マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
今回はちょっと独自設定タグが仕事します。
その日の夜。
「……う~む」
俺は万丈目の部屋の前にまで来て中の様子を窺っていた。それと言うのも、今日の万丈目の勝利を祝うパーティーの中で、万丈目がどこか浮かない顔をしていたことに気が付いたからだ。
主役だというのに早々に席を立って部屋に戻っていくのが気にかかり、それとついでに勝利のお祝いと
「さっきからずっとベッドに仰向けになって険しい顔してんだよな」
ドアの隙間から見えるただ事ではない雰囲気。この中に飛び込んでいくのは些か勇気が要る。
今日は出直すべきか? ……いや。万丈目の事だから、明日には素知らぬ顔で普通に過ごしてそうだ。ならば、
コンコンコン。
「万丈目。入るぞ」
「わっ!? 急に入ってくるな! ……何の用だ?」
万丈目は一瞬驚いた様子をしたが、すぐに先ほどの険しさを覆い隠して普通に接してくる。やはり聞くなら今しかないか。
俺は万丈目に勧められて椅子に腰掛ける。
「いや、大したことじゃないんだ。まだちゃんとしたお祝いを言ってなかったと思ってさ。勝利おめでとう」
「……ああ。当然のことだがな」
その一瞬、万丈目の顔が曇ったことに気が付く。どうやらそのことが原因らしいな。
「勝った割にはあんまり嬉しそうじゃないな。……何かあったか?」
「何故お前にそんなことを言わねばならん」
「ごめんな。さっきパーティーで様子が変だったから一ファンとして気になってさ。それにさっき、ドアの隙間から万丈目が険しい顔して横になっているのを見てしまって」
「……ったく。お節介焼きめ」
万丈目は頭をガシガシと掻くと、そのままベッドに不機嫌そうに寝転がる。
「……今回の件。結局長作兄さんの思惑通りに事が運んだと思っただけだ」
「思惑通り? 万丈目は勝ったじゃないか?」
「確かに俺は勝った。だがあの時の長作兄さんの顔を見たか? あの時長作兄さんは……
そう言えばそうだったな。負けて正司に肩を貸してもらっている時、どこかあの人は笑っているようにも見えた。
「勝とうが負けようが、長作兄さんにはどちらでも良かったのだ。勝てば当初の予定通り自分達が学園を手に入れ、カードゲーム界への足掛かりとする。仮に負けたとしても、ハンディ戦に勝った
「……なるほど。そういう事か」
元々万丈目ブラザーズは、万丈目を後押ししてカードゲーム界のスターに仕立て上げるつもりだった。万丈目自身に過度の支援を断られたとはいえ、今もまだ諦めてはいなかったという事だろう。
ちなみに勝っても負けてもプラスになるように事前に動くこと自体は悪じゃない。寧ろ政治家ならそれぐらいの根回しは普通だろうから責める方がお門違いだ。
「学園を守ったヒーロー。俺の評判は学園内でうなぎ上りだ。だが……これは全部
「それは違うんじゃないか?」
万丈目のどこか悲痛さすら感じられる声に、俺はたまらず待ったをかける。
「少なくとも、お前の兄さんは負けるつもりはそこまでなかったと思うぞ。あくまで負けても良い条件だったってだけで」
「何故分かる?」
「本当に負けるつもりなら、
俺の言葉に万丈目は押し黙る。
そう。あの長作のプレイング。あれは決してただの初心者の動きじゃなかった。モンスターのパワーにやや頼りすぎる気はあったが、それでも融合からの大量展開は悪くなかった。
「政治家ってのは多忙なんだろ? それでもちゃんとこの日のために、
「長作兄さんが……俺と向き合うために練習を? いや、正司兄さんも長作兄さんも俺の事を落ちこぼれだと」
「ああ確かにそう言ったな。だけど長作はこうも言ったじゃないか! 『お前も少しはやるようになった』と。僅かにだけど、確かに万丈目の事を認めているんだよ。万丈目が勝った時に笑ったのだって、自分の思惑が上手くいったからじゃない。お前が
「久城……」
もちろん今言ったことは全て想像でしかない。本当に万丈目の考えた様に、どこまでも打算だけで起きたことって可能性もある。
それでも、全てが全て万丈目の思うような悪いことばかりだとは思えないし、思いたくはないんだ。弟の成長を期待したり喜んだり、打算ではない何かがあると信じたいんだ。
仲はアレかもしれないが、なんだかんだ兄弟なんだから。
『おいら達もそう思うのよ。万丈目のアニキ』
『『うんうん』』
「お前ら」
そこにフッと現れたのは、今日のデュエルで大活躍したおジャマ達だった。
『あの時も言ったけど、兄弟の絆ってとっても強いのよん!』
『そうそう。口では色々言っていても』
『弟の事を気にしないお兄ちゃんはいないんだよ!』
同じく兄弟だからこそ、この3体も黙っていられなかったのだろう。そしていつの間にか、部屋中に万丈目が拾って来たカードの精霊達が静かに浮かんで心配そうに万丈目を見つめていた。
そんな奴らを前にして、
「……はぁ。まったく。お節介焼きは久城だけではなかったか。……良いだろう。俺も少しは兄さん達の事を信じてみるとしよう」
根負けしたように、それでいて少しだけどこか気負いが抜けたかのように、万丈目はそうポツリと呟いた。
そして、
『『きゃはは!』』
『『わあわあ!』』
「え~いやかましいっ! テメエら。いつまでここに居るつもりだ!」
「そうだぞ。いくら聞こえないとは言えもう夜だしな」
さっきまで少し微笑んでいた万丈目だったが、今はカンカンになって怒り狂っていた。それと言うのも、さっきカードの精霊達が半透明になって出てきたまま一向に戻らず騒ぎまくっているからだ。
精霊の声は素養のある者にしか聞こえないので近所迷惑にはなっていないが、このまま騒がれてはその内十代も何事かとやって来て、
「さっきからどうしたよ? 俺だけに聞こえる声が響きまくっているぞ?」
噂をしたら影だ。もうその十代本人がやってきたよ。
『良いじゃない! 例え攻撃力0でも、オイラ達だって役に立つって分かってくれたんでしょ?』
『『そうそう!』』
「え~い。俺があのデュエルで分かったことはな、貴様らは本当に使えないことだっ! ただでさえ部屋が狭いんだ。皆さっさと戻りやがれぇ~っ!」
能天気なおジャマ達の言葉に万丈目の叫びが響き渡る。一部の精霊はもうベッドの一部にまで侵食していたからな。怒るのも無理はない。精霊達も流石にやり過ぎたと思ったのか、最後に挨拶をして次々にカードの中に帰っていった。
「ふぅ。やっと落ち着いたか。世話をかけたな久城。礼を言うぞ。……何見てる十代。もうこれで静かになったからさっさと帰れ」
「おっ! 万丈目もさっきより顔色が良くなったじゃないか! 遊児と何の話をしてたんだよ? 俺にも教えてくれよ!」
「うおおおっ!? じゃれつくなこのバカ!」
どうやら十代も万丈目の様子に気が付いていたらしい。親し気に肩を組もうとする十代を追い払おうとする万丈目。
うん。実に平和だ。ひとまず次のセブンスターズが来るまではこの平和を楽しみたいところだな。……ただ、
「ところで万丈目。あと丁度良いから十代にも聞きたいんだが、明日ちょっと茂木の所に行こうと思っているんだけど空いてるか?」
「俺は空いてるぜ!」
「まあ授業の後なら空いているが。……久城。もしやこのバカ共を茂木の所に押し付ける算段か? それなら個人的には賛成だが」
そう言って万丈目はカードの方に視線を向けた。すると、カードの精霊達が涙目になって懇願するように万丈目を見つめている。
「この通り。嫌がる奴が大半のようだ。俺も一度引き取った以上最低限の責任がある。……こいつらが自分から出て行くならまだしも、俺様から捨てるようなみっともない真似は出来んな」
「まあ茂木の所に残る残らないはあくまで精霊達の自由意志に任せるとして、実は個人的に厄介なことが起こってさ。……
俺の言葉に十代は自然体ながらも興味深そうに、万丈目は一気に身を引き締めて無言のまま続きを促す。
「ああ違う違う! そこまで危険って訳でもないんだ。じゃなかったらいくら何でも精霊化したばっかりの奴を置いて俺だけここに来るわけないだろ?」
「……それもそうか。では何でわざわざ茂木の所に?」
「それなんだけど……こればっかりは説明するより見てもらった方が良いかな。済まないが部屋まで来てくれないか」
俺はそう言って二人と一緒に部屋に戻る。すると、
「うんっ!? 中から何か話し声が聞こえるな」
「話し声? 留守番に幻想体達でも置いているのか?」
「ああ。新しく出たのはちょっと特殊でな。
俺は扉を開けて部屋に入る。そこに待っていたのは、
『あっ! お帰り遊児お兄ちゃん! 十代お兄ちゃんに黒っぽいお兄ちゃんもこんばんわ!』
良い子で留守番していたレティシアと、
『ああ。誰か来たようだね。……坊や、坊や。古い物語を聞きたいかい?』
共に現れたロッキングチェアに揺られて腰掛ける、一人の老婆の姿だった。
万丈目と万丈目ブラザーズの話は一応ここで終わりとなります。遊児や万丈目の考察が当たっているかどうかは読者の判断に委ねますが。
また少し日常を挟んでからセブンスターズ編に戻ります。原作でも一人倒れたら少し間がありましたからね。
次回は三日後投稿予定です。
なお、今回ちょっとしたアンケートがあります。どうぞお気軽に皆様の考えを述べていただければ幸いです。
個人的に幻想体と絡みがありそうなキャラクターは誰? (既に精霊が見える遊児、十代、万丈目、茂木は除く)
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丸藤翔
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天上院明日香
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前田隼人
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三沢大地
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クロノス教諭