幼なじみの彼女は   作:有機物

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何もない二人

 

「終わった……」

 

「それじゃあこれお願い」

 

終わったら次から次へと仕事が出てくる。文化祭明日だよ?まだあんのかよ……。

 

「ごめんなさい。でもこれを終わらせればなんとか明日までには終わりそうだから……」

 

そんな顔しないでくれ〜。俺が悪かった。ちゃんと仕事するから。

 

「いや、大丈夫だ」

 

なにせ放課後に雪乃の家にお邪魔して、さらに夕飯まで頂いているのだ。文句なんて何もない。

さあ、今日は何時に帰れるかな?どのくらい残業するのかな?

いっそのこと帰れない方がいいな……。

しばらくお互いに別々で仕事をこなす。

こんなに終わりの見えなそうな仕事をしていると、「あれ、俺ってなんの為に働いてんの?」という疑問が湧き出てくる。

あれ、俺ってなんの為に働いてんの?

 

「終わった……」

 

「私も終わったわ。手伝ってくれてありがとう」

 

雪乃がそう言って、最上級の笑顔を見せてくれる。

そうだよ、これだよ、俺はこの為に働いてたんだよ。

ふと時間が気になって時計を見る。

 

「げっ、もう11時かよ。ヤバいな」

 

「高校生だけだと補導されるわね……」

 

今雪乃がとんでもないことを言った気がした。

 

「え、補導?」

 

「ええ。千葉県だと11時くらいから補導の対象時間になってくるわね」

 

マジかよ……。なんとかして帰らなくては。俺の両親はもう帰って来ているのだろうか。

いや、迎えに来てもらうにしても俺がここにいることについて説明したくない、というか出来る気がしない。

 

「困ったな……」

 

「じゃあ…その、と、泊まる?」

 

「は?」

 

いやダメだろ。そもそも俺着替え持ってないし。いや、それは風呂で洗えばなんとかなる、のか?

明日学校あるし…って、制服持ってるわ。しかも文化祭だから教科書とかいらない。

え、もしかしてこれはたくさんの仕事をしてきた俺への神からのご褒美?それなら受け取らないのは悪い!

 

「いい、のか?」

 

「こんな時間まで仕事をさせてしまったのだし……」

 

確かに時間を気にしないで二人とも仕事に没頭していた。でもだからといって雪乃が負い目を感じる必要はない。それに、一人暮らしの女子の家にこんな男子が…あれ、俺雪乃に告白、というかプロポーズしたよな?それでオッケーもらったよな?

今の俺たちは恋人同士と言ってもいいのではないだろうか。え、待って、ヤバい。ヤバ過ぎてヤバい。ついでに語彙力もヤバい。っべーわ。マジ、っべーわ。

これは期待してもいいの?なにかイベント発生するの?

 

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 

 

 

 

風呂から上がって、雪乃に言われた部屋に入る。特に何かがある訳ではなく、床に布団が敷いてあるだけだった。恐らく空き部屋なのだろう。

結局パジャマは雪乃の家にあった、旅館なんかで寝巻きとして着る浴衣を借りた。

雪乃曰く、「父が泊まりに来るとき用に置いているの」だそうだ。

疲れた身体を一刻も早く癒やす為、布団に入る。

……寝れる訳がない。

雪乃は今何をしているのだろうか。恐らく風呂に入っているだろう。俺が上がった後、もう一度風呂の水を張り直しているのを見た。なにそれ悲しい。いや、ここは意識してると考えるのだ、八幡。ポジティブに行こう。じゃないと心が折れちゃう。

さて、どうしよう。いや、寝ないといけないのだが…どうしよう。

べ、別に何か期待してる訳じゃないんだからね!

み、水でも飲みに行くか。いや、雪乃の様子を見るつもりじゃなくて、ただ喉が渇いただけ、それだけ……。

恐る恐るキッチンまで行く。コップを拝借し、ミネラルウォーターを注ぐ。

 

「ふぅ……ぶっ!」

 

心を落ち着けさせる為に飲んでいたのに、かえって興奮してしまった。目の前に、パジャマ姿の雪乃がいた。

髪は乾かしていないようで湿っていて、足は靴下を履いていないため細長い足の指まできっちり見える。足の指まで綺麗なのね……。さらに、長袖だから露出は少ないが、ボタンの隙間から見えるような、見えないような白い肌。見えちゃってんじゃん。そして何よりほんのりと上気した頬と、無防備な表情。これは…ヤバい。

 

「だ、大丈夫!?」

 

俺が咳き込んでいると、優しく背中を擦ってくれる。手が柔らかくて温かい……。

なんとか呼吸を落ち着けさせる。

 

「だ、大丈夫だ」

 

呼吸を落ち着けさせたついでに、本能も落ち着けさせる。

 

「もぅ…びっくりしたじゃない」

 

雪乃が困ったように笑う。か、可愛い……。

 

「あぁ…悪い」

 

もう一杯だけ飲んで片付ける。

 

「じゃあおやすみなさい」

 

「お、おやすみ」

 

それだけ言うと、雪乃は洗面所に戻って行ってしまった。髪を乾かすのだろう。

ドライヤーの音が聞こえてくる。

おやすみと言ってしまったので、ここで待つのはなんだか気が引ける。しばらくぼーっとしてから、借りている部屋に戻り、布団に入る。今度こそ寝ようと思った時に、ドライヤーの音が止まった。

もう終わったのだろうか。ゆっくりと可愛らしい足音が近づいてくる。一歩近づくたび、心臓が脈打つ。

いや、だから何も期待してないって!ほ、本当だよ?

ドアが開く音がした。もちろん俺のいる部屋のドアは1ミリたりとも動いていない。

……まぁそうだろうな。雪乃は俺以上にヘタレ、というかそういうのあんま分からなそうだし。あいつ変なところで鈍感だし。

 

今日の結論:ヘタレが同じ屋根の下でお泊りしてもなんのイベントも発生しない

 

「……寝るか」

 

今の一件で一気に気が抜けて、割とすぐに寝ることができた。

 

 

 

 

 

NOTE

件名:マジでウザい

気に入らない気に入らない。何あいつ、ちょっと葉山君と仲いいからって下の名前で呼び合って。葉山君はあんたなんて眼中にないっての。そのくせにあの…ひき、たに?と仲良くしちゃって。男子手玉に取るのが趣味なの?なにそれ、趣味悪。ほんっとウザい。ちょっと頭良くてちょっと運動が出来てちょっと凄い家だからってお高くとまって。姉が凄いからって私から委員長の座まで奪いやがった。ウザい。別に私委員長やりたかった訳じゃないんだけど。誰もやらないならやってやろうと思ったのに、なにあの仕打ち。やる前から否定しやがって。あの教師もウザいわ。ていうか手を挙げるならもっと早く挙げろよ。あいつがやるって分かってたら私挙げなかったんだけど。全部あいつのせいだ。ウザい。ウザい。ウザい。文化祭、めちゃくちゃにしてやる。委員長なんだから、そのくらいの責任は取ってよね?

 

 

 

 

 

「ちょっと、姫菜、そろそろ休憩に……」

 

「ダメダメ。とつはやが見れる機会なんて全然ないんだから」

 

「り、理由が個人的過ぎる……。あれ、さがみん文実行ってないんだ」

 

「雪乃ちゃん、大丈夫かな……」

 

「ヒキオが行ってたから大丈夫っしょ。それより隼人試しでメイクしよーよ」

 

「うんうん、本番明日だしね〜。最上級のとつはやをみんなに見せよう!……ぶはぁ!」

 

「ちょ、海老名擬態しろし……。ほら、チーンして」

 

「ごめん、僕ちょっと疲れたから休憩したいな……」

 

「さいちゃん大丈夫?休憩してていいよ。そこ座ってさ」

 

「由比ヶ浜さん、ありがとう」

 

「いやいやそこは隼人くんの膝の上で……」

 

「ちょ、海老名また鼻血でてるから!」

 

「あ、じゃあ隼人くんとそこに寝っ転がって添い寝とか……」

 

「お、俺はちょっと外出てくるよ」

 

「あ〜、隼人くん、せっかく戸塚くんと……」

 

「優美子、後は頼んだ」

 

「オッケー、隼人。ほら海老名、鼻押さえて上の骨をつまんで……。一回水道行くよ」

 

「大変そうだね……」

 

「あー、いつもあんな感じだから」

 

「そういえば、八幡と雪ノ下さんの方は大丈夫かな?結構大変って聞いてたけど。あ、でも相模さんがこっちいるから一応大丈夫なのかな」

 

「いやでもゆきのんにメールしても返ってくるのが遅かったり、内容が短かったりするんだよね」

 

「心配だね……。ちょっと行ってみる?」

 

「多分隼人くんが行ってるんじゃないかな。結構手伝ってるみたいだし」

 

「そうなんだ。……そういえば、由比ヶ浜さんは葉山君の好きな人って知ってる?」

 

「あ、それあたしも気になるんだよね!あたしの予想はゆきのんかなって思うんだ」

 

「そうだよね、僕も雪ノ下さんだと思うんだ」

 

「でもヒッキーもゆきのんだよね」

 

「まあ八幡はわかり易いからね。……雪ノ下さんはやっぱり八幡かな」

 

「ゆきのんは絶対ヒッキーだよ!」

 

「じゃあ八幡か雪ノ下さんが告白したらきっと結ばれるね」

 

「絶対成功するよね!なのに…あの二人全然アプローチしないんだよね」

 

「あー、確かに。じゃあさ、告白するとしたらどっちからすると思う?」

 

「うーん、ヒッキー、かな?ゆきのんは意地でもしなさそう。てか、出来なさそう。ああ見えてゆきのん、結構奥手というか、ヘタレだから」

 

「でも八幡もヘタレって感じじゃない?」

 

「でもなんだかんだで頑張るからな……。あたしの予想は、隼人くんにゆきのんが取られそうになったと思ったヒッキーが告白、みたいな感じ」

 

「なんか想像できる……。でも八幡と雪ノ下さんって、結構見てるこっちが早く告白しなよ!ってなることない?」

 

「すごいある!でもゆきのんをヒッキーに取られるのなんか複雑……」

 

「そ、そっちなんだ……。でも由比ヶ浜さんも雪ノ下さんのこと大好きだよね」

 

「だってゆきのん可愛いじゃん!頭良いのに天然でたまにすっごいボケかまして。それに結構照れ屋さんで……」

 

「確かにそうだね」

 

「さいちゃんはゆきのんのこと異性として好き?」

 

「うーん、恋愛感情はない、かな。でも雪ノ下さんは好きだよ。テニスの練習に付き合ってくれるし、強いし」

 

「でも男子って大体ゆきのんのこと好きなイメージあるな」

 

「なんとなく結構な人が雪ノ下さん、って言いそうだよね」

 

「でもやっぱりゆきのんが付き合うとしたらヒッキーかな。早く告ればいいのに」

 

「あの二人、付き合ってると思うよ」

 

「え?あ、って隼人くん!?」

 

「葉山君知ってるの?」

 

「詳しくは知らないけど雪乃ちゃんのお姉さんが、ちょっとね」

 

「え、なになに!」

 

「この前あの二人大喧嘩したんだけど、仲直りしてから距離が近いらしくて。雪乃ちゃんが比企谷を家に上げたりしてるらしいよ」

 

「え、あたしよくゆきのんの家行って泊まってるよ?」

 

「そういうことじゃないよ。雪ノ下さんが、男子を家に上げてるってだけですごいスクープなんだよ」

 

「すくーぷ?」

 

「特種ってことだよ。まああの二人だから付き合ってもあんまり何かが変わるってことはなさそうだけどね」

 

「でもすごい情報じゃん!文化祭終わったらまた勉強会してその時聞こうかな」

 

「でもそんなに全部教えてくれるかな?」

 

「問い詰めるんだよ!楽しみになってきた……」

 

「それ、絶対勉強しないよね……」

 

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