そして最後の理想郷(ユートピア)   作:アークゲイン

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07 恐怖

 

「遅いぞ。お前のペットはもうすでにここの食料を枯らした。

 そして、小遣いを与えたら売店に走って行ったぞ。すれ違わなかったか?」

 

 部室に入った時、泰臣がそこにいた。テーブルの上には、大量のお菓子の包み紙や缶が大量に放置されていた。そのうち一つに目がいった。

 

「食ったのか?」

 

「ああ。すでにな。僕が見た時にはすでに口の中。

 今はもう分解されてう●こになっている時間だろうな。食べに行くか?」

 

「そんなに食われて時間が経っていたのか」

 

「そういえば、お前は今日の2限をサボったそうだな。

 ペットが嘆いていたぞ。せっかくセンパイの席を確保してたのにってな」

 

「嘘だそろ。あんなう●こ教授の話をただで聞きに行く馬鹿がどこにいる?

 今日は配布されるクオカードがないからいかなかったんだ!」

 

「ペットちゃんはこれをセンパイにってな」

 

 泰臣の座っているデスクの上に放置されている封筒。そこから取り出されたものは

 

「1000円だと!?」

 

 そこには千円のクオカードがあった。

 売店ではクオカードが使えないので三好は置いて行ったのだろう。それに、泰臣からお小遣いをもらったそうだから。だが、いつもあの教授は自分の講義に出てもらうために500円のクオカードを毎回配布していた。その賄賂は他の教授や友達に知らせてはならないという条件のもとに配布されている。そして、前回の講義では言っていた。「今日は配布しない。本当にこのクラスに興味を持っている人数が知りたいからな」と言ったのだ。

 

「それが、この結果か」

 

 ガラッと、扉が開いて高笑いが聞こえた。

 

「馬鹿ですねっ!! センパイっ!!」

 

「くそっ。これは俺の落ち度だ。

 せっかく席をとってくれていたのにな」

 

「何を言ってるっすかセンパイ。ほら、メガネセンパイ」

 

 そう三好が言って

 

「これが二枚ある」

 

 重なっていた封筒があった。そこには俺の学籍番号があった。

 

「だ、「代返」」

 

 声が重なって、俺は手に持っていた買い物袋を落としながら三好に向き合って

 

「嬉しいぞ! こんな後輩と一緒の学年になれて!!」

 

 と抱き合うのだった。

 

「後輩と一緒の学年? 日本語がおかしいのか?」

 

 泰臣は首を捻るが、次の瞬間には顔を青ざめさせた。

 すると、俺の腕の中にいる三好が、小刻みに震え始める。歯がガタガタとなっている。

 

「先輩?」

 

 三好とは違うイントネーションだった。

 これは、もしかしなくてもほのかである。

 俺は動けないでいた。それも、三好を抱きしめたまま。

 

「あ、か、彼方ちゃん? あー僕僕。え? 今から? 仕方がないなー」

 

「え? 私がどうかした?」

 

 ほのかと同じ方向から声がした。電話のふりをしながら出て行こうとした泰臣が失神した。

 彼方ちゃんは今日俺が持ってきた「ブツ」を取りに来たのだ。俺が部室に来る時間を伝えていた。

 

「ほのか。これは?」

 

「ん。そうだね」

 

 感情のこもっていない声。

 彼方ちゃんが笑って、俺に近づいてくる。耳元で「もらってくからね」と言って、床に落ちている買い物袋からいくつかの「ブツ」を取り出し、失神した泰臣を引きずるようにして部室から出ていった。

そうして、三好を抱きしめる形で動けなくなった俺と、抱きしめられたままの三好と、それを見ているほのか。と言った3人だけが残されることになった。

 

「ねぇ、その娘、だぁれ?」

 

「み、三好だよ。昨日一緒にラーメン食べただろ?」

 

「あー。昨日の。で? 今日は何の用?」

 

 多分だけど、俺が三好を抱擁している形であるために、ほのかは三好に攻撃できないんだう。この体制が、意図せず三好を守っていたのだ。そうでなければ三好は無事ではなかっただろう。

 

「きょ、キョキョキョキョ、キョーハ。

 センパイに誘われたので、来ました」

 

 いつもの口調ができない程に緊張してしまっているのか。いや、三好は誰にでも「っす」の女ということを知っている。教授にでも、学部長にでもそうだ。だが、今そこにいるのはほのかだ。

 

「ちょ、まて。俺は誘ってない。お前が来るって言ったんだろ?」

 

「ふーん」

 

 間を置いて

 

 

「別に、どっちでもいいんだぁ。

 ここに居るかいないかが問題だから」

 

 あ、死んだ。

 

 そう思った時だった。

 俺のケータイが鳴った。

 

 ノブレスケータイと、普段使っているケータイの両方から。

 同時に。

 

 三好が持っている「i」のノブレスケータイまで鳴り始めたので、ほのかからの威圧が少し緩んだ。もしかすると、昨日のテロの続きかもしれないと思ったのかもしれない。

 

 音の方を見るほのか。2つは俺。残り一つがたくさんのゴミの中にある鞄だった。

 

「これ、見たことないねぇ」

「あ、それ。私の」

 

 小さくなった三好が声をあげた。

 

「へーえ」

 

 勝手にその鞄を開けて音のなる「ノブレスケータイ」を取り出した。

 

「これ、先輩の?」

 

「あ、俺はこれ」

 

 と、弱くなった威圧の中で動けるようになった俺は三好の抱擁からほのかに向き直って、背中に三好を隠すようにしてポケットから自分の「vii」のノブレスケータイを見せた。

 

「ペアルック?」

 

「いや、三好が「i」のセレソンだったんだ」

 

「へーえ」

 

 興味なさそうなほのか。結局、俺と三好が同じものを持っているのが気にくわないのだろう。

 別に、俺の彼女でも何でもないのに何を言っているのだろうか。

 まぁ、ほのかが俺にいろいろな感情を持っているのは知っているが、それは「好き」や「付き合いたい」などではない。それは昔確認したから絶対。

 

 それを開いて中を確認するほのかは、少し首を捻った。

 

「3番がたくさん何かしてるんだ」

 

 それに釣られて俺もケータイを開いた。それを三好は覗き込むように俺の肩に頭を寄せる。

 

「【反逆者の粛清】」

 

「何っすか? これ」

 

「うーん。三好。お前も昨日なんかしただろ?」

 

「な、な、何のことっすかね? 私は知らないっすっすよ?」

 

「いや、カメラとか買って。配信者になるのか?」

 

「いえ、別にセンパイの私生活を配信する予定はないっす」

「俺の?」

 

「………いえ、何もないっす」

 

「そうか」

 

「でもね、先輩。こっちにはそれは関係ないんだぁ」

 

 ノブレスケータイを捨てて、ゴミの中から取り出したのは

 

「『撲殺者ver.3』!!」

 

 それは、遥か昔黄金の夜明け団サークルと競合していた部活とこの部屋を取り合った時錬金術ーー金属バットに鉄釘を刺したーーでできた棒のことだった。

 

 ブンブンと振り回して、持ち手を確認するほのか。

 ゴミが舞い、それが綺麗に分断され細かくなっていく。どうしてそんな太い棒で鋭利な断面になってしまうのだろうか。

 

「待て! 待て!

 ウェイト! ウェイト!!」

 

 叫びながら俺は部室を走って出る。それを追うようにして三好も俺についてくる。

 ガシャーンと、部室のドアが蹴り倒され、フシューと口から煙を出しながらほのかがそこから出てくる。

 

 次の瞬間からの記憶がなかった。

 

 

「あ、センパイ。目が覚めたっすか?」

 

 目を開くとつつましやかなおっぱいが三好の顔を半分、いや3分の一くらいを隠して彼女と目が合った。三好に膝枕をされていたようだ。かなり眼福。

 

「あー、ヤスくんダメなんだー! ちゃんと食べないと!」

 

 のほほんとした口調の彼方ちゃんが両手両足を縛られて芋虫になった泰臣の口に何かを入れながら笑っていた。

 

「ここは?」

 

「部室ですよ」

「とても、そうは思えないんだが」

 

「降臨の儀式をするそうっすよ。ほら」

 

 三好が指す先。黒魔道服に身を包んだほのかがいた。

 

「センパイやメガネがいるのにその場で服を脱ぐんですもんっすからびっくりしたっす。

 でも、2人とも正気じゃなかった数から助かったっすね」

 

「………正気じゃない。とは?」

 

 時計の針は、18時を指していた。記憶通りだと、今日は4と5限に講義を入れていたはずだ。

 ほのかと一緒のやつ。

 

「ちゃんと出席はしてるっすよ。

 センパイのノートはちゃんととってあります。センパイがどうなろうと私がお世話してあげるっすからね。気を確かに持ってくださいっす」

 

「あ、ありがとうな。三好」

 

 何が合ったのかもわからない。それにこれから俺がどうなるのかもわからない。

 知っているのは、ほのかが黒魔術で何かをしようとしていること。

 まぁ、現代に魔術なんて存在しないし、こんな魔法陣をたくさん用意したって何が起こるわけでもない。それは知っているのだが。ロボトミー手術とかの誰でもできて人格が変わるものとか、ブリッチして歩き出すような悪霊とか、ほのかは何をしでかすかわからない。

 こんな時に全ての受け皿になっていたサブローが今や南の島にいるのだから。

 

「寿くん。おはようございます。

 とっても良かったので、あれを止めましょうか?」

 

「天使だ。あそこに天使がいるぞ?」

 

「芋虫に餌やってる図がすごく残酷ですが」

 

 しゃがみ込んで泰臣に永遠と何かを餌付けしている彼方ちゃんが俺に微笑んできたので、お願いした。

 すると、ほのかの方へ行って2人で何か話し込み始める。

 彼方ちゃんが部室の奥へ連れ込まれてしばらくして黒魔術士のローブと帽子をかぶって登場した。

 

「寿くん。無理でした笑」

 

 かなりの笑みで俺を見た彼方ちゃん。

 それは、狂気だった。これから俺たちは何をされるのだろうか。

 

 ほのかが取り出したのは「i」のノブレスケータイ。彼方ちゃんと何か話してどこかに電話をしているようだが、声が聞こえなかった。

 

「三好」

 

 話を聞こうとしたら先回りで回答された。

 

「取られたっす」

 

「あ、そうか」

 

 あれから迫られたら、そりゃあ断れないよな。

 小動物みたいになってたし。

 アイディンティティが失われるくらいだ。そのほかが全て失われても仕方がない。

 

「まぁ。変なことされないかが心配だけどな。

 それに、履歴は全てのセレソンに共有される、ってのが少し心残りというか心配だが」

 

「今日、生き残ることを考えておけ。

 そこのペット。そいつを連れて逃げろ。ここは俺が犠牲にーー」

 

 即座に断るのは三好だった。

 

「殺されるっすよ」

 

 主に私が。と付け加えて、3人は恐怖の黒魔術士2人に支配され、時間が経つのを待っていた。

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