マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
タニヤとの戦いから一夜明けて。
デュエルアカデミア本棟。その特設リングにて、二人の男が対峙していた。万丈目と、万丈目ブラザーズの長兄長作だ。
開始までまだ少し時間があるが、観客席はそれなりに生徒が入っている。それもそのはず、この一戦の結果次第で学園の運営が大きく変わることになる。自身の目でそれを見届けたいと思う者は多いだろう。
「三沢は……来ていないか」
ざっと観客席を確認したが、十代達や明日香、カイザーの姿は在っても三沢の姿は見当たらなかった。
『昨日の今日だからな。まだ少し辛いのだろう。肉体的にも……精神的にもな』
『三沢お兄ちゃん……昨日とっても悲しそうな顔をしてたの』
他の人には見えないが、葬儀さんやレティシアなどの幻想体達も空いた席で試合を観戦していた。見える十代なんかはこっそり手を振っていたりしたけどな。
笑顔がなかったことにレティシアは少ししょんぼりしていたが、テディや無理やり連れてこられたネクに慰められているから一応落ち着くだろう。
さて。三沢は後でフォローの一つでもするとして、今は切り替えて目の前の試合を見ないとな。
「ハンディに怖気づかずによく来たな。逃げると思ったが、その勇気だけは褒めてやるぞ。準」
長作は流石政治家らしく、立ち姿もしっかりしている。人前に出る機会が多いことで、この程度の観客など意にも介さないという事だろう。
だが対する万丈目も決して負けていない。兄からの圧の籠った視線を受け止めて平然としている。以前のように気負っているかと思ったが、どうやらその心配はなさそうだ。
「兄さん。デュエルの前に宣言しておく。俺のデッキは攻撃力500未満という約束だったが」
そう。それが初心者だという長作から提示されたハンディだった。だが、
「
「なっ!?」
いきなりの爆弾発言に観客席がどよめく。そりゃそうだ。わざわざ相手のそれよりさらに厳しい縛りをかけてきたのだから。
「そんなの聞いてないぜ」
「まさか万丈目君。本当に負けるつもりじゃ?」
「バカなこと言うなよ」
観客席で見守る十代達も口々に不安をこぼす。確かに大局的に見れば、ここで万丈目がわざと負ければ学園の運営は万丈目グループのもの。一部の生徒が噂していた様に、万丈目は労せずして実質学園のトップになれる。だが、
「ハハッ。万丈目も面白いことを考える。流石は俺の推しだ」
「久城君。なんでそんなに余裕なんすか?」
「決まってる。万丈目が、そんなおこぼれを狙うみたいなセコイやり方で登り詰めようなんてことはしないって信じているからさ」
これは俺の戦いだと、デッキ構築などは万丈目が一人でやっていたからな。内容までは俺も分からない。まあ攻撃力0まで言いだすとは流石に思っていなかったが、それでも言うってことはそれなりの勝算があるってことだ。
いくら初心者とは言え、ここまで言われたら舐められていると思って激昂してもおかしくない。実際リングの外で見ている次男の正司なんか、本人じゃないのに顔を赤くしている。だが、
「…………ふっ! 面白い。来い準!」
長作は一瞬顔を伏せ、すぐに怒りを見せることなく兄弟よく似た不敵な笑みを浮かべてディスクを構えた。万丈目もやる気十分。自身もまた構えを取る。
おそらくアニメ的な流れからして、キーカードは古井戸で手に入れたおジャマ達。あれは攻撃力0だからピッタリだ。さあ。頑張れよ万丈目!
「「デュエル」」
万丈目 LP4000
長作 LP4000
そうして始まったデュエルだが、本人も言ったように万丈目のモンスターは攻撃力0。よって全て守備表示で出していくのだが、
「ドロー。私は魔法カード『融合』を発動! 『ロード・オブ・ドラゴン』と『神竜 ラグナロク』を融合。出でよ『竜魔人 キングドラグーン』っ!」
キングドラグーン ATK2400
「これって全部っ!」
「パラレルレアのカードか!」
出るわ出るわ。長作のカードはどれも見た目が輝かしい高レアのカードばかり。必ずしも高レアが強い訳ではないが、それでも強いカードが多いことに変わりはない。
「キングドラグーンの効果発動。1ターンに1度、手札からドラゴン族1体を特殊召喚できる。出でよ『エメラルド・ドラゴン』」
エメラルド・ドラゴン ATK2400
「いきなり攻撃力2400のモンスターがっ!?」
「2体か」
融合で呼び出された半人半竜のモンスターキングドラグーンが、効果でさらに仲間を呼び、場を高攻撃力のモンスターで埋めていく。
「行けキングドラグーン。そして、エメラルド・ドラゴン!」
「ぐあああっ!?」
万丈目 LP4000→1600
たちまち万丈目のモンスターは破壊され、万丈目は窮地に立たされていった。
「ターンエンド」
「あの男。本当に初心者なのか?」
当然のこととばかりにエンド宣言をする長作。その圧は初心者とはとても思えない。
「ぐっ!? 俺のターン。ドロー。俺はモンスターを裏守備表示で召喚。ターンエンド」
「私のターン。私はサファイア・ドラゴンを攻撃表示で召喚! 続けてキングドラグーンの効果により、手札からダイヤモンド・ドラゴンを特殊召喚!」
サファイア・ドラゴン ATK1900
ダイヤモンド・ドラゴン ATK2100
長作の場に眩いモンスター達が展開される。これこそある意味以前の万丈目の戦い方。高攻撃力のモンスターを展開し、そのパワーで敵を制圧する王道。だが、
「兄の情けだ。せめて苦しませぬよう、このターンで勝負を着けてやる。キングドラグーンの攻撃!」
「『薄幸の美少女』は、バトルによって墓地に送られた時、相手モンスターのやる気をなくし、強制的にターンを終了させる」
対する万丈目のデッキはいわば強者に対する弱者の戦い方。攻撃力が低い代わりに多彩な効果を持つカードにより、猛攻を紙一重でいなしていく。
「くっ!? 何とか凌いだつもりだろうが、いつまでも保つかな?」
万丈目 LP1600 手札5 モンスター なし 魔法・罠 なし
長作 LP4000 手札1 モンスター キングドラグーン エメラルド・ドラゴン サファイア・ドラゴン ダイヤモンド・ドラゴン 魔法・罠 なし
「俺のターン。俺は『そよ風の精霊』を守備表示で召喚。さらに永続魔法『暗黒の扉』を発動する。このカードがある限り、お互いにモンスター1体でしか攻撃することが出来ない」
そよ風の精霊 DEF1800
「上手い! これなら相手がいくらモンスターを出そうが関係ない」
「これならしばらくは持ちこたえられるぜ!」
観客達の間に少しだけ安堵の雰囲気が漂う。実際防御カードとしては良い手だ。ただ、
「それもその魔法を破壊するカードを引くまでの間の事。私のターン。行けキングドラグーン」
相手の攻撃で万丈目のモンスターは着実に減らされていく。時間稼ぎにはなっているが、それだけじゃこの状況は打破できない。
「俺のターン! 『またたびキャット』を召喚。ターンエンド」
またたびキャット DEF500
「私のターン。……クックック。準よ。どうやら次のターンで私の勝ちは決まりのようだ。行けキングドラグーン」
長作はまた1体万丈目のモンスターを破壊すると、カードを1枚伏せてターンを終了する。
「あの伏せカードはっ!?」
「十中八九。暗黒の扉を破壊するカードだ」
そして次の万丈目のターン。その予想は的中する。
「俺のターン」
「この瞬間、罠発動! 『砂塵の大竜巻』が、お前の暗黒の扉を呑み込むぞ」
長作が伏せていた魔法・罠を1枚破壊する竜巻が、暗黒の扉を風で巻き上げて破壊する。
「万丈目の最後の砦がっ!?」
「次のターン。総攻撃が来るぞ」
「終わったな。これでこの学園は万丈目グループのものだ」
焦る十代達に対し、正司は勝利を確信したのか嫌な笑いを浮かべている。しかし、万丈目の瞳はまだ闘志を失っていない。
「俺は魔法カード『苦渋の選択』を発動! デッキから5枚のカードを選び、相手は1枚選択する。そのカードを手札に加え、残りは墓地に捨てる。俺が選ぶカードはこれだ」
サクリファイス
キャッスル・ゲート
サンダー・クラッシュ
ものマネ幻想師
王立魔法図書館
げっ!? ここで苦渋の選択とは。簡単に墓地肥やしが出来るから現実だと禁止カードに指定されたカードだぞ。
「次のターン。私の総攻撃は決まっているが、念には念を入れ……モンスター以外のカード『サンダー・クラッシュ』だ」
長作は唯一の魔法カードを選択する。キングドラグーンで防げるとは言え、万が一相手のモンスターを奪うサクリファイスや、相手モンスターをコピーするものマネ幻想師が出てきたら少しだけマズイ。その選択も間違いじゃない。だが、
「その選択はまさに俺の読み通りだぜ。俺は魔法カード『魔の試着部屋』を発動! ライフを800払い、デッキの上からカードを4枚めくる。そして、その中にあるレベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する」
万丈目 LP1600→800
万丈目は呼吸を整え、デッキからカードをめくって確認する。そこにあったのは、
「おれは、このおジャマ三兄弟を特殊召喚」
『『『どうも~!』』』
おジャマ・イエロー ATK0
おジャマ・グリーン ATK0
おジャマ・ブラック ATK0
え~マジかよ!? 何この鬼引き? ピンポイントでおジャマ3体引き当てやがったよ!
「何かと思えば、そんな雑魚共に次のターン、私の光輝くモンスターの攻撃を受けきれるものか」
「こいつらを馬鹿にすることは、この俺が許さん!」
『『『ア、アニキ~!』』』
明らかにおジャマ達を見下す長作。まあそれも分からなくはない。こいつら見た目がキツイし能力もあまり高くないからな。だが万丈目はそれを阻む。
「確かにこいつらの攻撃力は0。見かけも性格も間違いなく最悪。だが、俺はこいつらに教えてもらった」
「何を?」
『兄弟の絆をさ!』
『力を合わせれば』
『何だってできるってこと!』
おジャマ達が口々にそう吠える中、
「
万丈目のあんまりな言葉におジャマ達もずっこける。上には上がいるというのは良く聞くが、まさかそう考えるとは。……う~む。なまじ間違っていないから反論しづらい。
「黙れ準っ! お前も少しはやるようになったようだが、それでも落ちこぼれは所詮落ちこぼれだ」
「ならば見せてやる。落ちこぼれの意地を! 魔法カード発動! 『おジャマ・デルタ・ハリケーン』! 行けっ雑魚共!」
『イエロー』
『ブラック』
『グリーン』
『『『喰らえ必殺! おジャマ! デルタ! ハリケーンっ!』』』
おジャマ達が身体を寄せ合って高速回転し、長作の場に突撃していく。その結果、
「うおおおっ!? バカな!? 俺のモンスターが……全滅だとっ!?」
「見たか落ちこぼれの力を。おジャマ・デルタ・ハリケーンは3匹のおジャマが場に揃った時、相手フィールドのカードを一掃できる」
攻撃力0だろうが、使い方次第で強力モンスターをも撃破できる。これもまた一つのロマンだ。
『『『俺達が居る限り、万丈目サンダーは無敵だ!』』』
そう言ってドヤ顔をするおジャマ達だったが、
「攻撃力0の役目は終わりだ。魔法カード発動! サンダー・クラッシュ」
『何? この邪魔なカード。サンダー・クラッシュ?』
『え~。自分の場の全モンスターを破壊する。相手に破壊した数×300ダメージを与える……だって』
『自分の場のモンスターって……俺達じゃんっ!?』
「くらえっ!」
すぐに効果で破壊されてしまったのにはちょっと合掌する。こういうとこ万丈目は容赦ないからな。
長作 LP4000→3100
「ぬううっ!? 良い気になるなよ準。モンスターが全滅しようとも、私の優位に変わりはない。振り出しに戻っただけだ」
カードの雷撃を受けて僅かに身体がふらつくも、長作はすぐさま体勢を立て直して次のターンに向けて切り替える。その切り替えの早さは立派なものだ。だがな。今の万丈目が
「いいや。このターン。俺にはまだ通常召喚が残っている。……待っていたんだ俺は。墓地にこれだけ多くのモンスターが揃うのを。出でよっ! 『カオス・ネクロマンサー』」
カオス・ネクロマンサー ATK0
万丈目の場に、不気味な笑みを張り付けた死霊術師が出現する。……なるほど。この手が有ったか。
「このカードの攻撃力は、自分の墓地に眠るモンスター×300となる。俺の墓地のモンスターは11体。よって攻撃力は……3300だっ!」
カオス・ネクロマンサー ATK0→3300
万丈目の墓地に眠るモンスター達。それが全て半透明の幽体となってネクロマンサーの下に集結する。よく見たら今さっき破壊されたおジャマ達も居るな。自分から万丈目がおジャマを破壊したのはこれを狙っていたらしい。
「カオス・ネクロマンサーの攻撃! 『ネクロ・パペットショー』!」
「バカなっ!? ぐ、ぐふあぁっ!?」
魔導士の号令で幽体達が一斉に長作に襲い掛かり、見事そのLPを削り切った。
長作 LP3100→0
万丈目WIN!
という訳で兄弟対決は原作通り万丈目の勝利となりました。
基本的な流れは原作と同じですが、事の顛末だけは少し違う予定です。
次回も三日後投稿予定です。
個人的に幻想体と絡みがありそうなキャラクターは誰? (既に精霊が見える遊児、十代、万丈目、茂木は除く)
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丸藤翔
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天上院明日香
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前田隼人
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三沢大地
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クロノス教諭