幼なじみの彼女は   作:有機物

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こうして彼は自己犠牲を覚える

翌日、教室に着くとすぐに先生が来た。

 

「比企谷君、ちょっと来てください」

 

え、俺?

なんかやったっけ。

もしかして佐川と下田が自首したとか。

なんだろう。

とりあえずついていってみる。

すると先生は応接室の前で止まった。

 

コンコンコンコン

 

「はい」

 

落ち着いた感じの声がする。

恐らく大人の女性の声だろう。

 

「連れて来ました」

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

なんとも事務的なやり取りだ。

中に入ってみると、佐川と下田に、名前を知らない女子が2人、大人の女性、(恐らく誰かの親だろう)が座っていた。

 

「比企谷君、そこに座ってください」

 

先生に言われ、俺も座る。

なんだろう、すごく嫌な予感がする。

 

「時間を取らせてしまってごめんなさいねぇ、比企谷君?」

 

口調こそ優しいが、笑い方が不気味だ。

まぁつまり、気持ち悪い。

俺はわざと挑発するように言う。

 

「ええ、俺の時間は有限なのでね。早く話してもらえると助かるんですが」

 

「比企谷君」

 

ピシャリと言われてしまう。どうやら先生も俺の敵のようだ。

つまり、俺の味方はいない。訓練されたボッチなめんなよ。こんくらいなれてるっての。

 

「あなたも時間が惜しいようだから、単刀直入に言うわね。うちの娘がね、あなたにイジメられてると言っているのよ」

 

は、なに言ってんだ?

イジメてたのはあいつらで、それに相手は雪乃なのに、なんで俺が?

あっ、そういえば心当たりあったわ。

恐らく昨日のことで恨まれて、恐れられたのだ。

俺が親に言わないか。

そして考えたのだろう。

言われる前に、自分から言ってやろうと。

 

もし俺が証拠を持っていたら反撃できただろう。

しかし俺は本当は証拠など持っていない。

そこまであいつらが見越しているとは考えにくいが、あいつらがどこまで考えているかなんて関係ない。

俺は訴えられた側だ。そしてそれに反論するための証拠もない。あいつらは取り巻きの女子たちを証拠にするつもりか。

あれ、これ詰んでね?

 

「心当たり、あるかしら?」

 

「ありますよ、心当たり。でもそれはあなたが考えてるのとは違うと思いますけどねぇ」

 

また俺は挑発するように言う。そうすれば相手がボロを出してくれるかもしれない。

 

「いえ、あるなら構わないわ。無いとしらを切る人よりはよっぽどましだもの」

 

「すみませんが、私はあまり詳しく知らないのです。教えてもらっても構いませんか?」

 

先生が言う。

知らなくて当たり前だ。俺は何もしていないからな。

 

「あら、先生はしらないの?はぁ、この学校はどうなっているのかしら。イジメをほっとくなんてひどい学校ね」

 

ホント言いたい放題だな。

自分の子供が被害者だからってその親が偉くなることなんてないのに。

つーか被害者じゃないし。

むしろイジメてるくせにバレそうになったら被害者面してるような子供をほっとくなんてひどい親ね!

 

「わ、私があの人にイジメられてるんです」

 

佐川か下田が言った。

そういえばどっちがどっちか知らないな。

 

「具体的にはどんなことを?」

 

「上履きを隠されたりしていました。でも、どんどんエスカレートしていって、この前は体操着を盗られました」

 

ちょっとまてよ。それ俺犯罪者みたいじゃないか。

確かに小6男子がやりそうなことだけどっ。

 

「私知ってます。それでこの前の体育の授業見学になっちゃったんだよね、佐川さん」

 

「うん…それで体育の先生に怒られちゃったんだけど、仕方ないかなって」

 

「でもあまりにも佐川さんが可哀相だから、私たちがお母さんに相談してみるのを提案したんです」

 

いやいや。お前が体操着忘れただけだろ。なにナチュラルに俺のせいにしてくれちゃってんの?

可哀相なのは俺の方がだろ。ありもしないこと喋られていろんな人にヤバい視線向けられてんだけど。

やめて、八幡のライフはもうマイナスよ!

ゼロ下回ってんじゃねぇかよ。

 

「そ、そうですか。体育の教員には、後ほど確認しておきます」

 

ほら、先生引いてんじゃん。

 

「みんなこう言っているけど、どうなの?比企谷君」

 

証拠が欲しいなら雪乃を呼ぶか?いや、この状況を作ったのは俺だ。それに、俺がある事ない事…いや、全部無いんだけど。そんな事言われているところを見たら恐らく「自分のせいで」ってなるだろう。

それは葉山も同じだ。そもそも俺は葉山に何も言わず、勝手に葉山を利用したんだ。俺の味方になってくれるかも怪しい。

しょうがない、ここは少し、いやかなりイヤな奴になってやろう。

 

「みんなって誰ですかぁ?ここにいる人全員ですかぁ?クラスの人たちですかぁ?それともぉ、地球上にいる全人類ですかぁ?」

 

「ここにいる人に決まってるじゃない」

 

「それなら違いますね。だって俺、そんな事言ってないもん。みんなって知ってますか?そこにいる人全員ってことですよ。俺は言ってないし、認めてないんで、みんなじゃないでしょ」

 

「多数決って知ってる?」

 

「あぁ、知ってますよ。別名『数の暴力』ですよね。というか、話の論点すり替えないでくださいよ。最初に『みんな』とか言い出したの、あなたでしょう?もう大人なんだから自分の発言に責任を持ってくださいよ。子供相手にそんなんで恥ずかしくないんですか?」

 

「あ、あなたねぇ……」

 

「比企谷君、少し静かに」

 

くそっ、あとちょっとだったんだけどな。

あのおばさんの仮面が外れてきたところだったのに。

最初はお淑やかな女性を演じていたのかもしれないが俺と口論しているうちに、素に戻っていった。

最初からこれを狙っていたのだが、やっぱりそう簡単にはいかないか。

 

「お母さん、私はもう大丈夫だよ。先生も、私は別に事を大きくして全部明るみにしてほしんじゃないんです。ただ、物を隠したり、盗ったりするのをやめてもらいたいだけなんです。比企谷君だって、評判とか気にすると思うし……」

 

「でもイジメとなるとそれは……」

 

「被害者の私が言っているんですよ?」

 

くそっ、本当に手口が上手い。こうなると、確実に佐川が良い奴で、俺はそんな良い奴をイジメていた最低の奴になる。

本人に自覚はないだろうが、俺の昨日の作戦の隙を全部突いてくる。

 

「それでいいかな、比企谷君」

 

全員が俺を注目してくる。だから、視線慣れしてないって言ってんだろ。

別に、もう何でもいいや。最初から俺の評判とか考えてなかったし。そもそも評判自体あるのかも不明だし。

 

「……これから雪乃のことイジメないって言うんだったら、もういいよ」

 

「あなた何を言ってるのよ!イジメられてるのはうちの娘で、イジメてるのは――」

 

「お母さん、いいよ。比企谷君だっていろいろ思うことがあるんだよ。そういうことなので、私たちは教室に戻ります」

 

「比企谷君も、もう授業が始まるので……」

 

「分かってますよ。教室戻ります」

 

そう言って俺は応接室を後にした。

 

 

 

 

 

教室に入ると、いつも私をイジメくるグループの半分がいなかった。

恐らくトップの人がいないのだろう。誰も私に何もしてこない。

トップがいないと何も出来ないのね。私には関係ないことだけれど。

チラっと比企谷君の席を見る。ランドセルはあったが、本人はいない。ほとんどのことが他人事だけど、比企谷君の『存在』だけは他人事と思わない。

もうすぐ授業が始まる。遅いな、どこに行ってるんだろう。

すると、妙にイキイキとしている佐川と下田さんたちが入って来た。その後ろには、妙にドンヨリとしている比企谷君がいた。

しかし私は比企谷君がなぜドンヨリとしているのかは気にならない。

だって他人事だもの。

比企谷君は『いれば』いいの。

 




今回も読んでくださりありがとうございます。
お気に入りが30件までいきました!
UAは5000まで来ました。
本当にありがとうございます。
それと、もしかしたら明日は投稿出来ないかもしれません。
楽しみにしてくださっている方がいたら、申し訳ありません。
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