マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

126 / 235

 今回も独自設定がちょろっと仕事します。


読み聞かせも楽じゃない

 

 万丈目の戦いから一夜明けて。俺は十代と万丈目と一緒に茂木の寮にやって来ていた。

 

 幸い茂木は急な連絡にも快く応じてくれたが、「次は僕の方から誘いたかったんだけどなぁ」と言っていたので少し申し訳なく思う。

 

「それで? あの精霊が君が問題にしていたカード? え~っと名前は」

「『幻想体 オールドレディ』だ」

「オールドレディ……名前の通り、見かけはただのお婆ちゃんだね」

 

 茂木はそう言って視線を隣の部屋に向ける。そこには、

 

『……これは、ある暖かい心を持った男の子と女の子。そしてそんな暖かい心を凍らせようとした雪の女王の物語。ある所に、カイとゲルダという男の子と女の子が住んでいたのさ』

 

 皺だらけの白い肌に黒く落ちくぼんだ瞳。やや色褪せた青色のスカートと紫色のブラウス。そして頭には白いボンネットというかなり典型的な西洋風の姿の老婆。

 

 そのオールドレディがリビングの片隅に陣取り、揺らり揺らりと椅子に揺られながら物語を話し聞かせていた。

 

 聞き手は茂木の寮にたむろしていたカードの精霊達。そして、

 

『ねえねえお婆ちゃん! それが終わったら今度はこのお話も読んで!』

『まあ待て我が運び手よ。テディは別のが良いらしいぞ。さっきから私の腕を引っ張ってあたたっ!? テディ力強い強いっ!? 千切れるっ!?』

〈リペアプロセススタンバイ。千切れてもすぐ直せるよ〉

 

 うちの幻想体達も、レティシアを始め次の読み聞かせの本を準備している始末。というか今の状態で、オールドレディは本もなくソラで読み聞かせているけど次の本要るの?

 

 心なしかオールドレディも喜んでいるようで、近くに寄ってきたレティシアを軽く撫でながらお話を語り続けている。

 

「見た所ただお話を読んでいるだけみたいだけど。それだけにしては僕の所に急に押しかけるというのは珍しいね」

「確かにオールドレディはただ話をしているだけなんだよな。でも」

「ああ。あの婆さんは中々に厄介だぞ」

 

 万丈目が俺の言葉を引き継いで警戒させる。何故なら、

 

「ああ。万丈目の言う通りだ。何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()からな」

 

 

 

 

 精霊達を部屋に残し、俺達は少し離れた部屋に移動する。……よし。ここならオールドレディの声は聞こえないな。

 

「じゃあ話の続きを。気分が悪くなるって言うのは?」

「言葉通りの意味だ。実際に昨日聞いてみた結果、俺の場合は二十分ほど。十代と万丈目はもう少し早く十分くらいで少し気分が悪くなってきた」

 

 どうたら普通の人間にはオールドレディの話は毒になるようだった。俺の場合は軽く頭がクラっとなって、十代や万丈目は少し頭痛がしたらしい。

 

 ちなみにこれに話の内容は関係がない。実際に昨日試した結果だが、話の内容が笑い話だろうが怖い話だろうが恋愛ものだろうが、長く聞いていると気分が悪くなってくるのだ。

 

 ちなみに罪善さんの光を浴びて数分ほど横になっていればすぐに収まる。罪善さんホント有能だな。

 

「他の幻想体やカードの精霊は平気みたいなのが不幸中の幸いだ。寧ろ評判が良いくらいで、あの通り大人気だ。それで……ここからが本題なんだけど、しばらくああしてここの精霊達に話を聞いてもらってくれないか?」

 

 最悪こっちの精霊達が嫌がるようであれば頼まないつもりだったが、大分気に入られているようだしな。

 

「精霊達は喜んでいるみたいだし別に良いけど……何でそこまで話をさせるのにこだわるの? 単に物語を抑えてほしいと頼めば良いじゃない。言うことを聞いてくれないとか?」

「いや……割とあの婆ちゃんは良い奴だぜ。ハネクリボーも普通に懐いてたしな」

「読み聞かせの腕も一流だ。言葉の抑揚、間のとり方、場面に合わせた絶妙な声量の調節。どれをとっても申し分ない。……気分が悪くなることさえなければ俺も雇っても良いと思えたほどだ」

 

 茂木が疑問に思うのももっともだ。ただ二人の言うように、オールドレディ自身の技量も気質も問題はない。特に技量に関してはあの万丈目がお墨付きを出すくらいの腕だからな。唯一の問題は、

 

「一番の問題は、オールドレディは()()()()()()()()()()()という事なんだ。定期的に誰かに話を聞いてもらえないと、自分の意思に関わらず暴走するぐらいにはな」

「……なるほど。それは厄介だね」

 

 茂木は顔に手を当てて思案する。

 

 しかし今回暴走と言ったけど、別に本人が暴れまわるわけではない。正確に言うとオールドレディに溜まる寂しさ。孤独感とでも言おうか。それが噴出して周りに被害を与えるのだ。

 

 何故それが分かるかと言うと、最初にオールドレディが実体化した時、それまでに溜まりに溜まった孤独が部屋中にまき散らされて俺に直撃したからだったりする。

 

 あの猛烈に胸の奥を抉ってくる寂寥感は、言葉では何とも言い表すのが難しい。少し記憶も曖昧だしな。

 

 ただ直撃した直後の俺の顔を見て、あのディーが珍しく『こいつはちょっとシャレにならないかもね。罪善さん! 急いで久城君に精神安定を。ほっとくとマズい!』と心配してくれる程度にはヤバかったらしい。

 

「誰かに読み聞かせをしていれば少しずつ発散されるようだけど、部屋でずっと読み聞かせをしていたら俺の体調が持たない。そこで思いついたのが、茂木のもけもけの事なんだ」

「もけもけ? ……ああそうか! もけもけの脱力感で中和しようってことだね!」

「あくまで出来るかどうか仮説だけどな」

 

 茂木はすぐに思い当たったのかポンっと手を打つ。

 

 目には目を。歯には歯を。精霊には精霊をだ! 罪善さんに頼んでも良いが、一体だけじゃ足りない可能性も考えてもけもけも加えたい。あとは十代のハネクリボーも居れば多分何とかなるだろう。

 

 もけもけ~!

 

 呼ばれてきたもけもけ自身もそれなりにやる気のようで助かる。

 

「そういうことなら任せてよ!」

「ありがとう。じゃあ早速試してみよう。十代とハネクリボーも準備を。万丈目は途中で気分が悪くなってきたら無理やりにでも引っ張り出してくれ」

「任せとけ! 行くぜ相棒!」

 

 クリクリ~!

 

「出来ればそうならん方が良いがな。おい雑魚共。お前達もしっかり働けっ!」

『分かってるわよ~ん。万丈目のアニキ!』

 

 万丈目の号令に、一緒についてきたおジャマ達や古井戸に居たカード達もいつでも動けるように準備する。……一部は普通に読み聞かせを聞いていたけどな。

 

 

 

 

 そうして罪善さん、もけもけ、ハネクリボー、その他精霊達の万全のバックアップで読み聞かせに挑んだ結果。

 

『……というお話だったのさ。おしまい』

『とっても面白かったの! もう一回! もう一回!』

 

 オールドレディが静かに本を閉じ、小さな歓声と共にアンコールの声が響く。相変わらず幻想体や精霊達には特に悪い影響は見られず、ただ単に面白い読み聞かせだったという印象のようだ。

 

「……おお! 全部聞き終わったぞ! 皆体調はどうだ?」

「問題ないぜ! というより寧ろいつもより調子が良いくらいだ!」

「俺もだ。途中から話を聞いていたが……やはり良い腕をしている」

 

 俺を含め、一緒に聞いていた二人にも特に体調不良は見られない。どうやらもけもけで中和するのは一応上手くいったらしいな。

 

 オールドレディ本人も実体化した当初に比べて相当スッキリした顔をしている。なんだかんだせがまれて読み聞かせをするのは大好きらしく、もう次の準備をしているな。これならまた孤独が溢れ出すということはしばらく回避できそうだ。

 

「皆お疲れ様! 大丈夫?」

「ああ。ありがとうな茂木。助かったよ! 場所の提供ももけもけの事もな」

「別に良いよ。友達じゃない」

 

 軽く頭を下げると、茂木は穏やかに微笑んで返した。……見かけの割に何とも頼りがいがあるから困ったもんだ。またお礼に手土産とかを考えないとな!

 

「なあ? もう大丈夫だってんなら、もうちょっと婆ちゃんの話を聞いてこうぜ!」

「……まあ良いだろう。俺もあの婆さんの話には少し興味がある」

 

 十代の提案に万丈目も軽く頷く。話に興味があるって言うのは俺も同じだな。「僕も一度じっくり聞いてみようかな」と、茂木も珍しく意欲的だ。

 

「よ~し。それじゃあ一つ俺達も精霊達と混じって読み聞かせに参加するとすっか!」

「「「おうっ!」」」

 

 そうして俺達は菓子を摘まみながら、精霊達と一緒にのんびりとした一日を過ごすのだった。

 

 

 

 

『やあやあお帰り! 無事にオールドレディを抑制できたみたいで何よりだね』

 

 皆と別れて部屋に戻ると、また突然ディーが室内に現れて話しかけてきた。

 

「珍しいな。いっつもこっそりどっかから見てるくせに」

『こっちもず~っと見ている訳じゃないからね。色々宥めすかして抑えないといけない奴らも居るからまいっちゃうんだよ全く。まだ蒼星や静かなオーケストラなんかは落ち着いているけど、笑う死体の山辺りは定期的に見ないと大変だしね』

「……よく分からないが、お前が抑えなきゃならんとなるとよっぽどだな。そのまま頑張ってくれ」

 

 仮に今言ったのがまだ見ぬ幻想体だとしたら、今居るより危ない奴がゴロゴロしているということになる。そういうのが出てこないように頑張ってもらおう。

 

「オールドレディは定期的に話をさせれば被害は出ないはずだ。だから……出てきてくれ。オールドレディ。罪善さんも頼む」

 

 俺はカードを取り出しオールドレディを呼び出す。毎回出てくるロッキングチェアもセットだ。そして罪善さんもいつものように歯を鳴らしながら出現する。

 

「今回は溜まりに溜まった孤独を発散させるために茂木の所で沢山の精霊を聞き手にする必要があったが、一日一話聞かせてもらう程度ならそこまでのダメージは無い。……さて。聞かせてもらおうか」

 

 俺がオールドレディを実体化させたのは偶然じゃない。他にも実体化しかけたのは何体か居たのだ。その中でオールドレディを選んだのは、選ぶ際にディーが言ったある言葉がきっかけだった。

 

『オールドレディはとても話好きの幻想体さ。彼女はいろんな話を知っている。……自分と同じ幻想体の話。その原典さえもね』

 

 そう。俺が知りたかったのはそこなんだ。

 

 これからどのような幻想体が出てくるにしても、予め情報さえあれば今回のようにいきなり被害を被るなんてことを避けることができる。

 

「オールドレディ。俺のリクエストは……アナタと同じく幻想体に関するお話なんだ。……あるかい?」

 

 オールドレディはにっこりと微笑み、深く椅子に腰掛け直して大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

 

『……そう。これは、ある深くて暗くて黒い森。その森を守ろうとした三匹の鳥。そして、その森で産まれた()()の物語』

 

 ……これは二十分じゃ足らないかもしれないな。

 





 オールドレディについてはかなり独自設定です。

 他の幻想体について知ってはいても、教えてくれるかどうかは分からないという具合ですね。

 次回も三日後投稿予定です。

個人的に幻想体と絡みがありそうなキャラクターは誰? (既に精霊が見える遊児、十代、万丈目、茂木は除く)

  • 丸藤翔
  • 天上院明日香
  • 前田隼人
  • 三沢大地
  • クロノス教諭

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。