マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 夏といえば怪談話ですよね。……作中では秋ですけど。

 という訳で本編をどうぞ!




 それと次回も投稿は明後日の予定です。


特待生寮に潜む闇 その一

 ある日の夜、少し小腹が空いたのだがタイミング悪くパンも菓子も買い置きはない。これは食堂に何かないかと探しに行くと、そこではお決まりの十代達三人組が一つのテーブルに集まっていた。

 

「よお遊児! 俺とデュエルしようぜ!」

「いきなりだな十代! 今はやめとく。その内な!」

 

 テストの翌日から、何故か十代にロックオンされた。幻想体という珍しいカテゴリだからな。デュエル好きの十代からすれば一度戦ってみたいというのは分かる。だが原作主人公とのデュエルなどどのくらい影響を与えることやら。

 

 その上毎回会うなり挑まれてはたまったものではない。何かと理由を付けてのらりくらりと躱しているが、その内逃げきれなくなりそうだ。

 

 あとハネクリボーが毎回俺に……というより俺のデッキに反応してるんだけど! 頼むから十代に告げ口しないでくれよな。

 

 そうして向こうから絡んでくる以上避け続けるのは難しく、いつの間にか時々つるむようになっていた。一緒に食事したりとか、時折十代達の部屋にお邪魔したりとかな。流石にそれくらいなら本筋に影響を与えることにはならないだろう。

 

「あっ! 久城君こんばんは!」

「こんばんはなんだな!」

 

 翔やコアラ……隼人とも、その縁で話すようになっていった。まあ翔には最初テストの時の相手ってことで少し気を遣っていたのだが、今では普通に接している。

 

 隼人はなにぶん原作で描写されていないので性格が良く掴めなかったのだが、どうやら留年しているらしくデュエルに対して熱を失っている節が有る。ただデュエル馬鹿の十代が四六始終一緒に居るからな。何かしらの影響は受けるかもしれない。

 

「二人共こんばんは。ところでどうしたんだ? こんな暗い中で電気も点けずに」

 

 明かりときたらロウソクの火のみ。それがテーブルの上に置かれたカードを照らす様は、どことなく幻想的な雰囲気を醸し出す。

 

「ああこれか! 順番にカードを引きあってさ、引いたカードのレベル分だけ怖い話を言い合うんだ。さっき隼人が言った所で、今は翔の番。遊児もやるか?」

「つまりは怪談か。……いや。俺はやめとく。急に怪談と言われても持ち合わせがないしな。聞かせてもらうだけにしておくよ。それより何か摘まむものは無いか? どうにも小腹が空いちゃってな」

 

 不思議体験なら現在進行形で起きてるが、流石にそれは話すわけにはいかないしな。罪善さんも空気を読んで十代の前では出てこないし。

 

「それなら僕のをあげるよ。食べかけで悪いんだけど」

「悪くなんてあるもんか。ありがとうな。大事に頂くよ」

 

 翔から中身の半分ほど無くなった菓子の小袋をもらい、中身を一つ口に放り込みながら一緒のテーブルに座る。……グミだなこれは。手が汚れなくて良い。

 

「では失礼して。……この島の北の断崖に、その洞窟はあるんす」

 

 そんな語り口で始まった翔の怪談話。簡単に言うと、その奥には小さな入り江があって、月の出ている夜に入り江の底を覗くと水底に自分の欲しいカードが映る。それに手を伸ばすと腕が伸びてきて海に引き込まれるという話だ。

 

「行ってみて~! その入り江!」

 

 十代は怖がるどころか興味津々だ。隼人なんかビビりまくっているというのに。しかし怪談話までカードが絡むとは流石デュエルアカデミア。全然怖がりもしない十代に対し、翔はどこか呆れ顔だ。

 

「まあレベル4の話だったらそんなもんだろうな。……よし! 俺の番」

 

 そう言って十代が引いたのはレベル1のキラースネーク。それで十代が語りだしたのは、自分の小さい頃に夜になるとモンスターの声が聞こえたという話。

 

「でもさあ最近、また聞こえることがあるんだよなぁ」

「モンスターの声……か」

 

 ふむ。原作では小さな頃怪我をして入院中、プロデュエリストの響紅葉からデッキと一緒にハネクリボーのカードを託されて、その時初めて精霊の声が聞こえたという描写になっていたが、素養自体はその前からあったのかもしれないな。

 

「みなさ~ん。何してるんですかにゃ?」

 

 そこに急に現れたのはレッド寮長大徳寺先生。引いたカードの分怖い話をしていると翔が答えると、先生も面白そうとばかりにカードを引く。引いたカードは……レベル12。

 

 とっておきのものを言われ、大徳寺先生が語ったのは島の奥に使われていない寮があるということ。そこは以前特待生寮と言われ、なんでも何人もの生徒が行方不明になったとか。

 

「なんでも、その寮では闇のゲームに関する研究をしていたらしいのにゃ」

 

 闇のゲームっ!? 俺はその言葉に全神経を集中させる。原作無印においては千年アイテムを使用して行われ、GXの方では諸悪の根源ことトラゴエディアの力が注ぎ込まれたアイテムによって行われていた。

 

 まさかいよいよそこら辺の本筋が大きく動く前兆か?

 

「千年アイテムねぇ。でもそんなの迷信だろ?」

「真実は私も知らないのにゃ。私がこの学園に来た時には、あの寮は立ち入り禁止になってたにゃ」

 

 そしてこれを最後に怪談話はお開きに。だが十代はえらく興味を惹かれたらしく、明日の晩にその寮に行ってみようと皆を誘う。

 

「遊児。お前はどうする?」

「う~ん。……やめとくよ。そこは一応立ち入り禁止なんだろ? それには何かしらの理由があるはずだ。闇のゲーム云々というより、ぼろくなって危ないとかさ」

 

 と言ってはみたが、実際こういうのは本当にそういう何かが起きた可能性が高い。物語のお約束という奴だ。

 

 なら本筋に絡みそうな話に俺が下手に絡むと、それはそれでロクな目に遭いそうにない。原作主人公達は無事でも、それ以外のモブがヒドイ目に遭うというのは良くある話だ。

 

 事情は十代達が戻ってきてから聞けば良いだけだし、俺は明日は寮でのんびり過ごすとしよう。

 

「ああ。まあどっちにしても明日の話だけどな。今日はもう解散だ。それじゃあお休み」

「おう! お休み」

「お休みなさい」

「お休みなんだな」

 

 それでその日は解散となった。翔にはまたその内グミの礼をしないとな。何が良いかな?

 

 

 

 

 翌日。昼間は特に何事もなく過ぎていった。今日の夜に出発する都合上か、十代と翔は授業中に堂々と居眠りしている。そこはもう少し何とかならないかねまったく。実技は良くてもこれじゃあ色々マズいだろうに。

 

 そして授業も終わり、日も落ちた頃合いにいざ出発と意気込む十代。

 

「じゃあ俺達だけで行ってくるぜ! 土産話を期待しといてくれ」

「あっ!? 一応立ち入り禁止の場所だからな。あんまり派手に騒ぐんじゃないぞ。先生にバレたら大目玉だ」

「そ、そうだった! 今からでもやめようよアニキ」

「今更何言ってんだよ翔。派手に騒がなきゃ良いんだろ? それじゃあな遊児!」

「行ってくるんだな!」

 

 そうして十代一行は懐中電灯片手に特待生寮に向かって行った。隼人なんか何故かデュエルディスクまで持っていったぞ。もしや現地でやるの!?

 

 まあ俺は部屋でデッキの調整でもしようかね。地味に幻想体は上級モンスターが多いから、誰を主軸にするかで毎回悩むんだよな。

 

 

 

 

『へえ~。結局行かなかったんだ。言わなくても分かると思うけど、これは割と重要なイベントだよ』

「それは分かるけどな、どう考えたって厄介ごとの香りもプンプンしてるんだよな。どのみち俺が関わらなければ変に流れが変わることはないはずだし、流れが変わらなければ十代が何とかするだろ。主人公なんだし」

 

 ディーの光球が俺の周りを浮遊しながらそんなことを言う。毎回デッキ調整をしてる最中にやってくるのでもう慣れたもんだ。だから俺も敢えて注意を逸らすこともなく、デッキ調整に集中する。

 

「安全第一。俺は基本闇のゲームだのデュエルだのはなるべく関わらない方向で行きたいからな。あくまで十代達の近くに居るのは、そういうヤバい何かの予兆を早めに掴むためだ」

『そこは十代達に関わらないという選択肢ではないんだね』

「向こうから勝手に関わってくるんだからしょうがないだろう。……つまらない選択で悪いけどな」

『いやいや。そんなことはないさ。最後まで見てみないことには選択の是非は分からないからね。……それに、どうやらそんなことも言っていられないようだよ』

 

 ディーがどこか楽しげにそんな事を言うのを、それはどういう事だと問い返そうとした時、

 

「……うおっ!?」

 

 突如として罪善さんのカードが光り輝き、茨を被った頭蓋骨が出現する。よくディーを窘める時や俺の身を案じてくれる時に出てくるが、今回はどちらとも違う感じだ。

 

「どうした罪善さん? 何か伝えたいことがあるのか?」

 

 カタカタ。カタカタ。ガシッ。

 

 何と罪善さんが俺の服の袖を噛んで引っ張ろうとしてくる。というか触れるのっ!?

 

『精霊によっては短時間であれば実体化できるからね。実体化してる間は当然触れるし、素養の無い人でも場合によっては薄っすらと見える。まあそれなりのエネルギーが必要になるけどね。……どこか疲れたりとかしてない?』

「いや。至っていつも通りだけど」

『となると今君から吸ってるんじゃなくて、これまで無意識に君から流れていたエネルギーを貯蓄しておいて、それを使って実体化しているって所かな?』

 

 無意識でエネルギー流れてんのっ!? まあそれは驚いたが今肝心なのはそこじゃない。

 

「その貯めたエネルギーを使ってまで俺に伝えたいことがあるってことか?」

 

 カタカタ。

 

 罪善さんは袖を放し、コクコクと頷いた。そしてそのまま外に向かって移動していく。その方向は十代達が先ほど向かった廃寮の方だ。このタイミングで罪善さんのこの行動。これはおそらく、

 

『十代達の方で何かあったんだろうね。……どうする? このまま放っておくかい? 放っておいても依り代たるカードはここにあるから、時間が経てば勝手に帰ってくると思うよ?』

「……聞かなくても分かるだろ。……行くしかないじゃんこんなのっ!?」

 

 考えてみよう。このまま実体化した罪善さんが廃寮に向かったとする。こんな時間だが、一人や二人外を出歩いている生徒が居ないとも限らない。それが空に浮かぶ光る頭蓋骨を目撃したらどうなるか? たちまち新しい怪談話の出来上がりだ!

 

 おまけに罪善さんは、この前の月一テストで顔が割れている。ただでさえ珍しいカテゴリのカードの怪談話。どう考えたって俺の方に話が来て面倒なことになる。

 

 この状況をどうにかするには、即行で罪善さんに追いついて実体化を解除してもらい、罪善さんが伝えたがっている何かを確認してとっとと戻る。それしかない!

 

 俺は慌てて身支度を整え、念のためデュエルディスクも持って罪善さんの後を追いかけたのだった。

 




 宙に浮かぶ頭蓋骨って充分怪談ですよね。それを避けるべく、遊児は遅れて始動します。……間に合うでしょうかね?

 ちなみに無意識のうちエネルギーが流れているのは罪善さんを含め数枚、精霊化一歩手前のカードのみです。貯まり切ったら自力で実体化可能になります。

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