幼なじみの彼女は   作:有機物

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こうして彼の前にライバルが現れる

 

ダッシュで家に帰ると案の定誰もいなかった。

とりあえずランドセルを置いて、水筒とタオルを用意する。

 

「なんか必要なものあんのかな」

 

テニスラケットやユニフォームが必要なのは分かるが、あいにく俺は持っていない。

まあ、借りられるよな。

 

「よし、行くか」

 

自転車にまたがり、徐々にスピードを上げていく。

俺が行ったらあの子はどんな顔をするか。

そんなことばかり考えていた。

 

 

 

 

 

「あ、雪乃ちゃん」

 

「こんにちは、隼人くん」

 

幼なじみの隼人くんが話しかけてきた。

小学校は同じだが、クラスが違うため、学校では話さない。

 

「今日は遅かったね。何か用事でもあったの?」

 

「いえ、用事というほどでもなかったけれど…まぁ、少し忙しくて」

 

隼人くんと雑談していると、姉さんが走って来た。

 

「雪乃ちゃん、比企谷君が来てるよー」

 

 

 

 

 

テニススクールに着いたものの、どうすればいいのか分からなくて、キョロキョロしていると、ついさっき会ったばかりの人がいた。

 

「比企谷君じゃーん。どうしたの、こんなところであ、雪乃ちゃんに会いに来たんだね」

 

確かにその通りなんだが……。

改めて言われると恥ずかしい。

 

「あ、えっと、今日は、その、たっ体験で」

 

「あーなるほどねぇ。じゃあ、雪乃ちゃんこっちにいるからついてきて」

 

なにが「なるほどねぇ」だよ。

結局結論変わってないじゃん。

その通りだけど。

 

「雪乃ちゃん、比企谷君が来てるよー」

 

雪乃が見えた。

俺は少し手を上げる。

驚いていたが、すぐにはにかむように笑った。

可愛い……。

雪乃のとなりには爽やかイケメンがいた。

 

「俺は葉山隼人だ。雪乃ちゃんの幼なじみだよ」

 

「へ、へぇ。俺は比企谷八幡だ。雪乃の同級生」

 

「そうか、よろしくな」

 

そう言って、葉山はにっこり笑ってくる。

 

「比企谷君は体験に来たの?」

 

「おう、まあな」

 

「じゃあこっち来て」

 

そう言って雪乃に手を引かれる。

その時、葉山の視線が鋭くなっていたが、俺はあえて気付かないふりをした。

これは要注意人物だな……。

 

「先生、体験の子を連れて来ました」

 

「あ、比企谷です」

 

一応自己紹介をしておく。

 

「比企谷君か。よろしくね。えっと、体験だったらこの用紙に、名前と学年を書いてくれるかな?」

 

「はい」

 

先生から用紙を受け取る。そこには、今まで体験に来た人の名前が書いてあった。

空欄に名前を書く。その時に、不本意ながら一つ前の名前が見えてしまった。

戸塚彩加か。同じ学年だな。この人は入ったのかな。

気になったので、雪乃に聞いてみる。

 

「このテニススクールって、3人以外に誰かいるの?」

 

「違う曜日ならもっと沢山いると思うわ。今日は上級者の日なの」

 

なるほど。上手さによって、曜日が違うのか。

 

「だから今日は3人だけ。あなたも含めたら4人ね」

 

「そうか。あっ、これ書き終わりました」

 

「ありがとう。着替えは持ってないよね。貸すから雪乃ちゃん、比企谷君を案内してあげて」

 

「俺が案内します!」

 

いきなり葉山が出てきた。

なんだよ。なんでお前に案内されなきゃいけないんだよ。

 

「じゃ、じゃあ隼人君案内してあげて」

 

「はい。……なぁ比企谷。雪乃ちゃんとはどうやって知り合ったんだ?」

 

いきなり名字で呼び捨てかよ。

まあ俺も同じことしようとしてたけどさ。

 

「あー、まぁなんかクラスが同じで…」

 

特に隠すことはないのだが、なんとなく濁す。

 

「そうか。じゃあ比企谷は1組なのか。ちなみに俺は3組だ」

 

「お、おう。そうか」

 

なんだこいつ。超ナチュラルに自己紹介してくる。

はーん、さてはコミュ力高いな。

顔も良くてコミュ力高いとは。くそっムカつく。

 

「趣味はサッカーかな。あ、テニスも好きだけどね。でもやっぱ一番はサッカーだな。これでも結構鍛えてるんだよ」

 

何こいつ。自分語り?

サッカーとかテニスとか、こいつスポーツマンか。

てかこれでもってなんだよ。見るからに鍛えてる身体してるよ。

 

「サッカーが好きなのになんでテニス習ってんの?」

 

「あぁ、雪乃ちゃん達に一緒にやらないかって誘われてね。スポーツは好きだし、習うことにしたんだよ。あ、ちなみにサッカーもやってるんだよ」

 

テニスとサッカーの両立か。素直に感心してしまう。

え、俺が素直になることはないだろって?

うるせーよ!

 

とりあえず葉山の自己紹介を聞きながらユニフォームに着替え、ラケットを借りる。

 

「比企谷はテニス初めて?」

 

「あぁ、ラケットに初めて触っだレベルだ」

 

「ならさ、勝負しないか?」

 

は、こいつ何言ってんだ?今初心者って言ったばっかだろ。

 

「あー、もう隼人と比企谷君おそぉい」

 

陽乃さんが来た。後ろに雪乃もいる。

 

「陽乃さん、一つ提案があるんだけどさ。いつもの勝負に比企谷を入れてやらない?」

 

いつもの勝負ってなんだよ。内輪ノリかよ。このリア充め!

 

「どっち側に入れるの?」

 

「もちろん陽乃さん側だよ」

 

「雪乃ちゃんとペア組んで2対1でも勝ててないのに?」

 

マジかよ雪乃と葉山で組んで勝てたことないのか。陽乃さんすげぇな。

 

「ボールを上手く比企谷の方に打てれば俺たちだって勝ち目はある」

 

「別にいいよ。雪乃ちゃんは?」

 

「私も構わないけれど…比企谷君は?」

 

「別にいいぞ。てか先生に聞かなくていいのか?」

 

「いいのいいの。いつものことだし」

 

先生も大変そうだな。

 

 

 

 

 

そんな感じで試合をすることになったのだが…

陽乃さんが強過ぎて俺の出番がない。

なるほど、ここはコート内にいながらも試合観戦というとても珍しい体験をする場所なんだな。

 

観ていて思ったのだが、雪乃は体力がない。

まだ始まったばかりなのにもうヘロヘロだ。全然球に追いつけていない。

恐らく立っているのがやっとだろう。

でも、なんとか球にすがりつこうとしている感じがなんとも健気で可愛らしい。

かたや葉山は。

鍛えていると言っただけあって、体力もかなりあるようだ。大体の球は葉山が打ち返している。

正直、ここまで上手いと思っていなかった。

これよりもサッカーの方が上手いんだよな…

べ、別に羨ましくなんかないんだからねっ。

などと思っていると、雪乃と葉山のちょうど真ん中に球がバウンドした。陽乃さんが打ったのだ。

雪乃は頑張れば間に合うと思ったのか、なけなしの体力を振り絞って走り出す。

葉山はここで決めようと、気合いが入っているのだろう。力強く走り出す。

二人共、球に集中してお互いのことを見ていない。

 

ドンっ

 

思いっ切りぶつかっていた。

本来ならお互いに尻もちをつくレベルなのだろうが、相手が悪かった。

日々鍛えていて、力強く走っていた男子と、華奢で、今にも倒れそうなくらい疲れていた女子がぶつかったのだ。

葉山はなんとかその場に踏みとどまっていた。

しかし雪乃は思いっ切り吹っ飛んでいた。

遠目だから詳しくは分からないが恐らく3メートルくらい先まで行く。

しかも、ろくに受け身もとれず、そのまま地面に落下する。

 

「雪乃ちゃん!」

 

陽乃さんが走り出す。

葉山は恐らく目が回っているのだろう。動けていない。

俺は…

気づいたら俺は陽乃さんよりも前を走っていた。反射的に走っていたのだろう。どうやら陽乃さんよりも速く反応していたようだ。

いつも反応鈍いくせにこういうときだけ速いんだな。

そういえば俺ってこんな速く走れたんだ。

 

すぐに雪乃のところまで着く。

雪乃は気を失っていた。

ある意味良かったのかもしれない。

あんなの絶対痛いに決まっている。

もし起きていたら大泣きじゃ済まされないだろう。

気を失っている分、痛みは軽減されるだろう。

 

「雪乃ちゃんは⁉」

 

「気を失っているみたいです」

 

俺が応えると、陽乃さんは少し安心したような顔になる。

でも怪我の具合いが分からないため、まだ安心は出来ない。

 

「とりあえず先生呼んでくるから、比企谷君は隼人を休ませてあげて」

 

そういって陽乃さんは行ってしまう。

こんな緊急事態でも他の人に気を配れるなんて、すごいな。

隼人のところへ行って、とりあえず座らせておく。

すると陽乃さんが先生を連れてやって来た。

雪乃はそのまま運ばれていく。

しかし陽乃さんは残っている。

 

「今、私の母に先生が連絡したの。だから私達は早退するし、どっちにしろもうすぐ終わりの時間だから、比企谷君も帰っていいよ。ごめんね、せっかく来てくれたのに。先生が、またおいでって言ってたよ」

 

それだけ言うと、陽乃さんは先生の方へ走っていってしまった。

仕方ないから俺も着替えて帰る準備をする。

更衣室から出ると、葉山が入ってきた。

もう目は回っていないようで、真っ直ぐ歩いている。

一言も会話することなく俺は出ていく。

帰り際にチラっと雪乃達の方を見てみたが、どんな状態かは分からない。

帰り道、黒塗りの高級車とすれ違った。

 

 

 

 

 

『うん……ん』

さっきまで何もかんじていなかったのに、今はちゃんと意識があるような気がする。

ああ、これが意識が覚醒するっていうのかな。

 

「あれ、ここは…」

 

目が覚めると、自分の部屋のベッドにいた。

 

「あら、目が覚めたのね、良かった」

 

すぐ隣には母さんがいる。

 

「あれ、テニススクールは?それに、比企谷君も…」

 

なんだか記憶がモヤモヤしてはっきりしない。

たしか比企谷君と一緒に帰っていて、姉さんが迎えに来て……。

やっぱりイマイチ釈然としない。つまり答えは。

 

「もしかして、さっきのは全部夢?」

 

「さっきのというのがどこのことを指すのかは分からないけれど、覚えていることを言ってみて?」

 

「えぇと、比企谷君と一緒に帰っている途中で、姉さんが迎えに来て、そのままテニススクールに行って、隼人くんに会って、いつもの試合をした」

 

「そうね、陽乃と同じことを言っているから、夢ではないわね。そこから先は覚えている?」

 

「えっと…あっ、隼人くんにぶつかっちゃって」

 

「そうよ。それであなたは気を失っていたのよ。

 テニススクールも早退をしたの」

 

やっと記憶がはっきりとしてきた。

 

「どこか痛いところはない?病院には行ったけれど、一応あなたから直接聞きたいの」

 

そう言われて身体を起こしてみる。

全身が痛いが、起きられないほどでもない。

 

「全身が痛いけど、起きられないほどでもないわ」

 

「そう。運が良かったというべきか、悪かったというべきか。一応明日、いえ今日の学校はお休みにしましょう」

 

「え、お休み?」

 

「一応ね。起きれると言っても痛いなら危ないわよ。それに今は1時よ。中途半端な時間に起きてしまったし」

 

今までなら、学校を休むことに対して、どう思っていたのだろう。

恐らく、嬉しいという気持ちが半分、自分がいない間に何をされるか怖いという気持ちが半分だっただろう。

しかし今は嬉しいとも、怖いとも思わない。

ただ比企谷君に会えないのが悲しいと思っていた。まだ知り合ってから2日しか経っていないのに、なぜか私は比企谷君のことばかり考えていた。

 




読んでくださりありがとうございます。
どこで切ればいいのか悩んでいるうちに、長くなってしまいました。
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