そして最後の理想郷(ユートピア)   作:アークゲイン

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02 100億円と相談 中

 

 救世主ゲーム。それは噂だけど過去にも行われたことがあるらしい。3ちゃんねるというネットに残っているデータには「滝沢朗」がそれに関わっていた記録が噂にしては妙に正確に残っていたりする。

 「東のエデン」と呼ばれるSNSは匿名で誰でも利用でき、尚且つアカウントを持つ誰にでも情報を発信できることで莫大な影響力を持った。そしてその一面にはどの人間の情報も知ってる人間が編集し追加し、いつの間にか国民の7割の人間は東のエデンのデータベースに個人情報が記録されるようになった。

 

 その状況に危惧した政府は民間企業であった「Eden of East」の運営する東のエデンサーバその物を差し押さえ、そのノウハウを政府運営に応用しようとした。

 だがその一連の流れが少し強引すぎたようで、それが東のエデンの中で拡散されそれを実行した内閣は解散せざるを得なかった。

 

 一旦は命が存えた東のエデンであるが、DDS攻撃により30年前にあえなく消滅してしまった。それは他国からの干渉であり、一説では日本政府が依頼したのではないかと囁かれるようになった。自分のものにならないのなら壊してしまえ、と。

 

 

 過去のサーバをサルベージしたのが泰臣である。彼の能力を中心として有屋寿一が作ったのが「黄金の夜明け団サークル」。このサークルの実態は昔から行われている儀式やオカルトをやってみよう。調べてみようという、似非サークルである。

 そしてこの「黄金の夜明け団」に所属している人間すべては変人であると言える。

 

 

 

「100億円で世界を救えと言われてもな、正直僕には少なすぎるとしか思えないんだ」

 

「ヤス。100億円を持ったことがないからそんな事が言えるんだ。俺にはどうすればいいかイメージさえ湧かない」

 

「? お前はいつも言ってるじゃないか。俺だけの王国を作る為になんたらかんたらと。なぁ、ほのかたん」

 

「ん? 泰臣君程じゃないけどまぁ、なんか言ってるよね。覚えてないけど」

 

 寿一は手元にある携帯を見つめる。現実感がない。今日目が覚めると枕元に置いてあったこれ。開くと説明が流れてきて、その半分も理解できなかった。

 自分だって世界を変えたいと思ったことがある。それは寿一中心で廻る自分だけの世界を作ったら俺は幸せでみんなが幸せだと、妄想じみた事を考えたり発信していたことはある。しかし、それをいざ現実で行えと言われても事実何も出来ないのが落ちである。

 

 妄想はできても、行動ができない。

 

 現代の大学生の大半はこんな人間しかいない。お国の歯車になるために生きてきて勉強して、平均的な知識をつけて金を稼いで死んでく。それは自分もいずれそうなるとは分かっていた。それを無意識のうちで受け入れていた。

 そして泰臣をみて「才能」を実感する。このサークルを作った理由の一つは、泰臣の才能をこれ以上開花させたくないという、邪魔心とエゴだった。

 

「滝沢朗の過去の記録を漁ってみよう。すこし時間をくれ。クラウドから東のエデンのデータをダウンロードしてみる」

 

 人間の意識や生活は変わらなくても、こういった端末は毎年毎年進化する。それ以上機能があっても使わないのに、トップエリート層のためだけにアップデートされていく。

 泰臣だってその一人だ。

 寿一はそこに劣等感を覚える。

 

 

 「noblesse oblige」 気高きは義務を強制する。意味としては「持てるものは弱者を救済せよ」。解釈の尺度の度合いは人それぞれだ。携帯にはその文字が刻まれており、これをノブレス携帯と呼ぶことにしよう。

 有屋寿一は何の能力もない。だから才能を持つものが羨ましい。

 泰臣の能力は誰が見ても明白でとても出来がいい人間だと誰もが評価する。

 だからこのノブレス携帯は泰臣が持てばいいのに。心の中ではそう思っている。けれども現実感がないが、この妄想の具現のような携帯が存在するとして、本当に願いがかなうとして、有屋は何をするのだろう。

 

 

 

「ねぇ、先輩」

 

「どうした?」

 

「あれ? もう何も言わないんですか? 」

 

「いや、もう何度もやりとりして、面倒になっただけだ。それで? 何?」

 

「ああ、いえ。別にそんなどうでもいい話なんですが。前に親が言ってたんですが。

 今の日本もなんですが、 『重たい空気』っていう変な空気? 感が否めないっていうか。あんまり国民的にうまく行ってないことが多いっていうか。何ていうか言葉にできないんですが。

 つまりですね。今の日本ってあまり良くないわけですよ」

 

「まぁ。それは一般的な教養を持っている人なら大体が感じていることだけどな」

 

「そうなんです。だから、この日本の状況をどうにかして打破してほしい。そんな願いからこのゲームが始まったのかなぁって。もしそうなら私だって何か協力できることがあるんじゃないかなあって思うんです」

 

「そうか? お前くらいの頭がいくつもあったところで何も生まれないと思うがな」

 

「あ、ひどーい。そんな事言うんだ先輩」

 

 少しだけ頬を膨らませてプイっとそっぽを向くほのか。

 しかし、その次の瞬間にはぷへーと言うやる気のない言葉と共に机の上に体を投げ出すように伸びをする。

 

「何とかしたいと思うのは俺もそう思うが、そのやり方がわからないし。とにかくな、今は何も現実感というか、リアリティが何もないしな」

 

「あ、先輩」

 

「何だ?」

 

「携帯。光ってますよ」

 

 ノブレス携帯を見てほのかが指をさす。

 指紋認証機能を備えたと見える板の部分が魔法陣を描くように幻想的な光を発生させていた。

 こんな造形と作り込みからはあまり昔の感じはしない。40年もの昔の携帯とは思えないと思った。

 

「何だこれ?」

 

 携帯を開く。

 画面には「ⅲ」の文字が大きく描かれている。

 ディスプレイをタップする。が、何も反応がない。

 首を傾げて、何度か試すうちに、「ああ。物理ボタンか」と画面の下に広がる1から9の番号と十字キーを見た。そしてその十字キーの真ん中を押すと、画面が切り替わる。

 

『iii>死体の処理>30,000円』

 

 最初はそれが何かわからなかった。

 その画面を不意に後ろから肩越しにほのかがのぞいてきた。

 フワッとシャンプーのいい匂いがする。

 こんなところから天然な女子って感じがするから反応に困るんだよ。と有屋は心の中で口をこぼすが、正直役得なので今まで何もいったことはない。

 

「これってログですかねー?」

 

「ログ? 何だそれは」

 

「先輩ってゲームしないんですか? レトロゲーなんですけど私の家にはプレイステーションとかswitchとかいっぱいありますよ?」

 

「な、何だその名前の何かは。ゲーム? ってあの異世界に行くやつだろ?」

 

「逆になんですか、その知識のなさは。現代のゲームはですね、フルダイブって言って五感全てを機械に繋いであたかも別の世界に行ったかのように体験できるものですよ。

 このレトロゲームはですね、大きなディスプレイに繋いで画面上でキャラクターを動かすんですよ?」

 

「あー。ジェネレーションギャップだな」

 

「別にレトロゲームとはいっても大抵みんな知ってますって。

 ファミコンとかは流石に知らないでしょうけど。まぁ、それは今はいいとしてですね。

 ログって、誰かが今何をしましたっていう記録ですね。

 なので、今はⅲ番の携帯を持った誰かが死体の処理を頼んだってことでしょうね、多分。

 え? 死体の処理!?」

 

 一人で説明をしながら一人で突っ込む。

 そして、画面と有屋を何度も往復するように顔を動かす。

 

「死体の処理ですよ? 先輩。そんな危ない人間とこれから関わるってことですか?

 し、死なないでくださいね」

 

 心配そうな目で有屋をみるが、実際今何が起こっているかが把握できていない。

 ログが何だのって、有屋にとっては画面上の何かでしかないのだ。

 正直ゲームの話はあまり理解できていないが、全く知らないわけでもないし、この手の小説や物語などはとても得意な部類である。つまり、妄想が捗る。

 

「死ぬつもりはないというか。別に俺は向こうのことを知らないように向こうも俺のことは知らないだろ? あんまりノブレス携帯のことを周りに言いふらさなければどうってことはない」

 

「ノブレス携帯ってかっこいいですね。

 でもですよ? 相手が愉快犯の場合ですね、誰しも構わず殺すことだってありますし、爆破されてたくさんの人が巻き込まれることもありますって」

 

「発想が殺人鬼だよな。そんなことはないだろ。多分。

 巻き込まれるなんてそれこそ天文学的数字だぞ?」

 

「わかりませんよ。つい今だってussaと東亜国が開戦するかもしれませんし」

 

「・・・わかった。そんな論争をしても今は埒が明かないな」

 

「そうなんですけどね。私は先輩を心配してですね」

 

「わかったわかった」

 

 有屋はほのかの頭をぽんぽんと軽く叩いてなだめる。

 なぜこの自称後輩はこんなに自分にこだわるのか。

 現状、一人暮らし中の家まで特定されているのだ。可愛くなければ恐怖体験である。

 

 その時泰臣がピクリと動いた。

 

「東のエデンの中にデータを見つけた」

 

 振り返る泰臣の顔は青ざめていた。ただでは何も感じない鈍感男である泰臣が血相を変えること。それだけで事態がどれだけ重大なのかを悟ることができた。

 泰臣はそのタブレットをこちらの方にむけた。

 

「これは、過去のセレソンゲームに関してのログの写しだと思われる。部分的に抜粋されているが、史実と重ねて事実だと確信した」

 

『主要政令都市6都市を空爆>Ⅹ』

『戦後からやり直すため日本にミサイル攻撃>Ⅹ』

 

「ーーーー『迂闊な月曜日』はこの携帯が引き起こしたってことか?」

 

「セレソンゲームって何ですか??」

 

 ほのかの疑問はスルーされる。

 

「滝沢朗はミサイル攻撃が全て自分が行ったことだと言って『エアキング』の異名を名乗りテロリストとして姿を消したが、そしてこれだ」

 

『ミサイルを迎撃>Ⅸ』

 

「これを信じることは正直あまりいい事ではないが、今までの経験上『東のエデン』サーバ上で『パンツ』の名でロックがかかっている情報に誤情報は存在しない。事実のみが記録されていることから」

 

「これも本当に存在した記録、てっことか。番号が違うように見えるが」

 

 驚愕する有屋と泰臣。言葉にならない。

 

「で、セレソンゲームってなんです? セレソンって何だかかっこいいですね」

 

 

 


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