいるよ。どうかしたの?」

 

「えっと…いえ、特に……」

 

雪乃は目をそらし、言葉を濁す。誰の目から見ても、明らかに何かあったはずだ。

 

「そうか……。あの、有志の申し込みをしたいんだけど」

 

すると雪乃が気まずげな顔をする。

確か、有志の仕事は雪乃が全てやるということになっていたはずだ。まぁ、十中八九まだ終わっていないのだろう。いくら雪乃でも、一人であれだけの仕事が出来るとはおもえない。そろそろ破綻しそうになってきた。

一応打つ手は考えているんだが……。あれは正直使いたくない。もう少し様子を見てからの方がいいだろう。

なんとか冷静に考えて結論付ける。

 

「大丈夫?有志のことで何か問題があるなら、俺が手伝うけど……」

 

葉山が心配そうに言う。正直俺もかなり心配だ。雪乃の顔色が、あまり良くない。肌が白いから分かりにくいが、なんとなく青白いように感じられる。

 

「大丈夫よ。……姉さんが少し手伝ってくれているから」

 

そう言って、力ない笑みを浮かべる。

しかし、そんな笑みを見せられても、逆にもっと心配になってくる。

 

「あの……」

 

有志担当の奴が雪乃に声をかける。

 

「仕事がないので、クラスに戻っていいですか?」

 

この時、俺の怒りが爆発した。言葉では上手く表せない感情が湧き上がってくる。

 

「お前ら…ふざけんなよ……」

 

上手く声が出ない。掠れている声でなんとか紡ぐ。

 

「有志は本来お前らの仕事だろ…なんで責任持ってやんないんだよ……。それに…仕事終わったんだったら手伝えよ…そこに溜まってる仕事…見えて、ないのかよ……」

 

言ってから後悔した。雪乃が、悲しそうな顔で俺を見ていたから。

その顔をみて、やっと冷静になった。

 

「あ…いや、その……」

 

こんなに注目を集めたのは何年ぶりだったか。気持ち悪いくらいあのときのことを覚えている。そのことがまた蘇ってきて、また冷静さをなくしてしまった。これ以上ない位に怒りが湧いてくる。このままだと、耐えられないくらい。

ここにいる全員に腹が立つ。仕事を押し付ける有志担当にも、自分の役目を放棄する相模にも、雪乃に期待し過ぎるめぐり先輩にも、中途半端に手を差し伸べる葉山にも、今まで雪乃を見殺しにしていた自分にも。そしてなにより、勝手に独りで突っ走って独りで転んでいる雪乃に。

 

「……こんな文化祭、失敗すればいいんだ」

 

自分でも驚くほどすんなりと言葉が出た。きっと、ずっと心の隅で思っていたことなのだろう。

 

「自分の仕事も分からない、人に押し付ける、出来ないくせに独りでやろうとする、そんな奴らが集まったって、成功するわけ無いだろ……」

 

多分、今の俺の目は過去最高に腐っているだろう。

心にぽっかりと穴が空いたような感覚に襲われる。

ほらな、誰も何も言い返せないだろ。誰も言い返せないのは、俺が正しいからだ、と結論付けようとしたときだった。恐ろしいほど冷たい声が、耳に入った。

 

「出て行ってもらえるかしら」

 

その声を聞いて、一瞬で頭が冷える。しかし、俺は何故かより熱くなっていた。今、俺は何をしていたのだろうか。全て俺がやったことだ。しっかりと覚えている。

 

「文化祭が失敗することを望む人なんて、文化祭実行委員会に必要ないわ。今すぐ出て行って」

 

身体が凍えるように冷たい声。それでも、俺の身体は芯から熱くなってくる。そして、本当の意味で爆発した。

 

「ああ、出て行ってやるよ!こんな実行委員会参加してられるか!勝手にやって、失敗すればいい」

 

思いっ切り席を立ち、声の主――雪乃の前に立って、睨みつける。

 

「仕事も全部返却してやるよ!よくもまぁ今までさんざんこき使ってくれたなぁ。あぁ、委員長様は俺なんかより、もっと仕事していらしたんですかぁ?ごめんなさいねぇ、役立たずで!そんな役立たずはここからさっさと消えますよ!」

 

吐き捨てるように言って、会議室から飛び出す。

走って駐輪場まで向かう。

自転車にまたがって、思いっ切り漕ぎ出す。

 

「……くそっ、なにやってんだよ」

 

自転車を漕ぎ始めると、心の中が後悔でいっぱいになった。

 

「なにやってんだよ!バカかよ!謝れよ!俺が悪いだろ!」

 

必死に漕ぎながら叫ぶ。歩いている人なんて気にしないで、大声で叫ぶ。

 

「戻れよ!今すぐ戻って謝れよ!」

 

顔に当たる風が冷たい。切り裂くような痛みが走る。

戻らなければいけない、誠心誠意込めて謝っても許してもらえるか分からない。なのに、自転車を漕ぐ足は止まらない。

 

「なに、やってんだよ……。バカなこと、してんじゃねぇよ……」

 

だんだん力が抜けてくる。すると、よく聞き慣れた声がした。

 

「お兄ちゃん、どしたの?」

 

「………こま、ち」

 

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