幼なじみの彼女は   作:有機物

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彼の協力

とりあえずお兄ちゃんを落ち着かせて、椅子に座らせる。大好きなコーヒーも出しておく。

 

「それで、どしたの?」

 

するとお兄ちゃんはゆっくりと話し始めた。

 

「雪乃を…怒らせたんだ……。文化祭の…実行委員やってて…上手く回んなくて。それで…雪乃を傷つけるだけ傷つけて…帰ってきた。嫌われたと…思う……」

 

いつものお兄ちゃんなら「相手に嫌われようが好かれようが俺はそいつのこと嫌いだ」なんて言いそうだけど、流石に雪乃さんに嫌われるとそうはいかないらしい。少し安心した。

 

「それで、お兄ちゃんはどうしたいの?」

 

「俺は…まず謝りたい。許して、もらいたい。無理かもしんないけど……」

 

無理かも、というのは、許してもらうことだろう。確かに雪乃さんは結構面倒くさそうだから、一筋縄ではいかないかもしれない。

 

「じゃあやっぱり謝らないとね。それで、後のことは謝ってから考えよ?」

 

お兄ちゃんは力なく頷く。

というか、本当に驚いた。雪乃さんと喧嘩しただけで、目だけじゃなくて、心も身体も死んでるように見えた。確実にゾンビに一歩近づいている。

 

「はぁ……。性格悪いのが裏目に出たな」

 

お兄ちゃんが自嘲的に笑う。少し元気が出てきたみたい。

 

「まぁ、今更治るとは思えないけどね。むしろ性格悪くなかったらお兄ちゃんじゃないよ!」

 

やっとお兄ちゃんが笑ってくれた。そのままお兄ちゃんをお風呂に入れて、電話をかける。

 

「あ、小町です」

 

『ん?どうしたの?』

 

「兄が雪乃さんと喧嘩したみたいで。一応連絡を」

 

『あ〜、だから雪乃ちゃん元気なかったんだ。私が雪乃ちゃんの家に泊まろうとしても「帰って」の一点張りでね』

 

「そうなんですか」

 

『まぁ喧嘩だったらあんまり私たちが入る隙ないからなぁ。一応明日雪乃ちゃんの家行ってみるよ』

 

「ご迷惑おかけします」

 

『ん〜ん、全然大丈夫だよ。じゃあね』

 

多分これで大丈夫なはずだ。明日ちゃんとお兄ちゃんが雪乃さんに謝れば、なんとかなる、と思う。

 

 

 

 

 

学校に着いて、まず席に座る。流石に朝から昨日の話し蒸し返して謝りに行くのは気が引けた。昼頃行こう、昼食食べる前に、絶対。頭の中で何度も何度も繰り返す。こうでもしてないと逃げたくなってくる。

4時限目の終了のチャイムがなった、と同時に走り出す。正直J組は行きづらいが、なりふり構っていられない。

教室の前に着いたが、どうすればいいのかよく分からない。

 

「えっと…何か?」

 

近くにいた女子に話しかけられる。

 

「えっ、あ…雪乃…下。あ、雪ノ下雪乃…い、委員長に用があって。文実の、ことで」

 

なんとか言葉を絞り出す。

 

「あ、雪ノ下さん今日休みだよ」

 

「えっ?あ、そ、そうですか……」

 

休みと言われれば引き返すしかない。教室の中をチラッと見てみたが、雪乃っぽい人は見当たらなかった。

さっきまでの緊張がバカみたいだ。でも終わった訳ではない。雪乃が来たら、ちゃんと謝らないといけない。

 

 

 

 

 

マンションのベルを鳴らすが、全然出てくれない。居留守でも使っているのだろうか。仕方ないから、お母さんに持たされていた鍵を使って入る。

そのままエレベーターに乗り、雪乃ちゃんの部屋の前に立つ。ドッキリみたいに入るか、それともインターホンを押すか。

よし、ドッキリみたいに入ろう。勢いよくドアを開ける。何も聞こえない。しかし中は意外と明るく、普通に雪乃ちゃんがいてもおかしくない雰囲気だった。

 

「雪乃ちゃん?おーい、お姉ちゃんですよー」

 

言いながら廊下を通り、リビングダイニングに着く。机の上には乱雑に置かれたカバンとパソコン、電気は点けっぱなし。風呂にでも入っているのだろうか。

バスルームの前に立ち、扉をノックする。しかし何も聞こえない。扉を開けてみるが、誰もいなかった。

自分の部屋にでもいるのだろうか。一人暮らしだからどこにいてもあまり変わらないから、雪乃ちゃんがいるとしたらリビングダイニングだと思っていたが、もうここしかない。

また扉をノックする。しかし返事がない。

 

「雪乃ちゃん?入るよ」

 

扉を開けると、雪乃ちゃんがいた。ベッドの上に。

近づいてみると、顔が青白いのが分かる。おでこに触れてみると、かなり熱い。

 

「え、熱あるの?」

 

慌てて体温計を探す。あまり物が無いおかげですぐに見つかった。

雪乃ちゃんの部屋に戻る。そっと布団を剥がす。すると、寒そうに身震いした。聞こえていないだろうが、一応謝りながら体温計を入れる。

その間に隼人に連絡すると、どうやら今日は学校を休んだようだ。

 

「……39度って結構高くない?」

 

誰も答えてくれないが、ついつぶやいてしまった。正直呆れる。疲れていたのは知っていたが、ここまで体調を崩すとは。とっとと比企谷君と仲直りしてもらわなければいけないのに。

 

「もぉ、面倒くさ」

 

これが可愛い妹じゃなかったら帰っているところだった。

 

「……………ん」

 

小さな声が聞こえた。雪乃ちゃんが起きたのだろうか。

 

「起きたの?」

 

聞いてみるが、何も答えない。

 

「ひきがや…くん……」

 

今度ははっきりと聞こえた。本当は今すぐにでも比企谷君を呼んで看病を代わってほしいくらいだ。

 

「いや私陽乃だから」

 

未だに眠っている雪乃ちゃんにチクリと言い返す。しかし雪乃ちゃんはそんなこと知らないと言うように、「比企谷君」と繰り返す。

せっかく看病してあげるのに、他の人の名前を呼ばないでほしい。本当に比企谷君を呼んでやろうかと思うが、流石にそれは出来ない。

病気の女の子の看病を、その子のことが好きな男子にやらせたくない。比企谷君のことを信用していない訳ではないが、信用している訳でもない。少し期待してみる程度だ。まぁ、私が期待してもしなくても雪乃ちゃんの意志が変わる訳ではないから意味はないが。

そういえば隼人は玉砕したんだっけ。予想通りだが、告白することまでは想像していなかった。まあ隼人も最初から無理だと分かってやったのだろう。

もうとっくの昔から雪乃ちゃんが誰を選ぶかなんて自明の理。隼人はもっと昔から頑張っていたが、流石に本人の意志が決まってしまうと手の出しようがない。

しかし、こうなってくると一つ疑問が湧いてくる。

 

「雪乃ちゃんはいつ比企谷君のことが好きになったんだろ。いや、比企谷君も詳しい時までは分からないな……。……二人はいつから相思相愛なんだろう」

 

考えてバカらしくなってしまう。私には関係のないことだし、別に興味もない。正直そんなことはどうでもいい。

 

「早く仲直りしてほしいな〜」

 

眠っている雪乃ちゃんに、わざとらしく声をかける。しかし起きることはない。

部屋を見渡すと、雪乃ちゃんが持っているとは思えない物が飾ってあった。綺麗な写真立てに飾って、大事に保存している。その写真を見て、ついため息をついてしまう。

隼人と、比企谷君と、小学生くらいの女の子と、雪乃ちゃん。合宿に行った時に撮ったのだろう。比企谷君と雪乃ちゃんはピッタリくっついて、手を繋いでいた。

 

「本当に面倒くさ」

 

心の底からそう思う。喧嘩なんてする前にどっちかが告白しておけばよかったのに。もっと前に、合宿中でもいいから。

小町ちゃんに一つ連絡をいれて、部屋を出た。

 

 

 

 

 

「あれ、八幡は実行委員の方行かなくていいの?」

 

雪乃が休んだ翌日の放課後、俺はやることがなくて困っていた。

 

「いや、まぁ、そうだな……」

 

正直俺が行っても空気を悪くするだけだろう。というか、入れさせてもらえるかも分からない。出禁を喰らっているようなものだ。

 

「……相模さんもいるし、やることないの?」

 

いや、大量にある。きっと今頃あっちは大変なことになっているだろう。昨日雪乃が休んだ上、自分の仕事はもちろん、それ以上の仕事をしていた俺が抜けたのだ。

雪乃の仕事がより増えるのは当然として、さらに人が抜けて、実行委員全体の士気が下がるだろう。もしかしたら、サボる人が増えるかもしれない。

 

「まぁ、そんな感じだ」

 

戸塚が心配そうな目で見てくるから、ついカッコつけてしまった。

海老名さんに呼ばれて戸塚が行ってしまう。本格的にやることがなくなってきた。フラフラと廊下に出る。

雪乃は今頃大変だろう。いつ謝ればいいのだろうか。完全にチャンスを逃した。むしろ雪乃に会うことすら躊躇ってしまうレベルだ。

なんだかんだでまたあの会議室に向かってしまった。扉の前に立つが、開けることが出来ない。

 

「何してるんだ、比企谷」

 

呼ばれたので振り返ってみると、葉山がいた。

 

「いや…別に……」

 

葉山は俺と雪乃が喧嘩した現場をしっかりと見ている。そんな奴に、ノコノコと雪乃のところまで来たことを知られたくなかった。

 

「なぁ、一緒に帰らないか?」

 

 

 

 

 

「今はまだなんとか回っているけど、多分もうすぐ破綻する」

 

なんだかんだで葉山と一緒に帰っている。こいつは文実に顔を出しているようで、色んなことを知っていた。

 

「君は参加しなくていいのか?」

 

「……出禁言い渡されたんだ、今更行けるかよ」

 

つい目をそらしてしまう。他にも理由があるはずだ。一番大切な理由が。

 

「君がいなくなって、より雪乃ちゃんの負担が増える。学校に来ていたけど、多分完全に快復した訳じゃない」

 

そう言いながら、顔だけで「いいのか?」と尋ねてくる。

良いわけがない。ダメだ、そんなの絶対に。あの子が犠牲になっていいはずがない。

 

「良くない、けど……」

 

やっと出てきた言葉。この言葉を葉山はどう捉えるか。

「あれだけ雪乃を傷つけて」か、「その通りだ」か。それでもどっちにしても俺がやってしまったことはなくならない。

 

「なぁ比企谷。君は雪乃ちゃんと初めて話した時のこと、覚えているか?」

 

予想もしていなかったことを聞かれて、言葉に詰まる。

 

「俺は覚えている。親同士が親しくて、無理矢理連れて行かれたんだ。同い年の子がいるからって、何度も説得されて。それで初めて会った時、彼女は陽乃さんの後ろに隠れていた。正直幻滅したよ。そんな子が俺と対等に話せる訳がない、とまで思った」

 

葉山は遠い昔を見るような目をしていた。それは何歳の頃のことだろうか。小学生よりも前かもしれない。こいつは、俺なんかよりもずっと前から雪乃と交流があったのだ。

 

「でも、俺はその時、来て良かったと思った。後ろから少し顔を覗かせた彼女は、すごく可愛かったんだ」

 

葉山が薄く笑う。確かに、小さい男子なんて、そんなものでイチコロだ。

俺だって似たようなものだ。それで、好きになってからもっと色んなところを好きになる、その繰り返し。

 

「それから俺は彼女に一生懸命話しかけた。最初は警戒されてたけど、だんだん一緒に話せるようになった。俺だけ特別みたいで、本当に嬉しかったよ」

 

嬉しかったと言っているのに、葉山の顔は曇っている。

 

「……君は、雪乃ちゃんのことが好きか?」

 

試すような口調で聞かれる。そのことに、腹が立ってくる。

 

「好きに決まってんだろ、バカか?」

 

一言言うと、もう止まらなくなってくる。

 

「あいつが今誰を好きなのかなんて興味ねえ。すぐに俺って、絶対言わせてやる。俺のことが好きって、言わせてやる」

 

拳を固く握る。爪が食い込むことも気にならない。いっそ清々しいくらいだ。

 

「君は、面白いな。今雪乃ちゃんが好きな人を知らないのか」

 

そう言って葉山は笑う。本当にムカつく奴だ。雪乃から聞いていないって、言ったくせに。こいつは知っているのか。

 

「あ?別に興味ないって言っただろ。絶対俺のことを好きにさせるんだ。そんなん知らなくっていい」

 

「それもそうだな……。それで、君はどうするんだ?」

 

どうする、か。どうしようもない。文実に入れないし、仕事も出来ない。それでも、今俺が何かをしなくては、雪乃の負担がもっと増える。最悪文化祭に間に合わなくなる。

 

「なぁ葉山、一つ頼みたいことがある」

 

こいつにお願いするなんて、吐き気がするほど嫌だ。それでも、今は頼れる人がいない。

 

「文実に行って、仕事を取ってきてほしい。なるべくたくさん。それで、俺がやったら出して来てほしい」

 

「なるほど……。それで、いつ雪乃ちゃんに謝るんだ?」

 

一番大切なこと。本当は今すぐにでもしないといけないこと。でも、今すぐになんて出来ないこと。

 

「……全部、終わってからだ。まず、仕事と…文化祭と。それが終わってから、ちゃんとやる。言わなきゃいけないことも、言いたいことも。終わってから、全部言う」

 

これは、逃げていることになるのだろうか。先延ばしにしているだけかもしれない。それでも、そこまでいって、やっと言えることだってあるはずだ。

 

「そうか。まぁ俺がとやかく言えることじゃないからな。君がやるしかないことだ。分かった、仕事は俺が持って来る。それでいいんだな?」

 

正直かなりありがたい。こいつがいなかったら、雪乃に謝ることすら決心がつかなかったかもしれない。

 

「なんだ、その…ありがと、な」

 

こんなことを言うのが初めてで、つい照れくさくなってしまう。まともに葉山の顔を見れる気がしない。

 

「はっ、ははっ」

 

「おい、何笑ってんだよ」

 

葉山は大爆笑していた。

 

「いや、まさか君がこんなことを言うとは。ははっ」

 

「うるせぇよ」

 

それだけ言って、ダッシュで葉山から遠ざかる。初めてちゃんとお礼を言ったのに、こんなに笑われたら恥ずかしさが倍増する。

 

「あいつ、ホントうぜぇ」

 

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