修学旅行当日の朝、小町が見送りをしてくれた。
「お兄ちゃん、お土産買ってきてね!」
なるほど、それが目当てか。それでも可愛い妹に見送ってもらえるのは嬉しい。
「えっと、生八つ橋と、あぶらとり紙と……あと、お兄ちゃんの素敵な思い出、楽しみにしてるよ!」
小町がにっこにっこにーと笑う。あざとかわいい……。
しかし、俺の素敵な思い出か……。今回の修学旅行じゃそんな思い出は作れないだろうな。
俺は重たい足を引きずりながら家を出た。
修学旅行の難所、新幹線の座席決めの時間が始まった。俺はとりあえず戸塚の隣ならどこでもいいのだが、戸部が何故か俺の隣を要望したことにより、面倒くさいことになってしまった。
なんで戸部俺になついてんの?男になつかれても全く嬉しくない。戸塚を除いて。
「じゃあ俺は窓側の端で」
そう言って葉山は早々に一人になりやすい席を選んだ。すると三浦ががっかりしたような顔になる。
「は、隼人そこでいいの?もっと、真ん中とか……」
「俺はここがいいんだ」
それを聞いて、三浦ががっくりと肩を下ろす。空気が重くなってきた。新幹線に空気清浄機とかついてないの?
「じゃあ俺ヒキタニくんとあっち行ってるわ」
戸部に無理矢理引っ張られ、葉山たちとは違う席へ連れて行かれる。
「おい……」
ジト目で睨むと、戸部が申し訳なさそうな顔をした。
「ヒキタニくん、マジごめんな?俺、雪ノ下さんと隼人くんの関係とかあんま知らなくて……。そんで余計なこと言ったちゃって」
正直驚いた。こんな戸部でも、一応気を遣っているらしい。
「俺らのことはあんま気にしなくていいから、雪ノ下さんと楽しんでな!」
そう言ってウインクする。いや、可愛くねえから。
しかし、気にしなくていいと言われても、気になるものは気になるのだ。それに、雪乃がそれで納得するわけがない。やはり、今回の修学旅行でなんとかしなければならないのだろう。
「まぁ…あれだ、お前が気を遣う必要はない、と思う。俺がなんとかするつもりだしな」
「おー、さすがヒキタニくん。頼りにしてるぜ!」
ちょ、おい背中叩くなよ。痛えっつーの。……でも、こういうの、友達っぽくて…なんか、いい、かもな……。いや俺何考えてんだ。全然よくねえから。
それっきり俺と戸部の間に大した会話もなく、目的地の京都に着いた。……さて、これからどうしようか。
「ふーん、そんなことがあったんだ……」
それが、この間の話を聞いた陽乃さんの反応だった。
「隼人はなんでそんな面倒くさいことを?」
「あの子の態度が嫌なんだよ」
じーっと、感情の感じられない瞳で見つめられる。俺の周囲の温度が少し下がった気がする。
「あの子のことは好きなのに?」
「好きだからだよ」
「へぇ……」
次は興味深そうに見つめられる。ここでこの人の興味を引けたのは、幸運かもしれない。不運の可能性も十分あるが。
「彼だけを見ればいいのに、俺のことも気にかけるんだ」
「気にかけてもらいたくないの?」
陽乃さんは、俺の気持ちなどまるで理解出来ないのだろう。心底不思議そうにしている。
「昔の俺を見ているみたいでね」
ここまで言って、やっと理解出来たようだ。
「まあ、彼女も昔からそうだったしね」
「なるほどね……。確かに隼人もあの子も、昔からそうだったね」
ああ、そうだ。その点、彼だけは少し違った。彼女だけを見て、それ以外は容赦なく切り捨てていた。
「でもね、隼人。あの子はもう違うよ」
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。今の彼女は俺が知っている彼女とは違うと、そう言われたのだ。
俺はとっさに考える。昔と何が違うのか。考えれば考えるほど分からなくなる。
「まあでも、今はまだあんまり変わってはないけどね。でも、確実にだんだん変わってきてる。それが良いことなのかは分からないけど。……それで、隼人はどうしたいの?」
どうしたい、か。俺は諦めたいのだろうか。それとも、まだ諦めたくないのだろうか。正直自分でも分からない。諦めようとすると胸が痛むし、本気で狙いに行こうとしても、無理だと思ってしまう。
「まあ隼人がどうしたって、結果は変わらないけどねぇ……」
不意に聞こえた冷たいその声は、俺の脳内を支配した。やがてどこまでも俺を追い詰めて行くのだろう。
かなり更新が遅くなりました。すみません。
次回もかなり先になるかもしれません。