「次は、門出の言葉」
卒業生が雛壇に上がる。
苦痛の卒業証書授与と、校長先生や偉い人の挨拶が終わり、卒業式はもうすぐ終わる。
俺は長ったらしい話の間は、真っ直ぐ前を向き、寝ていた。先生は少し離れたところから見ているため、気がつかれることはなかった。
おかげで、話の内容は何一つ覚えていない。
「暖かい春の日差しが……」
出だしの人が声を出した。このままいけば、あと一時間もしないうちに卒業式が終わる。
目の前には、沢山の人がいる。ビデオカメラで撮っている人もいれば、スマホで撮っている人もいる。
俺の親は撮っているかすら分からない。撮っていても、スマホで撮ってるんだろうが。わざわざビデオカメラを持ってくる人たちではない。小町のときは違うんだろうが。
そういえば小町は…あぁ、今日は学校休みだからまだ寝てんのか。卒業式は長いから耐えるのが大変だもんな。でも来年から小町は5年生だから、在校生代表として絶対参加しなくちゃいけなくなるんだよなぁ。
俺は去年も寝てただけだったな。別に先輩の知り合いとかいなかったし。なんなら同輩の知り合いもほとんどいないまである。
まぁ、一人いるからいいんだけどね。その唯一の知り合いである雪乃は、つまらなそうに立っている。じっとどこか遠くを見ている気がした。
え、もう一人知り合いいるだろって?知らんな!
「お世話になった、この学校」
そんなことを考えていたら、門出の言葉も終盤に入っていた。
泣いている人も結構いる。どうせほとんど同じ中学校へ行くのに。ただ、『お別れ』とか、『卒業』というフレーズだけで涙腺がゆるむのかよ。そんなの、ただ「私たちの小学校生活、超楽しかったよね。ずっとこのままがよかったぁ」とか言い合って、充実してた感を出すだけが目的だろ。
そんで3年後も同じことするんだよなぁ。
パチパチパチパチ
あ、終わった。もう退場か。
5年生がリコーダーで演奏している。
これ、一人でも吹けてないと、そいつめっちゃ目立つんだよなぁ。おかげで俺も去年苦労した。
校庭に出ると、「写真撮ろ〜」とか、「いつ遊びに行く?」とかそんなんばっかだった。
俺は雪乃と一枚でもいいから写真が撮りたいと思っていた。去年までの俺だったら考えもしないことだろう。
さっきから雪乃を探しているが、なかなか見つからない。どこに行ったんだろう。
雪乃も俺と同じように、写真を一緒に撮る友だちなどいないはずだ。いたとしても、俺かあいつだけ。
なんて考えていたらあいつを見つけた。
「あ、葉山。聞きたいことあんだけど」
「やぁ、比企谷。卒業おめでとう」
「お前もな。でさ、雪乃どこいるか知らない?」
「雪乃ちゃんなら、もう帰ったんじゃないかな?」
「え、もう?」
「ああ。今日か明日にはもう出発って言ってたし」
「出発?」
「聞いてないのか?雪乃ちゃん、海外へ行くんだよ」
「卒業旅行か?」
「いや、留学だけど…本当に聞いてないのか?」
「りゅう、がく?」
俺は頭が真っ白になった。
葉山が日本語を喋っていることは分かる。でも、その意味が分からない。
「どういう、ことだよ。同じ中学じゃ、ない?しかも、日本ですら、ないのかよ……」
確かに、雪乃は同じ中学とは一言も言っていなかった。勝手に俺が同じだと思いこんでいたんだ。
気がついたら、俺は全力で走っていた。
「なんだよっ、同じじゃないのかよ!もう、会えないのかよ。なんでだよ。嫌だ…嫌だよっ。せっかく仲良くなれてたのに、、またやり直しかよ。なんで…なんでだよ!嫌だっ、嫌だっ、嫌だっ。もう、会えないのかよ……」
言っても仕方のないことだとは分かっている。それでも、同じことを何度も叫んでいた。
また気がついたら、ベッドでただひたすら泣いていた。
卒業式が終わった。私が海外に行くことはまだ比企谷君に伝えられていない。
早く言わないといけないのは分かっていたけど、なんだかんだで先送りにしてしまった。
明日の朝出発するから、今日は早く帰らないといけない。せめて、比企谷君に伝えて、写真を撮りたいと母さんに言ったら、少しだけ時間をくれた。
「比企谷君、どこだろ」
なかなか見つからない。もうすぐ帰る時間になってしまう。仕方がないから、私はとりあえずくつを履き替えることにした。走ってくつ箱まで行く。一応比企谷君のくつ箱を見たけど、上履きがなく、外履きだけあったから、まだ帰っていない。
「よかったぁ。うん?これ、なんだろう」
私のくつ箱に、紙が入っていた。折りたたんである。
私はそれを開いた。その瞬間、絶句してしまった。紙に書いてあるものを、読んでしまったから……。
そのままくつを履いて、逃げるようにして学校から出ていき、車に乗って、家に帰り、自室にこもった。
――雪ノ下雪乃へ――
俺はお前が大っきらいだ。いつもこっちに来やがって。これからは、俺を一人にしろ。話しかけてくんな。俺のこと友だちとか思うなよ。そんな都合のいいことあってたまるかよ。お前なんか、友だちじゃないからな。もう関わらないでくれ。もしこっちに来ても、俺は無視するからな。絶対来んじゃねえぞ。
比企谷八幡より
私は、比企谷君とはそれなりに仲がいいと思っていた。
でも、比企谷君は逆だった。私のことなんか、大嫌いだった。
当たり前だ。比企谷君が変な噂を流されているとき、私は何もしなかった。比企谷君は、私のイジメをなんとかしようとしてくれて、ああなったのに。
私は全部『他人事』で済まそうとしていた。きっと比企谷君は怒っていたのだろう。でも優しいから何も言わないで。でも、怒りをため過ぎでしまったから、こうやって手紙で伝えたのだろう。
私は、なんてことをしてしまったのだろうか。
本当にとり返しのつかないことをやってしまった。
勝手に仲がいいと思いこんで、思いこんでいたくせに、比企谷君が辛いとき、私は全部『他人事』で済まそうとして、逃げていた。しかも、比企谷君が辛くなったのは、私のイジメをどうにかしようとしてくれていたからなのに。
私は、比企谷君に謝ることすらできなかった。逃げてしまったから。恐らくもう会うことはできないだろう。
でも、私はこの事を、一生忘れることはないだろう。
この手紙は、捨てちゃだめだ。ちゃんと、ずっと覚えて、ずっと後悔することが唯一私に出来ることなのだから。そして、二度とこんなことをしないように、親しい人を作ってはだめだ。また傷付けてしまうかもしれない。
今までずっと独りだったんだ。このくらい、簡単に出来るはず。比企谷君が、いなくても……ちゃんと、独りで。悲しんじゃだめだ。私には悲しむ資格すらない。
悲しんじゃだめなはずなのに、どうしても涙が止まらない。私は独りで、唇をかみながら、嗚咽をこらえて泣いていた。
そして、引っ越しの荷物のダンボールの、『大切なもの、貴重品』と書かれているものを開け、丁寧にその手紙を入れた。
読んでくださりありがとうございます。
これで、小学生編は終わります。
次は、中学生をとばして、高校生編に入ります。
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ありがとうございます。