マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
タニヤはこんなセリフ言わないと思われる方は、こんなこともあったかもしれないと温かくかつ寛大な心で読んでいただければ幸いです。
突然だが、今回の戦いはセブンスターズ側にもルールが幾つかある。
例を挙げるなら“誰か一人が鍵の奪取に挑んでいる間、他のメンバーは手を出さない”というものだ。これはただでさえ癖の強い面々が、各自勝手に動いてメンバー同士で潰しあうことを防ぐためでもある。
例外として、現在挑んでいるメンバー自身が助けを求めた場合というのがあるが、それはあまり起こりそうにない。
つまりは次に挑む者としてタニヤが選ばれた以上、タニヤ自身が望まない限り他のメンバーへの注意は多少減らしても良いということだ。
これには本当に助かった。何故なら、
「バランサーだったか? ……じゃあバランっちね! ねえバランっち。アナタタニヤのお婿さんにならない?」
『勘弁してくださいお願いしますっ!』
こんなのを何人もまとめて面倒見てたら俺どうしようもなかったと思う。
一応ではあるが調整役、審判役を公言した以上、次に挑むメンバーの事を知る必要がある。そんなわけで今回の招集が解散する時、タニヤにちょっと良いかと呼びかけたらこれだよチクショウっ!
「……あ~。ではバランサーよ。私は先に戻っている。……仲良くな」
いやちょっと行かないでくださいよ大徳寺先生っ!? アムナエルモードで良いから残ってくれよ! だが俺のそんな声なき思いも虚しく去っていく。おのれ大徳寺先生。見捨てられた恨みは必ず晴らすからなっ!
そして洞窟に残った俺とタニヤの二人なのだが、
「ねえどう? どう? わたしぃ、これでも尽くすオンナだから、バランっちもきっと気に入ると思うんだぁ」
さりげなく膝を曲げ、視線を敢えて上目遣いにしながら軽く自身の唇に指をあてるタニヤ。
……なんだこのキャピキャピ具合は。さっきメンバーの前で名乗りを上げた時の凛々しい仕草とはまるで別物だ。口調なんかやや甘えるように巻き舌気味になってるし、押しもやたら強くグイグイ来る。
俺が困惑して答えられずにいると、
「……フッ。あまりこのやり方では良くなさそうだな。ならやはりこちらの方が自然か」
すぐにさっきまでの媚びたような雰囲気が無くなり、最初の女戦士然とした雰囲気に戻る。……助かった。どうやら今のは彼女なりのジョークか何かだったらしい。
『ああ。ぜひそうしてくれ。今みたいな冗談は心臓に悪い』
「うん? 冗談ではないぞ。私はかなり本気で婿に来ないかと誘っているのだが?」
マジかっ!? それはどういうことかと話を聞いてみると、なんともとんでもない答えが返ってきた。
タニヤがセブンスターズに入った理由というのが、
「三幻魔なるものに私はあまり興味はない。ただ、私の婿は心と身体を滾らせる強き男でなくてはならない。鍵の守り手はさぞ私を滾らせてくれると期待していたが、お前も中々のものだぞ」
タニヤは二ッと笑って続ける。
「バランサーは以前ダークネスとの戦いを見て実力は高いと判断し、先ほどカミューラの前で堂々と弁じてみせた胆力も見事だった。そしてその時に見せた面構えも悪くない。婿としての資格は十分だ」
『お眼鏡に適ったのは誉め言葉として受け取ろう。……だけど悪いが、俺はそういう事は考えていないんだ』
ほとんど今日会ったばかりの相手からプロポーズされたとして、そこですぐOKを出す奴というのは少数派だと思う。こういうのはまずお互いを知ってからだと思うんだ。
「そうか……それは残念だ。やはり当初の予定通り鍵の守り手にアタックするとしよう。……それでも居なかったらやはりお前を無理やりにでも」
『安心しろよタニヤ! 鍵の守り手はどれもタニヤの心を滾らせる強い男ばかりだともハッハッハ! ……だからまた俺の方にアタックしないでね』
スマン十代や万丈目に他の皆。この肉食系女子は任せたぞ。俺はどことも知れぬ十代達に詫びの意味を込めて静かに合掌した。
『よし。自己紹介はとりあえずここまでにするとして。鍵の守り手と戦う訳だがどういう流れで行く? 俺としてはあまり学園や生徒に被害が出ない形が望ましいのだが』
そこでやっと本題に入る。戦い方は基本各自の裁量に任されているので、俺がするのはあくまで調整だ。だから大まかな流れを聞いておきたいのだが、
「うむ。やはり闘いはそれにふさわしい場所でなくてはな。ということで、現在これを建設中だ」
そう言ってタニヤが渡してきたのは……図面? 見るとどこか古代ローマの闘技場を思わせる建物の設計図が出てくる。ふむふむ成程……って!? これを
『……これを本気で造るつもりか』
「ああ。既に資材並びに場所も確保済みだ。本来ならカミューラが戦っている間に完成させる予定だったが、順番が繰り上がりになったからな。宣戦布告は完成と合わせて行う予定だ」
本来なら莫大な予算やら時間がかかる作業のはずだが、その辺りはなんせ理事長がバックについているからな。権力やら何やらでゴリ押しして大まかな土台は既に出来ていた。今のペースならあと一週間ほどで完成だという。
ちなみに場所は大鳥達の居る森を抜けて少し行った所にある岩場。森の中に造っていたら、確実に三鳥激怒案件だったので少しホッとする。
『わざわざ造らなくとも、学園のデュエル場を使えば良いだけだろうに』
「私と私の婿候補の仮宿も兼ねているのでな。場合によっては新居になるかもしれぬ。気合を入れて造らねば」
新居って何さっ!? えっ!? ここに住む気か? 里に連れ帰るんじゃなかったのっ!?
調整役って言ったって、これをどう調整しろって言うんだよっ!?
前回の招集から数日が経った。
その間に起きたことだが、まず
皆はとても喜び、万丈目は「ふん。奴めようやく戻ったか」とぶっきらぼうに言いながら、だけど少しだけ顔をほころばせていたな。
しかし起きてから十代の様子がどうも変だった。普段はそうでもないのだが、時折物思いにふけって気分を沈ませるようになったのだ。まあ流石の主人公も、闇のデュエルであんな目に遭ったらそういう事もあるか。
元気づけるために今日、翔と隼人が十代を誘って遊びに行くとか言っていたな。確か学園に新たに出来た室内温泉だったか? 俺も来ないかと誘われたが、今は色々と立て込んでいるので今回は見送った。
だが同じく医務室にいる吹雪はまだ目を覚まさない。毎日明日香が見舞いに行っているのだが、一体いつになったら起きるのやら。
早い所起きてダークネスとして活動していた頃の話を聞かせてもらいたいが、魂が封印されたとなるとそこは望み薄かもな。
そして、今ちょっと問題が発生している。それというのも、
「皆の者。今日もよく働いてくれた。感謝するぞ!」
タニヤが建設中の闘技場にて、目の前に整列する者達に声をかける。その者達というのがなんと、皆
俺がそのことを知ったのはつい二日前の事。
どうやらタニヤは当初その有り余るパワーで闘技場を建設していたのだが、流石に
ならばどうするか? 人手を増やせばいい! そのシンプルな結論に至ったタニヤは、自身が手懐けている大虎バースに命じて生徒を攫わせ労働力とした。
そこだけ聞くと恐ろしい話だが、
「ほらっ! これ今日のご褒美! 明日もまたよろしくね!」
「ありがとうございますっ!」
「おおっ! これで新作のパックが買えるぜ!」
意外に攫われた方の生徒達からは受けが良かったりする。それもそのはず、生徒の大半はオシリスレッド。つまりは
なのでバースに攫われた当初は怯えていたものの、肉体労働にすぐに馴染んで一種のアルバイトとして額に汗して働いていた。用意された食事も、レッド寮の質素な食事に慣れていた生徒達からすればむしろ質が上がって好待遇だった。
バースもさぼったり逃げようとしなければおとなしいし、タニヤも日当をきっちり払ったので不満も少なかった。
結果として互いにWIN WINの関係(一部のレッド以外の生徒は除く)となったのだ。
『これ思いっきり学園側に被害が出ていると思うんだが?』
「数日程度なら大したことは無いはずだ。それに、こういう事の調整をするのもお前の仕事なのだろう? バランサー」
『……授業を数日サボる程度なら確かにな』
タニヤは何でもないようにバースを撫でながら返す。
人数がやや多いが、攫われたことが考慮されればあとで補習を受けることで取り戻せる。その点も踏まえて今回の事を引き起こしているのなら相当強かだ。
「今日で闘技場の部分はほぼ完成だ。早ければ明日、遅くとも明後日で全て完成するだろう」
『OK。じゃあ宣戦布告は余裕をもって三日後ということで構わないか?』
「ああ。それで良い」
ふぅ。目途が立った以上、あと俺がやることはそんなにない。場所の指定はタニヤがやるだろうしな。バースでも差し向けて伝令代わりにするとか。
そうして内心ひとごこちついていると、
「……うむ。いよいよ日取りが決まった所で、バランサーよ」
『何だ?』
「決戦の前に肩慣らしをしておきたい。
ちなみに拒否権は無い。タニヤの眼と、その後ろでのっそりと立ち上がるバースの仕草がそう言っていた。
ちなみに原作では働かされる人の中にクロノス先生も混じっていますが、この時点で鍵の守り手を攫うのはNGだとタニアが勝手に定めているのでバースも攫っていません。
闘技場の件は原作でも謎なんですよね。カミューラのように主が倒れても崩れていないので闘技場は本物。しかしあれだけデカい建物をどうやって物理的に準備したのか?
今作では理事長が予め大雑把に準備し、タニヤがその腕力に物を言わせて大枠を作り、生徒達を攫って仕上げをさせたという設定です。
……あんまり必要のない設定かもしれませんが一応。
次回もまた三日後投稿予定です。