マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
さて。アビドス3世ならぬアビドス君として学園に編入した王様ではあるが、中々に学園生活を楽しんでいたと傍で見守っていた俺には思えた。
例えば人間関係。
「よっ! おはよう王様!」
「おはようアビドス君」
「うむ。おはよう。十代に翔。異国の民ではあるが、毎朝の一礼を欠かさぬのは感心だ。褒めて遣わすぞ」
留学生でやや上から目線という難しい人物だが、そこはコミュ力が高い十代を始めとする面子は普通に打ち解けた。
王様の場合最低限の敬意さえ持っていれば普通に話せたし、十代達も王族だからといって必要以上にへりくだったりもしなかったしな。
次にオシリスレッドの食事だが、
「ほう。この味噌汁という物。中々に深い味だ」
「ふん。その点はまあ同感だな。ここの食事は質素だが、これは我が万丈目グループでも取り入れて良い出来だ。……あっ!? おのれ十代っ!? 俺のエビフライを返せっ!」
他の寮に比べて貧相だとか色々言われる食事だが、逆に王様として贅を極めていた王様からすれば寧ろ珍味の域だったらしい。味噌汁を美味そうに飲むエジプトの王というのも中々シュールだ。それに品目こそ少ないものの味自体は悪くないしな。
授業に関しては、元々名目だけ留学生という建前があればよかったので出なくても良かったのだが、是非この時代のデュエルの内容を学びたいと王様自身が申し出たので俺と一緒に参加。
「ふむ。佐藤殿よ。そなたのデュエル理論とやらは興味深い。また次も耳を傾けたく思う」
「少々目上の人間に対する言葉遣いとしてはおかしいですが……その真面目に学ぼうとする姿勢は立派です。次回も歓迎しますよ」
やや古臭くてつまらないと時々言われる佐藤先生の授業だが、王様からすれば未来のデュエル理論に変わりはない。王様はやや一般常識に欠けるところがあるものの、勉強意欲は高く分からない所も積極的に質問した。
それは堅物の佐藤先生も珍しく褒めていたくらいだ。近くで居眠りしている
授業が終われば次は実践あるのみ。
「あ~っ!? 負けた~っ!」
「はっはっは。見たか! これこそ余の実力である!」
「よっしゃ! 次は俺とやろうぜ王様! 翔。仇はとってやる」
「いや。次は俺なんだな!」
「えっ!? 待ってよ二人共。もう一回やらせて。次は負けないから」
「良かろう。誰でもどこからでもかかってくるが良い!」
俺の他に毎日デュエルをやりたがる十代や、十代に付き合ってやってくる翔に隼人。協力を要請しておいた三沢。そして三沢の伝手で呼んできた神楽坂や時折様子を見に来る明日香、万丈目などデュエルの相手には困らない。
王様は何度も戦い、時には勝ち時には負け、そしてその度にとても楽しそうな顔をするのだ。生きている間に得られなかったものををここで得ているかというように。
ある日、
「こらこらテディ。俺の肩に掴まるのは良いがもうちょっと優しく掴まってくれ。レティシアはほら。向こうでオールドレディが読み聞かせを始めたから聴いてくると良い。……罪善さん。葬儀さんと一緒に精霊の付き添いを頼む。また万丈目の所の精霊が紛れ込んでる」
「ははっ! 流石の指南役もこうなっては形無しだな。そこまで精霊と身近に接し続ける者は、余の時代でもそう居ないぞ」
「それ褒めてるのか貶してるのか分からないぞ王様」
「無論褒めているのだよ。本当だぞ」
俺が幻想体達と戯れている時、王様はヘルパーの淹れたコーヒーを片手にデッキと睨めっこをしながらそう笑った。何日も一緒に過ごしていれば、多少は気心も知れてくる。
ちなみに今日まで話し合いの中で、学生として振る舞う間は過度な敬語を付けなくて良いという本人のお達しで砕けた口調に直している。
「ふ~む。召喚を妨害されないためにカウンター罠を増やすか? それよりも基点となる棺を増やす……いや待て。それだとデッキを圧迫して全体的に苦しいか? そもそもスピリッツ・オブ・ファラオで復活させるカードを先にどう墓地に送るかも考えねば」
「悩んでいるみたいだな。しかし相変わらずスピリッツ・オブ・ファラオは抜かないんだな」
「これは歴代の王の魂故な。余が王として戦い続ける限りこれを外すつもりはない」
俺の言葉に王様は軽い口調で、しかしどこか真面目にそう返した。
スピリッツ・オブ・ファラオはお世辞にも使いやすいカードではない。
基点となる第一の棺が発動してから特殊召喚まで時間がかかるのに加え、その間1枚でも棺を破壊されたら召喚失敗。第二、第三の棺が手札にきたら実質死に札だし、肝心のファラオも攻撃力自体は2500と微妙なラインだ。
持ち味であるモンスター大量展開は強力だが、その為には先に墓地にモンスターが居る必要がある。おまけに出せるのはレベル2以下のアンデット通常モンスターに限定されており、ファラオの攻撃力が微妙なのも相まって相手の強力モンスター1体に封殺されることもしばしばだ。
後のシンクロやエクシーズ、リンク召喚に繋げられるなら十分使えるが、この時代ではまだ出ていない。以上の事から玄人向けの扱いづらいカードなのだが、王様は自分なりのこだわりを持って外そうとはしなかった。
その後もぶつぶつ言いながら悩むアビドス3世。だが、
「なんだか楽しそうだな王様」
「ああ。こんなにも悩ましいのに心が躍ってしょうがないのだ。純粋に互いの全力をぶつけ合う。そのために悩み、自身のデッキを組み上げるのがこれほどに楽しいとはな」
「……ああ。そうだな」
いずれセブンスターズとして戦わなければならない身ではあるが、少なくともこの経験は確実に王様の……そして十代達の身になっていると信じる。
実際翔や隼人も、強すぎず弱すぎない王様との毎日のデュエルでやる気が出ているようで、十代が言うには向こうもデッキ調整に余念がないとか。ついでに成績も上がってくれれば尚良い。
「しかし、いずれ余が戦う鍵の守り手というのは一体どのような者共なのだろうな? このオシリスレッドにも十代や万丈目といった強者が居るのだ。それに翔や隼人なども中々の使い手。それを超える猛者達となると想像しづらい」
「おっと。王様。今はまだ見ぬ強敵を想うより、着実に自分の実力を身に付ける方が先だと思うが?」
「むっ! そうであったな。許せ指南役よ」
敢えて王様には鍵の守り手のこと……つまり十代や万丈目がメンバーである事は話していない。下手に話して意識させるより、自然体で過ごしてほしかったからだ。
「しかしどうしたものか。デッキの構想は練れてきたのだ。だがまだ決め手に欠ける。必要なのはスピリッツ・オブ・ファラオをより活かすカードか……あるいは」
「……そうだ! 王様。明日は神楽坂にデッキ構築を手伝ってもらうのはどうだ? 三沢が言うには神楽坂もデッキ構築に悩んでいるみたいだし、話し合ったら良い案が浮かぶんじゃないか?」
「ふむ……確かに折角このような機会を得たのだ。それに今の余は学生でもある。誰かの知恵を借りるのも一興か。分かった。明日こちらから出向けば良いのだな?」
神楽坂の部屋は行ったことがないが、三沢に聞けば分かるだろう。
王様が留学生としてここに居られる時間は限られている。それが済んだらセブンスターズとして十代達の前に立ちはだからなければならない。
そうでなくてもアビドス3世はいわば死者。いつかは原作のアテムの様に冥界へ戻らなければならないのだ。それまでに出来るだけの事をしないとな。
ということで翌日。三沢に頼んで神楽坂の部屋に連れてきてもらった俺達なのだが、
「久城か。丁度良い。お前のデッキを貸してくれ」
何故か神楽坂が俺のデッキを狙って来た。まだ懲りてなかったのかっ!?
わりと学園生活をエンジョイしているアビドス3世でした。
最近別作品のリメイク作業でこちらのペースが落ち気味です。もうしばらく不定期更新が続きますが、読者の皆様にはご迷惑をお掛けいたします。