マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! 今回独自設定タグがかなり仕事します。


甘い葛藤と買収騒ぎ

 

「三沢っ! おい三沢っ! 返事をしてくれっ!」

「三沢君っ! 無事なのっ?」

 

 三沢が敗北した日の夜。十代達はまだコロシアムの近くに居た。

 

 バースにコロシアムから追い出され、門も固く閉ざされてしまったが、それでも攫われた三沢を置いていくことは出来ない。陽も落ちてきたので焚き火を熾し、生徒の面々はこのまま寝ずの番をしながら呼び続ける意気込みだ。

 

「シニョール三沢の事は我々教師が何とかするノ~ネ。だから生徒諸君はもう寮に戻りなさい~ノ」

「そうなのにゃ! ここはクロノス教諭に任せて、私達は早く帰りましょうなのにゃ」

 

 それを何とか諫めようとするのは教師二人。特に引率を任されたクロノス教諭としては、いくらセブンスターズ絡みとは言え夜遅くまで生徒を連れ出すのは避けたい。

 

 こうして帰る帰らないの言い争いが勃発しかけた所に、ガラガラと音を立てて門が開く。そこから現れたのは、

 

「バランサーっ!?」

 

 そう。俺である。実の所、今までの事はずっとコロシアムの中から見ていたのだが、まさかここでこいつらが一晩明かそうとするとは思わなかった。

 

 いくら気温が暖かくなってきたと言っても、こんな所に居られては大問題だ。身体にも良くないし、なにより……。まあともかく、早い所こいつらをどうにかしなくては。

 

『ふむ。まさかこんなにも粘るとはな。今日の勝負はもう終わりだ。次回の戦いの日取りはまた近い内に連絡するので、さっさと帰ることを勧めるぞ』

「三沢を置いて帰れるかよっ! なあバランサー。あんたならタニヤに言って次の戦いを早められるんじゃないか? 頼むよ!」

 

 う~む。十代にせっつかれてしまった。他の皆からの視線もこっちに突き刺さっているし、参ったなこりゃ。

 

『……そうだな。確約は出来ないが、話してみるだけなら可能だろう。ただ問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ』

「馬? タニヤと一緒に居たのは虎だろ?」

『お子様には分からんこともあるってことだ。……ささっ! 三沢の事が心配なのは分かるが帰った帰ったっ! 後日三沢自身から連絡させるからほらほらっ! 教師の方々。あとはよろしくお願いする』

「分かったのにゃ。さあ皆。この人もそう言ってるから早く帰りますのにゃ!」

 

 これ幸いと俺に追随する大徳寺先生。渋る生徒達だったが、何とか帰路につかせることに成功した。そうして皆の姿が見えなくなるのを確認し、俺はふぅっと息を吐く。

 

『やっと帰ったか。やれやれ。これで俺もようやく部屋に戻れる』

『部屋で寝ているはずの君の部屋に、十代達がお見舞いにでも来たら面倒なことになるからねぇ。かと言ってバランサーとしてはある程度ここに残らないといけない。いやぁ大変だねぇ二重生活は!』

『楽しそうに言うんじゃないよ。……よし。一度タニヤの所に戻ってから帰るぞ』

 

 また茶々を入れるディーをシッシと手で払いながら、俺はコロシアムの中に戻っていく。……だけど、あの中には今は戻りたくないなぁ。何せ、

 

 

 

 

「ほら三沢っち! ア~ン!」

「ア~ン! うん。実に美味しいよタニヤっち!」

 

 ……これである。ベッドから身を起こす三沢を、タニヤが手作りのお粥で甲斐甲斐しく世話をする様は非常に甘ったるい。実を言うと、こうなった一因は俺にもあるのだが。

 

 本来なら、タニヤは三沢が起きた時点ですぐさまデュエルをまた始める予定だった。自身の婿なのだからそのくらいは当然とばかりにだ。闘争本能がほとんど日常に根付いているレベルだな。

 

 だがそれは俺が待ったをかけた。いくら何でもさっき戦って敗れたばかりだ。精神を落ち着ける必要もあるだろうし、体力の回復だって必要だろう。次は明日にしても良いはずだと。

 

 それをタニヤは了承した訳だが、何故か今度は()()()()ベタベタし始めた。そして起きた三沢もまんざらでもないという感じで受け入れている。一応両思いなのかこれ?

 

 仲睦まじくラブラブな空間に長く居たら胸焼けしそうだ。バースも気のせいか三沢に向けて睨んでいる気がするし、御主人を取られたと思って嫉妬してんじゃないか?

 

『あ~。お熱い所すまないが、これからの予定を話し合いたいのだが』

「おおそうか! 三沢っちちょ~っとだけ待っててね! すぐ終わらせて戻るから!」

「ああ。焦らなくても良いよ。タニヤっち!」

 

 そのままベッドに横になる三沢を置いて、俺達はそっと部屋を出る。

 

『……さて、これからのことだが、タニヤの目的である婿取りについてはそこまで口を挟むつもりはない。……まあ学園側との兼ね合いとしては、三沢はまだ生徒なので正式な結婚なりなんなりは卒業後という方が良いとは思うが』

「私個人としては今からでも構わないけど……まあ良い。三沢っちもその方が良いだろうし、私もそれに異存はない」

 

 その言葉に正直ほっとする。やや大人びているが、三沢はまだ一年生だ。本人の気持ちもあるだろうが、今はいくら何でも性急すぎる。

 

『OK。それでは次だ。こうして目的を達したわけだが、これからどうする? セブンスターズを抜けるのか?』

「いや。一度引き受けたことだ。目的こそ達したが最後まで続ける。残りの鍵の守り手達も、この私が仕留めよう。……そうすれば三沢っちはさらに私にベタ惚れ間違いなし!」

 

 タニヤは力強く頷きながら、後半ちょっと頬を赤らめる。スパイとしてはここで降りてくれると助かったんだがな。

 

『分かった。じゃあ次の日取りは? 鍵の守り手からはさっき早くても良いとせっつかれたが』

「そうだな。では二日後……いや、三日後だな。二日は三沢っちとの甘~い一時を楽しみたい」

『……結構。実に甘い話をご馳走様だ。日取りの連絡はこちらからしておこう。それと、最後に三沢と話をしても良いか? 本人の意思を確かめたい』

 

 最後の意見は無視されるかと思ったが、タニヤは特に反対もせず了承した。俺は三沢のいる部屋に取って返す。

 

『失礼。三沢君……ちょっと良いか?』

「バランサーだったか? ……どうぞ」

 

 ノックと共に入ると、三沢はすっかり食事を平らげて落ち着いた雰囲気だった。この調子なら攫われて精神的にきているということはなさそうだな。

 

 首に掛けていた鍵は、敗北と共にフッと姿を消していた。どういう理屈か知らないが、負けると自動的に消失するらしい。

 

『調子は悪くなさそうだな。結構。では単刀直入に聞くが、君はタニヤの事をどう思っている? 敵か? 嫁か? それとも……』

「……分からない。頭では敵だと分かっているんだ。だが俺はデュエルでタニヤの想いを受け、俺もまた全力でぶつかった。結果として……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『だろうな。さっきのタニヤとの掛け合いを見れば分かる。……だが、タニヤはセブンスターズの一員として他の鍵の守り手達と戦う気だ。一度請け負った仕事としてな』

 

 そうかと三沢は一言返し、何か考えるように俯く。

 

 以前読んだマンガ版では、三沢は明日香に気があるという描写があった。だけどこれまでの所、アニメ版では三沢にそんな素振りは無かった。つまりシンプルに気になる女か仲間かという二択なわけだ。……板挟みだな。

 

『戦いは三日後の予定だ。まだ時間はある。たっぷり悩んで、たっぷり思いを伝えれば良い。……ああ。忘れる所だった。十代達が心配しているからな。自分の状況ぐらいは連絡しておくことだ。……ではな』

「ありがとう。……考えてみるよ」

 

 そうして俺は部屋から出、タニヤにまた様子を見に来ると告げてコロシアムを後にした。さあ。急いで寮に戻らないとな!

 

 

 

 

 そうして翌日の朝。鮫島校長と大徳寺先生に一連の流れを説明、三沢は数日間欠席するという旨を伝えたのだが、そこで思わぬ展開を迎えることとなった。

 

()()()()()()!?」

「ああ。突然買収騒ぎが持ち上がってね。ここの運命は、買収相手と我が校の代表選手によるデュエルで決まることになってしまった。ここのオーナーがデュエルの条件を持ち出されてOKしてしまってね」

「何でも『よかろう。未来のロードは己が手で切り開くもの。デュエルアカデミアには貴様に負けるデュエリストなど一人もおらん。貴様がデュエルに勝ったら学園などくれてやるわ』とかなんとか言っちゃったらしいんだにゃ」

 

 二人の言葉にそんな無茶なと思ったが、なにせここは世界の運命ですらカードで決まる遊戯王世界。まだありえなくはないのかと軽く顔を手で覆う。

 

 あとどこのどいつだそのオーナーはっ!? なんか聞き覚えのあるセリフだけど、生徒に学園の未来を勝手に託すんじゃないよっ!

 

「ただでさえセブンスターズ絡みで忙しい時に……それで? その選手と言うのはもう決まっているんですか?」

「ああ。わざわざ相手側から代表選手を指名してきたのにゃ。今十代君と丸藤君に呼びに行ってもらってるのにゃ!」

 

 わざわざあの二人に呼びに行かせたってことは……まさかっ!

 

「お~い校長先生! 連れて来たぜ」

「失礼します。何ですか校長。俺にしか頼めない一大事と言うのは?」

 

 そこに十代達に連れられてやってきたのは、俺の推しこと万丈目だった。やっぱりか。あの二人に呼びに行かせるってことはオシリスレッドの生徒。万丈目は現在レッド扱いで寮に在籍しているからな。

 

「おっ! 遊児。もう調子悪いのは大丈夫か? 昨日見舞いに行った時はえらく鼻声だったけど? あとなんでこんな所に?」

「ああ。調子の方はだいぶ良くなったよ。ちょっと大徳寺先生と話があって、そのまま成り行きでな」

 

 実を言うと、俺が部屋に戻る前に十代が扉越しに見舞いに来たらしいのだ。幸い部屋で念のため留守番をしていた幻想体達が誤魔化してくれたらしいが、何度もやると怪しまれるからあんまり頼めないな。

 

 鮫島校長達は、そこでさっき俺に話したことをもう一度万丈目達に説明する。すると、

 

「校長。お電話が入ってますにゃ!」

「繋いでください」

 

 大徳寺先生が校長室に備え付けのタッチパネルを操作すると、壁のスクリーンに誰かの姿が浮かび上がる。でかいテレビ電話だな。

 

 そしてそこに映っていたのは、

 

「久しぶりだな準」

 

 以前十代と万丈目の戦いの時に居た、万丈目ブラザーズこと長作と正司だった。買収の相手ってこいつらかよっ!

 





 という訳でみんな大好き万丈目ブラザーズ再びです。

 ちなみにこの時点での三沢は原作では細かな描写がないのですが、遊児が居るので少し間をおいてから再戦ということになっています。

 それと万丈目ブラザーズの買収騒ぎは、原作ではカミューラ戦の後に起こるのですが、この話ではカミューラが先送りになったので順番がズレています。

 次も三日後投稿予定です。

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