世界は割と平和で、大した進展もなく口先だけの大国が他の国を挑発したりそれを無視したり。割とそんな感じで適当に日常は進んでいく。
「それで? 三好。何の用だったんだ?」
ラーメンを食べた後に、ほのかは泰臣を連れてカラオケに行ったみたいだった。ほのかは泰臣のことを嫌っているのかと思えば2人きりで何処かへ行ったりするので、実際どう思っているのかわからない。いや、結局泰臣と2人になった瞬間に彼方ちゃんが飛んでくるので実際3人だろうか。まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。
三好と2人、24時間やっているファミレスに入る。ドリンクバーを注文して案内された席に着く。三好は、少しだけ真剣そうな顔をしていた。
「で? どうしたんだ?」
「まぁ、少し気になる事があったっすから。
聞きたいこと? があるっス」
「悩みか。俺もその歳でいろいろあった。
俺のアドバイスを求めるってことは、その分俺を信頼して尊敬してくれているってことだよな。
今は人生の幸せランキングでかなり上位だぞ」
「何を言ってるっすか? 別にセンパイを信頼はしてますけど、尊敬はしてないっすね。
いや、そんなことはどうでもいいんすよ」
早速本題に入るように、「これを見て欲しいっす」と鞄から取り出すのは突如として俺が手に入れてしまった『セレソンケータイ』と同じ形をしたーーーー
「1番か」
それは、異質な雰囲気を放っている。本物で間違い無いと俺の直感が言った。
「そうっす。びっくりっすよね。
さっきの休憩時間に鞄から出てきて仰天っすよ!
それでなんすが、これ100億円入ってるらしいんすよ。これで世界を救ってくれって。
100億円って、そんな大金何に使えっていうんすかね」
自重気味に笑っているが、その使い道は俺たちも模索しているところだった。
それに、どうしてここに2台のセレソンケータイがあるのか。
世界を救って欲しいという願いを持つこんな馬鹿げたゲームの運営者は、どうして日本の、それにこんな近くに2台も置いたのだろうか。
「とりあえず、センパイに相談っす。
変なサークル作ってるっすから、何かアイデアとか、無いっすかね」
「あー。いや、あのサークルだが、ーーーー」
ここで悩むのは、俺も本当のことを言ったほうがいいのかということだった。
自分もvii番のケータイがある。と、正直に話すか。
隠し通しておくべきなのか。
それでも、三好は俺を信頼して話をしてくれたのだ。
多分、一番最初に。それに、答えるべきだと思った。
「いや、そうだな。
俺もそれを持っている。」
と言って、ポケットからセレソンケータイを取り出した。
「あー、やっぱりセンパイっすか。
こんな馬鹿げた話、センパイくらいしか思いつかないっすよ。このケータイも通話ができるくらいに手が込んでるっすからね」
安心したように、三好はセレソンケータイを俺のほうに差し出した。
「じゃ、これは返すっすよ。
いやー、一瞬100億で何しよう! って考えたっすけど、怖くなってきたっす。
そこで思ったのが、センパイで。
確か、今日の部活で何かケータイとか、何億とか言ってたっすよね。
この計画のことっすか?」
何か、ドッキリの企画のように勘違いしているようだった。
特に、そんなことを過去に仕掛けた覚えもないし、三好と俺にはそんな親密な関係になかったように思えるが、それでもなぜか三好は俺に懐いているようなので、
「ま、まいったなぁ。き、ききききき、聞かれていたのかぁ、ま、ま、まいったなぁ」
「センパイ。何か、隠してるっすね?
何っすか? 隠し撮りっすか? この絶対可憐美少女の裸にでも興味があるっすか?」
「ん、んん。そうだね。それにはかなり興味はある」
「えー。隠し撮りではないとすると。
このビンテージケータイに何か仕掛けがあるってことっすか?
もしかして、誕生日プレゼントに、ペアルック??
センパイ! 大好きっす! これを一生使い続けるっすよ!!」
と言って、誤解したまま差し出していたセレソンケータイを自分の懐に仕舞い込んだ。
何が嬉しかったのか、かなり顔を綻ばせて、ニヤニヤと俺を見ていた。
「何? そんなに俺が好きなの?」
「いえ、特に好きじゃないっす。
自分にプレゼントを貢いでくれる人が好きっす」
「そ、そうか」
妙に優しくしてくれるキャバ嬢の現実を知ったようなーー行ったことないがーーそんな気分になった。一瞬真顔だし。
「それで? やっぱり聞きたいことはそれだけか?」
「そうっすね。
センパイがなんかいろいろ隠してるってわかったすから。
明日からあのサークルに参加するっすね!」
「あ、そうだ。
三好。そのケータイだが、持ってるのは別にいいがあんまり触らないでくれよ」
「わかったっす。壊れやすそうっすからね」
「ーーーん、んん。そうだな。それもあるが、通信量が馬鹿高いからな。
その請求が俺に来るから、それは持っておくだけにしなさい!」
なんか、馬鹿みたいな言い訳だったが、多分三好はそのようにしてくれるだろうと思った。
それに、スマートホンやディスプレイレスの通信機が主流の今、好んでビンテージケータイを使う人間の方が少ない。それに、三好はあまりケータイを使おうとしないタイプだ。
メッセージより手紙。電話より口頭が好きなタイプだ。
ケータイを持ったところでそれは変わらない、はずだ。
「お待たせしました。
チョコレートパフェと極大盛りポテトです」
一段落したところで、頼んでもない注文がきた。
「待ってたっすよ!」
満面の笑み。もしかするとセレソンケータイが俺からのプレゼントと勘違いした時に見せた笑顔よりもかなりの。
やはり、人間。物欲よりも食欲か。
明日来た時にチョコレートでもたくさん与えよう。そう思った。
三好と解散したのは0時を回ったところ。
俺が全ての会計を済ませて、三好はパタパタと帰ってしまった。
というか、会計を済ませる前に外に出ており、俺が無事にお金を払うことを確認した瞬間に帰ったように思える。
1人になってしまった。
三好の家なんて知らないから、方向が違えばここで結局1人になるのは構わないのだが。
まぁ、三好自体には明日サークルに顔を出すと言っていたので会えるのだろうが。
俺が今日消費した野口さんとは、おそらく1ヶ月以上経たないと再会はできないだろう。
「そうか。今日はアルバイトだった」
このファミレスから、大学を中心に円を描いて真逆方向。
夜勤で3時間だけ入ることを店長に伝えていたのを思い出す。
徒歩では1時間以上かかるだろう。
バイトに行くのにタクシーを呼ぶのも馬鹿げている。
「走るしか、ないのか?」
幸い、制服などはバイトのロッカーに入っている。身一つで行けばアルバイトはできるのだ。勤怠社員証は財布に入っているし。
何年ぶりだろうか。こうやって時間に追われて走っているのは。
なんて言いつつ。バイトに遅れた俺は、店長に小言を言われながら交代した。
今日は、予定があったらしい。
いいじゃんか30分くらい。
という目をしていたら、「だから単位が取れないんだ。浪人留年男め」と蔑まれた。
いや、留年はしていない。と、反論しようとしたが、店長はもう帰っていた。
バイトが終わって、そのまま帰ろうとした時、自分のケータイに通知がたくさんあったのがわかった。
100通を超えるスタンプの連打がほのかから。
『何だ? ヤったのか?』と泰臣から。
いくつかの写真と一緒に『お納めください』と、彼方ちゃんから。これは即時に土下座のスタンプと『あの件は確実に』というコメントを返信しておく。
それに、セレソンケータイの方にも3件の通知があった。
『iii > 整地 > 200,000,000』
『ix > 宅配ピザ > 2,500』
『i > カメラ購入、設置 > 50,000』