マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! 今回独自設定が少し仕事します。


見舞いと貢物 そしてコウモリは見ていた

 十代とダークネスの戦いから翌日。いや、もう既に日付があの時変わっていたわけだから当日か。

 

 俺は翔達から、十代がセブンスターズと戦って医務室に担ぎ込まれたことを聞かされた。といっても既に知っていることだが。

 

 内心ショックではあった。アニメの流れ的にはおそらく正しい流れなのだろうが、それでも友達が怪我をするのを見過ごすハメになったからな。

 

 幸いなことに、直接戦った十代以外は怪我らしい怪我もなかったらしい。これで翔達まで怪我をしていたら、俺の罪悪感がよりとんでもないことになっていた。

 

 全部終わったら謝罪回りに行くことを心に決め、翔達と話し合って授業が終わったら皆で見舞いに行く流れになる。俺がついこの前まで見舞いされる側だったのにな。医務室とはこれからも馴染みが深くなりそうで怖い。

 

 ……あとで購買部に寄って見舞いの品も買っていくか。

 

 

 

 

 色々あって授業後。

 

 一度購買部に寄った後、約束通り翔や隼人と一緒に医務室に向かう。すると、

 

「あっ! お兄さん」

「翔か。それにお前達も」

 

 丁度医務室からカイザーが出てくるのが見えた。翔が最初に駆け寄っていき、俺達も後をついていく。

 

「十代のお見舞いですか?」

「ああ。()()()()()。俺は今終わった所だ。怪我人なのだから、あまり長居はしないようにな」

「はい! お兄さん!」

 

 翔が元気よく返事をすると、カイザーは俺達にも軽く手を上げて去っていった。……さて、今度は俺達の番だな。

 

 コンコンコン。

 

「失礼します。久城です。十代の見舞いに来たのですが……入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ久城君ね。良いわよ」

 

 その返事に俺はそっと扉を開ける。そこには何か書き物をしている鮎川先生と、ベッドに横たわっている十代が居た。

 

「失礼します。……アニキは?」

「大丈夫なんだな?」

「安心して。命に別状はないわ。もうしばらくしたら目を覚ますと思う。だけど身体のあちこちがボロボロで、一体何があってこうなったんだか」

 

 鮎川先生の言葉にホッと胸をなでおろす。しかし、鮎川先生の表情は晴れない。

 

「十代君もだけど……今危ないのはあの子なの」

 

 その視線の先、奥のベッドには、酸素マスクを着けて眠り続けているダークネス……天上院吹雪の姿と、

 

「あっ! 明日香さん」

「こんにちはなんだな!」

「こんにちは。アナタ達もお見舞い?」

 

 吹雪のベッドの傍に明日香の姿もあった。明日香は兄妹だし、やっと見つかった吹雪のお見舞いに来てもおかしくない。多分さっきのカイザーも吹雪の見舞いを兼ねていたのだろう。

 

 こちらは十代のお見舞いに来たことを説明すると、明日香は少し何かを言い淀む。

 

「あっ! ……久城君も例の事は」

「……そう。なら多少は話しても良さそうね」

 

 鮎川先生に聞かれないよう翔が声を抑えながら言うと、明日香は微妙に困った顔をしながらそう呟く。

 

 多分セブンスターズに関することだろう。そのことは限られた人にしか知らされていない。下手に広めて無用な混乱を避けるためだ。

 

 そんな重要事項を、十代ときたら昨日ペラペラ同室の翔や隼人、おまけに友人とは言え俺に喋るんだからまったくもう。昨日聞かされた時は少し呆れたぞ。

 

「明日香。大雑把にだが俺もセブンスターズの事は聞いた。その一人が……その、お前の兄さんだったなんてな」

「……分からないの。行方不明になっていた兄さんが、何故こんなことになっていたのか。今もまだ目を覚まさないし……」

 

 明日香は辛そうな顔をしていた。それもそうだろう。肉親がこんなことになってしまったのだ。それに怪我の度合いも十代より重傷で、こちらはいつ意識が戻るか不明らしい。

 

 聞けば聞くほど悪い知らせばかりだが、一つだけ良い知らせもある。それは……間違いなく()()()()()()()()ということだ。

 

「吹雪……さんに何があったのかは分からない。だけど、それは起きてから聞けば良い。……大丈夫。きっとすぐに目を覚ますさ。勿論十代もな」

 

 もっと気の利いた言葉があるのかもしれないが、今の俺にはこれが精いっぱいだった。

 

 

 

 

 と、お見舞いに来た者同士でしばらく雑談をしていたのだが、流石にずっと居続けては迷惑になる。

 

 見舞いの品として買ってきた果物を起きたら渡してほしいと鮎川先生に渡しながら、俺は今一度十代と吹雪の様子を見る。

 

 …………んっ!?

 

「すいません。その籠の中に入っているのは吹雪さんの持っていたものですか?」

「ええ。そうよ。ここに運び込まれてきた時の服も一緒に」

 

 吹雪のベッド脇に置かれていた籠。ダークネスの時の仮面はいつの間にか消えていたが、それ以外の衣装や物はそこに入っていた。その中の妙なモノに目が留まり、俺は明日香と鮎川先生に許可を取って少しだけ見せてもらう。

 

 それは奇妙な形をしたペンダントだった。装飾を見るとおそらく本来は円形だったのだろうが、途中で割れたか何かして欠けている。……待てよ? この装飾どっかで見たような…………ダメだ。出てこない。

 

 明日香に話を聞いても、吹雪がこんなものを持っていたということは無いらしい。つまりこれは行方不明になっている間に手に入れた物だ。そこから何があったのか割り出せるかと思ったんだが……残念だ。

 

 まあさっき明日香にも言ったように、吹雪が起きるのを待って直接聞けば良いか。

 

「じゃあ鮎川先生。俺達はこれで失礼します。明日香は……」

「私は……もう少しここに居るわ」

 

 出来ることはそんなに多くは無いかもしれない。だけど()()()()ことが明日香なりの出来ることなのだろう。

 

「分かった。……じゃあ、また明日な」

「また明日もお見舞いに来るっす!」

「またねなんだな!」

 

 そうして軽く一礼して、俺達はレッド寮に戻ることとなった。

 

 その帰り道、

 

「ねえねえ久城君。僕ずっと不思議だったんだけど」

「ん!? なんだ翔」

()()。どうするの? 最初はやや季節外れのお見舞いの品かと思ったけど、それにしてはお見舞いの品はさっきの果物みたいだったし」

「そう言えばそうなんだな。自分用にしてもそんなに沢山……食べきれるのか?」

 

 翔と隼人は俺の持つ袋の中に大量に入っている物に興味津々だ。……まあ一人で食うには量が多すぎるのは分かる。

 

「俺だけじゃないし大丈夫さ。……むしろ場合によっては足らないかもしれない」

 

 いやまあ()()なもんで奮発せざるを得なかったんだよ。翔も隼人も首を傾げている中、俺は苦笑しながらそう返した。

 

 

 

 

 その日の夜。自室にて。

 

『ほぅ…………ほぅ。これは中々』

「……どうだ雪の女王。貢物はお気に召したかな?」

 

 俺は目の前に実体化している雪の女王にそう呼びかけた。

 

 ダークネスとの一戦と、十代を助ける時に雪の女王の力を借りた件。あの時の礼として、雪の女王は俺に貢物をよこすよう要求してきた。

 

 あの時、俺に出来ることなら後で何でもすると言った手前断るという選択肢はなく、今日十代の見舞いの品を買うついでに購買部で探したわけだが、正直何を渡したら良いか分からない。

 

 なので雪の女王というくらいだから、これならいけるかと思い大量に購入したのが、

 

『うむ。存外悪くないな。このハーゲン〇ッツという甘味は』

「気に入ってもらえてホッとしたよ」

 

 雪の女王はスプーンで少しずつ掬い、仮面の奥にひょいひょいと運んでいる。よっしゃ! 流石ちょっとお高いアイスことハーゲン〇ッツ。何とか雪の女王に気に入ってもらえたみたいだ。

 

 念のため購買部に置いてある全フレーバーを買い込んだからDPが割と飛んだが、最悪機嫌を悪くしたらそこら中氷漬けにされる可能性もあったからな。それに比べりゃ大分マシだ。

 

『…………む!?』

 

 雪の女王がそこでアイスを掬う手を止める。その視線の先には、アイスに目が釘付けになっているレティシアの姿があった。……もしかして、

 

「レティシアも食べたいのか?」

『あぅ~。だ、大丈夫。我慢するの。だけど……美味しそうなの』

『ぐわあああっ!? 我が運び手よ。我慢するのは良いが力が……力が入ってるってぎょえ~っ!?』

 

 顔をフルフル振って大丈夫だと言うレティシアだが、その視線はハーゲン〇ッツから外れない。……あとその分ネクが大変なことになってるからもうちょっと優しくしてあげような。

 

 雪の女王はそんなレティシアの様子を見て、何か考えているようだった。そしておもむろにレティシアの方に向き直ると、

 

『ふっ。幼子よ。妾は今機嫌が良い。一つくらいなら下賜してやらんでもない』

『良いのっ!?』

『ああ。……ほれ。もっと近う寄るが良い。好きな物を選ぶが良かろう。……ただしラムレーズン味は妾の物であるからな。選んではならぬぞ』

『うんっ! ありがとう女王様』

 

 ……意外に優しい所もあったよ雪の女王。レティシアがストロベリー味を選んで顔をほころばせているのを見てなんかほっこりしてる。

 

 

 

 

 こうしてどうにかこうにか雪の女王への貢物も上手くいき、雪の女王は一応気が向いたら協力してくれることになった。

 

 まあ時折ハーゲン〇ッツ(ラムレーズン一つと他は気分で変わる)を買わされることになったが、契約料としては安い……のか?

 

 ちなみにこれは余談だが、

 

『久城君! ちょ~っとやることがあって出てこれなかったけど元気だったかい? ……それと、やあ雪の女王。君がハーゲン〇ッツが好きだなんて意外だっ』

『騒がしいな。無礼者め』

 

 いつもの通り急に現れて話し始めるディーだったが、雪の女王が食べている所に話しかけたら氷漬けにされてた。……優しいのは()()()()()っぽい。

 

 

 

 

 キイキイ。

 

 またか。俺は鳴き声から窓の外に舞う蝙蝠を見てすぐにカーテンを閉める。

 

 それにしても、この所やけに蝙蝠が多いな。何か変なことの前触れじゃなきゃ良いんだけど。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 時は少し遡る。

 

 

 

 

 キイキイ!

 

「フフッ! ご苦労様。さあ我が(しもべ)よ。アナタの見聞きしたものを教えてちょうだい」

 

 自らの僕たるコウモリを優しく撫でながら、その女は自らの棺に腰掛け優雅に微笑む。

 

 腰まで伸びた緑色の長髪。血のように紅いドレスを着こなす妖艶な雰囲気の美女。その名はカミューラ。吸血鬼一族の末裔にしてセブンスターズの一人である。

 

 カミューラは用心深い性格であった。いつも事前に戦う相手について調べ上げ、デュエルにてどう動くかを頭の中で綿密にシミュレーションしてから戦いに臨む。

 

 今回も、戦いの先陣を切るダークネスにコウモリを張り付けることで、戦う相手がどの程度の者か探る腹積もりだった。

 

 僕のコウモリと感覚を同調し見聞きした事柄、特にデュエルの内容を確認する。……だが、そこでカミューラの予想だにしなかったことが起きた。バランサーが人質(正確に言うとそのドサクサで溶岩に落ちかけた十代)を救出したのだ。

 

 結果ダークネスは敗北。そしてバランサーも去っていくのだが、コウモリも気になったのか空からそっとバランサーの後をつける。だが、

 

 グルルルルっ!

 

 キイキイっ!?

 

 途中までは追いかけたものの、森の中で見失った挙句大きな鳥に威嚇されて追い払われてしまったようだ。コウモリ自身の戦闘力は低い。それも仕方ないことだと、カミューラは大きくかぶりを振る。

 

 しかし結果として、カミューラの中にバランサーへの疑念が浮かび上がった。元々バランサーはアムナエルの代理だという話だが、アムナエル自身も謎の多い人物だ。信用できない。

 

「少し調べてみた方が良さそうね。差し当たっては……そう」

 

 カミューラは島の大まかな地図を取り出し、バランサーを見失った森、そしてその先にある物に目を付ける。そこにあったのは、

 

 

 

 

「オシリスレッド寮。……落ちこぼれの集まりだというけれど、まずはここから調べてみましょうか」

 




 アンケートダントツの吸血鬼の人に怪しまれる遊児でした。

 ちなみに雪の女王のハーゲン〇ッツ推しは完全に独自設定です。

 次回は三日後投稿予定です。

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