マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
「タニヤっ!?」
倒れ込んだタニヤに向けて三沢が慌てて駆け寄る。他の面子も三沢を追って観客席から降りようとするが、
ガルルルル!
「うわっ!? またコイツかよ!?」
先頭を行く十代の前に、バースが素早く立ち塞がって威嚇するように唸り声を挙げる。だが、その視線はチラチラと主人の方を向いている。
「悪いな。ここから先に進んで良いのは三沢だけだ」
「バランサー」
俺もバースの横に立って他の面々を押し止める。……バースも本来ならいの一番に駆け寄りたい所だろうが、ほんの少しだけ我慢してほしい。別れぐらいは恋人同士二人っきりでないとな。
まあ調整役として聞き耳程度は立てさせてもらうが。俺はそっと首だけ後ろを振り返り、微かに聞こえる声に耳を澄ませる。
「タニヤ。俺は……」
「……ふふっ! 見事だったぞ三沢。これまで私は一族に見合う強い男を探してきたが、最後の最後で出逢えたようだ。最高のデュエリストに」
三沢の手を取ってタニヤがゆっくりと立ち上がると同時に、その身体を小さな粒子が覆い隠す。そして、その粒子が晴れた後に残ったのは……風格漂う一頭の白い大虎だった。
「……虎!?」
『デュエルに敗れ、鍵を奪うことが不可能になった以上、契約不履行と見なされたようだな。……三沢には言えなかったが、これが本来の私。精霊としての私の姿なのだ』
虎の姿のまま、タニヤの声が直接心に響いてくる。声帯が変わって人の言葉を喋ることが出来なくなったのだろう。
『婿探しには人の姿の方が何かと便利でな。精霊の世界では自在に人の姿も取れるのだが、こちらの世界では実体化するだけでも力を消耗して人の姿を取り続けることはなお難しい。なのでセブンスターズに所属する際、その闇のアイテムを契約の一部として借り受けたのだ。人の姿を保つためにな』
タニヤの視線の先には、彼女が人の姿の時に手に着けていたウジャド眼の刻まれた手袋が落ちていた。あれか。妙な意匠だとは思っていたが闇のアイテムだったとは。
『だがこうして負けた以上、契約が切れて人の姿を保てなくなったわけだ。……騙していてすまないな三沢よ』
「……知っていたさ。タニヤが精霊だということは。虎だとは分からなかったがな」
『それは……なるほど。バランサーめ。口を滑らせたな』
おっと。タニヤがこっちにじろっと視線を向けてきたので素知らぬフリをする。こういう時は仮面は便利だ。
「詫びるのはこっちだ。タニヤが精霊であること。そして真剣勝負の結果、もし勝ったらもうタニヤと離れ離れになること。
三沢は黙って頭を下げる。実際三沢はあのまま何もしないという選択肢もあった。
アニメの流れなんかを考えると、仮にその場合でもいずれ十代辺りに当たってタニヤが負ける可能性は高く、いつかは生活は破綻していただろう。しかしそれまでは甘く穏やかな暮らしをすることは出来たはずだ。
実際タニヤの事を話したのは、それも踏まえて決めてほしかったということもある。
だが、三沢はそのままでいることを許せなかった。恋に溺れ、想いに呑まれてデュエルに向き合えなかったことを恥じ、相手がタニヤだからこそもう一度真摯に向き合って戦うことを選んだ。
その気持ちを止めることは、どうしてもできなかった。
頭を下げ続ける三沢を、タニヤは何も言わずじっと見つめていた。そして、
『良いのだ。三沢よ。あの瞬間、お前はまさしく戦士だった。戦士であり、私の婿であり、最高のデュエリストだった。ならば、この敗北は寧ろ本望だ。……ああ。そろそろ、行かねばならないらしい』
その言葉と共に、タニヤの身体が少しずつ透けていく。それを見た十代達も、ようやく今は手を出す雰囲気じゃないと察したのか勢いが弱まる。……もう良いだろう。
俺は最後に大きく腕を広げて十代達を制止すると、後方で様子を窺う大徳寺先生にそっと目配せをしてバースと共にタニヤの下に駆け寄った。
『バランサーか。お前にも世話をかけたな』
『それが俺の役目だからな。……行くのか?』
『ああ。少しずつ実体を保つのも難しくなってきた。敗者はただ去るのみだ。……バース!』
ガルッ!
一声吠えると、従順なる虎は主人の傍らに寄り添うように歩み出る。今にして思ったが、これまでバースが三沢に対して微妙に距離を置いていたのは、嫉妬などもあったのかもしれない。
タニヤは虎としてその四肢で強く地面を蹴ると、ザッと闘技場の出口へと歩き出す。それに付き従うバース。
『さらばだ。三沢。……私の婿よ。これからも強くあれ!』
言葉少なにそう言い残し、消えつつある身体をものともせずに歩みを進めるタニヤ。そうして彼女が闘技場を去るのを、一同は静かに見守って……いや、
「タニヤっ!」
『三沢!?』
一人だけ違った。三沢はタニヤに駆け寄り、そのまま力強く抱きしめたのだ。
「例え精霊であろうともっ! 人でなかろうともっ! 俺の想いは変わらない。……大好きだ。タニヤっち。心の底から」
『……ああ。私もだよ。三沢っち』
タニヤもまた、凶悪ながらもどこか優しく笑いかけた。
もうすっかり陽も落ち、辺りを暗闇が包む。
『さて。これからどうする?』
闘技場を出た後、俺はもう大分姿の薄れてきたタニヤとバースに尋ねた。スパイではあるが一応調整役として、最後までしっかりこなさないとな。
『元の世界に戻るだけだ。契約は敗北という形ではあるが終了した』
ちなみにタニヤが人の姿を保つために持っていた手袋は、俺が預かっている。貸与という形だった以上、おそらく元々の持ち主である影丸理事長に返すのが筋だろうからな。
『この度の闘いは実に良きものだった。お前や三沢のような強き男達に出逢えたからな!』
『だからと言って、俺は婿にはならないがな。これ以上恋敵が出たら、バースもうかうかしていられないだろう。なあ?』
俺の軽口に、バースは低く唸るだけで返した。……さて。そろそろお別れかな。そこに、
「フフッ! ざまあないわね。男に絆されるなんて。ああ。アナタは最初からその気だったものね。この結果も当然という所かしら?」
不意に目の前に大量のコウモリが現れたかと思うと、その中心に黒い霧と共に妖艶な美女が現れる。セブンスターズの一人カミューラだ。
『ほう。誰かと思えば、いつも自身の僕にばかり働かせる女主人の直々の登場とは珍しい。夜の散歩にでも来たか? それとも敗者を笑いにでも来たか?』
「いいえ。私はただアナタにお礼を言いに来たの。私のために負けてくれてありがとう。これでまた大分相手の手の内が分かったわ。もうすぐ惨めに消えてしまうアナタに礼を言う機会なんてもうないから、こうしてわざわざ直接足を運んだって訳。感謝してほしいわね」
主人への無礼に飛びかかろうとするバースだが、タニヤ自身が軽く制止する。
『それはそれは、臆病を慎重という言葉で塗り固めたコウモリ女が礼とはな。誇りあるアマゾネスの戦士としてありがたく受け取るとしよう』
怖っ!? 互いに笑みこそ浮かべてはいるが、目元は全く笑ってない。だが、
「もうすぐ消えるアナタが何を言おうとそれは敗者の戯言。吸血鬼一族の末裔にして寛容な私は聞き流してあげましょう。……ふん。人間なんかにうつつを抜かすからこうなるのよ」
そう吐き捨てるカミューラの表情は、一瞬どこか寂しさと怒りを湛えていたように見えた。
『まったく。見送りに来たのが最後まで憎まれ口を叩くお前と言うのがまた。……まあ良い。バランサーよ。後は頼むぞ』
『ああ。この戦い。最後まで俺がしっかりと見届けよう。三沢の事もな』
『感謝する。……では、今度こそさらばだ!』
その言葉を最後に、誇り高きアマゾネスの虎達は自身の世界へと帰っていく。
タニヤたちが消えた後には、そこには最初から何もなかったかのようだった。だが、ああいう熱い奴は嫌いじゃなかったな。残るは、
『それで? わざわざタニヤへの別れだけ言いに来たって訳もないだろう? お前が出てきたということは……次のメンバーはお前か?』
「いいえ。私はまだ見に徹しさせてもらうわ。動くのはもう少し情報が集まってから。……それに、次に動く者はもう決まっている」
『へぇ? それは誰だ? 調整役としては情報を知っておきたいところだな』
こっちに連絡が一切なかったことは厄介だが、今からでも調整できるだろうと気を取り直して尋ねる。だが、
「教えると思って? 知りたいのならアムナエルか理事長にでも聞くことね。私はまだアナタの事を信用していないから。人間なんて種は信用できないのよね。……ではそういう事で。ごきげんよう!」
最後に高笑いを響かせながら、カミューラは黒い霧となって姿を消した。こういうとこは普通に吸血鬼だな。……ちなみにコウモリが残ってこちらを監視していたので追い散らしておく。
『ふぅ。お疲れ様』
『まだ出てくるなディー。コウモリが残っているかもしれない』
『大丈夫。もう近くには気配は無いよ。……どうだった? タニヤが居なくなった感想は?』
ディーも意地悪なことを聞いてくるものだ。潜在的な敵とは言え、数日一緒に行動し、共に計画を練った間柄だぞ。
『少しだけ……寂しくなるな』
俺はそこで軽く頭を振って気持ちを切り替える。いかんいかん。こんなしけた顔じゃ、タニヤとレティシアに叱られる。それに三沢はもっと辛い筈だしな。
さあ。次は明日の万丈目ブラザーズとの学園を賭けた戦いだ。次のセブンスターズが来る前に、頑張って切り抜けてくれよ万丈目!
予想以上に長くなりましたが、これでタニヤ編は終了となります。
タニヤとカミューラの絡みはあくまで想像ですが、真っ向勝負が好きなタニヤと搦め手を好むカミューラなので、普通に喧嘩するんじゃないかと考えたらこのような展開になりました。
次回は三日後投稿予定です。