マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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王様とお別れ会

「いたたた。いきなり殴ることは無いだろうに」

「……悪かった。だがあんな勢いで迫ってきたら、つい手が出てしまっても仕方ないと思うぞ」

 

 目の前で頭を押さえて蹲る神楽坂に、少しだけ理不尽だと思いながらも謝る俺。

 

 話を聞いてみると、神楽坂も最近デッキ構築に悩んでおり、丁度良く目の前にサンプル(俺のデッキ)が飛び込んできたので少し勢いがついただけだという。……ちょっとしたタックル並の勢いだったけど。

 

「まあ詫びと頼みごとの分を兼ねて俺のデッキを貸しても良い」

「それは助かる! ……頼み事?」

「ああ。お前と一緒でデッキ構築に悩んでいるこのアビドス君の力になってほしい。頼めるか?」

 

 そこで俺は敢えて部屋の外で待機してもらった三沢と王様の方を手で指す。

 

「指南役よ……本当にこの者で大丈夫なのか? 余は些か不安だ」

「そう言うなよ王様。確かに神楽坂はこう思い込んだら一直線でやり方もめちゃくちゃ。おまけに前科持ちだが物真似とデッキ構築にかけては一流だ」

「……お前わざと言ってるだろ。喧嘩なら買うぞ!」

 

 おっと。さっきの仕返しとは言えからかいすぎたか。まあまあと宥める三沢達と一緒にひとまず部屋にあげてもらう。

 

 

 

 

「それで? そこのアビドスのデッキ構築を手伝えば良いんだったか? ……まずは少しデッキを見せてもらえるか?」

「良いぞ。……ほら」

 

 自分のデッキを見せるというのはデュエリストにとって色んな意味があるのだが、アビドス3世もまずは見せなければ話にならないと分かっているため素直に渡す。

 

 神楽坂はデッキを受け取るとテーブルにザッと広げ、そのまましばらく見てすぐにまとめ直した。

 

「大体分かった」

「もうかっ!? 適当なことを言っているのではあるまいな?」

「スピリッツ・オブ・ファラオを主軸としたエジプトデッキだろ? どのカードがエースかさえ分かれば、後はサポートカードを見れば大体の動かし方は予測できる。それに以前三沢と一緒にお前のデュエルを見たこともある。あの時の事も踏まえればなお分かりやすい」

 

 アビドス3世が唖然としている中、神楽坂はまるでなんてことないように語る。だからと言ってこの短時間デッキを見ただけで内容を完全把握するというのは結構凄い。

 

「相変わらずの知識量と観察眼だな」

「ふん。知識だけで言ったら三沢とどっこいだよ。悔しいことに一から新しい何かを生み出す才能は大分劣ってる。だからデッキ構築も行き詰ってるのさ。……よし。デッキコンセプトは分かったから、よりエースを活かすにはどんな戦術が良いか考えてみるぞ。頼まれた分は手は抜かない主義なんだ」

 

 神楽坂は自嘲するようにそう俺に返しながら、アビドス3世とデッキの構成について話し始める。アビドス3世も真剣な表情だ。

 

「ありがとうな久城」

「何がだ?」

「神楽坂の事さ。ずっと自分のデッキに悩んでこの所塞ぎ込んでいたが、どうやら良い刺激になっているみたいだ。俺が相手だとライバル意識が出ていつも気を張っているからな」

 

 三沢が言うように、神楽坂はアビドス3世と議論を白熱させながらもどこか楽しそうだった。

 

 神楽坂の相手のデッキや仕草、動きなどを真似ること。その根底にあるのは、誰かと接することが好きということかもしれないな。それなら一人で考え込むよりも、誰かと一緒に考える方が合っている。

 

「……となると妨害ばかりで攻め手が薄くなるのではないか? 余としては攻めも重視したいのだが」

「そうか。では俺の調整用カードで幾つか使えそうな奴を見繕おう。……代金は心配するな。久城の奴にたっぷり請求してやる」

 

 げっ!? 何か勝手に俺の懐具合に関わる問題が発生しつつあるっ!? ちょっと待てよお前らっ!?

 

 こうして調整用のカードを譲ってもらい(俺のDPで支払った)、デュエルの中でそれを踏まえたデッキの動きをどんどん身体に馴染ませていくアビドス3世。そして遂に、

 

「行くぞ! 余は魔法カード『太陽の書』を発動! 『たった一つの罪と何百もの善』を攻撃表示に変更し、スピリッツ・オブ・ファラオで攻撃だ!」

「しまっ……うわあああっ!?」

「やったぞ! 遂に指南役(のデッキ)に勝ったぞ!」

 

 約束通り俺のデッキを貸した神楽坂と何度もぶつかり合った末、遂に一勝をもぎ取ることに成功する。神楽坂は「むうっ! まだなり切りが不完全だったか。だがなんて無茶苦茶なデッキだ。よく久城はこのデッキを回せるな」とか文句を言っていた。

 

 ほっとけ! このカテゴリしか使えないから入念に組み上げただけだいっ!

 

 しかしデュエル中、カードの何枚かが神楽坂がドローする際に光ったような気がした。光の加減か? まさかまた幻想体のどれかが精霊化しかけたんじゃないだろうな?

 

 

 

 

 こうして充実した日々を過ごし、デュエルの腕もメキメキ上達していったアビドス3世ではあるが、物事にはなんだって終わりがあるものだ。

 

 そう。今日で遂に留学最終日。周囲には明日の早朝ここを発つと知らせているので、実質今日の夜までが生徒として振る舞える最後の時間となる。

 

 アビドス3世はしっかり最後の授業に出席し、大徳寺先生を通じて他の先生方にもきちんと別れを告げた。

 

 鮫島校長からも「アビドス3世。いや、アビドス君。君はセブンスターズであると同時に、間違いなくデュエルアカデミアの生徒です。この一週間が、貴方を含めた多くの人にとって有意義なものであったと私は確信しています。戦いがどんな結末を迎えたとしてもその点は変わりません。どうかお元気で」と校長なりの言葉を贈られた。

 

 そして最後の夜を俺の部屋で過ごす……筈だったのだが。

 

「遂に今日でお別れか。七日なんてあっという間だったな」

「寂しくなるね」

「そうだな。……って何なのだこの状況はっ!?」

 

 アビドス3世は驚いていた。何故なら十代達に夕食に呼ばれ、これが最後のこの寮の食事になるとしんみりした気持ちで食堂に向かったのだが、そこにあったのは“さよならアビドス君”とでっかく書かれた垂れ幕と、テーブルに並べられた普段よりやや豪勢な夕食の数々。そして待ち受けるレッド寮生だった。

 

「何って見りゃ分かるだろ? 王様送別パーティーだよ。寮の皆で少しずつDPを出し合って準備したんだ」

「これを……余の為にか?」

「うん。だってアビドス君。たった一週間ですぐ皆と打ち解けちゃったじゃない。だから皆で盛大にお別れしようってアニキが」

 

 どうやら十代の企画だったらしい。十代を見ると、エヘヘと恥ずかしそうに鼻を掻いている。

 

「この一週間毎日思いっきりデュエルしてよ。すっげ~楽しかったぜ王様! ……明日の朝早く出るんだろ? なら今日はめいっぱい楽しんで明日を迎えようぜ!」

「……指南役よ。そなたもこのことを知っていたな?」

「まあな。と言ってもあくまで言い出したのは十代やレッド寮の皆だ。これは全て王様のこの一週間の行動の結果だよ」

 

 俺は肩をすくめて言う。アビドス3世はどこまでもデュエルを楽しみ、その上でデュエルを通して寮の生徒達ときちんと向き合っていた。ある意味で十代と同じデュエル馬鹿ではあるが、だからこそ受け入れられたとも言える。

 

 アビドス3世はしばらく黙りこくった後、

 

「…………ふっ。はっはっはっは!」

 

 大きく高らかに笑った。そしてしばらく笑い倒した後、

 

「余は王として数々の歓待を受けてきた。どれも王の舌を唸らす美味や贅の限りを尽くしたものばかり。それに比べればこの宴は実に貧相だ。……だが、実に余の心を震わせる良き宴である」

 

 そう言って満面の笑みを浮かべたのだ。

 

 

 

 

 その夜は大いに盛り上がった。

 

 しんみりなんて言葉は似合わない。そう言わんばかりに皆ご馳走に舌鼓を打ち、腹ごなしにデュエルをした。監督役として一応大徳寺先生も付き添ってはいたが、この半ば無礼講みたいなどんちゃん騒ぎは止められるものではなかったな。

 

 そして一人、また一人とアビドスに別れを告げて部屋に戻っていき、

 

「もう一回。もう一回だけ!」

「おい十代。そう言ってもう何度目だ! アビドスも明日は早いし、お前だって授業があるだろうが。さっさと帰るぞ。……じゃあなアビドス。精々元気でな」

「そうなんだな十代。もうそろそろ帰るんだな。さよならなんだなアビドス」

「もう明日の朝は居ないんだよね。……うん。さよならアビドス君」

「分かったよ。……じゃあな王様! またデュエルやろうぜ!」

「ああ。そなた達も達者でな」

 

 予想通りと言うか何と言うか、最後までスタミナが切れずにデュエルを続けた十代を万丈目達が何とか引き剥がし、これで宴はお開きとなった。

 

「ふふっ。何と言うか。最後まで元気な生徒達ですにゃ。……この一週間。学園の生徒として過ごしてみてどうだったかにゃ? アビドス君」

「ああ。とても良き体験をした。良き出会いも。それもこれも、提案してくれた指南役や了承してくれた大徳寺殿達。それにここに集った生徒達のおかげだ。感謝する」

 

 アビドス3世は静かに感謝の意を込めて大徳寺先生と俺に頭を下げた。普段なら王としてやらないことだが、今は一生徒だ。問題ないと判断したのだろう。

 

 ああ。アビドス3世をこの学園に編入させたのは間違いじゃなかったみたいだ。

 

 出会った頃に比べてデュエルの腕は格段に上がり、日々の登下校で身体を鍛え、デュエルを通じて他者と触れ合うことで精神的にも成長した。アテム級までとは言わないが、デュエリストとして少しは立派になったと思う。

 

 ……ちょっと難易度上げ過ぎかとも思うが、その分十代達も成長している筈なのでまあ大丈夫だろう。

 

 

 

 

「さて。いよいよ明日から生徒ではなく、セブンスターズの一人として戦うことになる。鍵の守り手達から鍵を奪う為の戦いだ。細かな調整は俺や大徳寺先生がやるが、大まかな方針は王様に一任される。いつ頃仕掛けていく?」

「……明後日だ」

 

 部屋に戻り、生徒としてここを離れる準備をしながらセブンスターズとしての方針を聞くと、アビドス3世は少し考えてそう答えた。

 

「おや? 王様の事だから、明日の夜にでも仕掛けるのかと思っていたが」

「なに。今日の明日で仕掛けられては()()()の者も出よう。戦うなら体調は万全でないとな」

「……気づいていたのか」

 

 今の言葉。つまり宴に参加した者達の中に鍵の守り手が居ると確信しての事。俺のその言葉に、

 

「当然であろう。余は王であるぞ」

 

 王様はそう自信満々に答えた。

 




 という訳でアビドス3世強化作戦その二。デッキ構築は上手い人と一緒に行うべしです。一人で悩むよりその方が大抵良い結果が出ますから。

 そして次回からまたセブンスターズとして行動を再開します。戦う相手は原作と少し変える予定ですのでお楽しみに。
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