マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
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「セブンスターズから宣戦布告が届いたって本当かよ鮫島校長!?」
「ああ。本当だとも十代君」
ある日授業が終わってすぐの事。連絡を受けて俺達鍵の守り手は校長室に集合した。翔と隼人も一応関係者扱いで一緒に居る。
遊児も呼びたかったところだけど、朝から体調が悪いって授業を休んで部屋で寝てる。最近やけに授業を休む奴らが多いし、性質の悪い病気でも流行ってんじゃないだろうな?
それで鮫島校長が言うには戦いの時間は一時間後。場所は近くの森を抜けて少し行った所だという。
「連絡によると、森の入口で案内人が待っているので詳しい内容はそちらに聞くようにとの事だ」
「案内人? 何者なノ~ネ?」
「さて。そこまでは。……引率としてくれぐれもよろしくお願いしますね。クロノス教諭」
「分かってます~ノ。このクロノス・デ・メディチ。闇のデュエルなんてオカルトは無い~ト、証明してやるノ~ネ」
おう! クロノス先生やる気じゃん! ……だけど闇のデュエルか。俺の脳裏にこの前のダークネスとの戦いがよぎる。
闇のデュエルは本当にある。それはとても危険で、俺自身も少しだけ怪我が治ってからも負けることに不安を覚えた。
ちょっと前に翔達と一緒に行った温泉で迷い込んだ精霊達の世界。俺はそこでカイバーマンの精霊とデュエルすることで吹っ切れたけど、他の皆も同じように危険なことは変わりない。気を引き締めないとな。
見るとここに居る奴ら。万丈目に明日香、三沢、カイザーも、これからの戦いに向けて闘志が満ちていた。特に三沢なんか、ここ数日いつ戦いになっても良いようにデュエルの早朝特訓をしていたぐらいだからな。やる気満々だ。
……大徳寺先生はいつも通りみたいだけどな。猫のファラオを撫でながら飄々としている。
「よし。では早速その場所に向かおう。行くぞ皆!」
「「「おうっ!」」」
生徒代表としてカイザーが音頭を取り、俺達は案内人が居るという場所に向かった。
学園本棟を出て少し。森の入り口で待っていた案内人。それは、
『……ふむ。鍵の守り手以外の者が混ざっているようだが……まあ良いだろう。ようこそ。戦いの誘いに応じてやって来た者達よ』
「お前は……バランサーっ!」
以前会ったペストマスクの男バランサーが、木の一本にもたれかかりながら佇んでいた。そしてその横には、
ガルルルル!
「ひぃっ!? でっかい虎が居るのにゃ~っ!?」
「な、何アレっ!?」
大徳寺先生と翔の言うように、大きな虎がこちらに唸り声を上げながら丸くなっていた。遊児の所の幻想体で少しはこういうのに慣れているが、それでもおっかないのに変わりはない。
『バース。これからお前の主人と戦う者達だぞ。威嚇するんじゃない。……失礼した。この虎はバース。決戦場までの案内役兼護衛役だ。見ての通り少々気性が荒いが、下手にちょっかいを出さない限りは何もしない』
バランサーが軽く虎……バースの背をポンポンと叩くと、バースは一度俺達をじろりと睨んでのっそり立ち上がる。なんかサーカスか動物園の調教師みたいだ。
『自己紹介がまだだったな。以前に会った者も居るが、多くは初めて会うので名乗らせてもらおう。俺の名はバランサー。鮫島校長への手紙に書かれていたかと思うが案内人だ。どうぞよろしく』
そう言ってバランサーは、ゆっくりと腕を胸に当てて大きく一礼した。すると万丈目が一歩進み出る。
「お前がバランサーか。十代や天上院君から話は聞いている。奴らの仲間らしいが、人質になっていたそいつらや火口に落ちかけた十代を助けたってな」
『結果的に助ける形になっただけの事だ。……それにダークネスが人質を取っていなければ、そもそも俺は出るつもりはなかった』
「結果的にだろうがなんだろうが、それでも俺達が助かったのは事実だ。だからありがとうなバランサー!」
俺も割り込んで礼を言ったら、何故かバランサーにそっぽを向かれた。礼くらい素直に受け取ってくれよな。
『……っと。バースがさっきからしびれを切らし始めている。そろそろ出発とさせてもらおう。話は歩きながらでも構わないな?』
そう言ってバランサーは、のそのそと先頭を行くバースについて森の中へ歩き始める。ちょっと待てよバランサー! 色々と聞きたいことがあるんだよ! 俺はすぐに後を追いかけ、他の皆も少し遅れて続いた。
まだ陽も高いので、森の中は木々の隙間から日が入って結構明るい。戦いの前だってのに、気分は軽いハイキングだ。……それも、なんとなくこのバランサーから敵意が一切感じられないっていうのが大きいのかもな。
バースとバランサーについて歩く中、他の皆は少し後ろで誰が話しかけるか話し合っていた。戦いの詳しいこととかは案内人に聞けって鮫島校長が言ってたからな。……わざわざそんなところで悩んでいないで普通に聞けば良いのに。
「なあバランサー。結局お前は一体何なんだ? セブンスターズの一人なのか? 今回の戦いのルールはどんな内容なんだ?」
「十代っ!? そんな勝手に」
「だって皆尻込みしてるしよ。こういうのはまとめてササっと聞いて準備した方が良いって!」
隼人が止めてくるけど、これくらいなら問題ないはずだ。俺にはどうにもこいつが悪い奴って感じはしないし、手紙に詳しくは案内人に聞けってあったんならこれくらい問題ないだろうしな。
バランサーは少し考えるように軽く顎に手を当てると、そのまま普通に話し出した。
『まず最初の質問から返そう。俺は
「なんだそりゃ」
『俺の仕事は、この案内もそうだがセブンスターズと鍵の守り手達の戦いを円滑に進めることだ。前回は鍵の守り手以外の者……翔と隼人だな。その二人が
なので今回のように、戦いの日取りや時間を上手く調整するのも仕事の内だとバランサーは続ける。なんかマネージャーみたいだな。
『次にルールと言えるほどの細かなルールは無い。デュエルに変わりはないからな。七精門の鍵を賭けて戦い、セブンスターズ側が勝ったら鍵を貰う。学園側が勝ったら防衛成功。単純に言えばそれだけだ。ただ……一つだけ特殊ルールがあるとすれば、
えっ!? ってことは、俺が選ばれない場合もあるのか? ……立候補式じゃダメか?
『まあその点は今回の相手だけかもしれないがな。それに……そうだな。お前は選ばれる可能性が高い。アイツの好みそうだ』
「好みねぇ」
そんなに選り好みの激しい奴なのか。参ったな。そうして少しずつ話していると、
「ねぇ。バランサー。ちょっと良いかしら?」
『何かね? ……あ~』
「明日香よ。天上院明日香。アナタ達は兄さんに、吹雪兄さんに何をしたのっ!?」
明日香はどこか鬼気迫る表情で、歩きながらバランサーに詰め寄った。その様子を他の皆は固唾をのんで見守っている。
「兄さんはまだ意識が戻らないの。闇のデュエルっていったい何なのっ!? なんで兄さんがあんなことに。……もしアナタ達が兄さんをあんな風に変えてしまったのだとしたら、私は決して許さない。ねぇ。答えてっ!」
「俺もだ。時折調子に乗ってやらかす男ではあったが、吹雪は俺の大切な友だ。それがあんな目にあったのが誰かの差し金だというのなら、その誰かを俺も許さない」
明日香に追随するようにカイザーもスッと移動する。その二人に鋭い視線を向けられ、バランサーはどう思ったんだろうか?
仮面で表情までは分からない。だけど、
『……ダークネス、天上院吹雪が何を思ってこの戦いに臨んだのかは俺には分からない。俺が最初に会った時、既に奴はダークネスとしてセブンスターズに所属していた』
「だから何っ!? 自分は関わっていなかったとでも言うつもり?」
『ああ。何故ああなったのかは関わっていなかったのだから答えようがない。なので俺が今言えるのは一つ。
バランサーはそう毅然とした態度で返した。
『起きるまで待つも良いし、何らかのやり方で起こしても良い。それともお前達はもう吹雪が目を覚まさないとでも思っているのか? あれだけの男が妹や友人を置いて? ……ハッ! 無いな。それは無い。……大丈夫。奴は必ず目を覚ます。もっと信用してやることだ』
最後の言葉がどこか優しく感じられたのは気のせいじゃないのだろう。その証拠に、明日香もカイザーも怒りがほんの少しだけ落ち着いたみたいだった。
「バランサー。……お前」
『おっと。お喋りの時間はそろそろ終わりだ。もうすぐ到着する。誰が戦うことになるかは分からないが、気を引き締めていくことだな』
その言葉と共に森の出口が見えてきた。俺は軽く頬を張って気持ちを切り替えると、俺達の戦う相手はどんな奴か考え始める。
そして、森を抜けた先にあったのは、
「うわぁ」
「凄い。……いつの間にこんな建物が」
昔のどっかの国にありそうな、デッカイ闘技場だった。今からここで戦うのか。……ちょっとワクワクするな。
地味に鍵の守り手の大半には初対面のバランサーでした。
明日香とカイザーに関しては、吹雪がまだ起きないことで少しだけ原作よりバランサー(セブンスターズ)への敵意が強いです。
次回は三日後投稿予定です。