マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
「兄さん達。これはどういうことです?」
素早く気を取り直し、万丈目が進み出てそう尋ねる。
「知っての通り、我々の目的は政界・財界、そしてカードゲーム界に君臨し、世界に万丈目帝国を創り上げること」
「兄さん達。前にも言ったはずです。俺は俺のやり方でこの学園のトップに立つ。だから援助も演出も要らないと」
「誰が落ちこぼれなど相手にするものか」
そこに正司が割って入った。誰が落ちこぼれだこの野郎。
「お前の悠長なやり方など待ってはおられん。我らは自らこの学園を手に入れ、カードゲーム界への足掛かりとすることにした。貴様には兄貴と学園を賭けて戦ってもらう」
「俺が長作兄さんとっ!? 本当なのですか長作兄さん」
その長作は何も言わず、ただ兄弟よく似た不敵な笑みを浮かべている。だが、
「あ~。万丈目のお兄さん方。言っては何ですがそれは無謀という奴では?」
「そうそう。万丈目の兄貴はデュエルの素人。学園でも指折りの実力を持つ万丈目に勝てるわけないぜ」
俺の言葉に十代も追随する。素人かどうかは知らないが、少なくとも前の一件から考えると専門家ではないだろう。そこらの相手なら万丈目が負けるとは思えない。
「ハッハッハ。勿論ハンディはつけさせてもらう」
そこで長作は言葉を切り、画面に一つのスーツケースを映し出す。あれは……。
「以前準が使うのを拒んだカード。俺はこのカードでデッキを組む。そして準。お前はハンディとして攻撃力500未満のカードで戦え」
「無茶苦茶だっ!」
「そんな不利な条件呑めるかよ」
なるほどそう来たか。向こうのカードはレアカードばかり。レアリティと能力は必ずしも比例しないが。強いカードが多いのに変わりはない。
対して万丈目はカード制限。500未満でもやりようはあるが、使い慣れないカードを扱うのは腕が問われるからな。
「この条件はオーナーも了承済みだ。『良いだろう。初心者相手なら当然だ』とな」
だから何でそう安請け合いしちゃうのオーナーっ!? 仮にも学園が懸かってんだぞ!
「デュエルは三日後。楽しみにしているぞ。ハーッハッハッハ!」
そう言って二人の高笑いを最後に通信は終了する。……厄介なことになったな。まさか三日後とは。
「用が済んだのなら帰らせてもらいます。準備があるので」
「待てよ。俺達も力を貸すぜ」
「そうだよ」
「断る。デュエルをするのは俺だ」
険しい顔をして身を翻す万丈目。それを十代と翔が引き留めるが、万丈目は背中を向けたまま振り向こうともしない。そして場の空気が重くなった時、さらに特大の爆弾が落とされる。それは、
「いやはや。大変なことになったものだ。それにもう一つ。例の件の進展があった。……ああ。済まないが久城君は席を外してくれないかね?」
「校長先生。セブンスターズのことなら遊児も少しは知ってるぜ。どうせだからここで一緒に話してくれよ」
一瞬こちらに見せる校長の目配せ。そして大徳寺先生の軽い頷きから、これからタニヤの事を十代達に伝えると踏んで速やかに退出しようとしたら、十代め今度は俺も引き留めてきた。
止めてくれ~。俺はバランサーとして関わるから遊児としては関われないんだよ!?
何とか逃げようとするが普通に捕まり、そしてなし崩し的に校長から次のタニヤとの戦いの日取りが伝えられる。まあ俺が知らせたんだから内容は聞かなくても分かるんだけどね。問題は、
「
「ああ。二日後昨日と同じ場所、時間を指定してきた。対戦相手も向こうが指名するようだ」
そう。つまり明後日タニヤとの一戦。三日後に万丈目ブラザーズとの一戦という過密スケジュールになってしまったのだ。
ないとは思うが、もし万丈目を指名されでもしたらそのまま連戦で万丈目ブラザーズとの戦いに臨むことになる。
「ならますます準備が必要だな。失礼します」
「あっ!? 待てよ万丈目!」
「さんだ」
そうして今度は十代も止める間もなく、万丈目は去っていった。慌てて追いかけようとする十代だったが、今度は俺が十代を引き留める。
「十代と翔はそのセブンスターズの件を校長達からじっくり聞いておいてくれ。万丈目の方には俺が行く。……万丈目はやや意地っ張りな所があるから、今下手にお前達が行くとこじれかねないからな」
「久城君」
「だけど……え~い。仕方ねえ。俺達は後で行くから、少しの間頼むな遊児!」
「任せろ」
さ~てと。ややこしくなってきたけど、上手く話を纏められたら良いんだが。俺は校長室を出て万丈目を追いかけた。
「万丈目!」
「……久城か。何しに来た?」
「ファンが推しを追いかけるのに理由が要るのか? 途中まで一緒に行こうぜ!」
「……勝手にしろ」
追いついた万丈目は少し先の通路を一人歩いていた。俺は一言断りを入れて横に並ぶ。
と言ったものの何を話せば良いものやら。ただでさえセブンスターズの件で忙しいのに、今度は兄弟の問題だからな。下手なことを言ったらマズイ。
そうして並びながら歩いていると、
「……済まない」
「えっ!?」
歩きながら、万丈目がそう小さく呟いた。何を謝られたのかと不思議に思っていると、万丈目はさらに続ける。
「今回の一件。兄さん達を止めきれなかった俺にも非がある。だから、今度こそ兄さん達は何としても俺が止める。例えその前にあの女と一戦交えることになってもな」
その言葉でふと気づく。その瞳に映るどこか悲壮な決意。万丈目はまとめて色々と背負いこもうとしていると。だからこそ、
「えいやっ!」
「痛っ!? 何をする!?」
とりあえずチョップをかまし、頭を押さえる万丈目に対し足を止めて真正面に立つ。
「ま~た三沢との一戦の時みたくメンタルが弱ってるぞ。前にも言っただろ? もっと胸を張れよ! あとついでに仲間を頼れ! ……大丈夫」
俺はそこで軽く万丈目の肩に手を当てる。
「万丈目以外にも、
「……ふっ。まったく。俺のファンにそうまで言われてはな。……仕方ない。露払いくらいは他の奴に任せるとするか。
「
そう宣う万丈目には、もう悲壮の影は見当たらなかった。
よ~し。これで万丈目はひとまず落ち着いたと。後はタニヤに連絡して、万丈目だけは後に回すよう進言すれば良い。戦うなではなく後回しならまだ言い訳も立つだろう。
俺はホッと胸を撫でおろした。
翌日。
どうしてこうなった?
昨日の夜、タニヤに次の戦いの時は万丈目は後回しにしてくれと連絡しに行った所、悩んだ結果どこか
これで心置きなく万丈目は兄弟との勝負に臨める。そう思っていたのに。
「きっと今度のデュエルって」
「そうそう。万丈目兄弟の策略だぜ」
たまたま万丈目と一緒に授業に向かう時、移動中に周りからそんなひそひそ話が聞こえてきた。よ~く観察してみると、すれ違う生徒の多くが万丈目を見て何とも言えない表情をしている。
マズいな。万丈目は平気な顔をしているが、それでもこうひそひそ噂されて良い気分な訳はない。
「じゃあ、初めから万丈目は負けるつもりで?」
「ここが万丈目グループの物になれば、万丈目自身の物になるってことだろ」
おのれコイツら。言いたい放題言ってくれちゃって、何様のつもりだっ! 一言文句を言ってやろうとした時、
「お前達っ! そんな言い方は無いだろっ! 万丈目はここの生徒だぞ。一度でもデュエルしたことがあれば、そんな奴じゃないって分かるだろっ!」
おお! 良い所に十代登場! 俺の言いたかったことをまとめてぶちまけてくれる。良いぞもっとやれ!
「余計なことを。貴様の助けなど要らんと言ったろうが」
「まあそう言うなよ万丈目。せっかく十代が骨を折ってくれているんだ。厚意は素直に受け取ろうぜ」
ふんっと万丈目はちょっとだけ顔を逸らす。こういうとこ素直じゃないんだからな。それに、
「話は聞いたわ。私達に出来ることがあったら言って。協力するわ」
「天上院君! ……ゴホン。いや、天上院君には悪いが断る」
そこに明日香とカイザーも登場! 明日香の言葉に一瞬表情を明るくする万丈目だが、すぐに取り繕うように咳払いをして服を整える。
前々から思っていたのだが、どうやらマンガ版で三沢が明日香に気があったように、アニメ版では万丈目が明日香に気があるようだ。惚れた女に弱みを見せたくないってのは分かるぞ万丈目。
「そう尖るな。デュエルで負けるならまだしも、このままではデュエルすることすら出来ないんじゃないか?」
「どういう事?」
「無いんだよ万丈目には。攻撃力500未満のカードが」
えっ!? カイザーの言葉に一瞬時が止まる。今なんて言った?
「元々俺のデッキはパワーデッキ。攻撃力500未満のカードなどありはしない。唯一持っているのは……これ」
『うっふ~ん!』
「「「え~っ!?」」」
万丈目が取り出したのはおジャマイエローのカード。これには群衆も含めて唖然とするしかない。
「そんな。じゃあデッキも組めないって事なのか?」
「ああ。購買部でカードを買い漁ってやろうかと思ったが、間の悪いことに昨日から改装工事中だ」
そう言えばそんな話があったな。数日購買部が使用できなくなるので、必要な物があれば早めに買っておくようにという連絡が大分前から来てた。
俺の場合は非常用の食料や、雪の女王などの幻想体に渡す分だけ買い込めば良いから問題なかったが、パックが買えないって他の奴らが嘆いてたのを思い出す。
しかしどうしたものか。いくら何でもカードが無いんじゃ戦えない。最悪他の生徒達から分けてもらうということになるが、今のこの空気じゃそんなことは言い出しづらい。
万事休すか。そんな諦めムードが漂ってきた時、
「噂で聞いただけなのですが、この島に一か所だけ、それを手に入れられるかもしれない場所があるのにゃ」
「……!? 本当ですか大徳寺先生!」
そこにいつの間に居たのか、大徳寺先生が愛猫ファラオを撫でながらふらりと現れ、そんなことを口にする。だが、
「はい。本当ですにゃ。私はそんなに嘘はつかないのにゃ! ねぇファラオ!」
「うにゃ~ん!」
微笑みながら語るその言葉に、一瞬何か企んでいるのではと勘ぐってしまったのは何故だろうか?
地味にカード制限で負け確になる寸前の万丈目でした。
次回は原作でお馴染みのあの兄弟の再会です。お楽しみに。
次も三日後投稿予定です。