マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 今回から(基本)原作沿いのタグと独自設定のタグがかなり仕事をし始めます。

 あくまで(基本)なのでそれ以外もちょこちょこあるという流れです。



 3月13日。前半の一部がまるっと抜けたまま投稿してしまったので修正しました。読者の皆様にはご迷惑をお掛けいたします。


スパイが素顔を晒す時

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「はあああっ!」

『うおおおっ!』

 

 セブンスターズの拠点の一つである洞窟内で、二人の雄叫びが響き渡った。

 

 互いの拳が片や腹を痛烈にえぐり、片や砕けろとばかりに顔面に突き刺さる。

 

 繰り返される拳打の応酬。一撃ごとに踏ん張っているはずの足がよろめき、それでもなお立ち続ける意地の張り合い。

 

 まるで一昔前の少年マンガにでもありそうな殴り合いだが、

 

『やってるのが仮面の男()()()()()()っていうキワモノなんだよなぁ』

 

 そうポツリと洩らしながら、俺は仮面の奥で相手と同じく獰猛に笑っていた。

 

 

 

 

 ダークネスとの一戦から数日。

 

 十代は目を覚ましたもののまだ本調子でなく、吹雪はまだ目を覚ましていない。明日香は毎日見舞いに行っているのだが、いつになったら吹雪は目を覚ますのやら。

 

 ただ十代や吹雪の有り様を見て、鍵の守り手達は各自何か思う所があるようだった。より深く闘志を燃やす者。友人の有り様を見て心を痛める者。まあそれは様々だ。

 

 そしてそれぞれが次の戦いに備え、一層気を引き締めている時、俺はと言うとだ。

 

『ふむ。体調が思わしくないとの事だったが、大事ないかアムナエル?』

「お気遣い感謝致します。まだ万全とまでは申せませんが、少しずつ自らの決戦に備えて整えている所でございます」

 

 肩パットの付いた灰色のフード付きマントを羽織り、素顔を口元に巻いたマスクと赤い飾り布で巧妙に隠した男。アムナエルこと大徳寺先生の後ろにこそっと佇んでいた。

 

 いやだって、いくら何でもずっと代理()だけじゃ色々と問題になるんだよ。勿論大徳寺先生の体調は最悪。本音を言えば顔を出さずに何とか誤魔化しながら、ずっと学園で養生しつつ教鞭を執っていてほしい所だが、本人の強い希望もあって顔を出してもらった。

 

 周りは相変わらず濃い面子ばかりで、長くこんな所に居たらどんな影響が出るか分からない。

 

 今日はさっさと()()を終わらせて、また大徳寺先生には養生してもらわないとな。

 

 

 

 

『さて、早速だが本題に入るとしよう。……ダークネスが敗れた。次に動く者は誰か?』

 

 相変わらず声だけ響く影丸理事長の言葉に、それまで張り詰めていた空気がさらに重くなる。

 

 そりゃあいきなりチーム戦のこちらの先鋒。しかも相当な実力者が落ちたのだ。空気が悪くなるというのも仕方がない。

 

 静まる洞窟内の広間。そして一拍の間をおいて、

 

 カツン。

 

 洞窟にはあまり似つかわしくないヒールの音が響き渡る。そして一歩前に踏み出してきたのは、腰まで届く長い緑髪で赤いドレスを纏った妖艶な女性だった。首元に巻いたウジャト眼の刻まれたチョーカーがまた異彩を放っている。

 

 何アレ? 凄まじく色っぽいんだけど……何か手を出しづらい感覚がある。何というのか、綺麗なバラには棘があるって言葉がとても似合う感じだ。

 

『カミューラか。……良かろう。では次に戦う者はカミューラに』

「お待ちになって。……その前に、ここで一つはっきりとさせておきたいことがありますの。宜しいかしら?」

『聞こう』

 

 理事長の言葉を遮り、その声を響き渡らせるカミューラ。理事長は遮られたことに別段気を悪くもせず、カミューラに続きを促す。

 

「私が問い質したいのは……アナタのことよ。バランサー」

『……何かな?』

 

 カミューラはビシッと俺を指差す。何か嫌な予感がしながらも、俺はなるべく怪しまれないように返す。

 

「まあ! しらばっくれるのがお上手なこと。だけどこれを見てもそんな余裕が通じるかしら?」

 

 キイキイ。

 

 そこに飛んできたのは一羽のコウモリ。コウモリは差し出されたカミューラの肩にそっと乗り、カミューラは優しくコウモリを撫でる。

 

 コウモリ……何か嫌な予感が増大してきたんだけど。

 

「私は誇り高き吸血鬼一族の末裔。そして我が僕である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それによると……この前のダークネスの一戦。アナタは学園側に利する行動をとったわよねぇ。人質になっていた生徒二人を助けて」

 

 ギクッっ! もしやあれが見られてたのか? ……あっ!? そう言えばあの時コウモリが空に飛んでたわっ! 大鳥がずっと気にしていたからおかしいとは思っていたけど、デュエルの後すぐに跳ばされたからすっかり忘れてた。

 

「考えたくはないけど……まさかアナタ。()()()()()()()()()()()()……なんてことは無いわよねぇ? 戦いの後、森でアナタのペットに我が僕が追い払われてしまったので正確ではないけれど、最後に向かったのが()()()()()()()()()()()()()()()だなんてことも無いわよねぇ~?」

 

 ペット? ……森ってことは大鳥達の事か? どうやら大鳥はコウモリに気づいていたから、追ってこないように撃退してくれていたらしい。助かったぜ。

 

 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、一つ一つ的確にこちらの退路を塞いでくるカミューラ。……こいつ絶対ドSだな。間違いない。

 

 この分だと俺の素顔にも当たりを付けている可能性が高い。直で突き付けてこないのはまだ確証はないためか、あるいは言い訳をさせてボロを出すのを待っているのか。

 

 大徳寺先生は何も言わない。……いや、()()()()()()()()()()と言うべきか。何故なら、

 

『…………フッ。ハッハッハッハ。いやあお見事お見事。まさかそこまで調べがついているとは参った。カミューラの情報収集力がここまでとは』

「褒め言葉として受け取っておくわ。……それで? 今のは自白と捉えても良いのかしら? スパイのバランサーさん」

 

 俺がつい笑ってしまったのに対し、カミューラは余裕の面持ちでさらに追及する。勝った……と思うよなぁ。だけど残念。()()()()()()()()()()()なんだよ。

 

『ああ。()()()()()()。確かに俺は…………この通り、学園側の人間だ』

 

 俺はそこで敢えて自分で仮面を外して素顔を見せる。カミューラの顔が獲物を捕らえた狩人のように笑みを浮かべる。やはり素顔はバレていたか……あるいは候補に挙がっていたってとこか?

 

 その言葉と共に周囲からの圧力が急激に増す。そりゃそうだ。学園側の人間がこの場に紛れ込んでいるんだから。だが、

 

「だけど誤解しないでもらいたい。確かに俺は学園側の人間だが、()()()()()()()()()()()のだから」

「……どういうことかしら?」

 

 その言葉にほんの僅かな雲行きの変わりようを察したのか、カミューラが笑みを止めて真顔でこちらを見る。

 

「なに。簡単なことだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だということだよ」

「なっ!?」

 

 おうおう驚いてるな。してやったりという奴だ。出来れば()()()()()()()自分から切り出した方が話のペースを掴みやすかったのだが、先にカミューラに問い質された時はちょっと焦ったな。

 

 このセブンスターズとの戦いは、下手をすると闇のデュエルで学園に大きな被害が出る。人的被害は当然として、場合によっては学園の継続そのものに関わりかねない。流石にそうなっては理事長も困るはず。エネルギーを集める伝手が減るわけだしな。

 

 なのでそれを調整するために、敢えて学園側から事情を知っている第三者として用意されたのがこの俺バランサー(均衡を取る人)である……というのが、以前理事長に渡した代理の旨を書き記した手紙に一緒に書いておいた内容だ。

 

「俺の役割は、()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()。明らかに必要以上の被害……例えば先のダークネスのように、鍵の守り手以外にまで被害が出そうな場合は介入させてもらう。これも当然了承は既に取ってある」

 

 まあ逆に、これも例えばだけど……学園側が不正、セブンスターズの一人を多人数で袋叩きにするとか守り手以外の人がデュエルするなどの場合はこちらにも介入する。審判役みたいなものだ。

 

 もちろんこれらは表向きの理由だ。実際は理事長への抑止力も兼ねている。これで少しでも理事長が来るのを躊躇わせられれば良いんだが……どうせ気づいてるよな。

 

 という諸々を説明すると、カミューラは理事長に確認を取った後ものすごい形相でこちらを睨んでくる。口元が大きく裂け、吸血鬼らしい鋭い牙がむき出しになる様は実におっかない。……いや目論見通りにいかなかったからって怒らないでよ!?

 

「……という訳なのでだ」

 

 俺はそこで仮面を被り直す。

 

『仮に学生としての俺を見かけたとしても、基本的に初めて見た風に装ってほしい。……それと、戦いの日取りなども事前に知らせてくれれば幸いだ。それに合わせて部外者を締め出したり準備が出来るのでな』

 

 そう言い終わると、大徳寺先生は何も言わずに大きく頷いて応えた。これで少しでも他のセブンスターズ達も落ち着いて動いてくれれば良いんだが。

 

 

 

 

『……では、改めて皆に問おう。次の戦い、我こそはと思う者は居るか? それともこのままカミューラが行くか』

 

 俺の説明も終わり、一区切りついたところで再び理事長からの呼びかけが入る。未だ広間の中心にはカミューラが立っているので、このまま何もなければカミューラが選ばれることになる。……だが、

 

『申し訳ありません。今回は私、()()()()()()()()()()()()()()()。少し調べたいことも出来ましたし……まだ疑いが完全に晴れた訳ではありませんのよ』

 

 カミューラは自身の順番を先送りにする。その際きっちりこちらに睨むような視線を向けてきたので、まだ監視の目を切らすつもりはなさそうだ。……これからコウモリには注意しないとな。

 

 そうして動くはずだった者が居なくなったため、

 

「ならば、私が行こう」

『……タニヤか。良いだろう』

 

 代わりに動いたのは、褐色肌の女戦士だった。赤銅色の髪を後ろでまとめてポニーテールにし、惜しみなく晒すその両腕は筋肉質。しかししなやかさも兼ね備えたまさに肉体美という奴だ。

 

 片手にだけウジャト眼の刻まれた手袋を着けているのが気にかかるが、その容姿は紛れもなくアレ。いわゆる()()()()()という奴であった。

 




 タニヤとの殴り合いフラグが立ちました。

 カミューラは原作の流れだと二人目の対戦相手になるのですが、遊児への疑念もありタイミングがずれています。果たしてこれがどうこれからに影響することやら。

 次回も三日後投稿予定です。

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