マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
「…………はぁ」
「おいおいどうした遊児? せっかく医務室から戻ってこれたってのにそんなで~っかいため息を吐いて」
知らず知らずのうちにため息が漏れていたらしく、俺の事を十代が不思議そうに見つめていた。
「まさか久城君っ!? まだ怪我が治り切ってないんじゃっ!?」
「それだったら無理せず言った方が良いんだな!」
「大丈夫! 大丈夫だって! それにあんまり騒いでいると」
翔と隼人も心配そうに口々に言ってきて、少し温かい気持ちになるのだが授業中にそれはマズい。何故なら、
「……ゴホン。そこの仲良しさん達。友達の怪我の心配をするのは良いけど、授業の方もちゃ~んと聞いてほしいのにゃ!」
ほら見ろ怒られた! 教壇の上から目ざとくこちらを注意する大徳寺先生は、知らなければ間違いなく普通の、普段はおチャラけているけど締める時は締める只の教師であると思っていただろう。
いや、今でもまだどこか信じられない。
まさかあの
昨日の夜、医務室で大徳寺先生から聞かされたのは驚愕の事実だった。
全てを思い返すと時間がかかりすぎるので要点だけ挙げるなら、大徳寺先生はどうやら本物の錬金術師だったらしい。
科学に通ずるところもあるが、現代社会においては異質異端である錬金術。古くは金属を黄金に変えたり、不老不死に通ずる賢者の石を造ろうとしたりなどで創作物でもよく登場する。
しかし大徳寺先生は、それを正しく学問として長年研究していたという。スポンサーの下で不老不死、そしてそれを可能にする賢者の石を研究。世界各地を周り、時には原作でお馴染みのエジプトの王墓の調査隊に同行し、その傍らデュエルの精霊についても研究していた。
結果として、大徳寺先生は本当に
だが、その代償は大きかった。長旅の影響か、それとも各地の精霊か何かの影響を受けすぎたためか、大徳寺先生の身体は見た目はともかくとして中身はもうボロボロだった。それこそ現代の医学でも治しきれないほどに。
そこで大徳寺先生は最終手段として自らの研究の成果、つまりは錬金術によって造った
結果、ホムンクルスについての倫理観云々はひとまず置いておくとして実験は成功し、大徳寺先生は一命を取り留めた。だが、それには重大な欠陥があった。
『いくら自分に似せて造っても所詮は紛い物。一時的には馴染んだとしても、少しずつ先ほどのように拒絶反応が出てきてしまう。……おそらくもう私は長くないのだろうね』
今はまだ旅路の中で手に入れた錬金術の秘伝書たるエメラルド・タブレットの力で拒絶反応を抑え込んでいるが、それもいずれは効かなくなるだろう。
新たにホムンクルスを造ったとしても、魂そのものの摩耗は防げないし次はもう無理。
人の身で踏み込んではいけない所に踏み込み過ぎた結果なのかもしれないと、そう言っていた大徳寺先生の表情は、俺にはどこか自嘲しているようにも見えた。
以上が昨日見た大徳寺先生の手が崩れかける場面の真相だ。
こんなことが定期的に起きていたというのに、それをずっと隠し通していた大徳寺先生の胆の太さには驚かされた。
そして、肝心要の俺や十代達を色々なことに巻き込んだ理由についてだが、
『これ以上は聞かない方が良い。……今話したことは、あくまで見られてしまったことへの説明と怪我をさせてしまったことの謝罪と受け取ってほしい。世界には知らない方が良いこともある』
と誤魔化されてしまった。さらに俺が尋ねようとした時、
『本当に君はそれを知りたいと思っているのか? 知ればより一層深い闇を見ることになるとしても?』
『そ……それは』
『私は知っているよ久城君。君は優しく、友達思いでそれなりに協調性もある。だけど
……流石に先生はよく見ていた。先生の言う通り、俺は自分から危険や揉め事に立ち向かうほど熱血漢でも勇気があるわけでもない。むしろ避けれる危険は避ける主義だ。
例えばネク……ダーク・ネクロフィアと戦った時だって、俺以外の奴が皆倒れていたから戦ったまでだ。あそこで十代が仮に起きていたら丸投げしていたと思う。
特待生寮の時も、最初は行くつもりなんてなかった。あれは罪善さんが飛び出していったからやむなく行っただけだ。
神楽坂の時は……まあ神楽坂の言葉にムカッと来たから俺が戦ったが、それが無かったら自分から行こうとは思わなかっただろうし。
代表決定戦前日のことだって……まあ今にして思えばあれも大徳寺先生の差し金だった可能性があるけど、話し合いで解決できるんならそれで済ませていたと思う。色々あって徹底抗戦になっちゃったけどな。
そして極めつけに今回の一件。……どれもこれも、俺は基本的に自分の身を守るために動いていた。
『敢えて自分から危険に踏み込むことは無いんだ。一度知ってしまえば知らなかった頃には戻れない。これから私とは只の教師と生徒として、何もなかったように過ごせばいい。しかし、もしそれでも尚知りたいというのなら、それだけの覚悟があるというのなら……明日の夜、誰にも言わず一人で特待生寮に来なさい。そこで全てを打ち明けよう』
そう言って大徳寺先生は医務室を去っていった。
そのことを悶々と一晩中考えていたらいつの間にか眠っていて、気が付けばもう朝。そんな状態で授業に出たら、こうため息の一つも吐きたくなるというものだ。
そうしてせっかく授業に出たのに全然身が入らず、普段とは逆に十代達に気を遣われることになってしまった。いつもは俺の方が寝ている十代を起こしたりする役なんだけどな。
「……はぁ」
どうにか今日の分の授業も終わり、まだ本調子じゃないと十代達に断って先に帰り、数日ぶりの自室のベッドに倒れ込む。医務室のベッドも悪くはないけど、やはり自室のベッドの方が良い。
そのまま何もする気も起きずに横になっていると、
『今日だけで8回目のため息だね久城君。あんまりため息を吐くと幸せが逃げるよ』
「……数えてたのか。暇だねお前も」
いつものようにどこからともなく現れたディーに、俺はそっけなく返事をする。……そういえば、さっきから幻想体達が誰も出てこないな。いつもなら部屋に入るなり誰かしらはめを外して出てくるって言うのに。
『やっと気が付いたみたいだね。普段ならとっくに気が付いていたと思うけど、それだけ悩んでいるってことか。……他の幻想体達にはちょっと席を外してもらっている。というより皆が半ば自主的に君に気を遣って出るのを自粛していると言った方が正しいかな』
まいったな。遂には十代達だけじゃなく幻想体の皆にまで気を遣われるとは。
「……そっか。で? ディーはどうして出てきたんだ?」
『そりゃあ悩んでいる君をおちょくりに…………反撃してこないというのは中々に重症だね』
「単にそんな気分じゃないだけだ」
そのまま少しの間、互いに何も言わずに時間だけが過ぎていく。壁に掛けられた時計の針の音が嫌に大きく響く。そして……先にどちらともなく切り出したのは俺の方だった。
「俺さ、割と薄情な奴だと自分では思ってるんだよ。どこまで行っても自分本位で、昨日の大徳寺先生はそういう所をちゃんと見抜いてた」
『そうだね』
「実際これ以上踏み込むのはどう考えてもヤバそうだし、色々知らんぷりを決め込んで距離をおいた方が間違いなく安全なんだよな。大徳寺先生からも……十代からも」
そもそも十代達に近づいたのだって、そういったヤバい何かの予兆を早めに掴んで対処するためだ。わざわざ近づきすぎて事件に巻き込まれることもない。さっさと離れればいい。……だというのに、
「本当にまいっちゃったよな。……やっぱり何だかんだあいつらの事を友達だと思ってるみたいで、離れようって選択肢にどうしても行きそうにない」
『そうだね』
「……さっきから同じような相槌ばっかりで、真面目に聞けよ!」
『だってさぁ。それで悩んでるんじゃないってことは最初から分かり切ってるじゃない! 僕としては答えの分かり切った悩みにすらならない悩みなんかよりも、君がずっと本気で悩んでいる方が気になっているんだよ』
おのれ腹立つ。何が腹立つって普通に考えを読まれてるのに腹立つ! しかも能力とかじゃなく普通に察したって感じだから余計嫌だ。
『君が本当に悩んでいるのは……
「分かってんなら言うなよ! ……なあディー。あの人、原作ではどうなるんだ?」
『教えな~い。……君なら察しがついているんじゃないかい?』
その言い方はやっぱりか。おそらく大徳寺先生は、本人も言ったようにもう長くない。そして昨日の様子から、大徳寺先生は多分それを覚悟した上で何かをやろうとしている。俺や十代達を巻き込んで。
「どう考えてもこっちも放っておくわけにいかないんだよなぁ。その結果がどうなるにしても、せめて何をしようとしているのかは知らなきゃならない。……だけど、それが本当に止めなきゃいけない何かだったとして、果たして俺に止められるのかって……悩んでしまっていたんだ」
一人の男が命をすり減らしてまでやろうとしている何か。これは流石に想像もできない。それが止めてはいけない何かだった場合、俺はどう向き合えば良いのだろうか?
そうして俺はまた悩みの無限ループに落ちそうになって、
グイっ!
突如口元を無理やり上げられた。見ると、そこには心配そうな目でこちらを見るレティシアの姿があった。
『ごめんなさい。出ちゃダメってディーさんに言われてたんだけど、出てきちゃった。……遊児お兄ちゃん。
そう言いながら、レティシア自身も優しく微笑む。
『そんな暗い顔をしていたら、その大徳寺先生だって困っちゃうよ。それに、遊児お兄ちゃんなら大丈夫だよ! ディーさんも、私も、罪善さんも、葬儀さんも、テディも、ネクちゃんも、他にも幻想体の
「…………っふ! アッハッハッハ! 確かにその通りだ」
俺は笑うしかなかった。なるほどなるほど。俺としたことが、一人で悩んでばかりでこんな単純なことを忘れてた。
「一人で悩んでいたって始まらないか。……ありがとうなレティシア」
『えへへ! 遊児お兄ちゃんもちょっと笑顔になったの!』
軽く頭を撫でると、レティシアもくすぐったがる様に笑っていた。それを見てディーが『……幼女に慰められる男』とポツリと呟いていたので、とりあえずアイアンクローをかましてやった。言うんじゃないよ! 俺も後になってちょっと恥ずかしいんだから。
さ~て! 夜までに色々準備しないとな。それに詳しくは説明できないけど、十代達に礼を言ってから夜出かけてくるって伝えないといけないしな。じゃあまずは、
「皆俺に気を遣わなくて良いから出てきてくれ! 作戦会議と行こう!」
その日の夜。
「……やはり君は来てしまったのかにゃ」
「はい」
俺が約束の時間に特待生寮に着くと、その入り口に大徳寺先生が立っていた。俺を見てどこか諦めたような、あるいは俺を案じるような不思議な表情をしている。
「ここから先はもう後戻り出来ないにゃ。君は自分からそんな道を選ぼうと言うのかにゃ?」
「気遣ってもらって申し訳ないんですが、俺も色々知らなきゃならないと思いましてね。……それに、大徳寺先生の事も心配ですから」
「教師が生徒に心配されちゃあべこべだにゃ!」
軽いジョークだと思ったのか、大徳寺先生は笑って流す。普通に心配してるんだけどな。
「……さて。では行くとしようか」
「はい。中でじっくりお話を伺いましょう」
そこでいつもと口調が変わり、先にすたすたと歩いて寮に入っていく大徳寺先生。
さてさて。鬼が出るか蛇が出るか。出来ればどっちも出てほしくないんだけど。
「……頼りにしてるぜ。皆!」
俺はポンっと胸ポケットの
という訳で、少し話の引きがあれですが第一章完となります。次回からは原作セブンスターズ編に突入しますのでお楽しみに。
ここまででひとまずお気に入り、感想、評価などを頂けると、次章からの作者のやる気がぐんぐん漲りますのでどうぞよろしく。
ただ……話を纏めるために次回の投稿はやや時間がかかる予定です。多分来月中には出るとは思いますが。
その間暇つぶしに私の別作品『異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません』でも読んでやるという奇特な方がいらっしゃれば、私も踊りまわって喜びます。……一応名前は伏せてあるけどディーの主催する別のゲームの話です。
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